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失格教師と屋根裏の散歩者  作者: あまやどり
第一章 失格教師とタブレット盗難事件
13/51

失格教師と毒島

 つまり、3時間目終わりの10分休憩と、4時間目の50分が盗難が起きた時刻だな。

「11時45分~12時45分の間ですね」

 頷く巻代先生。

「ただ、妙な点もあって」

「なんです?」

 先を促す。

「タブレットのスチール棚、鍵が必要じゃないッスか」

「そうですね。重役席の後ろにかけてあるヤツ」


 鍵を取るためには、重役席をほぼ横断しなければならない。生徒が借りる場合は近くの教師に願い、貸出用紙に記入する必要がある。


「盗難があったと思しき時刻には、誰も鍵を使ってないそうッス」

 話が根底から覆るようなことを言い始める。

「じゃあ毒島どころか、誰も盗れなくないですか?」

 俺はなんとなく、2-Dのエプロン盗難を思い出した。

「まあそうっスけど、盗難に前後した時間で目撃されてるのに、調べないというわけには」

 正論だ。世の中、逆説の推論で罪が晴れた試しはない。

「たしか前回の盗難もそんな状況で、“前の人間が鍵をかけ忘れて、それに気づいた生徒が窃盗したんだろう”って話になりましたよね」

 新年度の準備で忙しい中、防犯会議が何度も行われたことを思い出す。

「ええ、でも管理が徹底した2回目でも起きちまいました。合鍵でも拾ったんでしょうかね?」

 巻代先生は首をひねっている。


「生徒指導部は、毒島が犯人だと思ってますか?」

 生徒指導部の見解を知りたいな。

「“前の人間が鍵を締め忘れて、それに気づいた毒島が窃盗した”ってセンで落ち着くかもですね」

 んな強引な。

「完璧な反証を見つけない限りは、疑いを晴らすのは難しいと思います。やっと掴んだ尻尾ッスからね」

 1回目の犯行時は管理が甘く、犯人の目星はまったくつかない有様だった。それゆえに、今回の毒島犯人説に執着するだろう、と巻代先生は推測してる。たぶんそれは正しい。

「教頭先生が早期解決を急かしてくるし、そうでなくとも毒島はあの性格ですから」

 疑われてると分かってて協力的になるヤツじゃないよなあ。犯人が見つかりでもしない限り、毒島の疑いが晴れることはないってことか。こいつはハードルが高いぞ。

「下手すると、とことんこじれるかもッスね」

 明るい展望が見えなかったな。事務員が入ってきたのを機に、巻代先生は出て行った


「あれー?」

 俺も出ようかと思っていた矢先、事務員が素っ頓狂な声を上げた。

「どうしました?」

 9割義務感で声をかける。俺もさっさと出れば良かった。

「この棚の鍵壊れちゃったみたいでー」

 タブレットを収めているスチール棚の隣にある、同じタイプの棚をガチャガチャやっている。

「ほら、回しても開かないんですよー」

 鍵を回してみせるが、まったく開かない。

「鍵穴に刺しっぱなしにしてたから、錆びちゃったかしら」

 いい加減な管理だな、おい。

「それ、危なくないですか?」

「中にはコピー用紙ぐらいしかないから、誰も盗らないですってば」

 本当だ。どうでもいいものしか入ってない。


……んー? 同じタイプのスチール棚、だよな。


「ひょっとして、その鍵でこっちの棚開けられたりします?」

 可能であれば、職員室の鍵は不要になるわけだが。

「できるわけないじゃないですか」

 あっさり否定された。念のために鍵を抜いて、タブレットの棚に差し込んでみる。鍵穴に入るには入ったが、そこまで。開錠もできない。

「たしかに同じ商品ですけど、開けられませんよ。それできちゃったら、防犯上良くないですから」

 そりゃそうか。同系の鍵で開けられるなら、マンションも金庫も素通しになるもんな。泥棒と屋根裏の散歩者が喜ぶだけだ。



【4月26日(水) 13:21】


「うるせッ!」

 生徒指導室のドアを荒々しく閉めて毒島が出てきた。

「つ、次は放課後に来なさいよっ? バイクで通学してるって疑いが、あ、あるんだからっ」

 小保津(おぼつ)先生が、生徒指導室から頭だけ出して恐る恐る呼び掛けてる。弱腰な、って言いたいけど、新規採用1年目で気弱な小保津先生じゃあな。猫にオオカミの番させるようなもんか。

「知るかヨ!」

 おーおー、エキサイトしてんな。犯人扱いされちゃ仕方ないけどな。いや、バイク通学に関しちゃ目撃者がいるって話だし、冤罪じゃないみたいだが。

「ちょっと休憩してくか?」

 進路の前で出迎えた。

「説教しねぇならナ」

 ドレッドヘアをかき上げて言う。

「説教なんて、聞くつもりがあるヤツにしかやらないよ。時間がもったいない」

 いつもの余計な一言を言ってしまってから、失言に気付く。誰も聞いてなかったよな?


 進路指導室の個室を借りる。その前に、進路内に生徒の目に触れてはいけないモノがないか、ざっとチェックしておこう。

 若貴先生のデスクに付箋(ふせん)が貼り付けてある。パソコンで使用する教員用パスワードが憶えられない教師は多く、よくパスを付箋などに書いていた。教員用パスでインすれば、様々な重要項目を閲覧書き換えできる。さすがにまずいので剥がして、引き出しの中に入れておいた。

 なお、個室のドアは半分ほど開けておいた。「生徒と密室」は禁止。捨見で痛い目に遭ったばかりだからな。


「もー最悪だゼ! 生指のヤツぁ!」

 毒島はサボりや喫煙の常習犯で、生徒指導室の「別室」に放り込まれたことも1度や2度ではない。だから毒島と生徒指導部は仇敵の間柄だ。かなりキツい調子で詰問されたんだろう。

「オレ、やってねえからナ!」

 噛みつくように言ってくる。毒島も売り言葉に買い言葉で応戦して、イライラしている、と。

「分かってる。もし毒島がやってたら」

「……やってたらなんだヨ?」

「16台なんてケチなこと言わずに、戸棚のタブレット根こそぎ持ってくはずだもんな」

 毒島がプッ、と噴き出した。

「わかってんじゃねぇかヨ!」

 バンバン肩を叩かれた。痛い痛い! 言っとくが、逆だったら体罰言われるんだからな?


 ふざけた理由以外の根拠もある。毒島は悪評のバーゲンセールだが赤点を取ったことはなく、多少遅れても提出物は必ず出す。

 つまり卒業の意思がある。この辺りが毒島とファッション不良どもとの違いだ。毒島はエンジンを積んだ車で、ファッション不良どもはエンジンを積んでない車だ。

 エンジンを積んだ車は、いざとなればアクセルを踏んで自力でゴールすることもできるが、エンジン積んでない車はそうはいかない。


「第一オレ、タブレット借りてねーのヨ」

 出してやった缶コーヒーを、ぐいっと飲んで言う。放課後の楽しみにとっといたんだけどな。

「印刷室に入ったんじゃないのか?」

 巻代先生発信の情報と食い違いがあるな。

「入った。けど職員室にカギ借りに行くの忘れてて。メンドクサーってなってヤメたんだヨ」

 ああ、コイツが職員室に行くと、必ずと言っていいぐらい髪型のことで先生方とモメるからな。

「棚に鍵はかかってたんだな?」

「おうヨ。ガチャガチャやって開かなかったから間違いねえ」

 いちいち疑われやすい行動とるなよ。ともあれ、鍵のかけ忘れ、という可能性はなくなったわけだ。


「情報の授業はどうしたんだよ?」

「寝てたヨ」

 そーゆーとこだぞ。

「日頃の行いって重要だぞ」

「ケッ、こきゃーがれ。だいたいヨ、必死こいてオベンキョしてる秘書検定だのITパスだの、役立つわきゃねーだろがヨ? S商生によ」

……痛いところを突いてくる。


 S商は豊富な資格取得が売りだ。簿記、秘書技能検定、ITパスポートとか、仕事で使えそうな技能を熱心に学ぶ。

 んだが、実はこれらの技能、就職ではほとんど意味がない。そりゃそうだ。メインの就職先は地元の中小企業だ。大して大きくもない会社に秘書なんて置いとく必要はない。大企業なら、素行も頭も悪いS商生を秘書にしようだなんて酔狂はしない。

 パソコン技能も最近の高校生は通り一遍習うから、わざわざS商生を好待遇する理由にならないんだよな。むしろ評判の悪さのデバフの方が大きい。


「ま、言いふらしたりはしねーヨ。最終学歴の価値をテメーでオトしてどうすんだってハナシだかんな」

 話が分かるヤツだ。

「お前、最近金回りいいみたいだから疑われたんだよ、きっと」

 HRで、毒島が仲間に「おごってやる発言」をしているのを何度か聞いたことがある。

「あれは叔父さんのバイクショップ手伝ってんから、バイト代もらってんだヨ」

 バイク通学疑惑がある毒島だが、バイク関係の就職を希望してるのか。

「それで、小鮫のヤツを連れまわしてやってるだけだ」

 小鮫は毒島グループの1人で、いわゆる“いじられキャラ”だ。最近両親が離婚して、生活が苦しくなったと小耳に挟んだことがある。

 親分肌はいまどき流行らねーぞ。

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