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精霊遠足

 官邸には魔導列車に乗って行った。途中まではワープできるけど、一級市民の居住地ではワープ禁止なのだそうだ。

 隣に座っているモノトーンヒョウ柄の代理精霊の顔をこっそり見る。魔導馬車に乗るのは初めてだって喜んで、ずっと窓から外の景色を見ている。時々、オレンジ色の長いしっぽが揺れている。さわりたい。

 誘惑と戦いながら、リュックから旅のしおりを取り出して、予定をもう一度確認した。


 まずは、官邸で元首に挨拶して、記者会見をするホールを見学して、その後、歴代元首の肖像画を見たり、同盟国から送られた宝石や絵画を鑑賞する。それから、中庭で軽食をとって、ギフトショップでお土産を買う、以上。ああ、全く興味ない。湖がよかったのに。


 魔導列車に乗るのに飽きた頃、ようやく到着した。八角形の建物。愛称はオクタゴンというそうだ。

 そんなどうでもいい説明を広報官から受けながら、19人の聖女とそれぞれの契約精霊と担任教師はホールに案内された。

 豪華な家具を見ながらロイと雑談している時、国家元首が挨拶に来た。


「やあ、よく来たね。歓迎するよ」


 フレンドリーに手を挙げた元首は、気さくなおじさんって感じを出している。ファイルの写真と同じで水色の髪と目をしている。その後ろに立つ秘書っぽい人も水色の目と髪をしているから、この人が息子かな。あと、少し離れて、うつむいて立っているのが、あのピンク髪の女の人。金色のワンピースを着ている。シャルの色のつもりなの? なんかすごくイラッとした。


「娘のペインリーがどうしても聖女に会ってみたいって言ってね。普段は部屋にこもりっきりの子だから、わがままを叶えてあげたくてね、すまないね。急遽遠足の場所を変更させてもらったよ」


 娘を思う子煩悩な元首、そして、聖女の都合なんかどうでもいい傲慢な元首。


「ほら、ペインリー、会いたかった聖女が来たぞ。ご挨拶なさい」


 ピンク女、ペインリーは小さい声で「ようこそ」とだけつぶやいて、キョロキョロとあたりを見回して、私を見つけると、目を吊り上げてギロリとにらみつけてきた。

 こわい。

 そっとロイの後ろに隠れた。


「あの女がそうね。わがままで、礼儀知らずね。カナデさん、わたくしの側を離れるんじゃなくてよ」


 イザベラが隣に来て、耳元でささやいた。

 頼もしい、イザベラ。あなたに付いて行きます。



 って思ってたのに、なんで、この状況?!


 宝物室に移動する時、広報官がイザベラに取材を始めた。

 この遠足を広報誌に載せるんだとか。得意満面にイザベラ調でスピーチしてるのをロイと一緒に離れて見ていたら、ペインリーの侍従達に、強引に案内された。

「お嬢様があなたとお話になりたいそうです」って。


 案内されたのは、金色の家具が所狭しと並ぶ広い部屋。

 うわっ、私の部屋よりも酷い。

 だって、全てが金色、じゅうたんや壁の色まで。目がチカチカする。

 こわい。この人、絶対病んでる。


 一緒に来てくれたロイをちらりと見上げた。ロイは目の前の人物を警戒するように私の隣に立った。


 目の前には、うっとりと黄色い猫を撫でるペインリー。そして、隣には強い魔力をまとった赤い髪の精霊がいた。赤髪の精霊は赤い瞳で、ロイをじろりと睨みつけた。


「不敬だな。王子に対して跪かないとは」


「護衛任務中です。我が君の婚約者を守ることが優先されます」


「ふっ。そんな子供が婚約者ねぇ。シャルトリューも何を血迷ったのか」


 赤の王子は私をバカにするように嘲笑った。


「だめよ、オルフェ。そんなこと言っちゃかわいそうよ。シャルも苦しんでいるのよ。好きでもない女と婚約しなきゃいけなかったから、本当にかわいそうなの」


「ああ、そうだな。ペインは優しいな、愛してるよ」


 赤の王子は、打って変わって、甘ったるい声音でペインリーに謝った。そして、彼女のピンクの髪の毛にキスをしてから、腕に抱いた猫を取り上げた。

 赤の王子に乱暴に扱われた黄色い猫は、小さく鳴いて、部屋の隅に逃げていった。


「オルフェ、意地悪しないで」


「ああ、かわいいペイン。悪かった。でも、お前が抱きしめていいの俺だけだよ」


「もう、オルフェったら。でも、わたしの心はシャルのものよ。だってシャルはわたしのものだもの」


「でも俺のプロポーズをうけてくれるんだろ」


「ええ、いいわよ。わたしのお願いを聞いてくれたらね」


 ペインリーは私の方を見た。その瞳には狂気が宿っていた。


「わたし、あなたがきらい、大っきらい。聖力があるからって恵まれて生きてきたんでしょ。あなたみたいに幸せな女が一番きらい。聖力がなんだっていうのよ!」


 ピンクの充血した瞳で私をにらみつけて怒鳴りだした。

 私はそっとロイの後ろに移動して、ローブのポケットの中の魔石を握りしめた。


「わたしはね、可哀想な子なの。不義の子で、聖力もなくって、お母様は目の前で自殺したの。だから幸せにならなくちゃいけないの! だからみんなわたしに優しくしなきゃだめなの! それなのに!」


 ロイの腕をそっと掴む。ロイは微かに震えていた。赤の王子が魔力を放っている。


「オルフェが教えてくれたの。お母様を殺したのはシャルだって。シャルがお母様を止めなかったから、死んだんだって」


 じんわりと熱い魔力を私も感じる。威圧は私には効かないけれど、ロイは立つのもやっとのようだ。


「だからね、わたしもお返しにシャルの大事なものを奪うことにしたの。そしたらシャルとおんなじでしょ。わたしとシャルはおんなじになるの。ふふふ」


 ペインリーの言ってることはめちゃくちゃだ。でも、私がかなり危険な状況だということは分かった。ロイの後ろでギュッと目をつむった。


「オルフェ、この女を殺してちょうだい。どうせ死刑囚だもの、平気よ。ねえ、全力で殺してね、跡形もなくなるくらいに。なぁんにも残さないでね。そうしたら、わたし、あなたと結婚してあげる」


 赤の王子はその言葉に笑い声をあげ、魔力を放った。

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