14 大陸の東へ
拳を鳴らしてにじり寄ってくるエルに、司教は顔面蒼白となる。タイヤーもこればっかりは自業自得だと助ける様子はなかった。
「ところで聞きたいのだけど、そのモブサップとやらは何者なの?」
「に、二ヶ月前位にふらりと現れて、ひゃっはー教に入教したいって……そのモブ顔だったから」
「特に詳細を聞いていないってことね。だ、そうよ、タイヤー」
タイヤーは鼻眼鏡をしまうと鎖付きの首輪を拾い上げる。エルに壊されたとはいえ、物騒すぎる品に聖具を忌々しくさえ思うようになっていた。
「エル、君が無事だったのは良かった。けど、その司教にはまだ聞きたいこともあるし……」
そこに騒ぎを聞き付けた守衛らしい格好をした者達がゾロゾロと現れる。
野次馬を手荒く追い払い、タイヤー達や司教の元に来るなり睨み付けてきた。
「騒ぎを起こしたのはお前達だな! 悪いが連行させてもらう!」
有無を言わさずまずは司教の腕を強く引き上げ、今度はエルとタイヤーの腕に掴みかかる。
今捕まるのには、問題がある。それがミュオの存在だ。姿を消すためのローブは今タイヤーの手元にあり、万一ミュオの姿が見つかれば大きな問題になりかねない。
「悪いけど逃げるしかないようね」
「ああ」
エルは強引に掴まれた腕を力ずくで引き離し、タイヤーに掴みかかってきた守衛を力一杯押し退ける。
物凄い前転で守衛は転がっていく。
その隙にタイヤーとエルは、フローラ達の待つ宿へと急ぎ逃げ帰った。
「お帰りなのじゃ」
呑気に出迎えるミュオを連れ、タイヤー達はフローラとハナのいる別室へと向かう。
「ちょっと不味いことになった。今すぐ宿を出よう」
「何かあったのエルちゃん?」
「話は道中にするわ。それより早く街を出ないといけないの」
タイヤーはミュオを残して一人荷物をまとめに自分の部屋へと戻る。エルの慌てた様子から普通でないと察してフローラとハナも荷物をまとめるのを手伝った。
出発の準備を終えるとミュオにローブを被せる。少なくともこれで守衛にミュオが見つかることはなくなる。
宿の主人に礼を述べタイヤー達は、辺りを伺いながら宿を出る。
「守衛はいないようね」
「しかし、最悪のタイミングで現れたな、あの守衛達。まるでこうなる事が分かっていたみたいに」
「そうね、でも今は気にしても仕方ないわ」
こそこそと身を隠しながらタイヤー達はアーマイルの街の出入口までやって来る。しかし、当然ながらそこにはこの街の守衛の姿が。
「どうやって出ようかしら……」
「あの……私から一ついいでありんす?」
ハナは少しでも居場所を作ってくれたタイヤー達に恩を返そうと張り切っていた。自分に出来る事があれば何でもやるつもりであった。
「囮? ハナとフローラで?」
「はいでありんす。私とフローラさんで囮をしている間に、ミュオちゃんを連れて街を出るでありんす。幸い、私とフローラさんは顔を知られていないでありんすから」
「……フローラ、ハナ。頼めるか?」
二人は頷くとタイヤー達から離れて行く。タイヤーとエルとミュオの三人は、出入口を伺いながらフローラ達の様子を見守っていた。
「待ってええええっ! ひったくりよ!! 誰か、その娘捕まえてええええっ!」
フローラが叫びながらハナを追いかける。ハナはわざとらしく守衛の目の前を猛スピードで走り抜ける。フローラも後を追うが、当然追い付くつもりもなくわざと押さえ気味に駆けていた。
揺れる、揺れる、フローラの二つの山は守衛の目も釘付け。
「任せてください、お嬢さん。今、捕まえますから!」
守衛はフローラに良いところを見せようと我先にとハナを追いかけ始めた。出入口はがら空きになり、フローラが手招きする。
様子を伺っていたタイヤー達は、フローラにハナを任せて先に街を出ていった。
「はぁ、はぁ、はぁ……ハナとフローラ、大丈夫かしら?」
「ハァァァァ……ッ、だ、大丈夫だと思うよ。多分あれがハナのスキル“逃走”なんだろ」
外からアーマイルの街の出入口の様子を木の陰から見張り続けていると、まず先にフローラが、そしてハナの姿が入り口に置かれた松明の明かりに映る。
「こっち、こっち!」
小声で目の前を通り過ぎようとする二人に声をかけ呼びつけた。出入口を見ているが守衛が追ってくる様子はなく、ハナが早々と撒いたようであった。
「二人ともお疲れ。特にハナ。大丈夫だったか?」
「すぅぅぅ……はぁぁぁ……。大丈夫でありんす。逃げ足なら誰にも負けないでありんすから」
「それよりタイヤー、これからどうするの? このままじゃユーラシア教国内さえ、居場所が無いわよ」
「当初と予定が違うけど、大陸の東へ渡ろう。本当は例の神無族と同じ眼を持つ男の事も司教から聞き出したかったけどこうなったら仕方ないよね。それと消えたモブサップの行方も気になる。もしかしたらだけど、この地に残る訳にはいかないだろうし、同じように東へ向かうかも」
エルやフローラの親の事もあり家にも戻れず、討伐者として、ろくに名も挙げられないまま、タイヤー達は山脈を挟んだ大陸の東側へと向かう事になってしまう。
そして、唯一の渡り口である、港を目指してタイヤー達は南下していくのであった。




