尾行
赤髪が元職場の人間に会うなど打開策を模索している間も、アオイの張り込みは続いていた。
どこにでもあるような軽自動車ワンボックスカーをイバラ葬儀店から少し離れた駐車場に停めて、小型のトンボ型のカメラ内蔵式のドローンを数台飛ばし、二人の対象者の動向をうかがっていた。
車の中がコンビニで買った食料痕のゴミが目立って来た頃、1台の黒いワンボックスカーがイバラ葬儀店に現れる。
ワンボックスカーには男が二人。
六十歳後半ほどに見える老人と、二十代ほどに見える若い男が車から降り、建物の中に入っていった。
程なくして、四人は動きだす。
ジョンドゥと蟲と殺人ドーベルマンはイバラ葬儀店の黒いワンボックスカー霊柩車に乗り、
老人と若い男は自分たちの車に。
四人と一匹は2台の車に分かれて乗り込み走りだす。
小型トンボドローンでそれを確認したチビもドローンを操作しながら車を出し追跡し始める。
車のフロントガラスの傍らに写し出された、トンボドローンの追跡映像はどうやらキルトーキョーの出口へと向かっているようだった。
キルトーキョーを抜け、普通の東京の某区に入り、街なみは住宅街をようし、キルトーキョーやデッドトーキョーのような殺伐さがなくなっていく。
規則正しくプログラムされたAiが仕切る全自動の自動車、電車、貨物用ドローンなどが働きアリのように動き回る。
街の各所には防犯カメラが数多く設置され、犯罪が起きると即座に蝙蝠傘ほどの大きさのポリスドローンが出動し、犯罪率をある一定に抑えている。
黒いスーツを着込んだ四人を乗せた2台の黒い車は、夕暮れの街を住宅街の方に向い走りつづける。
そしてアオイも、彼女が操作する監視カメラ付の小型のトンボドローンも尾行に気づかれないよう気をつけながら追跡していた。
突然だった。夕暮れの街の幹線道路を抜け、路地の道路に入り、人気が徐々に少なくなると、追跡していたトンボドローンの映像が、
アオイの追跡車のフロントガラスに写っていた映像が砂嵐状態になる。映像が途切れてしまった。
「妨害電波か?」
おそらく四人の乗る車のどちらかから防犯カメラに映るのを阻止しようと、何かしらの妨害電波を放射しているのだろう。
アオイは悟られないように、ある程度の距離をとっていたが、この状態のためある程度、距離を詰める事になる。
いくらか路地通りの道を走る四人の車の前に(車両通行禁止)と書かれた看板が現れる。
この先は何かの工事をしているのか、通行禁止になっているようだった。
しかし、四人の車はその看板を無視して、そのまま看板を通りすぎ、侵入していく。
このまま追跡すると尾行がばれる可能があるので、チビはなるべく目立たなくなるために、軽自動車の荷台からホンダの小型バイク モンキー を下ろし、看板の中に侵入することに切り替える。
アオイはモンキーを下ろしたための時間のロス離されてしまった距離を詰めるために、
自分の鼻につく悪趣味な鼻ピアスを外し、自分の能力を開放する。
強烈な死臭の漂う四人の車は分かりやすく。すぐに四人の向う場所は分かった。
その日、母親と娘はいつも使う帰り道が工事中のために、遠回りし普段はほとんど使わない線路下の短い地下トンネルを使う。
母親は五歳の我が子と手を繋ぎ、
手を繋がれた少女は歌う。
「てるてる坊主 てるてる坊主」
薄暗い地下トンネルを早く抜けるために母親は少し、早歩きになっていたが娘は歌を歌い続ける。
母親はトンネルの向こう側、出口の光が見えた事に少し安心する。ちょうどトンネルの中ごろだったのだろう。
薄暗いトンネルの隅から突然飛び出してきた、黒い長い尻尾の先から飛び出た毒針がキラッと一瞬光った。そう思った。
次の瞬間、手を繋いでいた五歳の我が娘の小さな胸に毒針が突き刺さっていた。
母親は暗闇に潜んでいた、真っ黒なドーベルマンに気づいた。そのほぼ同時に犬は喉笛に食らいつき、母親も絶命する。
ドーベルマンはすでに絶命した母親を、それでも必要に攻撃する。
そこに、若い男が駆け寄り、懐から鉄で出来た武器 鉄扇 を取り出し、狂うように死体を攻撃するドーベルマンの鼻面に一撃を食らわした。
ドーベルマンは不意打ちに戦意を損失し、蟲のいる車の中に逃げ帰っていた。
激情した蟲は若い男に詰め寄り、小競り合いになるが、他の二人、老人とジョンドゥになだめられ、その場は終息する。
四人は二つの遺体を霊柩車ワンボックスに詰めるとまたキルトーキョーに向けて走りだす。
一部始終を鼻の能力で追いついたチビは観ていた。
それは目的の分からない殺人だった。
四人の乗る2台の車は何ヶ所に置かれた 侵入禁止 と書かれて看板を回収して帰路につく。
計画的な殺人だった。ワザワザ、進路を誘導し、何の害もなさそうな親子を殺し、死体を回収し、防犯カメラを気にして、妨害電波まで放射する。
目的の分からない殺人だった。
アオイは帰路も追跡しながら、妨害電波が切られたのを確かめると、今度は小型トンボドローンを四人の乗った車に着陸させ、盗聴マイクの音量を最大にし、四人の会話を盗聴する。
盗聴する車は四人を乗せ、先頭を走る。
後方の車には二体の遺体を乗せ、AIが先頭の車両を追尾していた。
「あの母親は発症者じゃないだろ」
「ごちゃごちゃ言うな、お前がガキは殺らないっていうから俺が殺ってるだろうが。」
若い男と蟲は車の中でも言い合いをしていた。
「これは聖戦じゃない。これは、、、、、」
そこで盗聴マイクをつけた小型トンボドローンの音声が途切れ途切れになる。
自動運転専用の幹線道路に対象者の車が入ったために盗聴電波が不安定になったためだった。
アオイは仕方なくトンボドローンを回収し、追尾をつづける。
目的地はキルトーキョーだった。
イバラ葬儀店に到着し、数分すると若い男と老人は車に乗り込み、イバラ葬儀店を後にしようとしていた。
アオイはこの若い男と老人の正体を探るために、新たに尾行を開始しようと軽ワンボックスの走らせようとした時に
腕時計型の電話に着信がある。着信相手は赤髪だった。
「今日はもういい。帰ってこい。」
赤髪は張り込みの終了を告げる。アオイはそんな状況ではないと、跳ね返すが
どうしても話さなければならない話があると言う、赤髪の勢いに説得され尾行を中止することにした。
イヤ、酷すぎる殺人現場を目撃し、このまま仕事をするのに恐怖を覚えている。
怖かったのだ。
後味の悪い幕引きだった。
釈然としない思いを抱え、恐怖に負けて、賞金稼ぎのアオイは賞金稼ぎのアジトに向い車を走らせた。
夕暮れから夜になっていたが、キルトーキョーの夜はカジノ街のネオンのために昼よりも明るかった。




