知識人と衝撃
「男、この町で知識人といえば……」
我がそう筋骨隆々男に尋ねようとすると男は少し顔をしかめた。
「にいちゃん、年上の人に向かって、男はないんじゃないぁ?よくねぇと思うぞ?そういうの」
なるほど、今この世界でこの身体は魔王のものでも最強の勇者のものでもない。ただの不審な若者のものだ。それならばそれなりの言葉遣いというものがある、とそういうことか。
いいことを言うではないか、人間。
「……すみません、僕の故郷では名を知らない男性の事は男、と呼ぶ習慣があったもので、つい」
我はそう言って爽やかに笑った。
「なるほどなぁ、にいちゃん見ねえ髪の色だと思ったらやっぱり異国の人か。ようこそハニータウンへ。俺はヘルゲイだ」
ヘルゲイはそう言って我に手を差し伸べた。
それらの情報は既に記憶を読んで手に入れているのだが、誰かから聞く、という事実が重要なのだ。
誰からも何も聞いていない男がこの町について知っているというのは不気味であろうからな。
「僕はこの町で一番物知りな人を探しているのですが、ご存知ないですか?」
「あぁ、それならリーシャ先生だな。この町で一番頭がいい、それに魔法まで使えるんだぜ」
先程読んだ記憶によると、この世界では魔法はポピュラーではあるが、扱える者は限られているらしい。生まれた時にもう既に扱える者とそうでない者に分けられているそうだ。
ちなみにこの男、ヘルゲイは使えない。
その後我はリーシャ先生とやらのところまで送ってくれるというヘルゲイの好意に甘え、ヘルゲイについていった。
「ここがリーシャ先生の家だぜ、じゃあちょっと呼んでくるから。そこで待ってな」
そう言ってヘルゲイはドアをノックし、家に入っていった。
ふむ、いたって一般的な家だ。工房といった感じでも研究所といった感じでもない。これで魔法使いというのだから、この世界は不思議である。我の世界では魔法使いは研究所や洞窟に住み、人と関わりを持たぬ者が多かったのだが。
「ごめんなさぁい、お待たせしました」
我がそんなことを考えていると一人の女が家から出てきた。恐らく彼女がリーシャだろう。
「リーシャ先生、ですか?」
我が問いかけると、女性は、はいと頷いた。
大した魔力は感じぬが……。
まぁよい。
少し失礼するぞ、女魔導師。
我はリーシャの目を見つめる。瞳から魔力を媒体として記憶を読み取るのだ。
……読み取るのだ、が……何故だ、読めん。
「貴様!どうなっている!」
我は我を忘れてリーシャの肩を掴んだ。
あり得ぬ、あり得ぬのだ。魔王たる我の能力が、たかが一魔導師に効かぬということは!
「ふぇっ⁉︎す、すみませんっ!」
リーシャが驚いてすくみあがる。
「おい!何やってんだ兄ちゃん!いくらリーシャ先生が美人でボインだからっていきなりがっついちゃあいけねぇよ!」
遅れて家から出てきたヘルゲイが我を止めに入った。
邪魔をするな……ん?この男、何故家から出るのが遅れたのかと思えば、この女の下着をくすねているではないかポケットに今まではなかった反応がある……成る程、屑か。
ならば遠慮する必要はないな。
「おい、貴様この女を家の中へ運べ」
我は我の能力、『服従』の力を使いヘルゲイに命じた。この力は穢れた魂を持つ者を従わせる力だ。
道に倒れた青年を道案内する良き民かと思えば、我の期待を裏切ったな。屑め。
ヘルゲイがリーシャを担ぎ家の中に入った。我も続く。
「貴様はもう必要ない、外で誰も来ぬよう見張りでもしていろ」
我が言うとヘルゲイは家の外へ出て行った。
「あ、貴方は何なんですか⁉︎」
怯えた様子のリーシャが我に尋ねてきた。
怖がらせてしまったか、まぁ当然だな。
「安心しろ、我は貴様に興味があるだけだ」
安心させようとそう言うとリーシャは一層怯え、ヘルゲイに運ばれた時に乱れた衣類をしっかりと直した。
……なお怯えさせてしまったか。どうにも我は下手くそだな。
取り繕ったりせず、本題に入るか。
「貴様は、体に魔力的な結界を張っていたりするのか?或いは生まれつき他人の魔力に干渉されづらいという体質であるとか」
我がそう尋ねるとリーシャは不思議そうな顔をして首を傾げた。
我が何を言っているのかわからないのだろう。つまり、それらの事実は無い、という事だ。
ならば何故……。
「あ、あの……魔法の話がしたいのでしたら、お茶を淹れましょうか?」
考え込む我に向かってリーシャはそういって困ったような顔で笑った。
……この人間は見所があるかもしれん。
「……戴こう」
我はそう言って椅子に座った。




