魔王の終焉
「魔王、今日こそ決着をつける時だ!」
勇者はそう言って剣を我に向けた。
周りのパーティーメンバーも各々の武器を構えてジリジリと我に近づいてくる。
いつ以来であろうか、ここまでの猛者とやり合うのは。
この『終焉の間』に充満する光のオーラを見るだけで、こやつらの実力が分かる。
強い。こやつらは強い。
「ふふふ……ふはははは!良いぞ貴様ら!実に良い。貴様らは我が手を下すに能う実力者だ!その研鑽、褒めてつかわす!」
我がそう言うと勇者一行の中の一人、武闘家があからさまに苛立ちを見せた。
「魔の者に褒められても、嬉しゅうないわ!」
そう叫び飛びかかってくる。それに続く様に勇者も走り出す。
勇者の後ろに立っていた魔術師は呪文の詠唱を始め、僧侶は武闘家を支援する魔法を唱えた。
良いパーティーだ。恐らく全て計算づくのこと。
それでも。
『ハイロード・グラビティ』
我が魔法を一つ唱えれば全て無に還る。
終焉の間を闇が包み込み、勇者一行は全てその中に掻き消えた。
……虚しい。
ここで一つ告白しておこう。
我は人間のファンである。
ここまで絶望的な実力差があるにもかかわらず何度も何度も我に向かってくる人間が大好きだ。
だから全てを支配し、我は全ての人間と敵対した。
だがしかし、我は強くなり過ぎた。
人間の素晴らしさを確かめる間もなく倒してしまう。
手を抜いて戦うことも出来よう。
だが違うのだ、我が見たい人間の素晴らしさは、限界の死闘の中にしかない。
……嘆いていても仕方がないが。
「若き勇者よ。大儀であった」
そう呟き我が玉座に戻ったとき、我に奇跡が起きた。
「おおぉぉぉお!」
雄叫びが聞こえる。何処からだ、これは何処からなのだ!
真上からだった。玉座の真上から勇者が闇を切り裂いて我の上に落ちて来たのだ。
「これは我が心と引き換えの剣喰らえっ!コロナイト・ブレイドォ!」
「素晴らしい!素晴らしいぞ勇者よ!今こそ我全力を見せてやろう!ワールド・エンド!」
終焉の間を閃光と暗黒が支配した。それらの支配が終わった時、終焉の間にいる者は、魔王を含め誰もいなかった。
「おい、にいちゃん。起きな」
粗野な声に目を覚ますと、筋骨隆々の男が我を揺さぶっていた。その肉体、余程の鍛錬を重ねたのであろう。さぞや名のある武闘家と見受ける。
だが、この我に向かってにいちゃん、だと?
かなり控えめに見ても我の見た目は大人のものだと思うのだが。
ふと自らの手を見つめて驚愕した。我の本来の肌は黒魔道により褐色に染まっていた。だが、この手は白い。まるで光の加護を受けているかの様な……まさか。
我は目の前の筋骨隆々男の視界をジャックした。これは魔法ではなく我の能力である。自らの魂を魔導で改造し、手に入れたものだ。
そしてそのジャックした視界で見たものは驚きを隠せないものだった。
「我が、勇者になっている⁉︎」
美しい金髪だった髪は白く染まってしまい、青かった目も鋭い金色になってしまってはいるが、確かにあの勇者の肉体だ。多少の変化は恐らく我の魂が入り込んだ影響であろう。
「ははは、勇者?何言ってんだにいちゃん。勇者様なら今魔王退治にいってるよ」
筋骨隆々男はそう言って笑った。
何?この肉体を知らないだと?そんな筈はない、この勇者は歴代勇者の中でも最強、全ての人間がこの勇者を知っていた筈だ。誰もが信頼を寄せ、心を託した、勇者の中の勇者。それがこのリチャードだった筈だ。
まさか……すまない、筋骨隆々男よ、多少記憶を読ませてもらうぞ。
我は心の中で謝ると男の目を見つめ、男の記憶を読み始めた。
様々な記憶が我の中に一気に流れ込んでくる。
……なるほどな。
一つわかったこと、それはこの世界が、我が支配していた世界とは別世界のであるということだ。
以前より、我の世界以外の世界が存在していることは承知していた。が、まさか我が直接その別世界に来ることになるとは。
しかし、失礼な事を言うが、この男では圧倒的に知識量が足りぬ、ただの八百屋の男ではないか。
他の知識人を探さねば。
言語は問題ない、元々我は魔物であろうと言語を理解することができる能力も手に入れてある。
やはり念のために肉体改造でなく精神改造で能力を手に入れておいて良かった。もし肉体依存の能力だったらこの肉体では他人とコミュニケーションが取れないところだった。
……勇者の精神は、恐らく消えてしまったのだろうな。コロナイト・ブレイドは剣に宿した魂をまるで太陽の様に燃え上がらせ敵を切り裂く技。万に一つも助かる道はあるまい。
そして我の肉体、それも存在せぬだろう。流石の我と言ってもワールド・エンドをあの距離で撃ってしまえば、闇に身体を掻き消されてしまう。
この肉体と魂は何らかの影響で別世界に弾き飛ばされ、無事だったというところか。
まぁ悔やんでも仕方あるまい。まずはこの世界の知識だ。
知識人を探さなければ。




