天空から美少女が降る
ある晴れた午後の昼下がりのことだ。
暇つぶしに雲を眺めていると、空から何者かがゆっくりと舞い降りたのだ。
それは、ブロンドの美少女だった。ただし、人間とは思えないほど鮮烈な赤い瞳をしていた 。背丈は私より頭一つ低い。
「そこの貴方! いつまで驚いてるの? ワクワクしなきゃだめでしょ!」
尻もちをついた。何を言っているのか、分からない。背中の翼を折りたたんで、腰に巻き付けたのは、更に理解が不能だった。
「……君、何者だね? 少なくとも、この土地の人間ではないな?」
円縁眼鏡を片手でさすりながら、恐る恐る尋ねた。肺腑からひねり出した精一杯の言葉だった。
「野暮ね! 天空から麗しい令嬢が降臨すれば、殿方は競って冒険に挑むというのに!」
白いレースとフリルをあしらった華やかな服に身を包んだ彼女。 とんでもなく狂った思い込みに、私は噴き出してしまった。
「わ、笑ったわね! この王女アリエルを! 何よ、その珍獣でも見るような眼は!」
干し草を払い除けて、咳払いをした。徐に立ち上がり、恭しく一礼をする。
「お初にお目にかかります。ガリウスというものです」
「百も承知よ! 家名を捨てたところで、バレバレなのよ」
黒革の手帖をめくりながら、チラチラとこちらの様子を伺っているようだった。私は微笑ましい気持ちに満たされていく。軽い気持ちで口を開いた。
「宜しければ、牛の乳など如何でしょうか? 母屋でごゆるりと過ごされるのも良いかと存じます」
その時だった。紅玉の瞳に射抜かれる。時間が止まった気さえした。王家のただならぬ風格である。
「ガリウス卿、呑気にミルクなどと。そんな場合では、ありませんわ! 一大事です!」
「――なんですと!?」
固唾を呑む。これ以上の醜態をさらすまい。王女の言葉を待つ。
「体重が増えました。お気に入りのゴシックドレスが、入らないの!!」
「はぁ!?」
「ダンジョンで痩せるわよ! ギルドに登録しました!! 目指せ、SSSボス討伐!!」
眼鏡の鼻あてがずり下がった。何を言っているのか受け入れがたい。私は学者だ。
「待って下さい。私は元文官です。そのお手伝いは……」
やりたくない。流石にキツい。下手すれば、王女の足手まといになる。
「ふふ。 前世は、この世界ではない場所の人間でしょう。 とんでもないスキルをお持ちのはずよ? 鑑定やら、マッピングやら、やってもらいましょうか?」
口に人差し指を当てて微笑む王女アリエル。その美しい顔は自信に満ち溢れている。
やれやれ、正体を見抜かれたらしい。あの失笑は、勘付かれても仕方ないのだろう。大きく背筋を伸ばし、久しぶりに本気を出すことに決めた。




