白虎と札束
「俺は神だ! 金を寄越せ!」
「トイチで良いなら、貸さんこともないが……」
眼前の虎、神獣ビャッコはまた賭けに負けたのである。
酒を徳利になみなみと注いで、出来上がっているではないか。
月下、竹林の囲む小高い丘で、我らは酒宴に興じていた。
「ビャッコ殿、正直に申せ。お主、勝った事はあるのか?」
「ない! だがな、次は絶対勝てると、俺の直感が告げるのよ」
時間が凍る。呆れてモノが言えない。
初めて会った時、屏風から開放したことを後悔した。
「そもそも何故、初めから負けが決まっている戦いに挑むのだ?」
「酷い言われようだな! だが、傾向と対策は必要だ」
銀色の盃を両手で一気に飲み干すと、私を見据えて彼は言った。
「聖女様に首を撫でられると、どうしても猫なで声になる。記憶が、そこから曖昧でな……」
「な・ん・だ・と」
「何をされたのかは明白なんだが、どうして負けたのかは分からねぇんだ」
不吉な風が吹いた。
編み笠の紐が解けて宙を舞う。
私の息遣いは酷く荒い。
「お主! 聖女様の『特別』ではないか、今月の! 拙者、まだ選ばれたことないのに!!」
「??」
「ええい、そこに直れ! 成敗してくれるわ!」
居合の構えを取る。
敵は、竜神と双璧をなす神獣。
斬撃を躱されれば間違いなく死ぬ。
「いいだろう、良く分らぬが。初めて相対した時のように。いざ尋常に……」
鞘走った刀が、極大の竜巻を放ち白虎を捉える。
風の流砂に吸い込まれた彼は、グルグルと回転してペースト状になった。
「聖女様のお供でな? 魔法の真似事を覚えたのだ!」
バターのような彼を、インクジェットにして即席の紙幣に閉じ込める。
物凄く獣臭い。
ゴワゴワとして、とても使い物になりそうにない。
「お前の方が特別だろーが!! ここから出せ!!」
黙殺した。
お札の肖像は相変わらずの虎顔で、首元の鈴から程よい音色が聞こえる。
私は、その場で倒れ込み、夜空の月をぼうっと眺めるのであった。




