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メビウスクエスト・エクストラ  作者: 如月 和
ファンタジーに銃はあり、なし?
8/14

8.ボス戦

 午後二時から始まったプレイ。昼の部と表現したモカは、ひたすらモンスターを倒し、採取を繰り返すことに大半を費やした。理由は二つある。


 一つは、ダンジョンでユキから告げられたように、装備を整えるためだ。いつまでも初期装備のみすぼらしい格好をしているのは、モカも我慢ならなかった。だからそこに不満はない。

 武器防具の製作の際、デザインを描いたスケッチブックを追加するとその通りのデザインに仕上がると聞いて、ティアに頼んでデザインもしてもらった。


 着崩した着物のような上着に、女性的なラインが特徴的なティアのものとお揃いにも感じられる鎧。着物の裾から覗くミニスカートの下には黒いタイツ。太腿の中ほどまでを覆うブーツ。なかなか好みの仕上がりになったとご満悦だった。同じデザインを書き留めたスケッチブックはいくつか用意してもらったため、今後装備の更新があったとしても、デザインを変えなくて済みそうである。


 装備に和風の要素を取り入れたのは、彼女が目指した武器に関係している。メインに剣。サブに杖を選んだ構成は、日本刀と相性が良いと聞いたからだ。

 刀は剣には属し、鞘を杖として作れば、違和感なく二刀流に組み込める。杖を物理用としても使いやすく、人気のある構成だった。


 そうして装備を整えたら、二つ目の理由に取り掛かることができる。今日という研修のようなものを締めくくるのに相応しい、ボスに挑戦することだ。

 ボスはフィールドに存在するモンスターの上位種であり、同一モンスターを二十体倒すことで、ボスへ挑むのに必要なチケットが手に入る。結局モンスターを倒さなくてはならないのなら、装備を整えるついでにノルマを達成しよう。という判断だった。


 ただ、すべての準備を整えたモカに向かって、ユキは非情な発言をした。


「まぁ、装備は俺達がプレゼントしても良かったし、挑戦チケットに関して言えば、パーティーを組んだり、フレンドになったら討伐数を共有できるからあんまり意味のない作業だったんだけどな」

「それをすべてが終わったあとに言う? 急にフレンドとパーティーの説明を始めて、今さらフレンドの登録をして、もっと早くにすればよかったのに、と思っていたら」

「苦労を味わったほうが、楽な一面に感謝できるってこと。では、ちゃんと学んだかテストしよう。パーティーとは」

「一日限りでモンスターの討伐状況を共有できる機能。定員は六名。迷惑行為を行った相手を、ブラックリストに登録する機能もある。ブラックリストは、すべてのプレイヤーで共有できるんだっけ?」

「そう。運営側の監視システムと照らし合わせて、有効かどうかは判断されるけどな。で、フレンドは」

「パーティーの機能を、恒久的に発揮する機能。装備やアイテムを送り合えたりもできるんだっけ。登録できるのは十人まで」

「よし。じゃあ、インベントリを確認してみ。討伐状況が共有されているから、各モンスターに対応したチケットが入っているはず」


 そうして確認してみれば、インベントリの大半を侵食している光景が目に入った。すでに入手しているアイテム類と合わせて、フィルター機能を使わなければスクロールが手間になるほどだ。


「うっわ、こんなにモンスターがいるの?」

「俺達は解放されている全てのエリアに足を運んでいるからな」

「そのエリアで規定数のボスを倒すと、次のエリアが解放されるってわけ。パーティーを組んでモンスターを倒せば、通常の六倍。更にフレンドと挑めば十倍の速度でチケットが貯まるから、モカも頑張って強くなって、アタシ達に貢献してよね」


 はーい。と返事をして昼の部は終わった。ウーフの散歩をして体の調子を整えつつ、仕事に精を出す両親の様子を確認した後、家に帰って食事の準備。ウーフと共にそれぞれの食事を平らげれば、集大成となる夜の部が幕を開ける。


「挑戦するのは、ウルフの上位種。ウルフナイトにしよう。こいつは剣と鎧、盾を装備した防御力に秀でたやつで、部位攻撃の練習をするにはうってつけだ」

「部位攻撃?」


 問い掛けると、近寄ってきたティアがモカの腕を触れた。


「モカの装備の場合、鎧のある胴体部は硬い。でも、腕なんかはそこまでではない。そういう弱いところを攻撃しよう。っていう戦略のことだね」

「弱点となる部位も設定されていて、そこを攻撃すれば更にダメージが増す。余裕を見て部位攻撃。更に余裕を見て弱点探し。それがボス戦の流れだな」

「モカの場合は魔法が使えるから便利だよ。魔法は影響範囲が広いから、普通に攻撃していても部位攻撃が発生するの」

「もしかして、魔法で攻撃したときの反応で弱点を割り出せたり?」

「理解が早いね。弱点が分かったら、刀でスパスパ!」


 身振り手振りをするティアに頬を緩ませ、昼の内に使い込んでおいた日本刀を構える。先ずは強化魔法を使って自身を強化しておく。そうして、メニュー画面からインベントリへ移動。


「じゃあ、ちょっくらやってみましょうかね」

「俺達は離れて見ているから、存分に暴れてくれていいぞ」

「終わったら飲みに行こう。アタシが奢ったる!」


 声援を受けながら、チケットを使用した。


 目の前、と言っても十メートルほど離れた場所に出現するウルフナイト。背丈は二メートルほど。オオカミの頭を持った、中世の騎士といった様相を見せており、一見すると攻撃が通りそうな所は頭しかない。


(そんなに簡単にいくのかな?)


 疑問に思いながらも、魔法を起動しようとする。しかし金属の擦れ合う嫌な音を響かせながら、ウルフナイトが近寄ってくる。そのスピードは思いのほか早い。魔法の発動は間に合いそうもない。どうしようかと考えた時、一つの戦法が頭の中には浮かび上がった。


(あれだけの重装備なら、きっと転んだ時に起き上がりにくいはず)


 転倒させ、動きを鈍らせた後に魔法を使う。そして明らかになった弱点を攻撃する。それがベストだと判断した。

 刀を鞘に納め、距離を詰めて振り被る。


強打(きょうだ)!」


 両手で杖を持って繰り出す、とてもシンプルな必殺技だ。シンプルが故に目線を動かす必要もなく、相手の動きに合わせやすいそれを繰り出すと、盾を構えていとも簡単に防がれる。右側から迫る剣を背後に跳んで躱すと、今度は横に薙ぐように強打を繰り出す。

 右腕にヒットし、僅かに体勢を崩した。その隙を逃さぬように、素早く刀を抜いて追撃を加える。


交斬刃(こうざんば)!」


 刀と鞘をクロスするように振るい、押し込んでいく。駄目押しだと蹴りを放てば、左足が悲鳴を上げるようにバランスを崩すウルフナイト。

 距離をとって魔法を起動する。カウントダウンを注意深く眺めながら、タイミングよく鞘を振るう。現在使用出来る、最大威力の魔法だ。


「フレイムピラー!」


 縦と左右の斜め、三本の炎の柱がウルフナイトを包み込んだ。嫌がるように身体を捩り、起き上がるために盾を放り出す。左の腕、手。防具の色が違っていた。


「そこだっ!」


 駆け寄って盾を蹴り飛ばし、腕を目掛けて刀を振るう。相手の動きが分からないからか、少し焦っているのだろう。必殺技を使う余裕はなかった。攻撃を加えられていたのは、十秒ほどだろうか。抵抗するように振るわれた剣を躱すと、ウルフナイトはすぐに盾を拾って構えた。


 それを四度繰り返せば、ウルフナイトはもう起き上がらない。黒い霧となって姿を消し、見事モカの経験値へと変わっていった。


「ちっ。何にもドロップしねーでやんの」

「おつかれさん。まぁ、それは運だし、先ずは勝てたことを喜ぼーぜ。初戦で盾を落とすことを思いついたんだから、お前センスあるよ」

「そう? ありがと」


 盾のことまでは考えていなかったが、それを敢えて主張する理由もない。


「んじゃ、飲みに行きますかー。モカはまだクエストをやってないし――、ユキ、どうやって受けるかは説明した?」

「した。だから、寄らずにこのまま飲み屋へ行こうぜ」

「さんせー。あー、疲れた。ゲームの中のビールはどんな味がするのかなーっと」

「あ、駄目だ。お前の勤務時間はまだあるよな。飲みの時間は勤務外にしなきゃだから、もう少しモンスターでも狩っていくか」

「はぁ? そこは臨機応変にいかないの? ほら、飲みながらの会議だから、勤務にあたる、とか」

「うちの会社、飲酒は勤務に含まない決まりだから」

「それなら、ウルフナイトから一定数アイテムを獲得するまで飲めないゲーム。スタートと言うことで」


 肩を落とすモカを、幼馴染は笑いながら励ました。明日からは本格的に業務が開始されるだろう。

 どこまでの行為が勤務に含まれるのか。そのすり合わせをしたのは乾杯の後だったため、記憶に残っているかは、誰からしても不安なところであった。

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