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メビウスクエスト・エクストラ  作者: 如月 和
ファンタジーに銃はあり、なし?
4/14

4.戦闘

 草原に現れる狼のようなモンスターは、名前はそのままウルフである。好戦的な性格らしく、一定の距離まで近付くと唸りを上げて襲いかかってくる。攻撃方法は鋭い爪を振るってくるか、噛みついてくるかのどちらか。単調なため避けることは比較的簡単であり、初心者が先ず、体の動かし方を学ぶにとって有効なモンスターであった。


 モカは先ず、剣を振るってみた。避けるほど俊敏には動けなかったので、盾代わりにでも使ってみよう、と。柄を両手で持って、体を隠すようにする。すると、ウルフはそれを目掛けて前脚を振るい引っ掻こうとする。感じる重さにリアリティを感じた。息遣い。重さ。髪をそよぐ風。感じられる場面は数多い。


 感じることに意識を集中したからだろうか。そこで、ウルフは攻撃の前に一歩立ち止まることに気が付いた。二度三度受ければ、それは確信に変わる。ウルフが立ち止まった時、横に飛べば攻撃を躱すことができるのだろうか。


「よっしゃ、避けた!」

「その調子! 慣れたら攻撃してみ」


 ティアの声援を受け、攻撃に挑戦してみる。中学の時に授業で経験した剣道を思い出し、剣を振り下ろす。攻撃の後の隙を狙ってみたが、それは正解だったらしい。


「当たった! いえーい」

「あれ、まだ倒れねーのか。ある程度パワーに振っていれば一撃で倒せるんだが」

「あー、ユキってば、モカがパワー全振りにすると思ったんでしょ。分かってないなー。あの子は、絶対ラック全振りだよ。ほら、子供の頃に山でキノコを見た時、よだれを垂らしてたでしょ? 絶対に毒キノコを食べたがる」


 見抜かれたことに対する恥ずかしさを頭から追いやるように、無心で攻撃を躱し、攻撃をする。四回目の攻撃で、ウルフは霧のように消えていった。

 視界の隅に『ウルフの牙』、『ウルフの爪』という文字が表示されている。それが交互に、しめて四つ。それぞれのアイテムを四つずつ入手したということなのだろう。


「アイテムをゲットしたけど、これはなにに使うの? 牙と爪が四つずつ」

「クラフトっていう機能とか、売ってゴールドにしたりとかだな。それにしても、その量は流石のラック全振りだ。普通は良くて一つずつなのに、初期値全振りでこれってことは、全て注ぎ込んだらとんでもないな」

「お、じゃあこの調子で行けばいい?」

「いや、それじゃあモンスターが倒せない。パワーに振って倒す速度を上げたほうが有効な場面も多いんだよ」

「まぁ、そんなこったろうと思った。後で振り直せるって聞いてたから、欲望に従っただけだしね」

「あ、やっぱり当たってたんだ。まぁ、アタシはいいと思うよ。初期ボーナスのポイントは、レベルを上げればすぐに回収できるし」


 モンスターを倒し、経験値を貯め、レベルを上げる。一つ上げると五のステータスポイントを得られる。レベルを六まで上げることが、今の目標になるだろう。


「じゃあ、パワーを上げていけばいいの?」

「うーん、それはどんな武器を使っていて、どうやって遊んでいくか、だな。何を選んだんだ?」

「剣と杖」

「実にファンタジーって感じ」


 そう笑うティアは、斧を二つ選んだという。メインとサブは、両手に別々に持つ事もできるため、同じ物を選べば二刀流にできる。

 ティアの解説を聞いて、モカは不満の表情を顕にした。


「それ、聞いてないんですけど」

「後から変えられるって言っただろ? まぁ、剣と杖も二刀流に出来るし、物理と魔法の両方いけるからソロに向いている。そうすると、スピードに振ったほうがいいな。あと、気持ちマジック」

「パワーはいいの?」

「自身を強化する魔法もあるから、攻撃力は幾らでもカバー出来る。その点、スピードは恒常的に高い方が逃げたり、モンスターを避けたりする時に便利だから、一人で行動するなら優先的に上げていきたい」


 なるほど、と頷き、モカは言うとおりにしておこうと決めた。指標がないと、永遠と悩んでしまいそうだから。


「次は、必殺技を使ってみよう。視界の隅に技の名前があるだろ?」

「あぁ、これは必殺技だったんだ。『交斬刃(こうざんば)』ってやつ」

「そう。レベルを上げれば使える技が増えるんだけど、最初は魔法も必殺技も一つだけ。その技の名前をじっと見つめていると、必殺技が出せる」

「えー、目線を敵から逸らさないといけないってこと?」

「そう。動きは自動でやってくれるから、ここぞというときに出すのが理想。まぁ、だから必殺技なんだけど」


 ただし注意点がある、とティアは語る。

 必殺技は自動で体を動かして発動してくれるのだが、その際の動きを覚えて自分で動かせるようになると、目線での発動は必要なくなる。その上威力も上がる。必殺技の名前を口に出すことで認証させる必要はあるが、それをデメリットと捉えなければいいことずくめだ。


「おーけー。じゃあ、何度か使ってみて動きを覚えて、後は自力でやってみよう、って感じだね」

「そ。スピードを上げると動きやすくなるから、その点でもオススメ」

「じゃあ、スピードを上げないメリットはなくない?」

「そうなると他のステータスが上げられないでしょ? 他の人と一緒に遊ぼうってなったときに、パワー重視、ガード重視の人がいると、お互いに役割を持てて良い感じ。アタシ達みたいにね」

「俺がガードで、ティアがパワー。そこに動ける魔法使いが入ると、なんとなくバランスがいい気がしないか?」

「ふぅん。一緒に遊ぶメリットは?」

「経験値とか、色々と共有できる。まぁ、その説明は後」


 本来はメニュー内にあるチュートリアルから解説を見ることができるのだが、興味のない文章を見る気はないと断言する彼女には、勧めるだけ無駄だとユキは理解している。興味が向くものをチラつかせて、その内に他の説明をしていく作戦だ。


 必殺技の感想は、身体が勝手に動く感覚が気持ち悪い。それだけだった。慣れれば楽になると二人は言うが、楽になることには動きも覚えるのでは? とモカは思う。交斬刃は、バツ印を描くように斬るだけだったから。


「じゃあ、次はそのスピードを味わってみよう。ポイントリセット用のアイテムを用意しておいた。これを飲んでくれ」


 ユキの手に現れたのは、三角フラスコに入った、コーヒーのような液体。ぷくぷくと泡が湧いていて、どこか怪しさが漂ってくるようで、モカの手はなかなか伸びない。


「どんな味?」

「炭酸飲料。甘い」


 カタコトに怪しさを感じつつも、その言葉を信じて受け取り、一気に飲み干した。


「ただのサイダーかよ!」


 見た目と味は一致していなかった。


「色は見た目でアイテムを判断できるように、ってだけ。味は基本的に一緒だな。まぁ、自分で作れば色々弄れるが」

「これをコーヒー味にするのが、私の夢だ」

「お前の夢はクエストをクリアすることだ」


 それは目標だ。夢も目標も一緒。いいや違う。そんな言い争いを暫しして、ティアが止める。三人の波長が、段々と過去に追いついてきたようだった。


「で、とりあえずスピードに全部振っておけばいい?」

「ああ。そのくらいのスピードに今のうちに慣れておくといい。段々と、もっと速くなりたいって望むようになるから」

「なんだか危ない雰囲気の発言を堂々と言うやつ。まぁ、いいや。とりあえず、試してみっか」


 メニュー画面からステータスの項目を選択し、言われたように操作する。目線でもできるのは分かっているが、ついつい手が出てしまう。これで音声操作もある、なんて言われても、結局は指先で操作をすることを選びそうだ。想像して、自分の間抜けな姿に笑った。


 気を取り直して、草原を彷徨いているウルフに向き合う。二度目となれば、少し余裕も出てきたのだろう。周りの景色を眺める余裕も出てきた。遠くの方に山がある。足元の草は脛の真ん中ほどまで伸びていて、風にそよいでズボンと擦れ合っている。門から伸びる街道は、何処へ続いているのだろう。足取りは軽く、その先までも進んでしまいそうだった。

 一歩踏み込んだだけでも、進む距離は段違いに感じる。むしろ止まるときに意識を集中しなくてはならない。踏ん張ってしまうから、動きがピタリと止まってしまう。攻撃は来ない。ウルフの正面で止まるつもりが、避けるようにして背後に回り込んでしまった。


(止まらなくて良かった。すれ違いざまに斬るのが正解)


 もう一度やってみよう。振り向いたウルフを尻目に、また背後に回り込むように動く。剣が当たる感覚が手に残る。振らなくても、動くだけでも斬れるようだ。当たるタイミングで振り切れば、もっと威力が見込めるのだろうか。

 試したいことが増える。それがゲームの楽しみなのだろうか。楽しみなのだろう。新しい玩具を手に入れる。それで遊ぶ。それは、何時だって、何歳だって楽しいものだ。子供の頃には遊ばなかった玩具を大人になって遊んでみて、すっかりハマってしまうこともある。もっと早く味わいたかった。ほんの少しの後悔。


「こんなに動けるって、楽しいわっ! うっわ、爽快!」


 楽しそうだな。スピードを進めて良かったね。ユキとティアが会話をする。本当に、子供の頃に戻ったようだった。


「あー、楽しかった。仕事とか、犬の散歩で随分と動いていると思っていたけど、体を動かすってこんなに爽快だったんだ」

「モカって、学生の頃もあんまり運動しなかったもんね。もっと幼い頃は山の中を駆け回っていたのに」

「興味の矛先ってのはね、ころっと変わってしまうもんなのよ。小学校に入ったら、無料で本が読めるんだよ? 読まなきゃ損でしょ」


 果たしてそれが無料だったかどうか。それをモカが知るときは来るのだろうか。答えを握っている人物は、ただ笑っている。


「それより、二人の戦いも見せてよ。玄人の戦い方ってやつを、さ」

「あははっ、何その挑戦的な言い方。見せてもいいけど、この辺のモンスターを相手にしたところで、伝わるものじゃないと思うよ」

「確かに、ただ攻撃するだけになるしな。俺達の凄さを味わえるかどうかは、お前の成長にかかっている。と言ったところか」

「あっそ。じゃあ、精々鍛えておくんなまし」


 少し拗ねたモカを励ますティア。ユキ流のチュートリアルは、次の段階へ進む。

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