5.採取
その後もユキのチュートリアルは続き、採取、そしてクラフトの説明を終えた。
採取はフィールド、つまり街の外に存在する、ダイヤモンドダストの様なエフェクトを纏った草、もしくは岩などのオブジェクトに対応するアイテムを使うことで行われる。
鎌で刈り取る。つるはしを打ち込む。そんな感じだ。武器として存在する鎌とつるはしでも可能となるので、採取と戦闘を同時にこなしたいときはお勧めらしい。
草からは植物系のアイテム。岩からは鉱石系のアイテム。海辺などでは海産物なども入手でき、どこで何が入手できるのかをまとめ、本にして販売しているプレイヤーも存在するなど、一口に素材集めと言っても、いろんな楽しみ方があるのが窺える。
様々な場所で、様々なものが手に入り、何が手に入るかは分からない。それを面倒と捉えるかは、あなた次第。私は案外コツコツやるのは得意な方なので、そこまで気にはしないだろう。
その点、すぐにプレイヤー同士で売買が可能な露店を利用すると答えたティアは、昔と変わらずものぐさだ。
試しにやってみろよ、とユキから貰った鎌によって草を刈り取ると、モンスターから素材を手に入れたときのように、視界の隅に表示がなされる。ジャガイモだった。草原の街の名産品であり、入手する確率は高いらしい。
「この結果って、ラックにポイントを入れてないからじゃない? ラックに全振りしているときに教えてくれたらよかったのに」
「いやいや、俺的にはジャガイモで大正解なんだよ。さっきの説明で、クラフトのことは話しただろ?」
「家を手に入れて器具を置くか、街のレンタルスペースでできることでしょ。素材を組み合わせて、アイテムや武器、防具を作り出す」
「そう。でも、それはアイテムや武器防具として作り出すのであって、それらにあるような効果は現れなくても、ハンドメイドすることは出来るんだよ」
「つまり?」
問い掛けると、ティアが鼻息荒く割り込んできた。
「クラフトでコロッケを作ると回復効果が現れるんだけど、手作りすると、ただ美味しいだけなの。クラフトのコロッケってさ、冷めたスーパーの総菜みたいで、ちょっと味気ないんだよねぇ。ね?」
ははぁ、つまりはそういうことか。続きの言葉は、ユキが引き取った。
「それを実感してもらうために、お前にコロッケを作ってもらおうと思う!」
「やっふー! ユキからモカが熊屋の味を完璧にマスターしたって聞いてから、楽しみで仕方がなかったんだよ。あー、早く食べたい」
「それ、クエストと関係あるの?」
「まったくない」
ステータスポイントリセットアイテムの味を変える夢を否定した奴の言葉かよ。
「まぁまぁ、そう睨まないの。クエストって言っても色々とあってね。今後そういうのが必要になるかもしれないじゃない。だから、今のうちに慣れておいたほうがいいの」
「じゃあ、作ったやつは私一人で食べればいいのね」
「殺生な!?」
「じゃあ、素材を集めてきてよ」
「それじゃあ経験値を稼げないでしょ」
そう尻を叩かれながら、言葉の通りに経験値を稼ぎつつの素材集めを開始する。もちろんラックへの憧れは捨てきれていないため、経験値の話を持ち出されると、どうにも弱い。これでステータスポイントを貰える何かがある、なんて言われたら……。
私は守銭奴の如く目を血走らせるのだろうか。
鼻息荒く、目指すターゲットは私よりも鼻息荒い牛のモンスター、カウ。このモンスターから、牛肉などの牛に関するものが手に入る。
運が良いのか悪いのか、手に入るのは牛乳ばかりであったが、繰り返される戦闘も意味のないものではなく、ちゃんと経験値も入っていく。
ちょっとずつでも溜まって、そしてレベルという結果に繋がるそれは、確かにお金のようにも捉えられるだろう。次のレベルアップまでに必要な経験値も増えていくのも、お金の使い道が増えていく年齢にさしかかっている、と思えばやる気にもなる。
車が欲しい。家が欲しい。それが努力で手に入る。なんと素晴らしい世界であるか。……まぁ、経験値の話だけど。
結果、牛肉を手に入れるまでにレベルを四まで上げることができた。
「この二十のポイントを使って、私はラックを上げるんだ」
「少しはマジックを上げとけよー」
「えー、今のところ魔法は使っていないから、後回しのほうがよくない? 体を動かすの、楽しすぎる」
「後々必要になってくるから」
「今、楽になることに使わないでどうするの?」
今回は押し切った。
自分の要求を通し、意気揚々と挑んだ次のターゲットは鳥のモンスター、バードだ。空を飛んでもいるために、攻撃の際は自分に接近したタイミングを狙わないといけないから、なかなか骨が折れる。けれど、上げたラックの成果を見るのが楽しみで、私は過去一番ではないかと思われるほどの集中力を見せて、その戦闘を勝利で飾った。
このモンスターから入手できるのは鶏肉や卵だけでなく、鴨肉やダチョウの卵など、さまざまな鳥にまつわるアイテムだ。最高級な卵でも手に入るかな? なんて気持ちもむなしく、我がステータスがのラック様は、奇妙な反応を見せてくれる。
「卵は卵でも、キンカンが出てくるって、なに? もしかして嫌がらせ?」
鳥のモツ煮などでよく見られる、未成熟の黄身である。リアルでもまだ経験していないものを、まさかゲームでエンカウントするとは。
「レアドロップを軽々引くんだもんなぁ。流石のラック」
嬉しくないけどねぇ。と拗ねながら、当分はインベントリの肥やしになることを覚悟する。どうせなら美味しく食べたいし、使用するのは少し勉強してからにしよう。熊屋では鳥のモツ煮は作っていないから、あまり経験がないのだ。
そこから何度か戦闘を繰り返し、なんとか目的の卵も手に入れた。レベルも一つ上がり、手に入れたポイントは言われた通りにマジックに振っておく。普段はポイントを蓄えておいて、必要だと思ったステータスに振るのもおすすめだと言う意見にも、素直に頷いておく。
貯めておくのは、確かにありだ。最優先に行うべきは、毒キノコを食べても影響のないラインを調べることにある。
「で、次は採取だっけ? ジャガイモはあるから、後はタマネギ。タネの材料はそれくらいなんだけど……、パン粉なんかはそのまま手に入るの?」
「いや、パン粉を手に入れるためには、先ず小麦粉やらイースト菌やらを手に入れて、パンを作らなきゃならない」
「うっわ、細かー。リアリティありすぎじゃない?」
「それが嫌なら買うのが早い。油も面倒だから、これも買ってしまおう。後で露店にでも行こうか」
「はーい」
事前に用意しておけよ。なんて悪態をつきながらも、鎌を操って採取を繰り返す。ニンジンにダイコン。キャベツやレタス。などなど、さまざまな野菜が収穫されていく度に、ふと、あることが頭を過った。
パン粉などは、確かに買ったほうがいいだろう。けれど、この手の野菜も露天で販売されているのだろうか。
「ねぇ、こういう野菜も露天で売っていたりするの?」
「する」
「えー、でも、こうしてただで手に入るんだよ? 誰も買う人いないんじゃない?」
「それは鎌を持っているから言えること、だ。その鎌だって消耗品で、ある程度使うとロスト。なくなっちまう」
「鎌やツルハシを買うより安いんだよ。素材を買うほうが。でも採取をすることでクリア出来るクエストもあるから、採取する人自体はいる。そんで、手に入れた素材を売るってわけ」
「なるほどねぇ。鎌が手元にないといざという時に採取出来ないから、役目が訪れるまでは露店で済ませておこう。みたいなことが出来るわけだ」
「その通り。優秀な教え子で助かるわ。ユキ先生の教えの賜物だね」
「いや、私のセンス」
「そこは俺の手柄にさせてくれよ」
ならばそれなりの値段はするのだろう。そう考えると右手に携えた鎌を使うのが惜しくなってきた。しかし、まだタマネギは手に入っていない。もしも鎌がロストするまでに手に入らなかったら?
カブ。
里芋。
セロリ。
「ねぇ、前から気になっていたんだけどさ、セロリとセルリーってどう違うのかな?」
「飲食やっているモカが知らないんなら、俺には手も足も出ないなぁ」
「私は、気になってもなかなか調べない質だからなぁ。ティアは知らない?」
「うーん、多分、読み方が違うだけじゃないかなぁ。ほら、ボジョレーヌーボーなんかもさ、人によって読み方が違うでしょ? それと似たようなものじゃないかな」
「あー、その説ありそう。私はボージョレ派だわ。一番初めに聞いたからかな?」
「モカもワイン飲むんだね。勝手に日本酒とか好きかと思ってた」
「あー、うちのモツ煮で毎晩やってると思ってるんでしょ。私が好きなのは、ビーフジャーキーとレモンサワー。もしくはハイボール」
「なんだその具体的なメニュー。唐揚げは?」
「唐揚げは、おやつかおかず。食べ過ぎちゃって、お酒を入れると気持ち悪くなるから」
「そこはセーブしろよ」
できたら苦労しないよねー、とティアと笑い合った。離れていた時期は長いけれど、どうやらお酒の好みは似通っているらしい。これは、リアルでの再会も待ち遠しい。
長ネギ。
ダイコン。
ゴボウ。
ダイコン。
「やたらとダイコンが出るんだけど」
「冬だからかなぁ。たしか、冬によく食べられる食材は出やすくなっていたと思う」
「あー、おでんの季節ね。熊屋のおでんも美味しかったよねぇ。ユキってば、ナルトばっかり食べてさ」
「そう言うティアは、卵ばっかり。一回、俺が笑かして口から飛び出たよな。一口で頬張るのが面白くってさ」
「あれは本気で怒ったわ」
「そう言うユキだって、かけすぎた出汁粉でむせた事が何回もあるでしょうに。どっちにしろ、掃除をするのは私だったんだからね」
通年で販売される熊屋のおでんはなかなかの人気商品だ。下校時に立ち寄る学生も多く、私もそこに混ざってよく食べていた。
そんな懐かしの味を、二人はしばらく楽しんでいないだろう。このゲームの中で作ることができたら、喜んでくれるだろうか。自分の中で、新しいモチベーションが生まれたのを感じた。




