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26.決戦前

 すっかり日も暮れた砂漠は、ひんやりとした空気が漂っている。


 極端な温度変化がないのはリアリティに乏しいと思われるが、そこにリアリティを求めてしまうと、ゲームとしてのアクティビティを損なうのではないか。そんな意見が運営の中で議論となったらしい。


「で、北風と太陽は手を取り合ったわけね」

「え、寒さを北風と表現すんの?」

「読書家としてのキャラ付けを目指してみた」

「ミステリー専門が何を言う」


 シェイクスピアやファンタジーも、ものによっては好きな部類だけどね。


「けど、まぁ、そんな感じだろうなぁ。程々に、どちらも主張しようか。そんな結果となった訳だし」


 手持ち無沙汰となっている私は、テントを片付けながらユキと通信をしていた。


 未知なるボスとの戦いに万全を期して挑むために、時間の調整を図ったのだ。それが涼し気な夜となったのは、熱くなる心を冷ますのに都合がいいのだろう。


 なんて、私はそこまで戦闘で熱くなるタイプでもないし、むしろちょっと面倒くさい。弱い敵で無双したい。


「でも、『強敵との遭遇が予想されます』なんて警告が入るの、なんだか優しいじゃん」

「一応、言葉の通り強敵だからな。準備は入念にってこと」


 そのお陰で、付近のモンスターを狩って素材を集め、僅かなりとも装備の強化をしておいた。


 砂漠に出没するコブラのようなモンスターを倒すと、砂漠の砂の上でも安定して動けるようになるスキルを付与する素材が手に入ると聞いたからだ。


 今では砂に足を取られることもなく、テキパキとテントを片付けられている。


「そんな強敵に対して、なにかアドバイスは?」

「プレートを持っているやつが、常に狙われる。不安だったら、プレートを誰かに預けることをお勧めするね」


 ふむ。では、預けるとしたら誰になるか。


 ティアは斧を両手に持つバリバリの前衛。火力役を担う人物なのだから、攻撃を集中的に受けて防御に徹するような事態は、避けたほうがいいだろう。


 次にミク。彼女は後衛であり、魔法による強化、攻撃、回復と何でもこなせるサポーターでありアタッカー。ティアと同様、攻撃に晒されるのは避けたほうがいい人物だ。


 ヒナタは私と役割が被るのだけど、……おそらく、モンスターに与えるダメージは私よりも上だ。そんな彼女を受け手にさせておくのは惜しい。


「ロンドとガイアって、どんな感じで戦うの?」

「ロンドは最近、両手に銃をもって遊んでいるらしい。ガイアは剣の二刀流。まぁ、どっちも突撃思考だけどな」

「……攻撃偏重になっている気がする」

「俺の苦労も分かるだろ?」


 ユキと関わりのある私以外の三人が、全員突撃思考の二刀流とは。私、よく杖を選んだな。


「オーケイ。分かった。どうやら私が逃げに徹したほうが良さそうだ」

「それが一番かもな。そうだろうと見越して、ティアに回復アイテムを大量に渡しておいた。それを受け取って、ショートカットに設定しておくといい」


 視界の隅に表示しておいて、視線を向ければ直ぐに使用できる機能だ。


「了解。……ところで通信を切る前に、一つだけ言っておいていい?」

「お、死亡フラグか?」

「なにそれ。そういうことではなく、マキシマムゴーレムなんかや犬のゴーレムなんかを見ていて、ずっと思っていたことなんだけど……。弱点が額じゃないのが納得いかない」

「うちの独自のファンタジーを受け入れてくれよ」


 不満というものは、大抵口に出してしまえば満足できる。私としても厄介に絡むつもりは毛頭ないので、その返答で満足しておこう。


 大事なのは、この先に出没するゴーレムの弱点が額でないことが確定したってことだ。


 通信を終えれば、まもなくテントは折り畳まれた。現実なら場所を取る荷物になるそれも、メニュー画面から簡単に格納することができる。こういうところも、ある意味ファンタジーなのだろう。


 もしもこのような機能が現実にあったのなら、キャンプ人口も今よりももっと増えるのではないか。おまけに食料も調理器具も持ち歩く必要がない。


「……そう言えば、ユイナさんからキャンプに誘われていたっけなぁ」

「ユイナって、あのユイナ!?」


 背後からかけられた声に肩が跳ねる。


「ビックリしたぁ、ってロンドか。早かったね」

「いやいや、そんなことはどうでもよくて、今ユイナって言ったよね? アイドルのユイナ? バラエティ無双しているアイドルのユイナ?」

「そうだけど。ライブの際にケータリングを頼まれてからの仲でね」

「うーらーやーまーしーいー! 私の憧れの人なのに!」

「私?」

「ロンドちゃんですー!」


 思わず素が出るほどにはファンなのだろう。


 たしか、永遠の女子高生で売り出しているアイドルだったか。そのくせエピソードトークがアルコールに纏わる話ばかりというブレっぷり……でもないのが、女子高生という設定の妙か。そこが愛されているそうなのだけど……。


 父親の手伝いについて行って時から、何年経ったのだろうか。そういうところからも、彼女の実年齢が窺える。


「そのキャンプ、いつです?」

「四月、いや三月の終わりだったかな? 春休みを取るって言ってたから」

「その時は、ロンドちゃんにも声をかけてくれたらなー、って」

「いや、私の方が休みになるか分からないし」

「休ませます」


 ユキは弱みを握られていたりするのだろうか。


「おつかれー。あれ、二人ともどうしたの?」

「あ、ティア。おつかれー。ちょっとキャンプの話を、ね」

「へぇ、行くの? いつ? アタシも行きたいなぁ」

「ティアさんも乗り気なんですね。でも、ユキさんが障害になるかもしれないんです」

「あぁ、じゃあモカを休ませないと」


 どんだけ弱みを握られているんだろう。あと、なんでロンドはティアに敬語を使っているのだろう。


「まぁ、その話は後にしよう。それより、三人いれば多少は様子見ができるんじゃない? 一足先に戦闘に臨むか、みんなを待つか」

「みんなが揃ってからパーティーを始めるのって、日本くらいだって聞いたことがあるような気がするし、モカさん、ティアさん。ここは一足早く始めません? ほら、後から来る人はモカさんもフレンドになっているわけですし、途中参戦も充分ありです」

「うん、それで良いんじゃないかな。回復アイテムは大量に預かってきたし。とりあえず、モカに渡すように頼まれたけど」

「あ、ユキから連絡は貰ってる。プレートを持った人を狙うんだってさ」


 メニュー画面からアイテムの譲渡を行い、その大量さに度肝を抜かれた。


「この量、流石に嫌な予感がするんだけど」

「一体だけで消費させられるのか、はたまた二体分なのか」


 それでもビックリな量だけどね。砂漠を彷徨う中でロンドから聞いた話だけれど、テレビゲームでは回復アイテムの最大所持数に制限がついていたりするらしい。


 ロンドが好きなゲームは、二十個ほどだと言っていたか。


 それを考えると、今貰った回復アイテムの数は……。


「七百七十七個とか、まさに桁違い」


 その数字が、幸運を齎すと信じておこう。

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