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メビウスクエスト・エクストラ  作者: 如月 和
ファンタジーに銃はあり、なし?
11/14

11.宝珠の在り方

 メモにはこう書かれていた。


『南に1km。東に3km。∀RIKARA』


 モカには全く意味が分からず、少なくとも、何処かから南に一キロ、東に三キロ移動した場所に何かがある。それを察することぐらいだった。


「南と東ってのは、単純に方角と距離を表していると見ていいだろうな。けど、それは後半の文字が何を指しているかで変わる」


 通信による会話で、ユキは言う。


「この、逆さまになったAってなんて読むの?」

「知らん。ただ、入力する時はすべてっていれると出てくるのは知ってる」

「すべて……、りから?」

「ローマ字で読むとそうなるな。全くピンとこない。その記号を使ったアニメは知っているが、ファンタジーとは無縁なのもの……だろうから、それに関わることはないと思うが」

「リカラって街があるとか」

「ない。そもそも、それは合言葉かもしれないだろ? 南に一キロ。東に三キロ行った場所にある何かに、その合言葉を入力する」

「何処から南に?」

「知らん。そのメモを入手した場所――ではないだろうな。宝箱から入手したってことは、特定の場所を示しているわけではないから」


 このメモの中で、何かを示している可能性があるものは逆さのAくらいだろうか。モカはそう考えた。逆さにするとAになる。メモを逆さまにして読んでみる。浮かぶものは何もなかった。


「お前に谷間の館を紹介した人、このゲームの地理に詳しかったりする?」

「すると思うよ。冒険してるって言ってたから」

「じゃあ、その人にも聞いてみてくれないか。南に一キロ、東に三キロで思い描くものはないかどうか。そのメモから分かることはないかどうか。俺の方でも、マップデザイン担当に訊いてみる」

「了解。何か分かったら連絡するわ」


 次はミクに通信を繋げる。その前に、メモをスクリーンショットで撮影し、メールにて送信しておくことを忘れない。目で見たものを撮影できる。シャッターはまぶた。何とも言えない気分だった。


「メール、見てくれた?」

「見ました。後半の文字はいまいち分かりませんけど、南に一キロ、東に三キロでしょ? これって、直線にするとなかなかの距離ですよね」

「だね。歩くとなると大変そう」

「草原エリアでは、所々に生える木で行く手を塞がれてしまう。山岳エリアでも、登れない崖なんて幾らでもあるし、なかなか思うように進めたいと思います。それがクリアになるとしたら、海の上とか、砂漠くらいですかね」


 なるほど、とモカは思った。


「それで、砂漠でなら後半の文字でピンとくるものがあるんですよ」

「え、この記号が示す場所があるの?」

「いえ、例えばそれをAとして読んだら、と言うことです。砂漠には『アリの涙』というオアシスがあって、私が知る限り、アリという単語が出てくるのはそこくらいかと」

「あ、じゃあつまり、アリ“から”南にってこと?」

「そうなってくると、なんで先頭のAは逆さになっているのか。それは、オアシスからでは方向が分からないからではないでしょうか。南の方向を示すように、Aを逆さまにした。さらに先頭を除いて、逆さに――、反対側から読んでみてください」

「えっと、……アラキ、R?」

「新木――、つまり新しく生えた木か、もしくは荒木――、荒れて朽ちた木か。それらを背後に背負って、南に一キロ進む。そういうことではないでしょうか」


 正解かどうかは判断できないが、なんとも説得力のある推察だとモカは感じた。


「なんか、それっぽい。凄いね、映画に出てくるトレジャーハンターみたい」

「そ、そうですか? 嬉しいなー。そういう映画、大好きなんですよ」


 砂漠の知識があったことも、有利に働いたのだろう。それが正解を示しているかどうかは、実際に訪れてみないと分からない。他にヒントがないのなら尚更だろう。


「教えてくれてありがとね。じゃあ、明日にでも砂漠へ行ってみようかな」

「あ、それでは私も同行してよろしいでしょうか。実は、アリの涙は少々特殊な方法でしか行くことができなくて、私はちょっと、敬遠していたんです。でも、一緒に行ってくれる人がいるなら心強い」

「もしかして、戦闘が必要?」

「そうなんです。ワームというミミズ型のモンスターのボスを討伐すると、穴が出現するんです。その穴を通らなくてはならないのですけど、そのボス、ダイワームとの戦いがちょっと面倒な仕様で」

「一人だと難しいんだ」

「ゴーレムを使えば何とかなりそうではあるんですけど、ゴーレムって自分のメインとサブの武器を使うんですよね。私は本をメインにサブが弓なので、全然盾になってくれないんです」


 モンスターに近寄りたくない。それを最大限にアピールするかのような構成に、モカは思わず吹き出してしまった。


「そこまで近付きたくないんだ」

「ビビリですからね。モンスターの攻撃には予兆があるんですけど、近くにいるとその度に肩が跳ねるんです。あぁ、私は安全圏にいたほうがいいなって。冒険しない冒険が信条です」

「賢明だ」


 そう笑って、明日の約束を取り付けた。しかしボス戦があるとなると、自分だけではなんとも心許ない。かといって、ユキの手が空くかどうかは未知数であるため、頼られるのは一人だけ。


 念のためにユキにもミクによる推察をメールで送っておいたが、返信はやはり、モカの考えと同様のものだった。


「あ、なんだ。まだログインしていないのか」


 頼れる親友のティアに通信を繋げようかと思ったが、名前が暗く表示されていたため、ログインしていないことが窺えた。メールを送っておき、返信を待ちながら街へ戻ることにした。


 一時間ほど馬車は走り、今日の業務は終了した。ティアからの返信は「酒場で待つ」との短いメールだったため、残りの一時間をのんびり過ごし、街に着いたら飲食街へ向う。街の東側にあり、指定された酒場には初日にも訪れていた。


「おーい、こっち!」


 隅に置かれたテーブルに陣取る彼女を見て、モカは片手を上げて近寄る。既にビールは半分ほど減っており、空いた皿が何枚か。


「何杯目?」

「まだ二杯目。アタシも用事を終わらせて来たところだからね」

「モンスターでも倒してきたの?」

「そう。時間限定のモンスター」


 そういう要素もあるのか。モカは情報だけは頭に入れた。


「それで、砂漠へ行くんだっけ?」


 モカが注文したものが届くと、早速ティアがメールの内容を確認する。ハイボールに口を付けながら頷いた。


「そう。ダイワームってボスを倒して、アリの涙に行きたいのよ」

「あぁ、ダイワーム。それじゃあ人手が欲しいはずだ。どんなボスか分かってる?」

「いや、知らない」

「体に節があるデッカイミミズで、口がハエトリソウみたいになってんの。で、その節を攻撃して切り離して、口のある本体のみにしないと倒すことができない。一人でやると本体の攻撃を防ぎながら節を攻撃して、と手間だし、攻撃の手が多いほど楽」

「戦ったことがあるの?」

「あるよー。というか、モカもチケットはあると思う」


 あんな大量のチケットなんて見ないから。そうモカは笑った。フレンドの恩恵ではあるのだが、一枚ずつ手に入れなければ目が届きにくいと不満に思う。


「問題なのは、移動時間だよねぇ。砂漠には街がないから、街同士で利用できるワープは使用できないから」

「四時間だっけ。もう一人同行者がいるんだけど、その人から聞いた。谷間の館まで往復四時間かけたけど、それが片道だもんなぁ」

「あ、谷間の館に行ったんだ。あそこも謎だよねぇ。因みに同行者って誰? いったい誰とアタシに内緒で仲良くなったんだーい?」

「何その言い方。ミクっていう露天商」

「ミク? ……あぁ、あの動画の。あの子いい子だよねぇ。露天の品揃えもいいし、注文にも応えてくれるし」

「へぇ、人気の露店なんだ。私も、スパイスの取り揃えが良くて気に入ってる」

「……え、アタシ、初日にスパイス買ってあげたよね?」

「満足できる種類じゃなかったね」

「うっわ、なんか悔しい。次は絶対に満足させてやるから」


 期待してる。そう笑って、明日の景気づけにハイボールを呷った。

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