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真紅のバレッタ



 ひとしきりルブニールの話を聞き終えたゼンタ達は当初の目的である立ち退きを要求する気など毛頭なくなってしまった。

 この屋敷が彼女にとって唯一の居場所でありアーロンとの思い出の地ならそれを無理に取り上げるような事は決しあってはならない。


「なるほどな、お前がこの屋敷に地縛霊としている意味がわかったよ。アーロンに合わせる顔がないってなら成仏もできないよな」


 ゼンタのその言葉を聞きルブニールはキャトンとした顔で答えた。


「いや、吾輩はこの屋敷に未練などないぞ。さっきも言ったが吾輩が取り憑いているのはこの懐中時計だ。それに謝れるのなら直接アーロンに謝りたい。成仏できるなら今すぐにでも……」


 まるで遠い空でも眺めるように屋敷の天井を眺めるとルブニールは何か思いついたようにゼンタの方に顔を向けた。


「ゼンタ君。どうか……どうか吾輩の頼みを1つ聞いてはくれないか」


「さっきも言ったが死んでアーロンに謝るのは無理だぞ。気の毒だが俺はあの世へ行く事はできないんだ」


「いや、それはわかっている。話を聞くに君達は何やら旅をしているのだろう? それに吾輩も連れて行ってはくれないか?」


 ルブニールの提案にゼンタは言葉を詰まらせた。勇者試験を受けている時ならいざ知らず、今は何か旅をする予定はない。勿論、ディドゥリシンセブンナンバーを無事倒す事ができれば、この世を少しでも平和にする為にも世界中を旅する予定ではあるが、当面の目的である神殿の大罪人達との戦いに彼女を巻き込むのはあまりにも危険な気がしたからだ。その旨を伝えるとルブニールは大きな声で笑った。


「危険? ははは、ゼンタ君は優しいな。しかし心配ご無用だ。吾輩は霊体だぞ? 死ぬ事もないし、仮にもしその戦いで死んであの世に行けるならそれは願ったり叶ったりだ。何も気に病む事はない」


「確かにそうだが、仲間になってすぐそんな大きな戦いにお前を巻き込むのは随分都合がいい気がしてさ」


「まあまあ、そう言うな。吾輩への配慮はいらない。それに吾輩を連れて行っても君達に損はないと思うぞ?」


「別に損得で仲間を増やす気はないけどさ、一体なんで俺達の旅に同行したいんだ?」


「吾輩はこの懐中時計に取り憑いているからな、長時間外に出続ける事はできない。つまり自分の力でこの屋敷から出る事はできないんだ。君がこれを装備し旅に同行すれば吾輩が成仏できる条件を探し出せる気がするんだ」


 確かにそれであればチェオの課題である、この屋敷の地上げは成功となる。ルブニール自身もそれを望んでいるのであれば、別に迷う必要はないかとゼンタはルブニールから懐中時計を受け取った。


「ありがとう。ゼンタ君。基本的に吾輩はこの懐中時計の中にいるが、吾輩の力が必要であればいつでも呼び出してくれ。霊体を生かした潜入操作や隠密操作は誰にもバレる事なく成功させてみせよう」


 幽霊であるルブニールの姿を視認できるのは死を疑似体験しているゼンタか、精霊の類以外はいないだろう。この力は必ず役に立つに違いない。

 まさかこの特訓をしている最中に仲間が増えるとは思わなかったが新たな仲間の加入をゼンタは嬉しく思っているとレイが口を開いた。


「こいつの力をフルに生かすなら真紅のバレッタを見つけだそうぜ」


 レイが言ったアイテムには聞き覚えがあった。ドリーやロリーが幼き頃から探していたアイテムだったにちがいない。


「ルブニールの力を生かすならって、その装備は一体どんな効果があるんだよ」


「真紅のバレッタは物理的に触れないものに触れる事ができる装備アイテムだ。炎や水や光といった手から溢れるものすらも物体として掴む事ができるようになるだけじゃなく、闘気や音なんかの目に見えないものも物理的に掴む事ができるようになる」


「なるほど、それを装備させれば霊体のルブニールが触れない物にも触れるようになって何かと便利になるって訳だな、でも霊体のルブニールがアイテムを装備なんてできるのか?」


「確かに、吾輩は取り憑いているこの懐中時計以外の物や人に干渉する事はできないぞ?」


「真紅のバレッタ自体に触れない物にさわれると言う効果がある。つまりそのアイテムに限り霊体である者にも装備できるという訳だ。まあ真紅のバレッタさえ装備できれば他のアイテムも装備できるようになるがな」


「なるほど! それはありがたい! ゼンタ君! 是非その真紅のバレッタというものを探し出してはくれないか! そのあかつきには必ず戦闘において役に立ってみせよう」


 そのルブニールの提案を聞いたレイは最後の言葉に引っかかった様子を見せる。


「は? お前の昔話を聞いたところ戦争でも特に成果を上げれず、スキルを使わないと、てんで弱いんじゃなかったのか?」


 真紅のバレッタを探そうと提案したレイであったが、その目的は彼女を戦闘に役立てる為ではなかったようだ。本来なら領主である彼女がこのように弱いと言われれば激昂しそうなものだが、彼女はふっふっふと笑った。


「忘れたのかな? 吾輩のスキル、デットオアライクは愛する者の命と引き換えに発動するもの。そしてゼンタ君は不老不死………出会って間もない内にこんな事を言うと惚れっぽいと言われてしまうかもしれないが吾輩は既にゼンタ君の事を少し気に入っているんだぞ」


 彼女はゼンタをジッと見つめた。しかし、その眼差しは異性としてゼンタを好む目ではなく、信頼や友情を思わせるような仲の良い友人に向けるもののような気がした。



ここまで読んでいただき誠にありがとうございます。もしよろしければ星5評価、ブックマークしていただけると大変嬉しいです。これからも引き続き更新の方頑張りますので何卒応援していただけると幸いです。

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