収穫
神のつま先崩壊から数日が経ち、皆万全の状態となっていた。
ただ一つ魔封じの腕輪をつけられたレイだけは魔法の類が使えず、戦闘や移動すらもままならず、まるで役に立たなくなってしまっていた。
「その腕輪、どうにか外す事はできないのか?」
「無理だな。壊して無理矢理外す事はできない。手首を切り落とす事も魔法でできない。ついてる腕輪専用の鍵か、どの腕輪も開けれる黄金のマスタキーでもない限りな」
「つまりダイナマイトジョーにもう一度合わねえとレイは二度と魔法が使えないと言う事か?」
「そうなるな……」
この危機的状況に焦りも臆した様子も見えないレイは無力ながらにどこか頼り甲斐があった。
「とは言っても……レイさんが魔法使えなくなっただけでなく、苦労して塔を登り、何も収穫を得れなかった事も残念ですね」
カースが落ち込んだ様子で下を向くと、それを聞いたアルが何かを思い出しように鞄を探り始めた。
「忘れてた忘れてた! これこれ!」
アルは鞄から見覚えのあるネックレスを出し、他のみんなに見せた。
「そ、それはヴァレンティーナ王女のロザリオ!」
下を向いていたカースは勢いよく顔を上げ、そのネックレスに顔をよせた。
「なんだと! お前いつの間に!」
ゼンタやルイドも驚いた様子でアルの持つロザリオを注視する。
「ふふん、盗んでおいたんだよねー」
誇らしげにそのネックレスをブラブラと掲げると、それをゼンタに渡した。
「S級盗賊のうちを舐めて貰っちゃ困るなー。戦闘では歯が立たなかったけど、泥棒するのが目的で攻撃していたし、盗む事はお茶の子さいさいだったよ」
かなりの実力者であったダイナマイトジョーの隙をつき、目当ての物を盗む。まさに神業である。
スワンプリズンからアルを脱獄させたのは自分の旅の中でも間違いなく1番のファインプレーだったと自画自賛した。
しかし、アルからネックレスを渡されものの、装備した者に度重たびかさなる不幸を呼ぶ呪いのアイテム。それを身につける事には躊躇せざるを得ない。
その様子を見て、アルがゼンタの手からネックレスを取ると、首の後ろに手を回し、ゼンタの首にそれをつけた。
「お、おい! アル! 何するんだよ!」
「もうーゼンタなら大丈夫だって。忘れたの? ゼンタには幸運と不運の蝋の力があるじゃん。死なない体に死ぬまで超ラッキーな体質。この装備の呪いも相殺されるに決まってるでしょ」
そういえばそうだ。
ここまで何とも都合よく、実力に応じた牢人生と順に出会い、仲間にも恵まれ、どんな危機的状況も無事回避している。
その恩恵がなくなるのは痛手かもしれないが、体のダメージを自動回復するこの装備は自分にとってスペシャルアイテム。
死ぬ事でしか再生されなかった致命傷もアイテム効果で回復するなら着けて損な事などあるわけがない。
「あ、あの……わたくしにも……一度装備させていただきませんか?」
カースはゼンタの側におずおずと近づくと、細い声でそう頼んだ。
「ああ、そうだったな。カースの目的だったもんな。ほら、しばらくつけてろよ」
不幸を呼ぶ呪いの装備だというのに何とも無責任な事を言ったとも思ったが、これがカースの人生の目標でもあるのなら、それを断る方が野暮だと言うもの。死ぬほどに叶えたい夢など往々にしてある事はゼンタも理解していた。
ネックレスを渡されたカースは、それを自分の首にぶら下げると、腰砕けになりビクビクと痙攣けいれんした。
この女の変態的なまでに呪いのアイテムを好む習性には呆れてしまう。
絶頂を迎えたように満悦の笑みを浮かべるカースを軽蔑にも似た白い目でその場にいる全員が見る。
とは言え、次の目的地を探さなければいけない。
また振り出しに戻ってしまったが、ここで全員の意思を聞いてみた。
ルイドは何があってもゼンタを守り、勇者にしてやると言い切った。ロリィもリーダーのルイドがゼンタ達に着いて行くのなら自分も着いて行くのが1番最善だと同行する事に賛成している。
レイ、アル、チヨメも勿論このまま旅に同行するつもりのようであるが、目標を達成したカースはどうするのか気がかりであった。
「わたくしはこのロザリオの為に勇者試験に参加致しました。そしてそれが達成された今、現在の目的はこの試験会場から無事脱出する事。それを実現するにはゼンタ様達について行くのが最も得策と考えております。もしわがままを聞いていただけるのであれば、今しばらく共に同行する事をお許しいただきたいと思います」
カースは深々と頭を下げた。
勿論、その申し出は2つ返事で承諾し、誰もこの旅から離脱する事はなく次なる目的地を探す為、旅をする事にした。
が、これから何をすればいいのかまるで目星がなく、また途方もなく歩き続けるのか、情報収集する為に一度ドロップアウトに戻るかなど、皆みなで相談しているその時だった。
まるで見慣れないキラキラとした蝶が1匹空から舞い降りてきた。
害があるようには見えない、まさか牢人生と言うわけでもないだろう。
その蝶がゼンタの目の前でヒラヒラと飛び回ったかと思うと、こちらの様子を伺うよう、まるで着いて来いと言わんばかりに、誰もいない方に飛んでいく。
「何だあれ……」
ゼンタがその不可解な飛び方をする蝶に目を奪われるていると、レイが自身の親指を噛み苛立った剣幕で蝶を睨みつける。
「なんでこいつがここに飛んでんだ……くそ……」
その不機嫌な声の事情を聞くより早く、レイがゼンタ達に次なる目的を提案する。
「あの蝶に着いて行ってみろ。闇雲に進むよりは収穫があるはずだぜ」
どこか不服そうではあったが、その蝶の事を知っている様子のレイの提案に誰も反対する事なく、ゼンタ達はその蝶の後に続いて歩く事にした。
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