ヴィンセントの戦闘
時は大きくさかのぼる。戦いはゼンタ達とは全く関係のないところで勃発していた。
ただ広いだけの空間。何の為に作られたかもわからない何もないこの場で2人の男が対峙していた。
サングラスをかけたその男は、両手をズボンのポケットに突っ込み、相手を睨んでいた。
「ここまでたどり着いた事は誉めてやろう……だが、吾輩がいる扉を開いてしまうとは命運尽きたな……」
腕を組み仁王立ちでヴィンセントを見る男は顎を少し上げ余裕の表情を見せる。
「適当に開けただけだっつーの。ここまで全く面白い事がなかったけど、お前は大丈夫なんだろうな?」
「フン、自惚れるなよ人間。頭を垂れろ。吾輩の御前だぞ。吾輩を誰だと心得ている」
「知るかよ。牢人生だろ?」
人差し指を耳に突っ込み退屈そうにヴィンセントが答えると、この世の王にでも君臨しているかのような態度で牢人生は指をさした。
「貴様は死刑確定だ。1牢であるバシレウス様直々の殺ろしが貰えることを光栄に思え」
そう言ったと同時に足を一歩前に出すと6面帯の黒い箱が6つ、バシレウスの回りに出現した。宙に浮いた箱の中から1つを手に取ると、その箱の口のようなマークが描かれた面に口づけをした。
その瞬間、残りの箱の口が描かれている面、全てがヴィンセントの方を向き、光線にも似た大きな波動が五つ放射された。
その波動が一直線にヴィンセント目掛けて襲いかかる。
「貴様は吾輩に許可なく喋りかけた罪で死ね」
勝利を確信すると、バシレウスの元に浮いた箱が戻ってくる。その1つの箱の上にヴィンセントは座り込んでいた。
「威力は十分。まあ当たる気はしねえけどな」
「なんだと?!」
自分の近くまで来ていた事に気づかなかった事より、今の技を回避した事にバシレウスは驚いた。
お次は持っていた箱の、手が描かれた面に腕を突っ込む。
すると、先程同様、残りの箱の手が描いてある面から悪魔のようにおぞましく大きな腕が5つ出現した。座っていた箱から出た手に全身を掴まれるとヴィンセントは顔だけを手から出し、体の自由を奪われる。
完全に動きを封じたと残りの腕がヴィンセントを殴りつけた。
間違いなく手のひらの中にヴィンセントの体がある感触はあるにもかかわらず、顔を狙って打った拳に全く手応えはない。
ヴィンセントを掴む手を見るとそこにヴィンセントの首から上だけが消えていた。
「そんなでけぇだけの拳が当たるかよ」
後ろを振り返るとそこにはヴィンセントの生首だけが宙に浮いている。
「なんだそれは? 手品か何かか?」
「冥土の土産に教えてやるよ」
そういうとヴィンセントの首から下の時空がねじ曲がったように円を描くと体が出現し、その代わりに大きな手のひらの中にあった、体は消えた。
「俺のスキル、スペーストラベル。自分の体の一部から全身までの好きな部分をテレポートさせる事ができるスキルだ。自分が目視できる範囲内で指定した空間座標に移動する事ができる。眼球だけをテレポートし続ければどれだけ遠くても行けねえところはねえし、こうやって腕だけを飛ばせば相手の攻撃を喰らうリスクを最小限にして攻撃ができる」
バシレウスの頭の上にヴィンセントの手のひらだけが乗る。
「なんだ、驚かされたが吾輩のビックパンドラに比べればちんけなスキルじゃないか」
頭に乗った手を掴むとそれを握り潰そうと力を入れる。そうなる前にヴィンセントは、自分の飛ばした手を手首の上に戻した。
「だいたいてめえのスキルならわかるぜ。箱に自分の体なんかの一部を入れる事でどこかにある力を借りて他の箱から出現させるってスキルだろ。さっきみたく口をつけて咆哮すれば、より巨大な力を持った何者かが咆哮し、腕を入れれば同様に巨大な腕が出現する」
「何も分かっておらぬな貴様。何者かの力というのが大事なのだ。吾輩が箱から一時的に召喚していたのは魔王様の力だ」
そう言って目が描かれた面を覗き込む。
「ククク……魔王の魔眼だ。全てが見えるぞヴィンセント・パンク……」
ヴィンセントを囲むように浮いた箱からでた赤い眼球がジロジロとヴィンセントを観察する。
「ほう……長年、戦闘島で覇王の座に君臨していた英雄を一撃で倒した事があるのか……それに二次試験で集めた蝶の……か……ず……」
牢人生最強のバシレウスは言葉を失う。
「あ、あ、ありえないこんな数……」
「何だ余裕の表情が消えてるぜ」
ヴィンセントはバシレウスの目の前に全身をテレポートさせた。
「ち! 近寄るなあああ!!」
バシレウスは魔法陣が描かれた箱に、小さな雷魔法をビリビリと当てると、他の箱から大きな落雷が放たれた。
「おい! スキル持ちがこんなでけえ魔法撃つのは反則だろ!」
それをテレポートを使い避ける。
「魔法とは魔王様が作った魔界の法だ。魔王様の力を借りるのだからそれも使えてとうぜ……」
冷や汗をダラダラと流し、慌てた様子のバシレウスは言葉に詰まると膝をつき、地面に倒れ込んだ。
「飽きたからもう終わりだ……結局1牢も大した事なかったな」
「な、な、何を……した……」
血を吐き地面に倒れ込むバシレウスは声を震わせ聞いた。
するとヴィンセントは血に染まった右手で自分のサングラスを指さした。
「俺のスキルはさっきも言ったように目視できる空間ならどこへでもテレポートする事ができる。このブレインが作ったマジックアイテム透視眼鏡を使えば相手の体内にも同様にその効果は発揮できるっていうわけよ。つまんねえ相手なら心臓潰して終わらしちゃうのが俺の癖なんだわ」
「なるほど……まさに争う術もない……」
「魔王の力もこんなもんかよ。ガッカリだぜ」
「心配するな……吾輩のスキルに使われる魔王様の力など……ほんの一部……更に吾輩如きに魔王様が手間を取ると思うか? 片手間以下の力しか貸してもらえんわ……」
「まあだとしても底は知れちまったし、1牢って事はお前より強い牢人生はここにはいないんだろ?」
「フン……それも間違いだ……元は吾輩が最も強い力を持っていた……しかし……吾輩の次に実力があった2牢という牢人生……こいつが新たな牢人生が補充された際……番付をする為に……補充された中でも実力のある牢人生候補と……戦う事になったのだ…………だが……そこにいた新人の牢人生に瞬殺された……吾輩も目の当たりしたが……正直言って震えが止まらなかったぞ……つまり……今はそいつが最強の牢人生だ……」
「じゃあ何でてめえが1牢を名乗ってんだよ」
「奴は……吾輩達とは次元が違う……異例の強さを持つ奴は特別に……次牢と名乗り……特別な命を受けた時のみ……現れる」
「そんなに強いのかよ……どんな奴だ?」
「名は……テディーポップ……お前や……魔王様のように……圧倒的な……ち……か」
その言葉を最後に1牢バシレウスの口が動く事は2度となかった。
「なるほどー…まだ楽しむ余地はありそうだな」
ヴィンセントはスキップをしてその場を去った。
これはゼンタ達が神のつま先に挑むよりも前に起こった勇者試験の一部始終である。
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