侵入経路
外周全てを見て回ったにもかかわらず、塔の中に入るような場所がなかった事に一同は落胆する。そのよどんだ空気がアルの一言で変わる。
「こうなってくると本当に正攻法なんてあるのかな?」
「じゃあどうやって中に入るんだよ」
「単純にぶっ壊すとか?」
「だとしたら、これまでこの塔に侵入した人間が壊した箇所があるはずだろ?」
「試しの扉みたいに、入る物の実力を試す仕組みなのかもしれないよ? ここまで全て強さで突破していく課題や試練ばかりだったのに、急に謎解きさせる訳なんてないし」
「だからこそ、ここまで来て十分実力はわかったから次は頭を使えって事かもしれないだろ」
「だったら強制的な試験じゃないのはおかしいよ。ここに来ない受験者はパスできるんだから知能を試されない人間が出てきちゃうじゃん。そんな無作為なイベントはないと思うけどなー」
アルはここまである程度、普遍的な方法で志望者達の実力を測って来た主催者側が、打って変わって知力を試す不可解さに違和感を覚える。
「やって損する事もないのでごじゃるから、物は試してごじゃる」
チヨメがスッと壁に近づくと指を壁にあてた。
「瓦解」
すると硬貨ほどの小さい穴が空く。それを見てアルが叫んだ。
「ほら! 壊せるんだよ!」
「しかし、拙者、中々の力を込めたでごじゃるがこんな微々たる、くぼみができただけでごじゃる。大きな穴を開けるのはできぬのではないか?」
「いや、小さな穴が開く事がわかっただけでも御の字! 確信に変わったよ!」
するとレイも横から口を挟む。
「チッ、最初に試せばよかったな。じゃあ何日もかけて外周なんて周りはしなかったってのによ」
壁を破壊することに否定的な事を言ったり、外周を回ろうと提案したゼンタは、少なくとも外周を回った事が何かの足がかりになる可能性になる事を信じたい一心で壁を壊すと言う線がない事を証明したかった。
「だから、だったらなんでこの壁は傷一つついてないんだよ! 破壊して侵入したものがいないって書いてあるようなもんじゃねえか!」
「だから綺麗すぎるんだよ!」
レイはそう叫ぶと手を壁に向け大きな火の玉を飛ばした。それがドカンと当たると壁にひび割れを作った。
「入口がないなら、こうやって試す受験者も多くいたはずだ。にもかかわらず傷の一つもない……異様だろ?」
レイは自分が作った壁の傷をジッと眺める。それに迎合されるようにゼンタ達も見守る。
そこでゼンタはある事に気づく。最初にチヨメが作った小さな穴が消えている事に。
気づいたもののそれを口にする事なくレイの作ったひび割れに目線を戻すとボコボコとひび割れは修復されていき、元の綺麗な壁に戻った。
「やはりな……この壁は生きてやがる。突破の方法はやはり破壊。だが、生半可な攻撃じゃ壊れねえし、ダメージを蓄積性させていって掘り進めるのも今みたいに修復されちゃできねえ……となると一撃で大きなダメージを壁に与える必要がある」
「一撃で大きなダメージ……レイの魔法でひびしか入らない壁だろ? そんなの一撃で破壊できる訳」
「そんな事はねえ。今のはそこまで大した魔法じゃない。それにお前にはあるだろ、一撃必殺の大技が」
確かに自分でいうのもなんだが、その大技には心当たりがあった。
「まあ、安心しろ。確実にアタナシアで大きな風穴が開くのは間違いないが、念には念を入れて私の魔法も同時にお見舞いしてやろう」
レイが胸を張り自分の力を矜持する。
「お二方の力に比べれば雀の涙ほどの力しかごじゃらんが、拙者も僭越ながら助太刀するでごじゃる」
「生きてるって事ならうちも、とうとうとっておきの技使っちゃおーっと」
先程まで、難所のように立ち塞がっていた壁を苦悶に満ちた表情で眺めていたが、破壊できると知るやいなや、まるでそれがアトラクションにでもなったかのようにチヨメとアルの表情は楽しげに変貌していた。
アルは鞄からマントと、いつも使っているナイフを取り出す。
そのマントの端を片手で持ち腕を伸ばし広げる。そのシルエットはまさに怪盗のようであったが、片手でマントを広げる立ち姿は闘牛士とでも例えた方が適切だろう。
するともう片方の手に持っていたナイフを投げると、そのナイフがアルを中心にグルグルと回り出す。アルの周りをまるで竜巻のようにグルグルと移動するナイフは広げられたマントを何度も通過している。
「うちのスキル、イリーガルスワップの1番の特筆すべきところ。それは所有しているスキルを複数同時に使用できる事により、生まれるコンボ」
グルグル回るナイフをよそにアルは今どう言った現象が起きているのかを説明する。
「レイちゃんが炎魔法と風魔法を単純に同時に撃つみたいな使い方もできるけど、工夫した事により産まれる、妙技。今なら圧投擲と操作傀を同時に使う事により生まれる恐ろしい破壊力を持つナイフ。愛用品のナイフを自由自在に操りマントを通過した数、威力を上げたうち最大火力の大技」
複数スキルを所有しているだけでも度肝を抜かれ、そんなズルいスキルがあってなるものかと地団駄を踏んだゼンタだったが、恵まれたスキルもそこまで行くとむしろ清々しい。
アルの周りを回っていたナイフはアルの目の前でピタリと止まった。
「大体50回前後。これ以上はいくら通り抜けた時に耐久力や硬度も同時に上がるからと言っても硬い物とぶつかったらナイフも壊れちゃうんだよね」
数本の木を貫通しただけでグリフォンを一撃で倒した圧投擲。それが50回も物質を通過したとなると一体どれほどの威力になるのか想像もつかない。
「アタナシア1つで十分だろうが、アルがそこまで張り切るなら私も手は抜いてられないな」
そういうとレイは珍しくブツブツと呪文を詠唱し始めた。アタナシアの修行の際、より難しく威力のある魔法ほど、イメージを固める作業が念入りになると言うふうな事を口にしていた。ここまでの集中力を見せるレイを見るのは初めてかもしれない。頭上の空は暗く染まり、そこから降りる一筋の光がレイを照らす。地面は揺れ風が荒れる。
「拙者も負けてはいられんでごじゃるな」
チヨメはレイ同様目を閉じると指を二本立て眉間に皺を寄せた。何か力を込めた様子を見せると汗がダラダラと体中から湧き出し、それだけでなく鼻血を一筋顎まで垂らした。
しかしその3人の様子を見ながらもゼンタもしっかりとアタナシアを発動させる準備を整えていた。
撃つのは3回目であるが、まだ死ぬ覚悟を決める事には慣れない。
自分の準備が整い、3人を見ると全員が準備万端といった様子でゼンタの顔見て頷く。
「いくぞ! せーーのっ!!」
「アタナシア!」
「極炎迅雷最高位大魔法!」
「合技圧投擲操作傀50回転!」
「神威!」
4人の放った技により、遠くにいたカースが立っていられないほどに地面が揺れる。自分の鼓膜が破れた事に気づけない程の衝撃。まるで世界が終わるかのような光景。あまりの威力に塔が左右に激しく揺れ、カースは今目の前で起こっている事が夢か現実なのかわからない程パニックになっていた。
技を撃ち終えたゼンタは息を切らし前を見る。
「さすがにこれなら空いただろ」
「これで壊れないんじゃこの中に入れる人間なんていねえよ」
レイも珍しく少し疲れた表情を見せる。
チヨメに関しては白目を向いて倒れていた。
まるで隕石でも落ちたかのようなえぐれた地面から巻き上がった煙が晴れると、そこには上を見上げてもまだまだ続く程、大きな穴が空いていた。
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