人は見かけによらず
「オラオラァ! その程度か牢人生!」
驚く事にこの台詞はレイによる物ではない。
何故ならその光景をレイ自身も目を白黒させて眺めているからだ。
黒く異常に大きくなった左腕を斧のように振り、ガングと名乗った牢人生に攻撃を繰りひろげる。そのカースの姿を勇者志望者と思う物はいないだろう。
2人の実力はほぼ互角と言ったところだが、その乱暴な攻撃手段と口ぶりから何故かカースが優勢に見えてしまう。
「オラァ! クソ野郎! 避けたんじゃねえよ! てめえそれでも金玉ついてんのか?! ボケェ!」
レイ以上に汚い言葉使う人間がこの世にいたのかと、カースの加勢をする事も忘れゼンタはその戦いを傍観していた。
「さすがの私もあれは引くわ……」
レイですら、カースの戦いっぷりには血の気が引いている。
「やるな、お前。久しぶりに手応えのある獲物が来て嬉しいぜ!」
大剣使い……いや双剣使いの牢人生ガングだけはカースの猛攻を喜んでいる。
大きく振られた右手の大剣をカースが大きな左腕で防いだ時、ガングの左手の大剣が顔近くまで迫っていた。
それを大きな口を開け、噛んで止める。腕で防いだ剣を掴み、牢人生を振り払うと後ろに飛び距離を取った。
「いってえな! 刑務所帰れよ! ち○こ野郎!」
カースはペッと地面に勢いよく唾を吐く。そして肥大した腕で地面を思いっきり殴ると勢いよく土煙が舞った。
前が見えないガングは集中したように両手の剣を構え、何かを待つ。
土煙の中から黒い拳が出てきたかと思ったら猟奇的な表情を浮かべたカースが続けて飛び出した。
ガングは両手の大剣を交差させカースの拳を止めると弾き飛ばすように剣を上に振る。
またお互いに距離が生まれ、2人が同時に強く地面を蹴るとみるみるその距離が縮まる。
「これで終わらせてやるよ! 女ぁ!」
「うるせえええ!! 死ねえええええ!!
ガングの大剣とカースの拳が交わろうとした時、レイがくいっと指を曲げるとガングの足元に水溜りが出現した。
そこに踏み込んだ時、ガングはツルリと足を滑らせ体制を崩す。
「ナイスウウウ!! ダッセェエエエなあ! お前!!!」
カースの巨大な拳は見事顔面を捉え直撃すると、ガングは数メートルぶっ飛ばされる。
大きく振りかぶった拳をモロに食らったガングは、ほんの一瞬、気を失ったが、すぐさま目を覚まし立ちあがろうとした…………が腰を上げようとした時、それを塞ぐようにガングの腹にカースがドカンと腰を下ろすとまた勢いよく拳を顔面に振り下ろす。
1発2発3発4発、数え切れない連打でガングの顔面を殴り続ける。
「オラオラオラオラオラ!! どうした?! 終わりか?! なっさけねえ! やっぱりてめえ金玉ついてねえだろ?!!」
その暴言の最中もガングの顔面に拳の雨が降り続く。
見かねたゼンタがカースの拳を掴み、その惨劇をやっと止める。
「邪魔すんじゃねえよ!!………」
鬼のような形相でカースは後ろを振り返ると哀れんだ目をするゼンタと目が合い、我に返る。そのまま自分の下にいるガングを見下ろすと腫れた顔のガングは涙を流し気絶していた。カースはそれを見て焦りの表情を浮かべると、それと同時に大きな腕が元の人間のものに戻っていく。
「やりすぎだ……」
「あ、え、おほほほ、手強い相手でしたね」
手で口元を隠し上品に振る舞うも、その行動をするにはもう手遅れだ。
戦いになると人が変わる者もいると、王国にいた頃、エリックとの雑談中に教えてもらったがまさかこうも変わるものだとは思わず、ガングに同情すらしていた。
「さっきの腕……あれはスキルによる物か?」
「え、あ、はい。あれはわたくしのスキル、手を変え品を変え《ハンドメイド》。身体的疲労や精神的ストレスなどを左腕に蓄積させ、それを力に変換するスキルです。貯めれば貯めるほど大きな力に変わるのですが、使用したエネルギーは消えてしまうというのと、ストレスを発散させる作用がある為、わたくしの性格も少々乱暴になってしまうのが、たまに傷なんです。おほほほほ」
取り繕ったような笑顔でスキルの説明をすると、また上品な作り笑いをする。
「なるほど……通りで呪いのアイテムをつけたがる訳だ」
「いえ! 確かに呪いのアイテムと相性はいいですが、わたくしは力の為に呪いのアイテムが欲しい訳ではございませんし、その為に身につけてる訳でもございません! このスキルを持つ私と呪いは運命的に結ばれていると言うだけの事です!」
「じゃあ、その身につけてる装備はどんな効果があるんだよ」
するとカースは困ったような笑顔でポリポリと頬をかくとつらつらと装備の説明をした。
「このチョーカーは四六時中所有者に疲労感を与える代わりに装着してしている間は防御力が少し向上します。こっちの指輪は装着して眠ると悪夢が見れる代わりに次の日少し素早さが上がります。こちらのピアスはどれだけ食べても空腹状態が続く代わりに空腹時は攻撃力が……」
「もういい! もういい! やっぱりスキルの効果を上げる為じゃねえかよ! しかもバフまでかかってるし!」
「いいえ! 違います!」
別にそれの何がいけないのか。ダメな理由など一つもないのに、あくまで呪いが好きでつけているとムキになるカースの姿に納得できず、ゼンタまでムキになる。
「戦ってる姿はキモかったが呪いまみれで生活しているのは大したもんだよ。疲労感アップの装備をつけて塔まで無休でついて来て、ここまで走ってついてこれたのも、こいつの基礎能力が高いからだろ」
レイがカースの味方をした事は以外だったが、自分と何か共通するものを感じ仲間意識が芽生えたのだろうとゼンタは勝手に納得した。
その後は牢人生と出くわす事もなく、スムーズに進めたのだが、どれだけ走るも扉の1つも現れなかった。
2時間走っては1時間歩くを4日ほど繰り返したところでやっと自分達以外の人間と出くわした。しかしそれは喜べる物ではない。
というのも、向こうから走って来たのは首を振るアルと、両手でバツを作り頭上にかかげるチヨメだったからだ。
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