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二手に分かれて



 ゼンタはもちろん。あの自信過剰なレイですら、ヴィンセントが一次試験をすでに突破している事に、絶望感にも似た感情を抱き、放心状態であった。


「平均クリアタイム11年と言われる一次試験をほんの数日でクリアする人間がいるなんて……その方は一体何者なのでしょう」


 ヴィンセントを見た事がないカースだけは、その規格外の実力を持つ者に興味を示していた。


「さあ、たまたま因縁をつけられて名前を聞いただけだったからな。奴の事は何もわからない」


 ゼンタはヴィンセントの未知の強さを想像し、2代目勇者になる目標は諦めざるを得ないかもしれないと考えていた。

 勿論、すぐさま3代目勇者になるという目標ができたのでそれにそこまで大きなダメージはなかったが、初代勇者は別としても、あのような人間に勇者が務まるのか疑問だった。


 仮に自分が勇者になったとして、ヴィンセントと初代勇者を含む3人で仲良く世界平和を守っていく事は色々と難しいように考えられた。2次試験からは勇者としての考えや品格をテストしてほしいものだ。


 そんな事を考えつつ、歩みを進めるとやっと神のつま先に辿りつく。


 遠くから見ても圧巻だったが、真下から見上げる巨大な塔はより威圧的な雰囲気を自分達にぶつけてるような気がした。


「で、これどこから入るんだ?」


 ゼンタは塔の壁を見渡すも、扉や窓の類がどこにもない事へ、心配の色を見せる。


「こうなってくると中に空間があるのかも怪しいでごじゃるな……こんな高い塔を外壁からよじ登るとなると、先日の岩山なんてただの出っぱりにすぎんでごじゃるよ」


 中に入らないとなると、チヨメが言う通り外からよじ登るしかない。しかし、こんな足場もないツルツルの塔を登るのはここまで高くなくとも不可能に近い。アルの縄やチヨメのスキルが天辺てっぺんまで届かないとなると尚更なおさらである。


 するとアルは近くに落ちていた拳大こぶしだいほどの石を拾うと、手首を下から上にヒョイっと曲げ、塔の壁にそれを投げた。


 山なりに曲線を描き投げられた石が少し高い所でぶつかると跳ね返り、アルは壁に耳をピタッとつけた。その後も耳をつけたまま壁をトントンと何度か叩く。


「中は空洞みたいだね。しかもかなり広い空間になってる。上の方からも反響する音があったし塔自体は恐らく上まで行けると思うよ」


 盗賊らしくアルが建物の分析をする。ダンジョン攻略に盗賊は必要不可欠だというが、アルの立ち振る舞いを見て納得する。


「じゃああとはどうやって中に入るかだな」


 どうやってこの壁を突破するか考えを巡らせる。いっそのことぶち壊そうかとも考えたが、他に壊された形跡がないところを見るとそれは正攻法ではないのだろう。


 それにはチヨメも気付いているようで、岩場に穴を開けた技を使おうとする素振りはない。


「どこかに扉があるのかもしれませんね。最上階にヴァレンティーナのロザリオがあると言う事は少なくとも何階層があると言う事なので、中に入る手段はあると思います」


「このデカさ見ろよ。外周を一周するだけで一体何日かかるかわかんねえぞ」


「私が上まで浮いて最上階を見てきてやろうか?ようはその呪いのアイテムが手に入ればいいんだろ?」


「結局中に入れないんじゃ意味ないだろ」


 その後、色々考えたが、二手に別れ外周を回る事に落ち着いた。


「みんなで回るより時短になるし、2つの班が合致した時にどちらも入口の類を見つけられなければ、その時また侵入する方法を考えよう。回ってる間に侵入方法も見つかるかもしれないしな」


 5人の能力や実力を考え、ゼンタ、レイ、カース班とアル、チヨメ班に別れる事になった。


「じゃあ、とりあえず扉を見つけたチームはその前でもうひと班を待つ」


「拙者達が見つければ拙者の奥義で降雨こううを呼び、そちらのチームが見つければレイ殿の水魔法で雨を降らせ知らせると言う事でよろしいでごじゃるな」


「ああ、雲がないのに急に降り出したらそれが合図だぞ。別れてからの時間を逆算して、戻るか進むか近い方で片方のチームの場所を目指してくれ」


「オッケー! どっちが先に見つけられるか競争だね!」


 アルは元気にそう提案すると両チーム背中を向け走り出した。


 アル達の姿は勿論、足音や気配すらもなくなった頃、長いスカートを両手で掴み走るカースにゼンタは質問する。


「カースは2年以上ここにいるんだろ? しかも1人で」


「ええ、まあ」


「よくあの難関を突破して、こんな所で2年も生きて来れたな」


「運も良かったと言いますか……それに生活のほとんどをドロップアウトで過ごしていますので」


 そうは言っても呪いのアイテムを求めて旅することもあるだろう。何より試験会場を見つけ、試しの扉を突破し、転移を耐えた。それは紛れもない事実だ。呪いのアイテムの知識もさる事ながら、カースの戦闘面での実力も気になるところだ。


 その後も、しばらく走っていると、少し前に塔の壁にもたれ腕を組む人影が現れた。


「受験者か? それとも牢人生か?」


 風貌だけではその判断が難しい。ゼンタ達同様塔の侵入方法がわからずお手上げとなった受験者だろうか。


「まちな! お前達の旅はここで終わりだ!」


 この一言で自己紹介などなくとも相手が牢人生である事がわかった。


「こんなでかい塔が見えたら受験者が無視する訳ないよな? 俺は6555牢のガング。 久しぶりの獲物……しかも女が2匹もいるじゃねえか。楽しませてもらうぜ?」


 牢人生は地面に突き刺していた2本の大剣を両手に握ると、低い体制で構えた。


「アル抜きのガチな戦闘はコボルト以来だな」


 ゼンタも拳を構える。カースがどれほど戦えるのかわからなかったので作戦なども立てず、レイの力を借りつつ自分1人で戦おうと思っていたのだが、そんな事もつゆ知らずトコトコとゼンタの前にカースが立った。

 カースは漆黒のローブを脱ぎ捨て、長いスカートの裾を腰で結ぶと、拳を構えた。その姿勢は武道の達人と言っても問題ない姿だ。


「わたくしのお願いでここまで来ていただいたのですから、少しはお役に立ちたい物ですね」


 カースは大きく吸った息をスーーと吐くと、人が変わったように目つきが悪くなった。



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