待ち合わせした遠い街にて落ち合う
待ち合わせ場所は分別の沼からは遠く離れたある街の宿屋。
先に到着した、ゼンタ達はそれぞれ椅子とベッドに腰掛けた。
「待ち合わせ時間を2時間も過ぎてるけど本当に来るの?」
「必ず来る……ここで来ないんじゃ意味がわからないからな」
そう言った矢先に部屋の扉がノックされた。
木製のドアが軋む事なく開くと、扉の先には退屈そうな顔をしたレイが立っていた。
「なあにこの子? この子が協力者?」
アルがレイとゼンタの顔を見比べながら問いかける。人と変わらない姿をしたレイが、大精霊である事にアルはどうやら気づいていない様子だ。
「こいつも協力者の1人だ」
ゼンタはそう言いながら扉の方から目を離さそうとはしない。
するとレイの後ろから知った顔の男が澄ました様子で入室した。
その男を見た瞬間、アルは立ち上がりすぐ臨戦体制に入る。
いかにも高級だと思われる装飾品を身に纏った男は、少し乱れた自分の銀髪を指で整えた。
「ちゃんと約束した物は持ってきたんだろな、ベンゼン・レイン」
分別の沼で幾度となくアルセーヌに拷問をしかけた看守……ドリーが不敵な笑みを浮かべ部屋の中に歩みを進めた。
「ゼンタ! こいつ!」
「アル……安心しろ。こいつがその協力者だ……」
アルに冷静にそう告げるとゼンタはドリー同様、アルセーヌの方には目を向けず、2人は見つめ合う。
「おい! ゼンタ! 聞いてねえ仕事を私に振りやがって! 大精霊を人質にするなんて、てめえバチ当たっても知らねえぞ!」
レイは溜まっていた怒りをぶつける様にゼンタに詰め寄り、目前で大声を出す。
「ほら、腹減ってるだろ、気の済むまでいけ」
そう言いながらゼンタが腕を伸ばすと、先ほどまでの怒りはどこへいったのか、笑顔でその腕にかぶりついた。神聖な精霊とは思えない現金さだ。
「俺達が脱獄するには分別の沼内部の人間の協力が必要だと考えた」
アルやレイに訳を聞かれる前にその全貌をゼンタは語り始めた。
「だからってこんな奴に」
アルは納得がいかないようにドリーを睨みつける。
「こんな奴だからこそ良かった。情報屋に行った時、店の親父が看守が情報を売りに来たって口を滑らしていた。金欲しさに人類最高の大監獄の情報を売る様な看守がいる事を知った俺はとにかくそれがどいつか知る必要があった。そんな奴でもない限り仲間にはなってくれないだろうからな」
種明かしをする様にゼンタはアルに説明を続ける。レイは腕から生命力を食べるのに夢中でその会話を聞いているのか側から見ているだけではわからない。
「俺が分別の沼に初めて入獄した日、こいつと監獄長の元に行ったんだ。監獄長の前では律儀な態度を取っていたが、部屋を出るやいなや、始まったのは監獄長の悪口だ。それ以外の言い振りでも義理や忠誠心でここにいない事は察した」
ドリーは否定もする事なく、ゼンタの言い分を黙って聞き、アルもその様子を見守った。
「そして身にまとっている装飾品や希少なアイテムを欲しがる言い振りから、こいつは金の為に動くと推理した。そう考えるとアルへの拷問を進んでするのもお前のアジトの場所を聞き出す為の行為だと想像がつく」
「たしかに、こいつには絶対言わなかったけど……一言目にはアジトの場所を吐けが、こいつの口癖だったよ」
「じゃあ、こいつが納得する条件を提示すれば協力してくれると踏んだ俺は、わざとこいつを挑発し、拷問部屋へ行き、2人きりの状況を作った。あとは交渉だ。ドリーにリスクがないやり方であれば少なからず協力はしてもえると思っていた。案の定、アルの盗んだ宝を交換条件に出せば手を貸す事を承諾してくれたよ。ただ直接、逃すようなドリーにリスクがあるやり方では納得しなかった……だからあのやり方で落ち着いたんだ」
「でも、分別の沼から逃したところで何の担保もなしじゃ、うちらに逃げられる可能性しかないのに! こんな疑り深くて、狡猾で執着心の固まりみたいな男が口約束だけで囚人の言う事を聞くわけ!」
アルは腑に落ちないのか未だに納得がいかないと言う様子でゼンタに問いただす。
「だから、この精霊を人質にした。脱獄するまでレイが分別の沼近くの丘で寝ると言っていたのは知ってたからな。俺の事が信用できないならそこに行き、精霊を人質に宝と交換でいいと言ったんだ。俺の名前を出し魔術の大精霊ともあろう者が抵抗せず素直に人質になるなら契約書を交わすより信用できるだろ」
一頻り話を聞き、ゼンタの口がもう動かない様子だと察すると次はドリーが口を開いた。
「ああ、驚いたよ半信半疑であったが、お前が言う通りの場所に大精霊がいたんだからな。アルセーヌの宝が手に入るなら、俺だけでアルセーヌを分別の沼から逃そうと考えた事だってあるほどだ。ノーリスクでそれが叶うなら俺にとっても願ったり叶ったりだった」
「この袋2つがアルの宝だ。俺みたいな貧乏人にはどれほどの額になるのかも想像できない」
するとドリーは袋を開けて輝く財宝や貴重な武器、有名な芸術品を次々に取り出しベッドに並べていく。
「素晴らしい……はっはっはっ! これだけ価値のある物があればきっと………」
何かを言おうとしたドリーだったが、こちらを見るゼンタ達を横目で見ると続きを口走るのを止めた。
「こ、これで俺は億万長者だ! 最初は自暴自棄になった囚人が助かりたい一心で言っている酔狂だと思ったが、試しに丘に言ったあの時の俺をハグしてやりたいぞ!」
宝を両手に高笑いをしているドリーを見下した表情でゼンタは見つめていた。
「これで交渉成立だ……俺たちはこの街を出る……いくぞ、レイ、アル」
そう言って椅子から立ち上がった時、高笑いをしていたドリーの声は止まり、部屋から立ち去ろうとするゼンタの腕を掴んだ。




