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はったり脱獄計画決行


「本当に大丈夫だろうな?」


 沼に囲まれた白い監獄、それと地上を繋ぐ大きな石橋の上に立ち、ゼンタは独り言のようにそう呟いた。それも当然、ゼンタの周りにレイの姿はない。


「私は魔法の大精霊だぞ? お前が打ったように見せるなんて造作もない事」


 近くに姿は無いもののレイの声はゼンタの鼓膜を揺らす。


 ゼンタは分別の沼(スワンプリズン)を繋ぐ、唯一の石橋を渡り、監獄の門の目の前にいた。

 ここでゼンタ達に気づいた見張りが門の上の胸壁から弓を引いた。


「貴様! 何者だ! 手を上げ膝をつけ!」


 そう言われるとゼンタは両手を上げた。

 看守が安心したのも束の間、上げた手のひらから、けたたましい程の炎が燃え上がり、それはやがてゼンタよりも大きな火の玉にまで膨らんだ。


「俺が何者かって?」


「き、貴様! な! 何をするつもりだ!」


 炎を掲げ不敵に笑うゼンタに、看守は慌てながら引いていた矢を放つも、ゼンタ目掛けて飛んでいく矢は、ゼンタの体から出たように見えた突風により、グツグツと煮え初めてきた沼の中に沈んでいった。


「俺は貴族殺しのベンゼン・レインだぁぁ!!」


 そう言うと同時に、その火の玉を分別の沼(スワンプリズン)の大きな門目掛け、投げ飛ばした。

 木製の門は燃え、門の上の見張り台にいた看守は慌てて沼の中に飛び込む。


「魔法を撃つってこんな感覚なのか…気持ちがいいもんだな」


「フン、お前に魔力があっても私のような魔法は一生かけても打てねえがな」


 レイは風魔法を応用し沼の中からゼンタを嗜める。

 今ゼンタが放ったように見せた魔法も勿論レイによるものだ。


「それで次はどうするんだ?」


 レイがそう聞くとゼンタは燃える門を眺めながらドスンと地面にあぐらをかいた。


「このままここで待つ」


「そんな作戦で本当にうまくいくか不安だぜ」


 情報屋によれば分別の沼(スワンプリズン)の中では受刑者の罪状や戦闘力によっていくつかの分類に分けられている。

 ゼンタはそこに目をつけた。


 アルセーヌほどの大犯罪者の独房は地下5階。

 ここに入れば死ぬまで拷問にかけられる。そこに入れられては不死の力で看守の隙をつくことはできない。

 ゼンタが入り込みたかった場所、それは地下4階。そこに収容される為、このような小細工をしなければならなかったのだ。

 それをクリアするにはある2つの条件を満たした人物を探さなければならなかった。


 まず1つ目に死刑相当の罪を持つ人間。


 丁度、死刑相当の罪を犯した犯罪者になりすまさなければ、分別の沼(スワンプリズン)に入り込む事は不可能。軽い犯罪者なら別の監獄に移送される。かと言って終身刑程度の大罪を犯した犯罪者なら地下5階に送られてしまう。


 言葉を選ばずに言えばいい塩梅あんばいの犯罪者。これに該当する人材を、ある日は図書館を点々と回り、ある日は手配書をしらみつぶしに読み漁り探した。

 するとそれに該当する、今も捕まってない犯罪者は30人ほど見つかったのだが、次の条件に合う人間を探すのには骨が折れた。


 ゼンタのお目当てである地下4階は肉弾戦を得意としたり、スキルを使える人間は収監されない。

 戦闘とは不向きの知能犯や、スキルを持たない魔法に長けた者が纏めて入れられているのである。


 魔法を使う者には魔力を吸い続ける腕輪がつけられており、この階層にいる犯罪者は軒並み無力となっている。

 力を持つ死刑囚を終身刑の大犯罪者近くの階層にへ収監し、万が一にも脱獄を企てる事などあってはならい。つまり地下4階には地下5階に降りる事も不可能なウドしかいない。よって力も残虐性も強い終身刑の受刑者に近い階層には魔法使いが集められているのだそうだ。


 加えて無能者ばかり故、手薄と言う噂もある。こんなにもゼンタにとって好条件な場所はない。

 それにより二つ目の条件は必然的に魔法が使える犯罪者である必要があった。


 該当者を探す事1週間。ようやく、それにそぐう人物を発見する。


 貴族殺しのベンゼン・レイン。


 4年前とある貴族の家に忍び込み盗みを働き、そこで見つかった貴族の側室殺し逃亡した殺人犯。

 その貴族が殺された側室を家族同然のように扱い、かなり気に入ってた事から破格の値で指名手配された。


 ベンゼン・レインは魔法を得意とする事で有名なコソ泥で貴族の家に忍び込む前から、事あるごとに魔法で悪さをしていた悪党だった。

 この条件なら丁度、求めていた条件を満たすはずだと、ゼンタは魔法を使うふりまで見せてベンゼン・レインになりきった。


 しばらく待っていると燃える門に大きな泥水がふりかかり、火はみるみる蒸発していった。

 門があった場所に泥の滝ができたかと思えば、その滝が割れ中から杖を持った銀髪の男が現れた。


 男の指や胸元には宝石のあしらわれた指輪やブレスレットが輝く。そのいかにも高級であろう装飾品のせいで制服であろう赤いローブが随分ちんけに見える。


「貴様……こんな事をしてどうなるかわかっているな?」


 静かな声とは裏腹に、顔の血管が浮き出るほど怒り狂った表情でその銀髪の男は杖をこちらに向けた。



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