どうやら命と引き換えの魔法が使えるらしい
大凡の作戦は固まった。とは言え、それはあまりにもリスクが高く時間も労力もかかる事は間違いない。
「いやーそれにしてもお前のおかげで分別の沼の情報が手に入ったようなもんだ。感謝するよ」
2人は初めて分別の沼を目にした山から、また純白の監獄を見下ろし談笑していた。
凡そ礼を言ってるとは思えないケラケラとした態度でゼンタはレイに感謝の意を伝える。
「まあ、いいだろう。私が活躍するのもゼンタが中に入るまで。お前が出てくるまでの数日この丘でゆっくり居眠りでもしてる事にする」
「じゃあ俺が出てくるまでの分は食い溜めしとかないとな」
感謝の意も込めているつもりでゼンタは自分の腕をレイの方に差し出した。
「ほう、少しはわかってるじゃねえか。そう言う素直なゼンタが私は好きだぞ」
あまりにも嬉しそうなレイの表情に、ゼンタは現金な奴だと苦笑した。ゼンタの腕にしがみつくように寄り添うとパンを食むようにその肌を噛んだ。
「ところでお前、幼き頃に親は死んだと言っていたが随分若くに死んでるんだな。冒険者だったのか?」
生命力を吸いながら話すのに慣れてきたのか、今までと違い、かじりついた状態でもレイの言葉がハッキリとわかるようになっていた。
「まあ似たようなもんだが、父さんは魔法の研究者で母さんはそこそこ有名な魔法使いだったよ」
「ギャハハ、それで息子は魔力0とは落胆した事だろうな」
「そんな事ないよ。俺の両親は俺を孕った時にそう言った魔法の世界から引退するつもりだったらしいからな。それであの村に移住したんだ」
そこまで鮮明ではない両親の記憶を思い出しながらゼンタはどこか寂しげに語る。
「有名な魔法使いのカードがおまけについてくるスナック菓子があるんだけどさ、そのレアカードになるくらいには俺の母さんは実力のある魔法使いだったんだぜ! 父さんだって昔はあのマケイア大魔術大学の教授をしていたんだ」
誇らしげに、そして嬉しそうにレイに話す姿はまるで自慢話をする少年のようである。
「そんな魔法使い達が引退してまで田舎村に行き、夫婦2人して何故死ぬ事がある」
「死刑になったんだよ……俺が7歳の頃に禁忌の研究をしてるのがバレてな」
それを聞き、レイはゼンタの腕から口を離す。
「人間のくせに禁忌魔法にまで手を伸ばすとは強欲な奴だ。魔法の精霊である私でも知ってる禁忌の呪文は片手で数えれるほどしかない上に、これまで一度たりとも唱えた事などないというのに……」
「ああ、目的はわからない……引退した2人が何故、これまで全く興味を向けなかった禁忌を研究していたのか」
「何故興味がないとわかる?」
「国や魔法関係者から引く手数多の依頼を受けていた母さんや父さんには、禁忌を調べたり研究する時間なんてまるでなかったらしいからな。それに近くにいる人達はそんな事に興味を持つ人達じゃなかったって口を揃えて言ってたんだ」
「引く手数多か…… 私も魔術の精霊、そこまで有名な魔法使いならお前の母親を知ってるかもな…名は何という?」
「メゾナ………メゾナマジックバイト」
「何だと!」
「な、なんだよ……」
「面白い……これはたまたまなのか巡り合わせなのか……お前この短期間でまだまだ強くなるかもしれんぞ」
「は? 何言ってんだ? てかお前母さんの事知ってんのかよ」
「あの2人は私のところにも来たからな、まあ一言も口聞いてやらなかったが」
まさかレイが自分の両親と会った事があるとは思わず、そのあり得ないほどの偶然と共通点に驚きと親近感が込み上げる。
「お前の両親は死刑にはなっておらん。確かに禁忌を研究し、死刑になるはずだったがそうなる前に先手を打ったんだ」
「生きてるってことか?!」
衝撃的なレイの言葉に山の獣が逃げ出すほどの大声をあげる。
「生きていると言うのは少し語弊があるな……お前の両親が研究していた禁忌の魔法はアタナシアと呼ばれる攻撃魔法」
「アタナシア……」
魔法が使えないと言っても、魔法というものが身近にあるのが当たり前の世界で生活していたにもかかわらず、一度たりとも聞いたことのない呪文に耳が違和感を覚える。
「アタナシアの威力は世界中の魔法を並べても最大級だ。大魔道士が10人集まり一斉に最上級炎魔法を撃つよりも、圧倒的に威力は上だろう」
「よりにもよって攻撃魔法?! 俺の両親は戦う為の呪文を研究していたっていうのか?」
「ああ、しかしこの呪文が何故禁忌なのか、それはそのあまりの威力によるものだとも言われているが、本当の理由は違う。この魔法は魔力を一才使わなくていいんだ」
それを聞きゼンタの胸が高鳴る。まさか魔法と呼ばれるものに魔力がいらないなんて。眉唾ではあるが、それが本当なら自分にも魔法を使える可能性がある事に希望を感じた。
「ただ、代償はある。魔力を一才使わない代わりにアタナシアを撃つには、1発につき、1人分の命を必要とする」
「命と引き換えの魔法……」
「そう、今思い出したぞ。お前の両親がアタナシアの情報を聞きに私のところに来た日の事を……個人で魔力想定をした結果魔力を全く持たなかった息子の為に、その息子が自分を守る術が欲しいと。魔力のいらない魔法について泣きながら教えを懇願してきたあの顔を」
言葉を失った。沢山の偉業を残した両親が、魔法の世界から離れた両親が、死刑になる禁忌の魔法を研究していた理由が、まさか自分の為である事に、喜びや感謝よりも、大きな心苦しさがゼンタの胸を締めつけた。
「お前の事を不憫に思っていたのだろうな。魔法しか知らない自分達では武術を教えることもできない。それでも勇者になりたいと目を輝かせるお前にしてあげられる事は魔法しかなかった。勿論アタナシアが命と引き換えの魔法だとはその時知らなかったようだがな」
「そ、それで話は戻るが……俺の両親はどこにいるんだよ……死刑になっていないなら」
「さあな、死体はどこにあるかは知らん。がアタナシアが命と引き換えの魔法だと知った直後に禁忌の魔法を研究している事がバレたお前の両親は、自分達の命と引き換えにアタナシアを完成させ、お前の中に宿した。亡骸はちゃんと墓の下にでもあるんじゃねえのか」
「俺の中に宿した? 父さんと母さんが?」
「どうせ死刑なら、そうするのも当然だろう。つまりお前の中には父親と母親の命がありその数、アタナシアを撃てると言う事だ」
自分の両親が自分の中でまだ生きているという事、そして自分のために命を顧みず禁忌の研究をしていた事。
正直、禁忌なんてものに没頭し幼い自分を残して死刑になった両親を恨んだ事はあったが、ことの事実を知りゼンタはボロボロと涙を流した。
「な、泣くな! 気色悪い!」
「ああ、すまない……ありがとう……お前に出会えて……真実を知れて……本当に良かった……」
フンと何故かレイは少し気恥ずかしいそうにそっぽを向くとゼンタが少し落ち着いたところで、レイはまたゼンタの方に向き直る。
「良かったついでにもう一ついい事を教えてやろう。本来なら両親の命分、つまり2回しか撃つことができないが、命と引き換えのアタナシア……不老不死のお前が使えばどうなると思う?」
ぶっきらぼうな表情から、たちまち顔色を変えると、そのあまりにも悪魔じみた表情に、レイが大精霊である事をゼンタは一瞬忘れてしまっていた。




