情報収集するにも金が無さすぎるのだが
「金貨1枚?!」
薄暗い店内でカウンター越しにゼンタが叫ぶと店主は耳を塞ぎ、明らかに不機嫌そうな顔をした。
「当たり前だろうが、大悪党共が収容されてる監獄の情報だぞ、そうポンポンと売れる訳ねえだろ。バレちゃ俺までぶちこまれ兼ねない」
ゼンタ達は分別の沼近くの街で情報集めをしていた。
そこである冒険者からこの街の情報屋の事を聞き、足を運んだのだが、欲する情報の値段があまりにも高かったので思わず店内に声を轟かせたと言うのが一連の経緯だ。
たしかに、危ない情報を薄利多売で流していては店主の身の安全は約束されないだろう。
とは言えどんな情報かもわからないのに金貨1枚はあまりにも暴利である。ゼンタが1年間農作業に勤しみやっと手に入る金額。金貨が1枚あればそこそこ有名な鍛冶師が打った武具や血筋を選ばなければ馬も二頭なら買えるだろう。
「頼むよ、手持ちがそんなにないんだ」
「すまんな、こればっかりはそうはいかねえ、この情報を売りに来た分別の沼の看守にも申し訳ねえしな」
レイはその店主の言葉を聞き逃がさなかった。
「おい、ゼンタ。情報が売れるならそれを元手に分別の沼の情報を買えばいいだろ」
ゼンタにとって、それは目から鱗だった。今から重労働をして、資金を貯めようとしていた自分の視野の狭さにはほとほと呆れる。
「ああ、それなら物物交換と言う訳じゃねえが、それに見合う情報と交換でもいいぜ」
この店主がそう言った事にゼンタは感心した。情報屋と言えど戦いの場に身を置かない人間に、まさかレイの姿が見えているとは思わなかったからだ。情報屋としてそれなりの死線を超えているなら信頼に足りうると確信した。
「と言ってもそれと釣り合うような情報なんか俺は……」
「お前のスキルの話でもすれば良いじゃねえか。金貨10枚にはなると思うぜ」
レイのその提案に自分自身の事が、それほど価値のある物とは思わなかったが、それ以外に自分が死なないと言う情報をそう易々と流すのはあまり得策とは思えなかった。
「お前が教えてくれたような情報じゃダメなのか? 強くなる為に行くべき場所や、頂きについてなんかは…」
「馬鹿、あんな田舎のしかも村はずれに住んでいたお前の耳には届かなかっただけで、全部一般常識だ」
「しようがねえだろ……両親は幼い頃に死んじまったんだからよ。そう言った事には疎いんだ」
「だとしても、王国で教わったりはなかったのか?」
「俺は兵士や国おかかえの冒険者のように戦闘員として育成される為に招かれたからな。座学なんてする時間があったら剣の稽古に当てられてたよ」
「それであの実力だったとは」
そんな会話を店主は肘をつき聞いていたが、痺れを切らし割って入った。
「で? どうするんだ? お前らが欲しい情報に見合うものはあんのか?」
腕を組み考え込むが、ここまで自分が珍しい情報を持ち合わせていない事に嫌気がさす。するとレイがため息を吐き口を開いた。
「仕方ない、埒が明かんようだからな。私がくれやろう」
「どんな情報だ? 言ったから教えろって訳にはいかねえからな」
疑った様子で店主はレイの言葉に耳を傾ける。
「子供が振っても並のドラゴンなら殺せるほどの攻撃力を持つ剣の事は聞いた事があるか?」
「ああー呪いの魔剣だろ。俺が情報屋じゃなくても耳にする事があるほどの代物だ。伝説の剣の1本にも数えられてる」
「持ち主の命を鑑みない呪いの魔剣、メタンゼルヴァテイン……その効果と在りかを知りたくはないか?」
レイが不敵な笑みでそう言うと、店主の生唾を飲み込む音が店の中に響いた。




