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相反せしモノたちが紡ぐ異世界記  作者: 夢屋将仁
第一章 僥倖の連続殺人
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一人目ー第一章 2話 離脱

 キサラが立ち去って、ほとんどの生徒たちはその場に呆然と立っていた。大急ぎでここを出たところでどうにもならないことが分かるくらいには冷静で、どうしていいのか分からないほどには混乱している。そんな状態だった。



 そもそもどうしてこんなことになってしまったのか。それを思い返す者たちも何人かいた。

 だが、どんなに思い返そうとしても何の変哲もない普通の朝だったとしか言いようがない。彼らは登校するとすぐにそれぞれのグループに分かれ駄弁る。そして、学校が始まり担任教師が教室にやってきてその日の情報を伝えようとしたところで突然謎の光に包まれたのだ。そして、今に至る。

 そう。そのまま平穏な日々を過ごすはずだったのだ。それが急にわけの分からない理由で奪われた。彼らはまだ高校生。そんな状況で冷静さを保っていられるはずもない。



 だが、この場にはいくらか冷静な人物が複数いた。そのうちの一人である光一は皆の中心に立つと、大きく声を張り上げる。


「皆! 突然のことで混乱していると思う。俺もそうだ。だけど、いつまでも嘆いていても仕方がない。ここは全員で協力して元の世界に戻ろうじゃないか!」


「協力するっつったってどうすんだよ?」


 クラス内の不良グループのリーダー格である戸北(ときた)真人(まさと)がどこか投げやりな表情で言う。光一はそれに力強く頷いて答える。


「そうだな。まずは彼女の言っていた情報とやらについて交換しないか? 俺は彼女の言う通りにしたら、さまざまな情報がまぶたの裏に表示された。みんなもそのはずだ。その情報をお互い出し合って、これからどうするか決めよう」


「おおっ! さすが、光一!」


「私たちが思いつかないことを平然と提案するなんてさすがね!」


 光一の言葉に同じグループの人間が賛同しているが、修太郎はそれを冷めきった視線で見つめていた。修太郎には情報を明かすつもりなど毛頭ない。他の人間の情報を知れるチャンスともとれるが、そんなものを知ったところで何の利益があるのか修太郎には分からなかった。



 それに加えて、真っ先に賛同した男女二人の面子にも問題があった。

 竜王盛高と時山(ときやま)(あおい)。あまりにもイチャイチャしていることからクラスや学年どころか学校全体でも有名なカップルだが、その実互いに利用しあっているだけの冷めた関係だ。それだけなら修太郎もとくに思うところなどないのだが、いずれも性格が最悪で修太郎に二人に対するいい思い出など一切ない。光一とつるんでいるために表立って言わないだけで、いい感情を持っている者など皆無に近いだろう。



 合理論と感情論。決して相容れない相反する二つの思考が奇跡的にかみ合い、修太郎の腹は完全に固まった。

 何にしても、クラスで目立つ方ではない自分は矛先に挙げられることもそうない。こういう事態ならなおさらだ。観察も兼ねて、しばらく静観していることにした。


「それでは、竜王、時山。まずは二人から見せてくれないか」


「いいよっと……。あー。やり方分かんねえや。他の奴らがやってるの見てからでいいか?」


「私も!」


「おいおい。分からないのは、みんな同じだぞ?」


「あー。ほら、俺ら馬鹿だからさ! 他の頭のいい奴ら参考にしようと思って……」


「そーそー!」


 どう好意的に見ても情報を見せることを嫌がっている。こういうところが修太郎が二人を嫌っている理由の一つだ。彼らが光一のグループにいる理由はただ一つ。自己顕示欲だ。自分はクラスどころか学校でも随一の有名人と友人なんだという箔が欲しいだけだ。竜王に限っては他にもいろいろと事情はあるが、それを知る修太郎からすればくだらないの一言で切り捨てる些細なことだ。

 情報を晒そうとしないのも同じこと。迂闊に情報を見せて、自分たちの弱みを他人に見せることを(いと)っている。それだけだ。



 光一は明らかに情報を見せたがらない二人に思わず侮蔑の視線を向ける。だが、それもほんの一瞬。竜王と時山に気付かれることなく即座に人のいい笑みを浮かべる。


「そういうことなら仕方ないな。じゃあ、日下部、南美。二人から順に提供していってくれ。もちろん、俺も一緒にみんなに情報を提供する」


「いいぜ」


「私も構わないわ」


「ありがとう。それで早速なんだが、正面に浮かぶ情報を見てくれ。現時点ではそれは自分以外には見えていない。俺に二人の情報は見えてないし、みんなも俺の情報は見えてないだろう。だが、映し出されている情報の下の方を見てくれ。そこに他者への情報の見せ方というものがあるだろう? それによると、『インフォメーション・シェア』と口頭で言えば、みんなにも情報が見えるようになるらしい」


 光一の言葉に皆が情報を確認する。修太郎も皆に倣って下の方を見る。すると、光一の言った通りのことが書かれていた。


「大体確認できたか? それなら、早速情報を……」


「待てよ」


「!」


 情報を公開していこう、と言おうとしたところで遮られる。その声の主は真人だった。


「何勝手に話進めてんだよ。オレらはお前らに情報見せびらかす気なんざねえぞ」


 真人の言葉に彼のグループである二人が追従する。光一たちのグループも黙っていない。彼らと真っ向から対峙する。まさしくクラスの上位集団とも呼べるグループ同士の対立だった。



 いまさらだが修太郎のいるクラスにはいくつかのグループがある。その中で一番大きいのが光一のグループ。いわゆるリア充グループだ。それに次ぐカーストを持つグループがもう一つあり、あとは細かく別れている程度だが、真人のグループはその中でもひと味違う。彼らは不良グループだ。それも筋金入りの。



 真人自身その筋の家で育ち、その結果、高校生にしては相当な修羅場を潜り抜けている。そして、他の二人も生家こそ彼のようないかにもというような感じではないものの、似たような境遇を生き抜いている。



 そして、もう一つ言うなら彼らの通う高校は由緒ある名門校だ。普通ならば真人が入るのは難しいだろう。しかし、彼らの通っている高校は私立であり、その理事長と真人の父親が懇意にしているため、特例でどれほど問題を起こしても停学処分すら下されない。ある意味、光一以上に恵まれているともいえる男だ。


「ふん。晒したきゃ好きに晒してろよ。オレらはやらねえ。行くぞ、てめえら」


 真人の呼びかけに応じて、他の二人も頷く。そして、真人はキサラが出ていったのとは逆の方の出口へと向かう。他の二人も追従する。


「待て! どこに行く!」


 それを見て慌てて光一が叫ぶ。真人はうっとうしそうに光一の方を向く。


「ここを出るに決まってんだろ? てめえだって気付いてるはずだ。あの女は信用ならねえ。あんな奴の世話になるくらいなら野垂(のた)れ死んだ方がマシだ」


 修太郎はそれを聞いて、さすがだと内心舌を巻く。それと同時に自分と同じ事を考えている者が他にもいたことに安堵する。これでかなり離脱しやすくなった。



 だが、光一は真人の言葉に納得がいかないようでなおも反論を続ける。


「何を言っている! 土地勘もない場所を計画も立てずに動き回るなど危険極まりない!」


「うるせえなぁ。心配しなくても、自分(てめえ)の面倒くれえ、自分(てめえ)で見るさ。オレらに構うな」


 真人はそれだけ言って立ち去ろうとする。だが、その正面に日下部たちが立ちはだかる。


「どけよ」


「どくわけにはいかねえよ。理由はどうあれ、今の状態で和を乱す奴を見逃すわけにはいかない」


 日下部が意志のこもった目で真人を睨みつける。その目を受けて、真人は舌打ちをする。そして、身長差を見せつけるように近付くと、日下部を鋭い目で見下ろす。


「あぁ? てめえら、オレらと喧嘩して本気で勝てると思ってんのか?」


「……っ!」


 日下部は思わず息を飲む。立ちはだかった他の者たちも半数以上が恐怖を露わにしている。



 人数的には日下部たちの方が有利だ。竜王と時山はいないがそれでも五人はいる。それに対して真人たちは三人。人数差は倍近くある。

 だが、それでも喧嘩をすれば確実に真人たちに軍配が上がる。経験値の差もそうだが、何より両者の間には明確な体格差が生じていた。



 日下部も決して小さいわけではないが、真人はそれよりも十センチは大きい。他の二人も百八十を越えているだろう。女子が一人混ざっているとはいえ、彼女の腕っぷしはかなり強い。

 それに対し、日下部たちは女子が二人も混ざっており、どちらもかなり華奢な体格で力も見た目同様に弱い。おまけに百八十を越えているのが一人だけという有様だ。もし両者が喧嘩をすればどちらが勝つかなど火を見るより明らかだ。



 それが分からないほど馬鹿ではない日下部たちは唇を噛みながらも動かない。そんな彼らを真人は鼻で笑う。


「馬鹿らしい。そこまでやりたいなら、やってやるよ」


 どかない日下部たちに業を煮やした真人は両手の拳を鳴らす。日下部は思わず身構える。とうとう喧嘩勃発か、というところで光一は声を張り上げる。


「やめろ!」


 その声に両者の動きが止まる。光一はゆっくりと息を整えると、真人たちの方を見る。


「分かった。好きにしていい。その代わり、こっちを巻き込むようなことだけはしないでくれ」


「言われなくても分かってんよ。じゃあな」


 真人はチラリと日下部たちの方に視線を向けると、興味をなくしたかのような表情を見せて、さっさと立ち去っていく。日下部たちはその背中を苦々しげな顔をしながら見つめることしかできなかった。



 真人たちが出ていった後、しばらく場が騒然としていたが、光一の声で再び静まる。


「ちょっとトラブルがあったけど、それじゃあ早速公開しようか」


 嫌だよ、とすぐさま切り捨てるつもりは修太郎にはなかった。今からやることを思えば不必要に目立つのは悪手にしかならない。それに情報を公開するつもりがないのも事実だ。ある程度情報を盗み見たところで適当なところでこっそり離れることにした。



 竜王と時山を除く光一グループ全員が情報を公開したところで再び彼らに声をかける者が現れる。


「ほぅ。本当に情報を晒すとは相変わらずおつむが足りないようだな」


「陰見……」


 光一は自分に話しかけてきた男をどこか忌々しそうな目で見る。黒髪を七三分けにし、青縁の眼鏡をかけた少年。クラス内で光一グループに次ぐカーストを誇るグループを率いる少年で名を陰見(かげみ)善継(よしつぐ)という。彼の側には四人の男女が立っていた。


「ご親切に情報を明かしてくれたところ申し訳ないが、俺たちも戸北たち同様情報を晒すつもりなどない」


「お前が俺に身勝手な対抗心を抱いているのは知っている。だが、状況が状況だ。こういうときは足並みを揃えて一致団結――」


「大層な弁舌をぶった切るような真似をして重ね重ね申し訳ないが、足並みを揃えられると本気で思っているのか? このクラスで」


 自身の言葉を遮るように放たれた善継の言葉に光一は何も言えなくなる。それを見た善継はそれ以上言うことなく、光一たちから離れていった。だが、真人たちのようにこの闘技場から出て行くことはしない。光一グループが善継たちに突っかかっていくが、善継たちは鼻で笑ってかわす。



 このクラスは特殊だ。それを差し引いても、こんな異常な状況で足並みを揃えることなどできはしないだろう。異常な状況だからこそ、人の地が出やすくなる。人は皆、自分が可愛いものだ。だから、無意味な疑心暗鬼が生じ、誰も信じることができなくなってしまう。そんな状態で団結を強要するだけ時間の無駄だ。



 それにしても、光一たちが情報を公開した後に仕掛けるとはなかなか秀逸だ。あまりに秀逸すぎて笑えてきてしまう。そういうところが少し残念なところだ。修太郎には関係のない話ではあるけれども。



 予想通りに事が運んでいるのを確認した修太郎は息を殺すと、ジリジリと気付かれない範囲で距離を取っていく。善継のおかげで他の生徒の情報を得ることはできなかったが、少なくとも六人の情報は知れた。それも光一グループの生徒の情報だ。

 情報収集はまるでできていなかったが、成果としては悪くない。善継たちと光一が揉み合ってる今が離れるチャンスだと判断した修太郎は即座に行動に移す。


「待て、お前までどこに行こうとしている? 櫛山」


 だが、光一にめざとく気付かれる。修太郎は気付かれないように小さく舌打ちをすると、光一の方を見る。


「いや、何。戸北たちじゃないが、ちょっと、外を見てこようと思ってな」


「今は情報交換の最中だ。外を見るのは構わないが、それが終わってからにしろ」


「情報交換ねぇ。すでにそんなものができる状況だとも思えないが……。いずれにしても、お前に従うつもりなどない」


 修太郎はそれだけ言うと光一たちのいる場所とは逆方向の出口に向かう。キサラが出ていった出口だが、逆に行ったところでどうにかなるとは思わなかったし、さっきのように光一のグループの人間が止めようとする可能性もあったのであえてこちらを選んだ。


「あ、待ってよ。修太郎」


 そんな修太郎を呼び止める声がある。その人物の声を聞いて、修太郎は仕方なく足を止め、そちらに振り向く。


「お前はここにいろよ、(おうご)。俺に付き合う必要はねえ」


 修太郎は数少ない友人の一人にそれだけ告げるとさっさと立ち去っていく。さすがに親しい仲の人間を自分の身勝手な計画に巻き込めるほど、彼は情のない人間ではなかった。


「おい、待て! 櫛山!」


「もういいよ。あんな奴放っておこうぜ?」


「竜王……」


 修太郎を止めようとする光一の行き先を竜王が阻む。修太郎はこの時ほど竜王に感謝したことはなかった。役に立たなそうな奴をできるだけ減らしていこうというのが彼の魂胆なのだろうが、そんなことはどうでもよかった。離れられさえすればいいのだ。それさえできれば何でもよかった。だから、どこかのお節介が何か言いたげな目で見てきても彼は無視した。



 光一は竜王の妨害によって修太郎を止めることができなかった。結果として、これが一つの分岐点になってしまうのはまた別の話……。

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