クレアの気持ち、ジルシュの覚悟3
ユニーク数777!
いきなり目の前に現れた男。
身なりからしてどこかの貴族のようだ。
温室で育ったような顔。
ひょろひょろの体。
極めつけは警戒心のなさ。
わたしは今、そんな男に
「ちょ、ちょっと待って下さいっ!」
剣を向けている。
「それで、何故私の名前を呼んで、そしていきなり目の前に現れたのかしら?」
「い、いや~、それは、あの、あ、ぼ、僕は『ジルシュ』。一年三等級所属です」
私は一旦剣を下げ、この男に質問してみる。
三等級。だいたい商人の息子か平民がいるクラスね。どう見ても貴族なのにそのクラスにいるということは相当の落ちこぼれのようね。
「? 自己紹介? まあいいわ。私は『クレア・ルドラ・カーインマイン』。一年一等級よ」
「あ、そ、そうですか。あの、実は僕の教室を探していまして。少し教えていただけないかなと……」
教室の場所、ねぇ。
もう入学してからだいぶ経つ。自分の教室くらいは間違えるとしても忘れることはないだろう。もう少しましな嘘をついてほしい。
『ククク』
「何? ルドラ」
ジルシュが自分の教室に行ってから数分後、いきなり笑いだした私の神『ルドラ』に言った。
彼女は神の中で変わり者で、上ノ国という神だけがいることを許された場所で私達人間の生活を見ている。
ちょうど私達の世界を見ていた時に私を発見し、私は彼女とパートナーになったわけだ。
『いやな、貴様はあやつの気持ちを全然理解しとらんからのぅ』
「? おそらく、彼は私の地位か財産が目当てなんでしょう。もしくは私そのものか」
『内容は一部あってるのじゃが……。あやつも苦労しそうじゃのぅ』
顔をしかめる彼女をよそに、私は教室へと戻って行った。
††††††††††
「あ、あぶなかった~」
「ったくよぉ、危なっかしいモン向けやかって。ヒヤヒヤしたぜ」
僕ことジルシュは、廊下の角を曲がると即座に走り、誰もいない裏の庭まで行った。
「で、でもこれで彼女と接点をもつことができたぞっ」
「何が接点だこのヘタレが」
サラマンダーが何か言っているが僕は無視する。今はこの達成感に浸りたい。
さすがに剣を向けられた時は心臓が止まるかと思ったが。
兎に角、僕は彼女とお近づきになることができ、これで僕が彼女に会いに行っても知り合いということで誤魔化せる。
「何の問題もない。完璧だ」
「問題ありすぎるだろうがよぉ」
そして彼女と知り合えたことで彼女も僕を他人扱いすることもできないはずだ。
「サラマンダー。僕はやるよ。こんなヘタレな僕だけど、絶対に彼女を僕の、僕だけの愛しい人になってもらう!」
「フッ、オマエのそういうとこ、キライじゃねぇぜぇ」
††††††††††
なんというか、彼と遭遇して以来、彼が私の目の前に現れることが多くなった。
「あ、あの! クレアさん、いいっしょに食事でもどうですか!」
「勉強教えていただけませんか?」
「クレアさん!」
「クレアさん!」
「お願いします!」
「あ、ありがとうございます!」
「また今度!」
彼、ジルシュは幾度となく私の下へ訪れ、勉強のことや互いの趣味などなどの話をしてくる。
一度彼から逃げてみると、彼は千里眼でも持っているのか、気付いたら彼は私の隣に座ってニコニコと私を見ていた。
「ねぇルドラ、彼は本当に三等級の人なのかしら?」
『それは確かじゃぞ、じゃが三等のあやつが一等の貴様に会いに行くとは、ある意味大物かもしらん』
確かにそうだ。三等と二等の差は離れているとしても大した差ではない。しかし三等と一等はもちろん二等と一等の学力、学園内での地位の差は歴然だ。
それなのに彼は私に会いに来る。例えるなら平民が上流貴族に会いに行くようなものだ。この学園は王族や貴族の身分はほとんど意味がないのだが、周囲の目は彼をどう見ているか……。
「何で私が彼の心配をしなければならないのかしら」
『自分の胸に聞いてみることだな。ククク』
††††††††††
「サラマンダー! やったよ! 僕はやったんだ!」
「ああ、いろいろと、やらかしちまったな……」
僕が諸手を挙げて喜んでいる横で、サラマンダーは校舎の壁にもたれかかっている。彼の目は虚ろで、まるでどこかにいる母親を見ているような表情になっている。
「君に親っていたっけ?」
「いねぇよ! つか今はそんなことを言ってるとこじゃねぇ!」
「ああ、そうだね」
「そうだそうだ。早く回れ右してあのじょーちゃんにあやま「次の作戦を考えないと」違ぇよ!?」
校舎の横でジルシュとサラマンダーがわめいている。サラマンダーは今の状況を何もわかっていないとか何とか僕に話す。
「ねぇ、あいつら何やってんの?」
「気持ち悪い」
だけど僕もサラマンダーも、周りの視線になど気付いていなかった。
†††††††††††
「……」
ジルシュは屋敷の廊下を歩きながらクレアとの出会いを思い出していた。
いったいあの頃の自分がどうやってクレアと結婚できたのか、今はもう思い出せない。
だがクレアにプロポーズをした時のことは覚えている。
あの時の彼女の返事だけは覚えている。
きっとその返事が嬉しすぎて忘れてしまったのだろう。
「クレア、いいかい?」
そして今、その僕の妻と話し合いをする。
たぶん彼女を説得できるのは夫であるジルシュだけだろう。
「……ぃぃゎょ」
まるで生気のない彼女の返事を聞くと、ジルシュはゆっくりと扉を開けた。
「クレア、話があるんだ」
ジルシュの目の前には、ベッドの上で自分の顔を腕の中にうめながら三角座りをしているクレアの姿があった。
部屋の中は真っ暗で、ジルシュが扉を開けたのにもかかわらず光は入ってこない。
「今すぐこの部屋から出てもらうよ、クレア」
途中からサラマンダーとルドラの台詞の『』を「」に変更しました。
『』はテレパシーみたいな、実態が出ていない場合につけます。「」は出ている時につけます。
これからもよろしくおねがいします。