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マリアの独り言  作者: 藤高 那須
第一章 始まりは産声から 幼少期編
35/40

あっけなく

 家族の下を離れてから約一ヶ月後、私達は魔法学園がある王都に着きました。

 今になってわかったことですが、ログベールから王都までの距離はかなり離れていました。五年前は途中で私は寝てしまったのでわからなかったですが、馬を使って八日もかかってしまうなんて思っていませんでした。


 私にとっては久しぶりにやって来た王都ですが、私の隣に座っている、親友のハッシュにとっては、生まれて初めてです。さっきからずっと黙ったまま顔を窓に張り付けて外を眺めていました。


「デカい街に行ってたことはあるけど、別格だな」

「規模が違いすぎますからね」


 ハッシュがいつも通っていた数千人の街に対し、ここは数十万、ひょっとすると百万もの人がいます。その賑やかさにはさすがのハッシュも開いた口が塞がらないようです。

 結構時間も経ったようですし、そろそろ着くころですね。


「マリア様、ハッシュ様、そろそろ最初の目的地に着きますよ」

「わかりました」


 王都に入った私達が最初に向かう場所は、昔私とお母さんが行き、そしてルシファーと契約した教会でした。





「ふぅ~」

「お疲れ様です」


 というわけでハッシュは無事契約を終えました。ハッシュは一人で行きたいと言ったので中で何があったかはわかりません。一度、外側からの光景はどんななのか見てみたかったんですが……。


「暗いしジメジメしてるしあの司祭は怖いし……。気分が悪いぜ」

「私はそうは思いませんでしたが」

「まあこれでマリアの親に言われてた入学試験を受ける条件は揃ったわけだ」

「ええ。そうです」


 試験は三日後。それまでに体を万全の状態に整えましょう。





 というわけで試験当日です。合格目指して張り切っていきましょう。

 この三日間、私とハッシュは宿屋にそれぞれ別々の部屋に泊まっていました。私は試験当日に調子を上げるために体を整えていました。ハッシュの方は部屋に入ってから顔を合わせていないので何をしてからわかりません。

 これ以上は説明しませんよ。だって今回中には入学試験の話まで持って行かなきゃいけないんですから。テキパキいきましょう。


「う~ん……」


 私はまだ日も出ていないうちに目を覚ましていました。別に緊張していたからではありません。


『どうしたんだよ』


 そんな私を見かねてか、ルシファーが声をかけてきました。


「いえ、少し嫌な予感がして」


 そうです。昨日の夜、寝る前にふと嫌な予感が頭によぎってきたのです。ずっとそのことが気になってあまり眠れず、こんなに早く起きてしまっていたのです。

 そして私の不安とは。


「お母さん達の言っていた試験って。いったいいつの事なんでしょうか……」

『……あー』


 納得したような声を出すルシファー。お母さん達は魔法学園に入っていたようですが、それはもう二十年くらいも前のことでしょう。だったら、ひょっとすると試験の内容とかも変わっているかもしれません。

 まずい。これはまずいです。

 結局それ以降眠れなかったので早めに荷物の整理を始めました。思ったより物が多く時間がかかったので丁度良かったかもしれません。出発の支度えお終えて、私は部屋を出ました。それと同時に隣の、ハッシュの部屋の扉も開きました。


「三日ぶりですね。何してたんですか?」

「いろいろやってた。……うぷ」


 目の下にクマが。眠れなかったんでしょうか。


「緊張してた」

「うっせ」


 料理の仕込みをしている主人に挨拶をした後宿屋を出て、私達は魔法学園へと向かいました。

 外はまだ肌寒く、かすかに霧が出ています。厚着を着てくるべきでした。


「はくしゅっ」


 もう何回鼻をかいたことでしょうか。鼻先が赤く腫れています。


「『はくしゅ』と『ハッシュ』て似てますよね」

「そうか?」

「は、は、はっしゅっ」

「おい」


 日が昇ると少しずつ暖かくなってきました。この時間になると閑散としていた道にも人が現れてきました。馬車ではなく人と同じ高さから見るとまた違った雰囲気ふんいきがありますね。


「……マリア、気づいてるか?」

「何がですか?」

「ほら」


 ハッシュが指した方を見ると、私と同い年くらいの人達が集まっていました。さらに周りをよく見ると同い年の人がたくさんいます。しかもほぼ全員が同じ方向へ向かっているようです。


「まさかみんな――」

「全員ではないと思うが、俺達と同じく試験を受ける奴らだろうな」


 人によって持ち物が違いますね。大きなバッグを持っている人もいれば籠を持っている人がいます。前者のほとんどは私達と同じ目的で、後者は……買い物でしょう。しかし


「こう、彼らの顔を見ると、力が抜けてきますね」


 みんな仲良く学園まで向かっていて、そんな顔を見ると、今までの自分はなんだったのかと思います。


「宿で聞いた話なんだが、最近になって入学の倍率と難度が低くなってきたらしい。この国の王様とやらが学園の規模を広げ、貴族や商人だけでなく平民達の能力も底上げするためにやったらしいぞ」


 だからどう見ても商人の子ではない人達が多いわけですか。身につけている物はボロボロになっていますし、手もマメができているようですし。


「だから試験以外の金は取らないらしいし、優秀な奴は良いとこに働くことだってできる。特に農民は大家族が多いから、入学させて食い扶持ぶちを減らせるうえに数年後に食うに困らないとこに行って家庭を支えて貰えるかもしれない。一石二鳥なわけだ」


 まあ一人や二人減ったところで困らないくらいに多いとは思います。しかし、中にはこれが最後の希望と思って学園に行かせた親もいるでしょう。


「規模を広げたと言いましたが、具体的にはどのようなことをしたんですか?」

「ずっと前から計画されていたことで、五年か六年か前にやっと完成したらしいんだがな。ここ以外にも魔法学園のような物を造ったらしい。場所は三ヶ所。そのどれもが大都市に建てられたって話だ」


 王都以外の大都市となると、かなり絞れますね。国王の考えは、多くの国民の能力を上げること。つまり国力を上げたいわけですね。多くの国民が、ということは広範囲で実施するわけですからかなり遠くかもしれません。そして平民のことを考えて建てるのですから――。


「多分、商業や工業が盛んな所でしょうね」

「当たり。商人の街と職人の街にそれぞれ学園が建てられたそうだ。二つともここから遠いし、貴族の影響が少ない街だからな。じゃああと一つは?」


 あと一つは……ありましたね。その二つよりも貴族の影響がない場所が。


「宗教の街ですか」

「そうだ。この国には神が身近にいるから宗教とはまた違うと思うが、あそこは完全に独立しているし、何よりそこに学園が建つとなると平民の奴らだって気軽に入ることだってできるだろうさ」


 なるほど。王都から遠く、かつ王都を中心にきれいに三ヶ所に分けられました。


「五、六年前に完成したということは、もうその年には入学ができるようになったということですよね。王都の学園も含めて今は平均してどれくらいいるのでしょうか?」

「入学から卒業まで五年だからな。卒業者も出てきたから、これくらいだとそれなりに人も増えただろう。まあ、大体千人前後じゃないか?」

「さすがにそれは多すぎですよ。この国の十代は何十万人いるんですか」


 合わせて四千人もの子供が入学していて、しかもほとんどは平民出身。商人が入っているとしてもそれほど人が集まるとは思えません。


「まあ俺んとこでも村を出たのは俺だけだったからな。それを考えてみると違和感ありすぎだな。まあそこは国王様の裁量だろうな」


 それ以外にも貴族の反発が大きかったかもしれませんね。学園のお金は国王のお金から引き出され、そしてそのお金は貴族から集めたお金です。平民を中心に考えられた大規模な事をした上に、その出資のほとんどは国が請け負い、出資したお金は貴族から集めたお金の一部なんです。貴族には全くと言っていいほど得のない改革でしょう。あくまで予想の範疇ですが、それを本当にやったと言うなら、本当に凄いことです。


 話を終えて、私達は向こうに見える門を見ました。

 魔法学園の入り口です。





††††††††††





 私が生まれて十年も経ちました。数字で表すと長いような短いような、微妙な時間です。そしてそんな微妙な年月まで生きてきた人が私以外にもたくさんいるのだと、私は初めて知りました。


 私達は今学園の門の前に集まっています。門は閉まっており、皆やむなく周辺に集まっているようです。門の前は数百人ほどが入れるくらい広いのでスペースには余裕がありました。


「それにしても大きな建物ですね」

「要塞みたいな感じだな。壁の上は人が通れるようになってるかもな」


 川で囲まれていたらきっと本物の要塞になっていたかもしれませんね。ひょっとするとお城よりもよくできているのではないでしょうか。

 それにしても時間がかかりすぎているような……。辺りもだんだん騒がしくなってきました。


『静粛に』


 突然辺りの騒がしさが、その一言で急になくなりました。声の方は上からです。そこを見ると、壁の上に一人の老い老人がいました。まさか本当に壁の上に通路があったなんて、ますます怪しい建物になりましたね。厳重過ぎます。


「さて、この学園の未来の生徒になるであろう子供達よ、よく来てくれた。中には何日もかけてはるばるやって来た者もいよう」


 辺りの人々がその老人に釘付けになります。

 お爺様ほどではありませんが、ほどよく引き締まった体をしたご老人でした。お腹の辺りまで伸びた灰の髭が特徴的です。


「未来の生徒達よ。この学園に訪れた君達を、我々は歓迎しよう!」


 老人の合図と共に門が開きました。しかし門が開ききっても誰も入ろうとはしません。

 少しの間の後、数人が前に進みました。そして後からぞろぞろと皆が入っていきました。私はまだ前に進めずじっと立っていました。


「どうした?」

「いえ、入りたいんですが、足が重くて」


 どうしたんでしょうか。いつもは思った方向に進んでくれるのに、今日だけは思い通りに動いてくれません。一度太股をつねってみます。痛いだけで動きそうにありません。


「そういう時はな、深呼吸するんだよ」


 ハッシュがそうアドバイスしてくれました。大きく吸って、吐いて、また吸って、そして最後はゆっくりと時間をかけて空気を吐き出しました。


「……うん、動きました」

「よし、じゃあ行くぞ」


 私はハッシュの後を追って前に進み出しました。





 さて、学園に入ったものの、目の前には長蛇の列が出来上がっていました。こっちにやって来た人に聞いてみると、透明な玉に手をかざしただけだと言いました。その後その人は後日また来て試験を受けて欲しいと言われたらしいです。

 本当にただそれだけをやったのでしょうか。緊張しているのか疑心暗鬼になってしまいます。ルシファーに様子を確かめてもらった結果、本当にただ手をかざすだけだったようでした。何か起きたのか訪ねると、ルシファーは「やったらわかる」とだけ言いました。

 こちらに戻って来た人は皆不可解な顔をして学園から出て行ってました。列は途中で枝分かれしていて、すぐに終わる内容だったのもあってスムーズに前に進んでいきました。


 そしてとうとうやって来た私の番。玉は本当に、不純物がないくらい透明でした。ただ手をこの玉に近づけるだけなのに、何故か嫌な汗が頬に流れます。


「そろそろよろしいですか?」


 目の前の男性に言われ、咄嗟に手を前に出しました。すると玉は微かに光り出しました。その後男性は紙に何かを書き、それを私に渡しました。


「この紙に書いてある通りに進んで下さい。合格おめでとうございます」


 最後の一言は小さな声で言いました。




「なんだったんでしょう」

『あれは多分神性を測る道具だな』

『神性ですか。でも皆同じ神様でしょ?』

『神にも上下関係がある。一番わかりやすいのが最高神だ。名前の通り最高の神。ということは最低の神もいるわけで、そういう格付けみたいなのがあるわけだ。そしてそれを測る道具があれってわけだな』


 なるほど。反応があれば神性あり。つまり神と契約した人となるわけですか。反応ありですぐ合格ということは、学園は神と契約した人が欲しいわけですか。


『だから私は合格したわけですね』

『バカ。俺は天使だから神性はねーの。お前家族以外に他の神と関わったことはあるか?』


 ……他の神様。


『ありますね。多分そのせいでしょう』

『そうか。まあ体に異常はないみたいだからいいけどよ』


 まさか知らない間にあれが役に立ってたなんて。人生いろいろありますね。まだ十歳ですけど。

 ということで、試験と言えるかわかりませんが、あっけなく合格になっていました。

というわけで試験はあっけなく終わりました。これからマリアの学園生活が始まります。ここには頼りになる母親や祖父がいません。時には仲間と協力しながら、マリアは一人で問題を解決します。

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