詳細不明
今回短め。
ルシファーは焦っていた。
考えが甘かった。
マリアとしか話していなかったせいで、自分は周りからどういう目で見られるのかを頭入れていなかった。
黒い髪に赤い眼、さらに背中には黒い羽。まず間違いなく頭から浮かんでくるものは悪魔の類だろう。
だからこの部屋の中にいる――マリアを除く――全員はルシファーの姿を見た途端に警戒の色を示した。マリアの保護者達は隙あらば攻撃しようとしている。もしかすると、いや間違いなくマリアをこうしたのはルシファーだと思っている。
ルシファーはまずその誤解を解こうとした。
「オイオイそんな殺気プンプン臭わせんなよ。それにこんなところで暴れてみろ、マリアもただじゃ済まないぜ」
「うっ、そうだ」
「この、卑怯な……」
しまった、悪感情を抱かせてしまった。このままだと余計に状況が悪化してしまう。
「違う違う、勘違いしないで欲しい。別に俺はマリアに危害を加えようとか考えてない。逆だよ、俺はマリアを助けたいんだよ」
「そ、そんなの信用できるか!」
「信用? 信用ってのは何だよ? まさかお前、『貴方を信用するために、その気持ちを見せて下さい』なんて言うんじゃないだろうな? 見えないものは見せられないのに、お前は、目に見えないから信用しないと言う。それじゃあ一生相手を信用できないぜ」
「ぐっ、この」
「やめなさい、あなた」
悔しそうな顔をするジルシュを止め、クレアが前に出た。ようやく話ができる相手が現れたと、ルシファーはほっとした。
「それじゃあ、貴方は何者か、そして何故貴方がマリアを助けたいのか、理由を教えて下さい」
「どちらも答えは同じさ。俺はマリアのパートナーだからだ」
それを聞いて、ハッシュ以外の全員が目を見開いた。
「そ、それってもしかして」
「そうだよ。俺はあの時の洗礼でマリアと契約した。だからマリアが今こんなことになっている状況で、助けないわけがない」
「悪魔ではないのね?」
「ああ、悪魔寄りじゃない」
「名前は?」
「……それを言うには、俺達はまだお互いを知らない。そうだろ?」
ルシファーは自分の名前を言うのを避けた。これでは余計怪しまれるが、ルシファーにとっては名前を言う方が危なかった。
ルシファーは神に戦いを挑み、そして敗北した天使だ。それが人間界に伝わらないはずがない。神に歯向かったことが知れれば自分も、そしてマリアの身も危ない。さらに天使という部分も入れれば、前列がないことと、神より格下である天使と契約したと世間に広まり、肩身が狭くなる。マリアの保護者達なら大丈夫だが、ここにはハッシュがいる。噂となって広まらないとは言えない。
「ええ、そうね。でも、もし違っていたら――」
「本当だ! 俺は嘘は吐かない! というより、窓を割ってマリアがここにいると知らせたのは俺だぞ! マリアを助ける気がなかったらそんなことはしない!」
「割った? 窓を?」
「ホントすいませんでした!」
いきないクレアの殺気が膨れ上がり、ルシファーは条件反射気味に頭を下げた。空中でだが。
あの夜、淫夢を見せたのは俺だ。なんてことは言わないでおこうと心の中で誓った。
「そう。あなた、お義父様、シュトール、彼は敵じゃないわ」
「そ、そう、クレアが言うなら」
「ま、今そいつをどうこうしてもどうにもならんからな」
「そうでございますね」
「ふぅ、それで、マリアが何故気絶したかなんだが、もよくわからん」
ルシファーは後ろ髪を掻いて言った。
「だが、熱の原因はわかった。たぶんだけど」
「なんだったんだい?」
「なんというか、頭の使い過ぎというか。普通そんなんで熱は出ないんだけどなぁ」
「じゃ、じゃあどうすれば目を覚ますんだ?」
状況に混乱していたハッシュはやっとの思いで質問した。
「残念だか、俺達にはできないようだ」
「なんで?」
ルシファーはマリアの顔を見ながら言った。
「目を覚ますには、マリアが自力で起きなきゃならないからだ。まあ、やるとしたら、できるだけマリアの熱を下げることと、マリアの手を繋いで無事を祈ることくらいだな」
結局は、彼らにできることはほとんどない。
このよくわからない症状には、さしもの彼らも打つ手はなかった。