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The Poilot    作者: 銀川プリムラ
第3部
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第1話 嵐の中へ

「うーむ」

 船長モヤシが頭に手を置いて、うめいている。

「あれだけ人数出しといて、逃げられて」

部下達はDrモロン逃走の事の次第を聞かれていた。

 部長、課長たちには焦りの色が浮かび始めていた。

 面目のない部下達は、ただうなだれるばかり。

「大事も大事になっているんだぞ」

 部長のボールが苛苛しながら、テレビのチャンネルを大画面に出した。

「見ろ、マスコミが騒ぎ立てているぞ」

<現地からの中継です。プラント怪物が暴れ回る都市に取り残された人がいます。小さな子供とお母さんです。救助活動で果たして助かるのでしょうか?>

 部長達の焦燥の色が再び濃くなる。あれをどうやって救出するのか指図するのが、彼らの仕事だ。

「Drモロンの小型宇宙船舶は惑星EEへ降下中」

「なに、奴はどこへも行かん」

「Drモロンの報告は各艦にしてある。野放しにしているが我々の監視下にある」

 誰も止められないけど。

 とは、誰もが思っていたことだろう。

「現地様子は?」

「相変わらずです。暴走したシステムが、工場プラントで体を作り、居座っています。襲う者には容赦なく攻撃します。住民避難作戦が実行中。地域住民は徐々に避難しつつあります」

「まだ現状打開するものがないな。このまま、手をつけねばどうなる?」

「プラント怪物が惑星EEの全システムを掌握するかもしれません。そうなった場合、駆逐にどれほど時間がかかるか分かりません」

「とっとと、叩き潰して来なさい」

「これは、パーカー・コマンダー」

 突然、画面にパーカーの姿が現れた。取り澄ました顔をして、優雅に椅子に座っている。

「叩き潰す、とは」

「言葉通り、ぶっ潰して来いということだ」

「しかし、我々は・・・」

「なんだろうと、構わないでないか。住民が困っておるのだ。戦闘機でも、何でも飛ばして、暴れまわる機械を止めてきなさい。軍などとは話を付けるから」

 言いながら、パーカーはシャツをぴらぴらと暑そうに触っている。よく見ると、シャツかと思ったフリルが付いた上着は、ピンク色のネグリジェのように見える。

「分かりました」

「あ、ピイちゃん」

 と、そこで映像がぷつっと切れた。

「分かったな。皆の者、パーカー・コマンダーが言った通りだ」

「は、はい」

 部長が年の功で即座に返事をしたが、他のものは上手く対処できなかった。あれ、絶対マンションだ。とパーティに参加した者には分かっていただろう。

「叩き潰すとは、どんな方法が考えられる?」

 船長が聞くと、副長候補が急いでデータ用紙を見て答えた。

「乗り組む戦闘員に被害が出るとは言うことで除いておりましたが、プラント怪物の動きを止めるには、電源切断、中央集積回路の破壊などが考えられます」

「うむ」

「ただ、向こうも武器を所持しています。自ら作り出してもいます。攻撃すれば攻撃してくるので、激しい打ち合いになると思われます。多量の砲火を潜り抜け、敵の中枢を打ち続ける。そんな覚悟が必要です」

「作戦方法は?」

「はい、現地調査班の報告では、プラント怪物の頭脳部だと思われる警戒の激しい一角があります。プラントの中央、ここ元事務室です」

「よし、作戦部隊を出す。中編隊が率いて、駆逐艦二隻がコロンビア上空へ降下。編隊飛行で目標へ接近。後方支援を受けながら、突入してプラント怪物を叩き潰す」

「了解」

「了解」

 返事が次々上がった。

「現地住民からの連絡です」ブリッジの通信担当区画で、職員が言った。

「再生します」

<我々は、原住民である。コロンビアの町から、遠く離れて生きてきた。今我々は有志を集め、プラント怪物と共に、決起する。我々の邪魔をするな。刃向かうものは、容赦なく攻撃する>

「こりゃあ、いろいろ出てきたな」

「たたたた、大変です」

 モヤシ船長が息つく間もなく、別のポジション区画の職員が転がり込んでくる。

「コロンビア政府が、惑星侵略だと言って、地球軍と戦うと言ってます」

「地球軍と?なぜだ?」

「理由は分かりません」

「情報が錯綜しておるな。どうしてそんなことに」

「プラント怪物と何か関係があるでしょうか」

 伴野が言うが、誰も答えられなかった。

 何であれ、事態は悪化の方向へ流れそうになっている。

「解決を図るべく、地球の外務大臣が現地へ向かいます」

 通信課長が操作デスクから伝えた。

「丁度来たのが悪かったな」と、誰かが言う。「それともどこでも出張ってくるのか」

「惑星EEへ降りるのか?」

「コロンビア政府と対話するつもりだそうです」

「地球軍からの要請で、外務大臣を乗せた輸送艇を援護して欲しいと」

「承知したと伝えろ」

 部長達部下は慌ててその段取りを始めた。

 と、おおと、ブリッジに声が上がった。

 キューポラ中央大画面に、ピンクのヘルメット、ピンクのワンピースといったいでたちの女性のアップが映される。

<私のこと、舐めたらえらい目に合うわよ>

「ピンクのキャニオンが来ます」

 部長のボールがしなくても良い報告を告げた。

「ピンクちゃん・・・」

 乗組員から声が漏れる。

「俺らのキャニーハートが来る」

「おお」

「うおおー」

 男達が騒ぎ出した。

 世界救出部隊のピンクは、レッドに続く有名人だ。美人でも評判が高く、その職業、スタイル、能力、加えて、ミニスカの足長に見えるピンクの制服といい、人の心を捕らえて離さない。具体的には男に特に人気が高い。本人はいたって普通の女の子らしいというが、目立つ職業のせいでアイドル化していて、搭乗したらマスコミがものすごく熱を入れて報道し始める。

 救援救護部隊や、消防隊も来ているのだったが、話が変わってしまった。今後はもう救出活動も怪物退治も、全て彼らの活躍にされるのがパターンだ。全世界の人々には彼らで始まり、彼らで終わるのが常だった。同じく、現場で活躍するはずのナミアダ号の乗組員もしかり・・・


「じゃあ、せっかく来たのに、帰っちゃったってわけ?」

 搭乗員のリリィが首を傾げる。

「え、帰っちゃったっていうか」

 大木翼君はクリンクの頭に包帯を巻きながら答える。

 情報分析室の大木君のデスクにクリンクは大木君と向かい合って座っていた。

 話がまる聞こえになる。ものすごく緊張している大木君の気配が伝わってきて、なんだか、居辛い。

「Drモロンは逃走したんだよ」

「タイホできなかったわけ?」

「逮捕は警察がするもので、僕らは職員だから逮捕はしなかったけれど・・・もういいよ」

「何がもういいの?」

「だって・・・その」

「もういいの?本当に?」

 ぐっと詰まった大木翼はそれ以上、うまく言えずうつむいてしまった。

「じゃあ、またね」

 白い肌に目立つ黒い瞳は、深い二重の下で夢見るように輝いて、少女のように幼く見える。普段は事務処理をしたり、連絡をつないだり、こうしてお茶を出したりしてくれる。若く見えるし、可愛いから、人気が高い。

 ポニーテールにした長い髪を揺らし、彼女は行ってしまった。

「Drモロンをせっかく捕らえたのに、残念だったね」

「うん」

「でも、あの人は誰にも止められないか」

 大木は机の画面をタッチパネルで操作した。

「世界救出戦隊、地球軍やら、いろいろと駆けつけている。だいぶ派手な怪物退治になりそうだね。君はこんな仕事、どう思っているの?」

「まあ、事態を解決に向かわせるしかないわ」

「分析結果はもうブリッジには伝えたけど、惑星EEはガス惑星でもあって、ガス予報では、東の空200キロの地点に、非常に濃いメタンのガスの大気が押し寄せている。プラント怪物に近づいたら危ないよ」

「うん、聞いたよ」

「戦闘機乗り回すのは良いけど、君は武器を手にしていることを分かっている?」

「そりゃ、怪物退治なんて、違うと思うわ。だって、もっとこう・・・」

「うん?」

「本物のパイロットに近づきたいっていうか」

「そうだったよね。君はオリンピアに乗りたいんだったね」

「うん」

 大木はあまりオリンピアに興味がない。コンピュータが並ぶ部屋があったら、それで満足するのだ。

「今だって、思ってるんだろ?君は」

「ゆくゆくは、そうなるかもしれない」

「いずれ、君もこの会社を出て行くんだ。夢は大事だけど、友達も大事じゃない?」

「や、やだなあ。船にいなくったって、連絡は取れるじゃない」

 大木は静かで理知的な目をしていて、クリンクはたまに何もかも見透かされているような感じになる。

 大木が何を言いたいか分かる。同じ船で生活して、毎日顔を合わせて、毎日愚痴を言い合い、些細なことを話して、励まし合いしている。この関係が途絶えれば、いったいどうなるだろう?

 安易に答えたクリンクの浅はかさを見透かされるようで、クリンクは胸が痛い。

「本当に行くかどうか、自分でも確信が持てずにいるのなら、確かめなよ、今は」

「うん、そうだね」

 クリンクには大木の言葉が素直に胸に入る。

 彼の言葉は不思議に耳に響く。

パンダの大木が、天使にも伝道師にも見えてくる。

「また出動するんだろ?さあ、もう行って」

「ありがと、大木君」

 クリンクは立ち上がった。次の飛行のために向かう。

 大木君と話せて良かったと思う。

 迷いも、弱さも彼は見てくれて、意気地なさを時には叱ってくれる。

 船室で、窓の縁から星の外空間を眺めた。

 窓の外を見続けていると、何度も思い出す記憶があった。

 赤い髪、白い肌。明るいオレンジの瞳。

 あの頃はシアニティもクリンクと同じくらい小さくて、頼りなげで、何の壁も障害もなかった。

 シアニティもクリンクも親から言い含められていて、大きくなればパイロットになるんだと思い込んでいた。

 私はおおきくなったら、船乗りになるんだ。そんで、船長になって、星から星へ積荷を運ぶの。

 わたしだって、船乗りになる。そんでおっきくなったら、ゆめのこーしゅくせーオリンピアの船長になるの。

 あーずるい。シアニティもオリンピアに乗る。

 わたしが先に言ったんだもん。

 などと、気楽なことを大業に口走っていたものだ。

「ね、決まってるでしょ?」

 彼女がアニメのキャップを被る時、なぜだか自分より決まっているように思った。

 利発そうな目、身軽な動きと、船長のふりをしたシアニティには、その後を思わせる何かがあった。幼いながらもクリンクは子供心に、二つ年上の彼女に素晴らしいものがあるのを感じた。

 そんな彼女に追いつきたくて、クリンクは幼稚園から高校へ行くまで、必死で努力して、パイロットになろうとはりきっていたものだった。

 ――クリンク、運動会で一等取ったんだね。

 ――高校進学おめでとう。私と同じ学校だね。

 ――クリンク

 ――クリンク

 けれど、成長するにつれて、彼女は美しく強くなって、クリンクは段々敵わなくなっていった。

 そしてある日、彼女は行ってしまった。

 私、オリンピアに乗るわ。

 彼女は成績優秀で、MKより大きいJOLに決まった後も、働き出してからも良い口からのスカウトがかかっていた。自分と比べて、シアニティはなんてすごいんだろうと思っていた、その矢先だった。あれよあれよという間に、高みに上っていってしまった。

 ごめんね、クリンク。先に行くわね。

 シアニティは悪びれもせず、意気揚々と旅立って行った。クリンクが後を追って来ることを疑いもしないで。

 共に操縦士になる夢だけは変わらなかったのに。

 幼い頃からの思い込みというのは、根強いものだ。疑いもなく、改めることもせず、行く道をあるべきものに変えようと努力していた。

 けれど、自分はシアニティほど上出来な部類ではない。器用でもないと、だんだん分かってきた。

 あれ以来、連絡はない。

 クリンクもしなかった。

 お互い気を使い合う仲ではない。

 この境をどう乗り越えていけばいいのやら・・・

 シアニティとの隔たりは、無限の宇宙空間と同じく、次の大地へ続く道など、見えない。

 近年では大抵の人間が、何らかの航空宇宙事業に携わっている。情報処技術者から機械技師から何かと、驚くほどびっしりと職業がある中、パイロットなど一般的な職業だった。

 本当にこれで良かったのだろうか?

 気持ちが暗くなると、いつも同じことを考えている。考えても、答えが見つからない。

 果てしない彼方へ飛び立った彼女を忘れない。

 私も強くなりたい。

 それだけは分かっているのに・・・・。



 ふうん。機械部のプログラマーのあの人と厨房のあの人がねえ。今日も今日とてライラックは行く。

 冷たい鋼鉄の色も味気もない船底部デッキだとて、ライラックを止める足かせにはならない。

 船員の恋愛沙汰、噂話は勝手に集まるものでなし、自ら集めるのがライラックの日課である。その場に赴いて、刑事のように張り込み、聞き込んで、やっと知りたい情報が得られるというのが、最近分かってきた。

 禁断の恋。

 めくるめく恋の世界。

 想像は飛躍して、ばら色の世界が広がる。

 恋というのは、どんな形でも存在しうる。取り合わせが妙なカップルほど、面白い。誰でも良い、はっきり言って。胸を沸かせてくれる人間達なら、どんな話でも良い。

 ああ、だけども憧れる。

 色々な人が色々な恋愛を楽しんでいる。ように見える。

 いつかライラックもそんな恋愛がしたいものだ。それはいつだろう?どんな人だろう?

 ライラックだって、待っている。

 しかし、その間に、恋愛模様を見学したって構うまい。

 話を集めているときが何より幸せだ。

 大目玉も目玉の噂話を仕入れれば、女子の反応もはんぱない。

 人より偉いと思われるのが、ちょっとライラックには嬉しい。最近、友人の尊敬の目を集めて、悪い耳と尻尾が生えてきたと自覚するときがある。

「モヤシ船長だって、何だっていうのよねえ」

 操縦室の人間は真面目に働いてばかりでつまらない。

「このコーヒーまずいわあ」

 大抵船内のコーヒーは同じ味しかしない。

「何百の言語を操るったって、最終的に言うことは、船長、電話ですだからね」

 噂話を知れば、なぜこんな話を知らせないか、とてもくやしくてくやしくて。

 あー、もっともっと話を知りたいのよ。いったいどこへ行けば良いの?


SF・・・好き勝手に書いております。

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