第三話 人を食えるか
Q 昔話に出てくる権力者は、なぜ不老不死を望むのだろうか。
A みんながみんなそうじゃないでしょう?
by ラナー・ショウ
海。誰かが泳いでいる。
肌の色が顕著な上半身。鮮やかな鱗を持つ下半身。まさしく、人魚である。
「おー。すごいな、ホントにいる」
ヒウアーの言葉に、「いいっすよねー」とラナーが言った。「コイツ、ここまで来た目的忘れてんじゃねェ?」とミナリウは思いながら煙草を喫う。
「で、お願いがあるんだけどさ」
「?なんすか」
「人魚食わせてくれない」
「「えっ」」
直球な頼みに、ミナリウとラナーは驚く。
ミナリウは、ヒウアーの肩を叩いた。「敵わない勝負をすることはないんだ。直接交渉するべき」とヒウアーは返す。
「通じるもんかね…」と納得しないまま、ミナリウは灰を落とす。
「ダメっす!」
「なんで」
「なんでって…命あるものじゃないっすか」
「ありがたくいただくよ」
「そういう問題じゃないっす。第一、あなた人間食えるんすか?半分人間なんだから…」
「食えるけど」
「「えっ」」
ラナーは当然のことながら、ミナリウも驚く。ヒウアーが即答したからだ。
「人、食べれるけど」
二度ヒウアーは言った。なるほど、有無を言わさない交渉術だ。本当に食ってみろ、なんてラナーが言うわけもないのだから押されるに決まっている。
しかし、ヒウアーなら本当にやりそうな気がして気が気でない。
「…あ、あなたはどうなんです?人魚」
「半分魚じゃん。魚部分だけでも食わせてくれ。あ、上半身も食わなきゃダメかな。必要なら全然食えるけど」
「ダッ、ダメでしょ!アンタ人から下半身食わせてくれって言われてホントに食わせるんすか⁉」
「納得できる理由があるならいいけど」
本当にするんだろうな、とヒウアーは思った。ミナリウはどこかキマっている。それは王ゆえなのか。
「そうだな…大金貰えるとか。それだったら納得できるかも」
「に、人魚はそんなんで納得しないっすよ」
「お前人魚じゃねェじゃん。人魚に直接聞いてみるか?」
「そ、それならいいっすけど…」
ミナリウとヒウアーが歩き、後ろからラナーがついてくる。
「…なんでお前ついてくるの?」
「人魚が脅されてたら止めなきゃじゃないっすか。自分、人魚を守りたいんで」
「交渉は一対一だろォ~?余計なノイズがあると困るンだわ」
「なんか困ること話すんすか?えぇ?」
ミナリウとラナーが喧嘩しそうになる。どうでもいいのでヒウアーはライターをカチリと鳴らす。
「ヒウアー、このわからず屋説得してくれよ」
「わからず屋って自分のことっすか!」
「僕の仕事じゃないでしょそれ。それくらい自分でやれ」
「いいんだな、俺はいつでも自分のタイミングで王命を出せるぜ?これも自分の力の範疇だぜ」
「王というより輩だろ。…えーっと、ラナー」
「なんすか」
「なんでそんなに人魚を守りたいんだ?」
根本から返すようなことを、ヒウアーは聞いた。
「子どもの頃…人魚が虐げられているのを知って。そういうの嫌いなんす」
「いい子だ…。どうしようミナリウ、まるで僕らは悪役みたいだぜ」
「まるでというかそうだろ」
「自覚あったのか」
閑話休題。
「で、どうする?」
「自分が間に入ってくるからややこしいのはわかるんすけど…人魚が虐げられているのは見ていられないんす」
「この国において人権ないしな、人魚」
「枠組み的には魚だからな。でもまァ、人の形を取ってるのならそういう倫理観が働く奴がいてもおかしくはないよな」
ミナリウも、王らしく、いろいろ考えれるらしい。少し唸る。
「民衆に悪い印象は与えたくないんだよな、俺」
「おお、独裁してそうな見た目してんのに」
「どんな見た目だよ。だって革命嫌じゃん?」
「シンプルだけどそれはそう。で、どうすんの?」
ミナリウは肩でヒウアーの腕を軽く攻撃する。
「痛っ」
「ラナーがいない時に取る」
近づいた時に、そう静かに言った。
「まぁ、それがいいよね。でも、見つかったら殺されるかもよ、お前」
「…」
人魚の肉を食べることができず、不老不死になる前に殺される=終わり。
人魚の肉を食べることができ、不老不死になって、ボコされる=地獄。
「…ラナーがいるところでは諦めるか」
「懸命だぜ、我らが王よ」
「?」
話題の中心だというのに、蚊帳の外であるラナーは首を傾げた。
完




