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東京駅占拠  作者: 日比野晋作


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1/5

決起

 七ヶ月ぶりの新作です。


 今回は某大手出版社のG社のアドバイスを貰いながら、執筆しております。


 お楽しみください!

1


 東京駅の雑踏の中で、村木敦はコインロッカーへと向かって行った。


 ブツはここにあるか・・・・・・


 ロッカーを開けると、そこには重量物と思わしき物を入れたであろう、ボストンバックがあり、それを取り出す。


 そして、隣には同僚たちが近づく。


「慎重にな」


「分かっている、話しかけるな」


 そう言って、同僚たちと散り散りになると、村木は新幹線の乗り場へと向かう。


 そこには別の同僚たちもやって来る。


 アイコンタクトで確認したが、これから、前代未聞のテロ事件を自分たちが起こすんだ。


 全ては彼女の為に。


 東京駅占拠。


 正式な作戦名ではないが、それが自分たちに与えられた、ミッションだ。


 日付は二〇二六年十二月三十一日午後十五時二十七分。


 帰省ラッシュで東京駅の混雑は異常な状態となっていた。


2


 防衛省のオフィスを出た、二色瑞穂一等陸尉はエレベーターで上司である、広池浩二一等空佐に出くわした。


「あっ、お疲れ様です」


「休暇ですか?」


「北がミサイルを撃つ兆候があるから、通らないとは思いましたけどね・・・・・・群馬に行くんですよ」


「温泉ですか?」


「彼氏を実家の両親に紹介するんです、旅館なんですよね、実家」


 それを聞いた、広池は「何で、このタイミングで休暇を認可させたんでしょうねぇ・・・・・・」と頭を抱える。


「まぁ、例に全国の第○○期のマルB(防大出身幹部を差す隠語)出身隊員の一斉退官の件は追っていますけど、私いなくても、大丈夫ですよね・・・・・・」


 広池は腕を組み始める。


「それを知っていて、休暇ですか?」


「自衛官にはあるまじきですよね・・・・・・ましてや、諜報関係にいるのに」


 瑞穂の所属する、自衛隊情報保全隊は防衛省における、軍事的な諜報活動を行う、自衛隊サイバー防衛隊に次ぐ、第二の常設部隊である。


 この部隊は総務課、教育や訓練、研究を担う、運用課、情報収集、外部機関との連絡調整を行う情報保全課、資料・情報の補完を担う保管課、瑞穂が室長を勤める、統合幕僚幹部・陸上自衛隊担当の素性を調べる、第一保全室や海上自衛隊が担当の第二情報保全室や航空自衛隊担当の第三情報保全室があるのだが、瑞穂の担当管轄は中央情報保全隊で、市ヶ谷地区の担当である。


 ドラマで有名になった、別班という部隊は海外を拠点として、戦闘はしないのだが、私たちは防諜や同じ自衛官の素行調査が仕事と言ったところか・・・・・・


 ちなみに広池は中央情報保全隊隊長の一等空佐で航空自衛隊出身の元戦闘機パイロットだ。


「とにかく、招集があり次第、戻れますね?」


「群馬は意外と近いですからねぇ・・・・・・その気になればーー」


「山奥ですか?」


「実家の旅館です」


「山奥にあるならば、帰投は難しいのでは?」


 この人は面倒くさいなぁ・・・・・・


「とりあえず、新幹線の時間があるので、出ますね」


 そう言って、この上司をけむに巻くと、すぐに恋人の橘吉希に電話をかける。


(遅いよぉ・・・・・・もう、東京駅着いたよー)


「ごめーん! 今、市ヶ谷だから、ダッシュで向かうね・・・・・・新幹線には間に合うようにするから!」


(それ出来なかったら、大事だよね)


「というか、吉希君がこういうのを用意して欲しいなぁ」


 瑞穂はJR市ヶ谷駅の改札から中央・総武線のホームへと向かう。


(瑞穂さんが全部やっちゃうから・・・・・・)


「そこは率先して、動きなよ・・・・・・私、お母さんみたいじゃん」


(そうだけどさ・・・・・・)


 年下とは言えど、ちょっと、ガキが過ぎるぞ、吉希君よぉ。


「まぁ、とにかく、ウチの両親に変なことを言わないでね」


(うん)


「じゃあ、電車乗るから」


 そう言って、電話を切る。


 気が付くと、ホームでは雪が降っていた。



 積もるかなぁ・・・・・・


 新幹線が遅れなければ良いが。


 吐く息が白くなる。


 東京の人手が少ないことが世間が年末年始になったことを瑞穂に知覚させていた。


3


 御茶ノ水駅でJR中央線に乗り換えて、東京駅へと着くと、吉希を探しに一・二番線ホームを降り、階段へと向かう。


 恐ろしい、人手だな・・・・・・


 さすが、日本の首都のど真ん中だけはある。


 さて、吉希君を探しに・・・・・・


 そう思っていた時に思い切り、通行人にぶつかった。


 相手は大きなボストンバックを片手にそのまま去って行く。


 危ないなぁ・・・・・・


 しかし、その男の目つきが気になった。


 あれは演習の時に見た、特殊部隊員の目だ。


 直情的で、感情的な意見と言えば、そうなるが、あの目つきを放つ男は日本国内、しかも、東京でお目にかかることはまずない。


 嫌な予感がする・・・・・・


 そう思っていた時だった。


 スマートフォンに着信が入る。


(瑞穂さーん!)


 そう言って、吉希が手を降って、近づく。


「あぁ・・・・・やぁ」


「・・・・・・仕事の事を考えていたね」


 そんなに深刻な顔付きをしていたか?


 吉希は変に感が良くて、機密に触れない範囲ならば、仕事の愚痴は言えるがなぁ・・・・・・


なぁ・・・・・・


「いや・・・・・・何か、変な気分がして」


「テロリストが東京駅にまぎれていたとか?」


「・・・・・・んなわけないかぁ」


 そう言って、瑞穂は吉希と手を繋ぐ。


「新幹線はまだ、時間あるけど、どうする?」


「少し、食事したいけど、何処も並んでいるよね?」


「・・・・・・駅弁にしようか?」


 そう言って、二人は新幹線の乗り場へと向かう。


「駅弁なんて、女の子が言っていいセリフじゃあーー」


 とりあえず、吉希の頭を全力で叩く。


「彼女と言えど、セクハラは良くないなぁ、吉希君よぉ」


「いや、年中だからね・・・・・・普段のノリだよ」


 吉希はウィンクを返す。


「言っとくけど、ウチの両親に変な事を言わないでね? マジで田舎の保守的な家庭だから、そのノリで話したら、バトルが始まるから」


「はーい」


 大丈夫か・・・・・・


 ウチの父親は令和の世の中では絶滅危惧種な昭和のお父さんだからなぁ。


 しかし・・・・・・本当に何ごとも無ければ、良いんだが。


 瑞穂は一抹の不安を感じつつ、東京駅の喧噪を吉希とかき分けて、新幹線の乗り場へと向かって行った。


 時刻は午後一六時三七分。


 大晦日の東京駅は年末独特の幸福感のような物が支配していたように思える。


4


 秋葉原の空きテナントに足を運んだ、警視庁公安部外事二課、浅田圭吾警部補は舌打ちをした。


「空振りです」


 部下の公安捜査官二人を従えて、中国系の企業が借りているとされる、テナントに足を運んだが、そこはもぬけの空だった。


 そこに公安部外事二課課長の双葉から、シグナルで通信が入る。


ーどうだ?ー


ー空振りですー


 しばしの沈黙の後に返信が入る。


ーマル自(自衛隊内部の危険思想を持った、隊員を取り締まる、警視庁公安部の部隊)が行確(行動確認の略)を行っていた、例の防衛省の人事部の文官ですが、JR東海道線の大船駅で電車に飛び込んで、死亡しました、自殺の様ですー


 ジ・エンドだな・・・・・・


 ここまで、痕跡が消えているとなれば、作戦が行われる場所は何処なんだ・・・・・・


ーとりあえず、拠点へ戻りますー


ーその方が良いでしょうね、事態が起きれば、どうなるかは分かりませんがー


 そう言って、浅田はスマホをしまうと「クソォ!」と言って、テナントにある椅子を蹴った。


「主任・・・・・・」


「事態が起きてからでは遅いんだよ・・・・・・どうする」


「事態が起きたとしても、調査は続けられるかと、地上班を投入すればーー」


 後手後手じゃないか・・・・・・


 それではダメなんだ。


 主導権は常にハム(公安部の略称)にないとダメなのだ。


「戻ろう、今回は出遅れたよ」


 そう力なく、浅田が言い放つと、部下たちは「はい」と応じた。


 何処だ・・・・・・何処で、作戦が行われるんだ。


 時刻は午後十七時三分。


 浅田は秋葉原の街で焦燥感だけを募らせていた。


5


 大矢久は例のブツを持って、改札口へと向かって行った。


 新幹線に乗り込むのだが、例のブツをトイレに持ち込む。


 時間になれば・・・・・・・それはーー


 その光景を思い浮かべた、大矢は気を引き締めるしかなかった。


(各員、揃ったか)


 時間だ。


(東京駅占拠、作戦を開始する)


 作戦開始が隊長から告げられた、瞬間だった。


6


 瑞穂と吉希は新幹線に乗ると、駅弁を食べながら、発車時刻を待っていた。


「乗り込むのには十分すぎたね・・・・・・」


「瑞穂さん、崎陽軒のシュウマイ弁当はあるかなぁ?」


「新横浜には通らないよ・・・・・・東京駅の何処かにーー」


 その時だった。


 北陸新幹線の二十・二十一番ホームに激震が走る。


「地震・・・・・・」


「地震だぁ!」


 乗客がそう叫ぶと、すぐに車掌が「皆さん、落ち着いて、下さい!」と声掛けをする。


 しかし、瑞穂は外から、バラクラバを被って、武装した、兵隊たちが新幹線に乗り込んでくるのを目撃した。


「瑞穂さん・・・・・・」


 すると、女の悲鳴と共に兵隊たちが乗車してきた。


「動くな・・・・・・これより、東京駅は我々の制圧下に入る」


 最悪の年越しだな・・・・・・


 瑞穂は早くもこの事態が長い、一日になるのを覚悟していた。


7


 東京駅ステーションホテルの一室で、マリアン・フロストは地震のような振動を感じた。


 地震?


 上官に確認を取ろうかと、連絡を取り始めたが、すぐに女の悲鳴が聞こえたので、スマホを放り投げた。


「動くなぁ! 経った今、このホテルは俺たちが制圧する!」


 テロか・・・・・・


 だとしたら、都合が悪いなぁ。


 かと言って、今、この場で、抵抗するのは分が悪い。


 すると、男が部屋に入ってくる。


「おい、すぐにフロントに行け、早くしないと殺すぞ」


 そう言われた、マリアンは無言で従うことにした。


 武器はコルト社製のM4ライフルか・・・・・・


 かなり、上等な武器だな。


 しかも、西側の兵器を使っている。


 何処の連中がバックボーンなんだ。


 マリアンは背中に銃口を向けられながら、部屋を出る。


 時刻は午後十七時五分。


 東京駅が武装グループに占拠をされ始めていた。


8


 官邸では総理大臣の立石杏美が神妙な面持ちで資料を眺めていた。


 年末年始なので、ホテルで静養をしていたのだが、東京駅がテロリストに占拠されるという前代未聞の事態に陥ったので、今は官邸で報告を受けながら、全閣僚が東京に戻って来るのを待っている次第だ。


「総理・・・・・・」


「連中の目的なんて、分からないよね?」


「被害の事態が未だに不明です。東京駅が占拠されて以降、犯人グループは沈黙をしーー」


「要求は分からずか・・・・・・まだ? 皆?」


 そう言って、立石は資料をテーブルに投げつける。


「大体、何で、東京駅みたいな大きいターミナル駅が占拠されんのよ?」


「サイバー攻撃があったそうで、導線が全て、閉鎖されて、鉄道もストップ、乗員、乗客に利用者を含めて、かなりの数が人質になっているのではないかと・・・・・・」


「すぐに対策チームを立てるしかないか・・・・・・ただ、こちらもアップデートをしたいから、三時間、持たせてくれる? まだ、皆が来ないことには話が進まないからね?」


「はぁ・・・・・・」


「とりあえず、警察庁と警視庁に連絡を入れて、交渉をさせようか」


 そう言われた、警察庁出身の秘書官である、小谷はすぐに何処かと連絡を取る。


 さぁ、とりあえず、レクチャーを受けようにも担当が来ないと話しが始まらない。


 立石は情報が欲しいとは思っていたが、動けないことに苛立ちを覚えていた。


 時刻は午後十七時三十分ちょうど。


 東京駅が武装グループに占拠されてから、二十五分が経過しようとしていた。


9


 自衛隊情報保全隊中央情報保全隊のオフィスでは、東京駅が武装グループに占拠されたとの一報を受けて、即時体制へと移行して、各部署の班員がすぐに全員集められた。


「二色室長はまだ、来ないんですか・・・・・・」


 広池は苛立ちを隠さない声音で、笹井二尉に言い放つ。


「連絡は取っているんですけどね・・・・・・実家に帰省するとか言っていたから、ギリギリのタイミングで東京駅での事変に巻き込まれた可能性がありますね」


 シャレにならないぞ・・・・・・


 こういうことがあるから、有事の際に有休を申請するなどと・・・・・・


 大体、何で、上層部は有給なんかを認めるんだ、こんな時に。


 広池が腕を組み、班員が全員揃うのを確認する。


「では、緊急のブリーフィングを始めます、第一情報保全室の二色室長は不在ですが、事態は緊急を要します、手短に済ませましょう、の田子三尉、現段階で分かっていることを報告」


 そう言われて、情報保全課の田子と言われた、若手幹部が簡単かつ簡潔に答え始めた。


「武装グループは東京駅を何らかのコンピュータウィルスを使って、隔壁閉鎖をした後で、武装した、部隊を投入して、駅全体を制圧、現在、新幹線、在来線共に全路線がストップをしています、また、官邸は危機管理対策チームを立ち上げて、犯人グループとのコンタクトを測ろうとしているとのことです」


「警察の動きは?」


「交渉犯として、SITを投入するか、SATを投入するかで揉めていますね」


 警察お得意の刑事部と警備部のいがみ合いか・・・・・・


「仮に特殊部隊を突入させるとなると、隔壁自体はただのシャッターなので、チェンソーなどを使えば、簡単に突破出来ますが、問題は相手がどの規模の部隊で、どのような装備を使うかでして・・・・・・」


「指揮官が余程の無能でなければ、事態の進展を急がないと思いますが、そこは日本のお役所ですからね・・・・・・危機的な事態に対する免疫が無く、功を焦るバカもいるんですよ」


 広池がそう言い放つと、八木一佐という副官が「それだけですか・・・・・・分かっていることは?」と言い放った。


「二色さんが東京駅にいるならば、現在、どうなっているかの報告はーー」


「恐らく、犯人グループに制圧されているんでしょう、マメな二色室長が連絡をスルーする時点で、恐らく、拘束されて、何もできない状態であると考えるのが、ベターです」


 そう言われた、瞬間に班員全員が黙る。


「打つ手なし」


「情報が少なすぎるんだよなぁ、これって、例の集団退官した、第○○期のマルBの連中と関係はあるんですかね?」


 そう言われた、瞬間に広池は「それが何か?」とだけ聞く。


「東京に出てきて、国に反旗を翻したとか?」


「動機は?」


「それはーー」


 広池は大きなため息を放つ。


「憶測で物を言わないでください、そして、そんな大それたことはちんけなミステリー小説の読みすぎです」


「広池隊長だって、主観で物事を捉えるなとは言っていたじゃないですか」


 そう言われた、広池は黙る。


「なら、その線も追いましょう。ただし、優先事項はーー」


 そう言いかけた時だった。


「広池隊長!」


 防衛省情報本部の文官の律樹真澄が走りながら、やって来た。


「至急、現場へ向かえとのことです」


「現場・・・・・・へですか?」


「現場へ・・・・・・東京駅へと向かうそうです」


 広池を始めとする、班員たちに戦慄が走った瞬間だった。


 時刻は午後十七時五十三分。


 東京駅が武装グループに占拠されて、55分経過に迫ろうとしていた。


10


 北陸新幹線の二十番線乗り場に止まっている、新幹線には瑞穂と吉希が座席に座りながら、武装グループの男たちを眺めていた。


 車両内には子どもの鳴き声を聞こえる。


「今から、スマホを没収させてもらう」


 そう犯行グループの男たちが袋を取り出すと、スマホの回収を始める。


「お前ら! こんなことをして、ただで済むと思うなよ!」


 すると、後ろの席で八十代ぐらいの老人が意味なく、怒り出した。


「・・・・・・」


「大体、こんなことして、何になるって言うんだ! あぁ! 世直しか! 世直しをしたいのならなぁ!」


 犯行グループの内の一人が手に持っている、グロック17のセーフティー、いわゆる安全装置を解除する。


 こいつら、本気だ・・・・・・


「大体ねぇ! 私はねぇ! 戦争を経験しているんだよ!」


 そう老人が言い放つと、男は同人の額に銃口を向けて、トリガーを引く。


 老人の頭はスイカ割りのスイカのようにいとも簡単に弾け飛んだ。


「ひっ!」


 女の悲鳴が聞こえる。


「お義父さん! お義父さん!」


「指示に従わないとこうなる。良い見せしめだ」


 そう言った、男たちが袋を取り出す。


 要求に従うしかないか・・・・・・


 二色はスマホを渡す。


 他の乗客も沈黙の後にスマホを渡し始めた。


「吉希君、渡して」


「・・・・・・僕、スマホ中毒なんだけどな」


 そう言われて、吉希はスマホを渋々、渡す。


「あんたたち、目的は何なの!」


 神経質そうなインテリオバサンがそうかな切り声を上げる。


 しかし、すぐに男が足を撃ち抜く。


「あぁぁぁぁぁぁ!」


 辺りに血が飛び散る。


「弾の無駄遣いをさせないでくれ・・・・・・俺たちは忙しいんだ」


 そう言った後に男たちは「医者いるか?」と聞く。


「日村先生・・・・・・出番ですよ」


 そう言われて、奥の席の男が隣の五十代ぐらいの男をさするが、男は動じない。


「日村先生! 非常事態ですよ! あんた、医者でしょう!」


「・・・・・・万が一、処置に失敗して、訴訟になった時に目も当てられないから、医局から、そういう人助けはやるなとーー」


 すると、男が医者に対して、銃口を向ける。


「やれ」


「はい・・・・・・」


 医者、弱!


 まぁ、無理も無いか・・・・・・人質が二名、死傷だもんなぁ。


「オバサンさぁ、何で、テロリスト相手に反抗なんかするの、余計な仕事を増やさんでくれよ」


「うぅぅぅぅ! 痛い! 痛い!」


 この車両が制圧されてから、小一時間が過ぎたか・・・・・・


 他の車両や区画、東京駅の外の状況も知りたいが、どうにもならない状況には変わりなかった。


 時刻は午後十八時五分ちょうどを過ぎたあたり。


 車両にいる民間人は恐怖で制圧されていた。


11


 港区某所にある民放テレビ局、新帝日テレビの報道局では、東京駅占拠の一報を受けて、特番の制作に追われていた。


「東京駅、どうなってんの?」


「内部の映像ある?」


 そうせわしなく、スタッフが動く中で、ディレクターの清水はプロデューサーの早田に「内部の映像とか取れないよね?」と聞かれた。


「・・・・・・東京駅の内部にウチのスタッフがいれば、別ですけどね・・・・・・」


「いるでしょう、スタッフじゃなくても、適当なお笑い芸人を捕まえれば、内部の映像は貰えるんじゃないの?」


 いや、それは芸人軽視だろう・・・・・・


 清水はこの女性プロデューサーの目的優先人命軽視の姿勢に疑念を抱いていたが、一応は能力は認めていて、上司なので、何も言わないではいた。


「第一、武装グループに占拠されたという情報がある中で、そういう特ダネ映像は期待できないんじゃないかと」


「特ダネが欲しいんだけどね・・・・・・誰か、いないかなぁ」


 すると、LINEの通知が鳴り始める。


「携帯は切りなよ、ぶっ飛ばすよ」


「失礼・・・・・・あっ!」


 飛んで火にいる夏の虫と言う、鴨がネギを背負ってやってきたというべきか・・・・・・いや、どちらも例えとしては該当しないか。


 とにかく、僥倖な事態に至った。


「ウチのADの柳が男子トイレに籠っているらしいですね」


「えっ! 何で、そんなミラクルが成立するの!」


「何か、デバイスか何か仕込んで、中継するとか言っていますけど」


「出来るの・・・・・・そんなこと?」


 とりあえず、メッセージを送るか。


 手順は?


 ースマートグラスを使うっすー


「スマートグラスを使うらしいですね」


「やった! 特ダネ取れるじゃん!」


 喜んでいる場合ではない。


 かなり、危険が伴うので、止めてもらいたいのが本心だ。


 ーお前、止めろ、死ぬぞー


 ーいや、普段、仕事出来ないとかバカにする奴らの鼻を明かしますよー


 そう言われた後にLINEにURLが送られる。


「クリック! クリック!」


 そう言われて、クリックすると、柳の目線からの実況中継が始まる。


「柳! ナイスだよぉ! 犯人と接触できる?」


 その時だった。


 ドアに蹴破られて、柳の前に犯人グループと思われる男たちが現れる。


(あぁ、こんなところに閉じこもっていたか、付いてこい)


(・・・・・・はい)


「よっしゃあ! これは取れ高!」


 そういう問題じゃないぞ!


 本当にテロリストと遭遇しているんだぞ!


 分かってんのか、この人は?


 失敗した時は俺たちの首が飛ぶどころの騒ぎじゃない。


 人が死ぬんだ。


 しかも、それは俺たちの仲間がだ。


 この人はそれを理解していない。


(スマホは回収だ、分かっているな?)


(分かりました)


 そう言われて、柳はスマホを袋に入れる。


「よし、よし、後はどのタイミングで、これを放送で流すかだなぁ・・・・・・」


「いや、これは上から待ったがかかるんじゃないですかね?」


「何で?」


「政府から余計な混乱を招く報道を自粛しろとか、横やりは入れられるし、各種SNSとかでも、ウチの独断専行をすれば、かなりの非難が来るんでないかと・・・・・・」


 すると、早田は机を勢いよく叩く。


「それはさぁ、いわゆる、敗北主義という奴だよね?」


「いや、それ以前にバレたら、柳が殺されますよ」


「我々、テレビマンの本望じゃないか、視聴率のために死ねるなんて」


 ダメだ、こいつ。


 話しが通じない。


 テレビ局の連中は時々、こういう、倫理性がズレたというか圧倒的にそれが欠けている人間がいる。


 そういう奴がタレントやアナウンサーに手を出して、更迭だけで済んだ時代を知っている身からすれば、まだ、可愛い方だが、人命が掛かっているんだ。


 いくら、仕事の出来ないADと言えど、我々が殺せば、大問題だし、俺は人殺しにはなりたくない。


「降りたければ、いいよ? どうする?」


 そう、早田が言うが、ここで俺が降りたら、本当にスタッフ陣に歯止めが無くなる可能性があるので、とりあえず、自棄は起こすべきではないと判断した。


「いえ、やります」


「次、余計なことを言ったら、外す」


 そう言って、早田は清水のスマホの画面に食い入る。


 さて、上層部にはどう言い訳するか。


 清水は今から、最悪の事態になった際に自身が安全地帯に逃げる事が出来る、言い訳を考えていた。


 早田はまるで、新しいゲームを与えられた、子どものように画面に食い入っていた。


 時刻は午後十八時半を少し超えたぐらい。


 東京駅占拠から、一時間二十五分が経過しようとしていた。


12


 総理大臣官邸ではようやく、各大臣が揃い、対策会議が行われた。


 各メディアに冒頭の十分だけを公開して、後はクローズドな会議に転じるわけだが、メディアを締め出した後にスーツ姿の白人が姿を表した。


「総理・・・・・・このお方は?」


 そう、環境大臣の石倉が言い出すと、総理の立石は「レインズ社のアルグセイ・カールマン極東部長ね」とだけ言った。


「レインズ社・・・・・・ですか?」


 レインズ社はアメリカのシカゴを拠点とする、世界的な軍需産業大手で、武器製造だけではなく、自前の傭兵部隊まで、用意しているとのことだったが・・・・・・その軍需産業が何で、首相官邸にいるんだ?


 石倉がそう疑念を抱くと、防衛大臣の大泉が「彼らは最新鋭兵器の売込みと突入作戦へのオブザーバー参加を兼ねて、ここに来たんですよ」とだけ言った。


「突入作戦・・・・・・もう、立案しているんですか?」


「警視庁のSATを始めとして、すでに作戦の立案段階に入っているけど、最終的には彼らの持つ、最新鋭兵器の実験にも付き合うことになるわね」


「最新鋭兵器・・・・・・ですか」


 石倉は一事件がアメリカの軍需産業の実験に扱われることに大きな抵抗感を覚え始めていた。


「Strike Lan Battl System SOLBS」


 ガールマンがそうつぶやく。


「はっ?」


「ソルブスシステムと我々が呼んでいる、新型パワードスーツです」


「ソルブス・・・・・・何です?」


「大手住宅メーカーが開発した、災害救助用パワード―スーツとイギリス海軍が開発した、空を飛ぶ、パワードスーツジェットスーツを軍事用に転換して、一般兵士に装着をさせる為に作られた、高機動軍事パワードスーツ、これは将来的に戦場のゲームチェンジャーになる、兵器ですよ」


 カールマンが流暢な日本語でそう言うと、立石は「それの投入はあくまで、最終手段よ」とだけ言った。

 

 冗談じゃないぞ・・・・・・


 こいつら、この国を戦場にするつもりか?


 これは何とかして、止めないといけない。


 石倉はこの瞬間、旧知の民放ジャーナリストに連絡を取ろうとしたが、今現在は会議中なので、それは出来なかった。


 時刻は午後十八時四十分。


 東京駅占拠から一時間三十五分が経過をしようとしていた。


13


 瑞穂は武装グループが若い女を中心に別の車両に連れられているのが気になっていた。


 まさか、慰安所でも作るつもりではないだろうな?


 そう考えると、自分も呼ばれる可能性はあるが。


「何か、若い女の子だけ、別の車両に呼ばれているけど・・・・・・慰安所かな?」


 吉希が小声でそう言うと、瑞穂は「いやぁ・・・・・・そうなってくると、許せないなぁ」とだけ言った。


「おい、お前」


 武装グループの一人が瑞穂に声をかける。


「車両を移動しろ」


「瑞穂さん・・・・・・」


 吉希が手を握る。


「大丈夫だよ・・・・・・多分」


 そう言って、吉希の手から離れると、武装グループに銃を突き付けられながら、車両を移動して、先頭車両へ乗り込む。


 そこでは若い女や車両の職員が武装グループの男の一人に性的な接待を強制されており、女の瑞穂からすれば、地獄絵図と言ってもいい光景が広がっていた。


「・・・・・・脱げ」


 武装グループの男が下品な笑いを浮かべながら、そう言うが、その瞬間、瑞穂に怒りが込み上げた。


 男の首を掴むと、一気にひねりあげて、首の骨を折る。


「なっ・・・・・・お前!」


 そして、男に飛び掛かると、急所を中心に打撃で責め立てて、相手が跪いたところで、背後に回り込み、チョークスリーパーで絞殺す。


「ぐぅ・・・・・・ごっ、ごっ」


 一分ぐらい経ったか・・・・・・脈を図ると、男の死亡が確認された。


「えっ・・・・・・殺しちゃったんですか!」


「いや、女を食い物にするのがいけないんだよ」


 瑞穂はそう言うが、ここにいる、敵が二人しかいなかったのは運が良かった。


 とりあえず、外と連絡するか・・・・・・


 相手がスマホを持っているかを確認した後で、ナイフを奪い取る。


 銃器は使うと、銃声で相手に位置を知らせることになる。


 大々的に一人でドンパチをして、上手く行くのは映画のダイハードの中での話しだ。


「皆、服着て」


 女たちはまだ、恐怖と驚きに満ちた顔をしていた。


「反撃を始めよう」


 根拠は無いが、もう、やるしかなかった。


 時刻は午後十八時四十七分。


 東京駅占拠から、もうすぐ、二時間分経過が近づいていた。


 続く。





 次回、第二話 反撃


 来週もよろしく!

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