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青春は日傘を差すくらいが丁度いい  作者: 氷雨 ユータ
LASTRASH  人間災害

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203/215

未来は過去の設計図

「……お前が、クロウ?」

「クロウっていうのは……? 知り合い? でも夏目、私達って殆ど同じ時間を過ごしてたよね。居候してたんだし……私が知らないのはどうして?」

「俺も知ってる訳じゃない。ただ、透子が過去を話してくれた時に出てきたんだ。 おいジャック、お前の友達でもあるならお前が出てきて直接説明してくれよ」

 しかしいつまで経っても返事がない。体内に存在は感じ取れるが応答出来ないのだろうか。意地悪でわざと応答しないような男ではないから何かしらの事情は察せるが。

「恐らくジャックは地上の援護に集中しているんだろうね。君の呼びかけに応じない理由があるとすればそれくらいだ」

「地上……」

「皆様はご無事なのでしょうか……」

 無事かどうか、心配していないと言えば嘘になる。けれどメーア達はそれを承知の上でわざわざ俺達を送り届けてくれた。様々な目的はあれどメーア自身は単に透子への恩返しがしたいだけだ、幾ら悪党だとしても無償の善意を提供してくれた人間に対して悪辣な感情を抱くなんて出来ない。だから―――欲を言えば生きていて欲しいが。俺が米軍兵士を難なく撃退出来たのは人間災害の力を持っているからだ。彼女の特殊能力は痛烈な代償を伴うし、何よりその能力は人員の命を保証するものではない。メーアやなの子くらいは生きているかもしれないがそれ以外は…………

「命を慈しむ心があるのなら彼が戻ってこないのを祈ろう。戻るつもりがないのに戻ってきたなら―――それは彼が戦線で動けなくなったという事を意味している。この意味を僕は敢えて言わない。君達にはやるべき事がある筈だ」

「クロウ! 透子は何処だ、この先に居るんだろ?」

 ホログラムが一瞬消えて、扉の前に移動した。そこに実体はない筈だが、指先が触れた瞬間キーパッドが壊れたように何桁も入力しロックを解いていく。

「そう焦らない。僕は君をずっと待っていたんだ。この周囲に兵士が居ないのも僕がやった。決して君達以外には辿り着かせないようにと……最初に伝えておこう。僕の能力は未来視だ。現在の時点から分岐する未来に意識を飛ばす。ここに居る僕は君達にとっては今を生きる存在かもしれないが実際は違う。僕は過去から君達を見ている」

「えっと……今のクロウさんは何処に居るんですか?」



「僕はもう死んでいるよ。透子が施設を抜け出したその日にね」



 重厚な扉が軋んだ吐息をあげながら開いていく。この先に待ち受けるものなんて透子くらいだろうに、どうして俺は不安に思っているのだろう。”何か”なんてない筈だ。後はただ会うだけ……だろう?

「僕とジャックの本質は肉体じゃない。だからあまり悲しまないでほしいな。死んでいようと僕はこうして過去を通して会話出来ているんだ。それだけで十分だと思わないかい?」

「この先に透子ちゃんが居るん、だよね?」

「……お姉様、この扉の先から……何の音もしません」

「クロウ。透子の居る場所までまだ遠いのか?」

「そりゃ遠いさ。ただ、ここから先に誰も通したくなかっただけだよ。長い話が出来るのは君達、特に十朗にとってそう悪くない話だ。トーコについてまだ君が知らない情報を僕は教えられる。ジャックからは特に聞けていないんだろう?」

 扉の先に一歩踏み出した瞬間、背後の扉がゆっくりと閉じ―――刹那、まともに立つ事もままならない大きな揺れが到来した。 俺は少し足を踏ん張るだけで耐えられたが二人は予期せぬ海震に足を取られて壁に頭を打った。

「いた……」

「うぅ…………な、何でしょうかこの揺れは。自然現象とは思えませんでしたけど」

「二人共大丈夫か? もしかすると強硬手段に出たのかもな。外から壁を破壊すれば侵入出来ると踏んで魚雷を打ち込んできたとか。なりふり構わなくなっていいんだったらやりかねないだろ。アメリカにはその力がある」

「……そう警戒する必要はない。予想外の出来事など何一つ起きてはいないさ。僕にとっては知り得た未来で、君にとっては奇跡の出会い。その時からずっと……僕は過去から君を見ていた」

「―――何だと?」

 二人を助け起こしつつ(向こうから体を引っ張られる分には殺さない)、視線をホログラムに向ける。クロウの表情はどうしてか悲しげだ。言い方は癪に障っても直後に水を引っかけられた気分になって……俺自身も今どんな顔をしているやら。

「トーコと君が出会ったのは偶然なんかじゃない。僕がそうさせた。僕が彼女を導いたんだ」

「あり得ない。俺とお前達の何処に関係性があるんだ? 知り合いの友達に匿ってもらうみたいなノリでは導けない。俺達にもし関連性があるとすれば―――夏目一心。俺のお父さんだけだ」

「え? でも夏目から研究所の話なんて聞いた事ないよ」

「研究所の話どころか研究者だった事も知らなかったよ。俺の親はなんか偉そうな仕事を多分してるんだろうなって感覚だった。川箕も気持ち分からないか? 親の仕事に興味が持てない奴は徹底的に持てないって」

「あー……まあ、ウチはそもそも詮索しちゃ駄目だったけどね……あはは」

「わ、私のお父様はその……」

「ニーナはいいよ言わなくて。とにかく、家でそんな話をされた事もないしそれっぽい人が出入りしてた事実もない。透子と出会えたのが自分のお陰なんてとんだ思い上がりだぞ」

「…………ふふ」

ホログラムの背中を静かについていく。海震を警戒して足取りはやや重いが、クロウは俺達の足取りにむしろ合わせてくれているようだった。

「まあ、順を追って話そうじゃないか。ここは君にとっても実家みたいな物なんだからさ」



















 エレベーターを破壊して一気に下には降りたものの、その道中は全く電気など通っていなかった。だがクロウと出会ってからはどうだ。歩いている内に電気が点くようになり、ハッキリと視界が開けるようになった。足元の瓦礫や乱れた配線も十分確認してから避けられる。耳を澄ませても人の気配は全く感じられないが、電気が不自然に通っているという一点でまだ誰か生きているような。そんな感じはする。

「トーコは最初にして最後の偶然。彼女の存在が世界情勢を変えてしまったのは知っているだろう? どこもかしこも軍拡を、出し抜いて世界の覇権を。トーコが悪い、トーコさえ生まれなければそんな事にはならなかった。それは未来視を持つ僕が保障しよう。けどね、真実は違うんだ。トーコが生まれたのが悪いのではなく、僕が彼女の情報を流出させたのが悪いんだよ」

「……マーケットの資料には原因不明のデータ流出って書かれてたけど、お前だったのか? どうしてそんな真似を!? お前がそんな事しなかったらアイツは自分を恐れなかった!」

「そこの左の部屋に入ってくれ。百聞は一見に如かずだ」

 言われるがままに扉の前に立つとこれまた自動的に開いた。内部には断線ばかりの巨大な装置が中央に備え付けられていて、奥には映画館のような巨大なモニターがある。機器類は殆ど欠損しているもののクロウが手を触れた瞬間息を吹き返したように操作を受けつけた。

「トーコではない失敗作として生まれた僕は、この研究所の未来を任されていた。言葉通りだよ。僕が未来を視て失敗するならやめる。成功するなら実行するだけの簡単な二択さ。残念ながら僕の未来視は僕自身が幾ら干渉しても未来は変えられないという弱点があるからね。例えば僕が夏目一心を殺しても、何処かで一命をとりとめた事になる―――分かるかい? 事前にカンニングする事しか出来ないもどかしさが」

 そう言って、クロウのホログラムは俺と川箕の二人に触れる。それと同時に流れ込んできたのは―――失われた、あり得た未来の景色。



『透子。成果を報告しろ』

『はい、マスター。アメリカは無条件降伏を宣言いたしました。続いてイギリス、イタリア等も。これで残す国は……幾つでしょうか?』

『流石は俺の最高傑作だ! なあに細かい事は気にするな、お前さえいればどのような問題も解決出来る。お前は俺だけの兵器だ!』



「透子は洗脳プログラムと反抗的な人格を定期的に消去するプログラムを施され自我を破壊される。そうして彼の従順な兵器になるのさ。力ずくではどのような大国も太刀打ち出来ない、核爆弾を打ち込んだところで自分の国に投げ返されるだけ。ではハニートラップのような工作活動で動きを制限するか? それも駄目なんだ」

 

『んぐ…………ぐぼ、ちゅる』

『あぁ……そうだ。お前以外の何も信用する必要はない。透子、お前は俺を満たしてくれる最高の女だ。それはもういい。服を脱げ。俺からの褒美を受け取るんだ』


「やめろ! やめてくれ!」

しかし脳内に送り込まれた映像は目を閉じても止まらない。言われるがままに服を脱ぎ、一糸纏わぬ姿でただ父親の愛撫を受け入れる透子の姿など見たい筈がない。好きな人が、大嫌いな父親に手籠めにされる。認めない。受け入れられない。

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

「うっ…………さ、最悪」

「お姉様! ジュード様! ど、どうなされたのですか!? 私には分かりません! 私にも見せて下さい! クロウ様!」

「駄目だ見るなやめろ触るな触れる見るな動くな触るな触るな触るな触るな触るな触るな!」


『マスター。どうか私を、愛してください』


「てめえが触っていい女じゃねえんだよおおおおおおおお!」

 映像を見ているだけの観客。漫画を手に取って読んでいるだけの読者。時間を隔てた部外者な事は分かっていて、それでも許せなくて―――







 俺は、過去の夏目一心を横から殴りつけた。

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