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青春は日傘を差すくらいが丁度いい  作者: 氷雨 ユータ
LASTRASH  人間災害

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202/215

枯渇の楽園

 今回、俺の活動には制限が加えられている。なの子と本気で戦った時のように周辺被害を気にせず動き回るのは良くない。自分の動きで発生する衝撃波や風圧に川箕達を巻き込んだら重傷ではすまない。亜空間を出た瞬間に米兵を全滅させるなんて夢のまた夢だ。出力を制限された俺に出来るのは二人に降りかかる凶弾を全て排除する事だけ。

「走れ!」

 研究所の周囲を巡回する艦船に日和っている場合ではない。二人を抱えて走れないのが本当にもどかしいが、バラバラ死体を運びたいのでなければ我慢するべきだ。内部にも人が居る可能性(ずっと深層突入を試みているならそう考えた方が自然だ)も踏まえて殿は務められない。川箕に先導してもらう形で進んだ方が安全だろう。ニーナには背中に引っ付いてもらえばいい。

「こ、これさあ! 私等はなんも気にしなくていいんだよね! 銃の対処とか全部任せちゃって!」

「ああ、どうせ対処なんか出来っこないだろ普通の人間には。何のために俺が居るっ!」

 艇の中ではメーアの気遣いによりタイムリミットの進みは緩やかだった筈だ。もうここからはそんな気遣いは得られないし俺も必要としない。持てる命のリソースを全て注ぎこんで災害としての力を護る為に使う。命の使い方は自分で決めるのが人間だ。

 港から研究所まではすぐの距離だが、俺達が来る事が漏れていたのかずっと対策されていたのか、夥しい数のバリケードが持ち込まれ少しでも通行を妨害せんとしてくる。

 

 ―――関係ないね。

 

人を止めようと立ちはだかるのがたとえ戦車でも、台風の通過は防げない。一歩川箕の前に出て無造作に手を横に薙ぐと進路上にあった全ての物体が吹き飛ばされて研究所の壁に激突して飛散。元々放棄された建物だったのは不幸中の幸いだ、職員が働いていたらこの余波だけで死んでいただろう。軽く地面を抉ったが爆発物の設置については杞憂だった。入り口となる島を跡形もなく吹き飛ばしたら自分達も研究データを取りに行けないからだろうか。潜水艇でもあれば幾らでも外から侵入出来そうだが。

「すっご……」

「透子で見ただろうが! 今ので確実に俺達の上陸は気づかれた。急ぐぞ!」

 機関銃の掃射はばらつきがあるので確実に命中すると踏んだ弾だけ防げばいい。今の俺なら弾が撃たれた事に気づいてからでも十分反応出来る、それより気がかりなのはスナイパーライフルによる遠距離狙撃。俺を狙ってくれるなら最悪喰らってもいいが、二人の内どちらかを狙われると今の出力で反応出来るかどうか。銃種の問題じゃない、弾幕をかき消している最中に紛れ込まれたら対応出来ないかもという可能性の話だ。

 そんな杞憂を現実にしない為にもさっさと建物の中に入り下へ向かうべきだ。場所が狭くなれば俺も気を散らさず二人を護れる。

「ジュード様、中から幾つもの足音がします!」

「どれくらいいる!?」

「聞こえにくいですけど……じゅ、十人くらい? は、居るかなと」

「そうか、分かった。川箕、入ったらすぐ横の認証ゲートの陰に隠れろ。後は俺がどうにかする!」

「分かった!」

「俺より前には出るなよ!」

 息をするように人を殺せてしまう、もう立派な悪党に恐れるモノはない。ただこの災害は、己の願い(あくい)の為に吹き荒ぶ。研究所の入り口を通過した瞬間―――側面に設置されていたセンサー爆弾が起動。破片が飛散するより早く俺の手が爆風その物をかき消した。室内に突如生まれた台風は災害対策の為されていない建物など病葉同然に吹き飛ばし隠れていた兵士諸共明後日の方向に片付ける。

「…………俺の感覚ではもう誰も居ない。ニーナはどうだ?」

「お、音は聞こえません。ニオイは……その、すごくきついですけど」

「……」

 目が見えない事で得をしている、とは伝えない方がいいのだろう。川箕は一秒未満の行動によって生まれた惨禍に言葉を失っている。ただの一人も生き残りは居ない。

「二人共入ったな? よし、離れろ」

「な、何すんの?」

「後ろから来られないようにする」

 天井に向けて指を軽く払うと入り口が崩落。これで外の艦船が慌てて港につけてもすぐには突入してこられない。なりふり構わず爆破してくるなら話は別だがそれも一旦遠くに行けば問題ないだろう。

「エレベーターは使えるか?」

「いや、見た感じ電力が通ってないみたいだよ。夏目が滅茶苦茶にしたから分かりにくいけど、最初から通ってなさそう。ま、用事があるのは地下なんだからここの電力を回復する必要なんてないよね。エレベーターの電源盤はもっと下にあるのかな。私等が来られないように電源落としたのかもね。階段はないし」

「どうして階段がないのですか?」

「表向きの活動は違うから外部に悟られないようにじゃないかな。律儀に最下層まで階段作ってたらバレるだろうし。エレベーターなら階層を隠せる」

「それでは……地下にはどうやっても?」

「川箕、ニーナを頼んだ」

「あ、うん」

 エレベーターの扉をこじ開けると、川箕の見立てが間違っていて電気が通っているような奇跡はなかった。ただのカゴが宙づりになっているのと何も変わらないが、今はその状況だけで十分だ。天井をこじ開けて無理やりエレベーター通路に乗り出すと、カゴを吊るすロープに手をかける。

「いいぞ、入ってきてくれ」

「……もう大体想像ついたけど、本当にやるの?」

「やるしかないだろ。これしか降りる方法がないんだから。それともゆっくり壁を伝って降りるか? そんな悠長にしてる時間はない。なあジャック」

 …………。

「反応がないな」

「信じてない訳じゃないけど怖いな……ちょっと心の準備。うん、大丈夫! やって!」

 掌では到底覆えないような太いローブに軽く力を込めると、金属の千切れる爆音と共にエレベーターが落下。ほぼ同時に俺は壁に飛び移り落下速度よりも早く壁の中を掘り進んでエレベーターの真下に移動した。

 艇の中でジェンガをしていたのは何も単なる退屈しのぎではない。溢れんばかりのこの力を少しでも制御しようと試行錯誤する為に必要だったのだ。最初の内はブロックを粉々に砕いてばかりだったが続けている内にゲームをプレイできる程度には自分で加減出来るようになった。今でも指先に収まる範囲なら十分に調節できる。

「…………はあああああああああ!」

 壁を滑走路にエレベーターにかかるエネルギーを全て相殺すれば川箕達は生きて出られる。失敗すればカゴの中でミンチだ。一度のリトライも許されない、俺にそんな能力はない。力を発揮すればするだけ透子の血は活性化する。つまりこの行動に時間をかければかけるだけいつかは制御に失敗する可能性が増える。相殺しきれなければミンチ、少しでも俺の力が上回ればカゴを上に突き飛ばすかバラバラに破壊してしまってやはり死亡する。

 

 ―――俺なら、やれる!


 かかる重力と重量を体感で感じ取り寸分の狂いもなくブレーキをかける。やらないといけない、出来ないはあり得ない。俺は透子の力を、人間災害を信じているから。




















 あれからどれだけの時間が経っただろう。制御を失ったエレベーターは重力に従い奈落を突き進む鉄箱となり果てた。エレベーターの繋がっている階層が浅い可能性も考慮して早めに下に回り込んだまでは良かったが、その場合階層が果てしなく続いたら裏目になるとどうして気づかなかったのだろう。人生でここまで長いエレベーターを見た事がないから? 十五分以上も落下を続けるとは正直思わなかった。いつか足裏が床について停止するとばかり。


「い、生きてる…………生きてるよ! 私達生きてる! 夏目、死んでないから!」


 箱の中からは死と隣り合わせの状況から生還してハイになりつつある川箕の声。ニーナは……すすり泣きが聞こえている以上の事は言うまい。泣いている人間に対してとやかく考えるような野暮はしない。

「とりあえず降りてくれ! 入り口はあるか!? ここからじゃ見えない!」

「夏目は!?」

「お前達が下りたらこのエレベーターを上に打ち上げる! それで合流するつもりだ!」

 重さは感じないがこの状況は中々どうして辛い。二人の顔も見えないし到着した階層がどうなっているかも分からないのだ。不測の事態に備えたくてもこの状況だとどうしても後れを取る。それはどんなに早く動けても変わらない。こんな強引な移動は俺が人間災害になっているからこそ可能だったというのに。

「降りたよ!」

 声を合図に力を込めて歪みだらけの鉄箱を上に打ち上げた。後々落ちてくるかもしれないが、その前にはもう脱出しているので問題ない。エレベーターの機能としてはそもそもロープを切った時点で終わっているし。

 壁を伝って本来の入り口までよじ登ると、川箕が泣きじゃくるニーナをあやしながら横目で俺を歓迎した。

「怪我は?」

「俺を誰だと思ってる? 問題ない。それよりここは―――」

 目の前には、銀行にでもありそうな分厚い金属製の扉と。





「やあ、来ると思っていたよ十朗。話すのは久しぶりでもこうして会うのは初めてかな? 或いは―――僕を知っているかい?」







 透子のもう一人の幼馴染。白髪の青年を象るホログラム。

 クロウ。


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