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青春は日傘を差すくらいが丁度いい  作者: 氷雨 ユータ
LASTRASH  人間災害

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201/215

グッドラックにさようなら

「なの子。頼んだぞ」

「案内は任せたの。行ってくるの」

 少年に頭を撫でられてから、なの子は身投げでもするように海へと飛び込んだ。その手には魚一匹握りこまれているが放流なんぞする気は毛頭ない。あの魚こそ我らの秘策だ。

「はいはーい、ニーナちゃん、ちょっと失礼するよー」

 私の秘策とは操舵室の水槽に飼っていた魚をなの子と共に現実世界へ帰還させる事でジャックに再度能力を使わせるというモノだ。あの魚は奴と連絡を取る為の存在であり、亜空間に入った今でこそ連絡が取れなくなったが決して能力が解除された訳ではない。奴が持って行った魚だけでも干渉が回復すれば後は作戦通り、能力者にどうにか寄生してもらう。

「うへえ……夏目と神経を繋げる為とはいえ、傍から見ると凄い絵面……」

「どんな形でもジュード様のお役に立てて私は嬉しいです!」

「バイザー越しの視界ってこんな感じなんだな。ん? 分かれ道がある……なの子、左だ」

「分かれ道……何のつもりだろうな。少年は何故左と分かる?」

「出口が開きっぱなしだから音が聞こえる。その音がバイザーによって可視化されてるんだ。正解は左。右は……また別の亜空間かな。音が聞こえてこない」

「そうか……では今の内に私の作戦について改めて話しておこうか。首尾よく事が進めばあの魚……厳密にはそこに宿るジャックの意識がこの空間の生成者に移る筈だ。そうなり次第、ジャックにはこの空間の出口を研究所の手前に代えてもらう。出来るかは分からないが、少年が我々に見せた透明な壁とこの艇には随分な距離があった。目算でもこの亜空間にはかなりの広さがある。仮に一度のスキップでは足らずとも出口と入り口を繋いでいけば同じ結果を得られそうではないか?」

「えっと……私達は突入の準備をした方がいいって事?」

「貴様等は少年が守るのだから準備など不要だと思ったが、必要と思うなら幾らか持って行けばいい。銃を扱う自信がないなら爆発物でも携行するか? 奴らが対人間型災害を想定しているなら軽装の筈だ。十分殺す見込みはあるぞ」

「こ。殺すよりは無力化出来た方が良さそう。スタングレネードとかないかな?」

「川箕……」

「ち、違うってば! 夏目を頼りにしてない訳じゃないよ。ただその……昔からの癖って言うの? 丸腰で行くのはちょっとなあって」

「かばね町に住む者として模範的な心掛けだと思うぞ? 偉大なる私のお墨付きだ、胸を張ればいい。さて、準備はともかく突入に時間をかけている暇はない。少年の足ならば直接入り口に飛び移れる筈だ。そこで我々の仕事は終わる。後は三人で仲良く中を突き進め」

 今更語るような事でもないが、最初も言ったようにこれは死出の旅路。我々に退路など最初から用意されてはいない。彼らを送り届けた後はひたすらに防衛戦となる。大国の武装を何日凌ぐかも定かでない戦いに勝算などない。後はただ死ぬだけだ。悪党は決まって全員が悪趣味だが何度も無意味にそれを知らせるほど私も残酷ではない。

 何よりいう必要がないと分かっている。誰もが心の中で覚悟を決めている筈だ。

「メーア。お前は本当についてこないのか? 透子に会いたいのはお前も同じだろ」

「その気持ちはあるが、同時に私は『鴉』のボスだ。部下が死のうという時に傍に居ないのは果たして如何なものか……だから気にするな。なあに、貴様らが我が神を地上に連れ出してくれればその時に出会えるさ。私は先に戻っているから、問題があれば呼べ」

 艇内に戻ると操舵室の引き出しに眠らせていた無線機を手に取った。残る水槽の魚を見ればこの作戦が上手く行ったかどうかは明らかだ。能力者の意識に寄生すれば当然ジャックの能力も干渉可能になる。外で様子を窺うより遥かに確実で迅速な確認方法だ。

「………………ふん」

 


 周波数を、合わせる。死に行く定めの決まっている我らに必要なのは遺言ではなく弔い。先に死んだ者への労い。



『……聞こえているだろうか、別動隊の諸君。自らを『鴉』と呼び群れで生きてきたこの旅も遂に終点……よく頑張ったな。我々は決して天国とやらに行けるような存在ではないが、私だけは君達を祝福しよう…………』

『……そう、寂しがる必要はない。直にそちらへ行くからな、私が迷わないように狼煙でも上げておけ。そうして私達は母なる空へと還り―――やがて鴉となって再会するのだ。特等席で見ようではないか、少女の姿をした神の結末を』









「<作戦は成功した。俺の声が聞こえるか?>」

「ああ、聞こえる」

「うん。夏目の口を借りてるのが分かるよ」

「<まさか亜空間を作る能力者がいるとは思わなかった、次に見た景色では艦船に囲まれていて流石に焦ったぞ。だが現在はあの兵器に気を取られて要の能力者が俺に寄生された事に誰も気づいていない。今からこの能力を使ってお前達を研究所前に移動させる。それでいいんだな?>」

「なの子に怪我はないか?」

「<やはり有効な対処方法を知らないと見えるな。俺達のような人造人間よりも遥かに情報が流出していなくて助かった。艇を進ませろ。二メートル先に出口を作る。この亜空間能力は厄介極まる故、送り出しが成功次第俺は自害する。それで付近に存在する俺の意識はお前の頭の中だけだ。全ての個体が死んでしまった。まさか海中に水銀を放流して進むとはな>」

 ジャックの肉体が最初に死んだ時はどうしようかとも思ったが、肉体がない分相手から見て存在を感知しにくくて翻弄する事に成功している。本人が最初から大して気にも留めてなかったのはこういう活躍を自分で見込んでいたのだろうか。三人で部屋に戻ると俺以外の二人は突入に向けて最大限の準備をしている。防弾チョッキはもとより、何種類かのグレネードに透子へのプレゼント。少しでも体を軽く、しかし重すぎないようにと悩んでいる。

 俺が二人を抱えて走り回れたら良かったが、抱えた腕でその身体を真っ二つにしてしまう可能性を考えると自分で走ってもらった方がいい。内部に兵士が居たって関係ない。俺が全員倒すから。

「服は着替えなくてもいいからな。そもそもそんな装備自体がないけど」

「映画とかにあるような戦闘用スーツみたいなのがあったら動きやすかったねっ。一回でいいから着てみたかったなあ」

「お姉様、私の服装に不足はありませんか? ジュード様にご迷惑はおかけしたくなくて」

「待って……うん、大丈夫じゃない? ていうか夏目はいいの? 何の準備もしなくて」

「今の俺は大体透子だから下手に武装なんてしても手加減になるだけだよ。幾ら俺が強くても下手くそな手加減なんてしたくならない。万が一お前達のどっちかが撃たれても嫌だし」


「少年、表に出ろ! 入り口は目の前だ!」


 部屋の扉を蹴とばしメーアが高らかに告げる。手には一本の……黒い日傘。

「持って行け」

「……ありがとう、世話になったな」

「幸運を祈る。さようならだ」

 甲板に出ると、正面の空間が不自然に途切れ、円状に景色が映し出されている。目の前にあるのは白亜の建物。簡易的な港が足場として取り付けられ、俺達の上陸を待っているようだ。

「夏目!」

「ジュード様!」

「二人共…………準備はいいな? 透子に会いに行くぞ!」





 船の甲板を助走路に、三人の足が亜空間を飛び出す。これが本当に最期だ。透子の始まった場所へ、俺の終わる場所へ。


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