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賊・逢魔倶楽部(完結済み)  作者: オルタ
九話 Fortune of Frame(紫隠童子過去編)
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鬼になる

 西欧歴27年



 無念の魂が、あまりにも天へ昇り過ぎたのか。滂沱の涙のように、雨が降りしきる。


 しかし、征夷軍どもの慄きと静寂を掻き消すには、あまりにも雨粒は重く、激しい。


 それでも、藤に灯った炎は中々洗い落ちない。


 この俄か雨、もうじき獅子の遠吠えのような雷音と閃光が、空をつんざく。


 槍ブスマにされたごんざが、幽気の如くぬるり立ち上がる。


 その巨躯に含まれた膂力という膂力が膨れ上がって皮を逼迫し、突き刺さった得物の切っ先を押し返した。


 心の臓辺りを抉った穴っぽこも、ご覧の通りに塞がり、ごんざは人ならぬ怪力によって全快した。


 その姿、その仕業、まさに鬼。猖獗の権化。


 鬼と成る。炎の胎内から、生れ落ちる。


 そも、ごんざは人であったのか。


 誰も知らぬ。よもやごんざが知る由もない。


 いずれ。


 確かに、さむらいどもの前に、鬼は仁王と立っていた。




「陣形! 囲んで討ち取れ! やはり、土蜘蛛の類いじゃ!

 夜蜘蛛殺すが我ら征夷の命! 殺れ! 殺らぬか!」


 さむらいどもが、ようやく我に返り、佩いた太刀を抜いて、鬼となったごんざを取り囲む。


 ほぼ一斉に、直刀の切っ先が鬼へ食らいついた。


 ところがぎっちょん、鋭利は貫かぬ、刺さらぬ。


 一体、この鬼を包む皮は、どれほど厚く、きめ細かいのか。


 恐慌の強者たちは、それでも足腰踏ん張り、刃を鬼に押し込める。のれんに腕押し。石を突いてる阿呆のごとし。


 鬼の殺気が、さむらいどもの濡れた体に更なる底冷えを呼ぶ。


 鬼が吠えた、とさむらい達は思った。


 鬼の叫びは、目すら眩むのか、と。


 そう思った途端、さむらい達は鬼を中心に、放射状に吹き飛んでいった。


 鬼の図体、その二本角の頂きに、稲妻が叩きつけられたのだ。鬼を通じて太刀を伝い、さむらい達に雷が走り、まして空から降って沸いた如何槌(いかづち)の衝撃に、吹き飛ばされた。


 途端、鬼の瞳にその雷が蟠り、妖しく光っていることを、侍大将は見た。


 見てしまった。


 怪物の目を見てはならぬ。


 その瞳には、おのれが死臭を醸しながら、朽ちている姿しか見えていない。

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