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賊・逢魔倶楽部(完結済み)  作者: オルタ
九話 Fortune of Frame(紫隠童子過去編)
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そして、ひとり

西欧歴27年



 武士の恥だが、生きるものとしては、無難で懸命なことである。


 侍大将は、鬼を背に逃げ出した。雨に塗れて幸いであった。初陣の足軽のように漏らした小便を隠せる。


 鬼となったごんざからすれば、侍大将のちっぽけな背中から、細く脆い骨を引き抜いてやりたかった。


 だが、藤を独りにするわけには行かぬ。


 もう、吾子すら残されておらぬのだから。寂しかろう。心細かろう。雨の勢い、いやまして。


 藤のもとへ向かう。


 火が、藤の汁気という汁気と白かった肌を吸い取りつくし、もはやスカスカの亡骸だけが残っていた。


 犬のように瞳の大きな眼も、優しい言葉を紡ぐ唇も、もうなにもなかった。


 吾子を抱いた藤を、ごんざは抱き寄せる。


「済まぬ……済まぬ……。

 こんな思いをさせて、すまなんだ……。

 可愛そうに……藤よ、吾子よ」


 もし、鬼になるのは己ではなく、君であったのなら――己は死んだとて、お前と吾子は生き残っていただろう。


 紫電を帯びた目から、滴が流れ落ちる。細君の焼けただれた肌を癒すには、あまりにも手遅れで、物足りないけれど。


 それは鬼が流す、最初で最期の涙なのか。


 ごんざは藤の亡骸を抱き上げた。ずいぶんと軽くなってしまった。心の音は止まっていても、肌が焦げるほどには温い亡骸。


 ごんざ達は村へ帰る。


 せめて、弔ってやらねば。



 そして、己は修羅になる。



 お前たちを、ゴミのように扱ったものどもを根絶やしにするために。


 地獄まっしぐら、むしろ上等。


 藤よ、吾子よ。お前達が極楽へ行けぬというのならば、閻魔とてねじ伏せてみせよう。


 雨が止む。


 それでも、夜明け前の空はひどく暗い。

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