32話 昇進
排水貯留槽の狭い空間は、ラッキーにとって完全に有利に働いた。トンネルの入り口で打ち破れぬ生きた壁となることで、彼はアンデッドの群れをボトルネック状に追いやった。
「突け! 引け! 盾を構えろ!」グールたちの悲鳴を切り裂き、ラッキーの指揮の声が規則正しく確かなメトロノームのように響いた。
「突け! 引け!」タロウが復唱し、彼の槍がラッキーの広い肩の横を突き抜け、飛びかかってきたグールの喉元を正確に貫いた。
レンと残りの三人の新兵は、隊長の背後に強固なファランクス(密集陣形)を組み上げた。グールが石壁をよじ登ってラッキーを回避しようとするたび、新兵たちがそれを叩き落とし、殺傷エリアへと突き落とした。ラッキーは群れの圧力、恐怖、そして威力をその身一つで全て受け止め、部下たちに正確な攻撃を集中させた。
彼は追い詰められた者のような死に物狂いの焦燥で戦ってはいなかった。百戦錬磨の将軍のような、恐ろしいまでに機械的で洗練された効率で戦っていた。ブロードソードの一閃一閃が計算し尽くされ、一歩一歩が緻密だった。自分に向かってなだれ込む超自然の恐怖に一切動じることのない、まさに大自然の猛威そのものだった。
十分も経たないうちに、最初の群れは壊滅した。澱んだ水面には切断された手足と、二度目の死を迎えた物言わぬ死体が浮いていた。
新兵たちは激しく息を吐き、アドレナリンと疲労で腕を打ち震わせていた。
「お、俺たち……やったぞ」レンは槍に身を預けながら息を切らせた。「押し切ったんだ」
「警戒を緩めるな」ラッキーは部屋の中央にある巨大な死体の山に視線を固定したまま命じた。「下っ端は片付いた。だが、地上から遺体を運び出していたのは奴らじゃない」
その言葉に応えるかのように、貯留槽の中央にある澱んだ緑色の水が激しく泡立ち、沸き立ち始めた。
死体の山に残されていた遺体が突然ヘドロの中へと引きずり込まれ、水面下でうごめく巨大な何かに吸収されていった。煉瓦造りの壁を揺るがす耳をつんざくような咆哮とともに、下水道の真の悪夢が深淵から姿を現した。
それは【錬金術の変形醜鬼】――腐肉、石、そして結晶化した緑色の錬金廃棄物が結合した、体長三メートルを超える巨躯の怪物だった。その腕は極めて巨大で、先には毒性のヘドロを滴らせる大鎌のようなギザギザの鉤爪が備わっていた。
「なんてことだ……」タロウは絶句し、ショックのあまり盾を緩めた。
異形は光る虚ろな目をラッキーに定めると、鼓膜を突くような悲鳴を上げ、大地を揺らす足取りで突進してきた。
「トンネルへ退避! 十歩下がれ!」怪物が撒き散らす毒ヘドロから新兵たちの支給品革鎧では防ぎきれないことを即座に見抜き、ラッキーが指示を出した。
新兵たちが大慌てで後退する中、ラッキーは一歩前へ踏み出した。
異形は巨大な右爪を振り下ろし、巨躯の分隊長の首を跳ね飛ばそうとした。ラッキーはその圧倒的な質量を剣で受け止めようとはしなかった。代わりに、その豪快な薙ぎ払いの下を潜り抜け、ブーツで石床を噛ませて素早く軸足を旋回させた。
巨体からは想像もつかない目にも留まらぬ速度で、ラッキーは肩を怪物の水ぞおちに直接叩き込んだ。その衝撃音は城門を破る破城槌のようだった。三メートルを超える巨体の怪物が浮き上がり、純粋な運動エネルギーによって後方へよろめいた。
態勢を立て直す前に、ラッキーは一気に詰め寄った。青と銀のチュニックの上から筋肉を躍動させ、両手でブロードソードを固く握りしめた。
異形が再び襲いかかってきたが、ラッキーのほうが速かった。彼は無慈悲な斜め斬り上げで刀身を振り抜いた。重厚な鋼が怪物の左腕を薙ぎ払い、鎌爪を完全に切断した。怪物が悲鳴を上げてよろめくと、ラッキーは剣を捨て、片手で奴の太く腐った鎖骨を掴み取り、自分の目線まで引きずり降ろした。
空いた方の拳を限界まで引き絞り、ラッキーは怪物の胸の中央に埋め込まれた、光り輝く錬金結晶の核へと、壊滅的な素手の一撃を叩き込んだ。
**――バキンッ!**
結晶が粉々に砕け散る音が洞窟に響き渡った。怪物の瞳の緑色の光が明滅し、消えた。醜鬼は硬直し、水の中へと激しく倒れ込むと、生気のないヘドロと砕けた骨の山へと溶けて消えた。
水滴の落ちる音だけを残し、旧錬金下水道に静寂が訪れた。
ラッキーは惨劇の真ん中に無傷で立ち、篭手に付いた緑色のヘドロを何気なく拭い取った。彼は落ちていたブロードソードを拾い上げて鞘に収め、分隊へと向き直った。
五人の新兵は口をぽかんと開けたまま、トンネルの中で硬直していた。彼らは死んだグールの山を見つめ、溶けた三メートルの怪物の残骸を見つめ、そして汗ひとつかいていない一本線の隊長を見つめた。
その瞬間、絶望的な恐怖は、純粋で絶対的な心からの崇拝へと完全に塗り替えられた。
「タロウ、レン」怪物の核だった砕けた緑色の結晶の残骸を指さし、ラッキーは穏やかに言った。「その錬金結晶の欠片を回収しろ。最高司令部への証拠が必要だ。残りの者は周辺を捜索し、生存者や被害者の遺品を探せ」
「はい、隊長!」新たな、熱狂的とも言える忠誠心を声に宿らせ、彼らは絶叫した。
ラッキーは部下たちが立ち働く姿を見つめ、口元に薄いニヤリ顔を浮かべた。ただのD級任務が、街の地下に存在する違法で変異を引き起こす錬金廃棄場の発見へと化けたのだ。この証拠を軍の幹部どもの机に叩きつけた時、奴らは二本目の線をくれるだけに留まらない対応を迫られることになるだろう。
中央駐屯地への帰還の行軍は、出撃時とはまるで異なっていた。
分隊長ラッキーと五人の新兵が出発した時、彼らは見知らぬ巨漢に率いられた、緊張と未熟さに満ちた少年の集団に過ぎなかった。だが今、彼らが軍駐屯地の門をくぐり抜ける足取りは、完璧に統制の取れた規律あるものだった。悪臭放つ下水道のドブ泥と錬金術の残渣にまみれてはいったものの、新兵たちは胸を張り、頭を高く掲げ、地獄の深淵から生還した熟練兵のような揺るぎない自信を放っていた。
先頭に立つラッキーは、ブーツに付着した二、三の緑色のヘドロの飛沫を除けば、汚れひとつない姿だった。
彼らは通常の報告事務官たちを通り過ぎ、最高司令部の別館へと直行すると、任務を命じたあの傷顔の高級士官との即時謁見を要求した。
高級士官は重厚なオーク材のデスクの後ろに座り、地元のならず者の暴力沙汰か、排水溝の野犬の群れに関するありふれた報告を予想していた。分隊が入ってくると、彼は目頭を指でつまみながら顔を上げた。
「分隊長ラッキーか」新兵たちの泥汚れに目をやりながら、士官はため息をついた。「戻りが早いな。失踪の原因は見つかったんだろうな? 排水溝を拠点にしていた二、三人の痴れ者か?」
「否定します、指揮官」ラッキーは低く答え、部下たちに証拠を提出させるために脇へ退いた。
レンが一歩前に出ると、肩から重いズック袋を降ろした。そして大げさな動作で一気に持ち上げ、指揮官の整然としたデスクの上に袋の中身をぶちまけた。
**――ズドンッ!**
砕け散った緑色に光る巨大でギザギザの結晶の塊が木製デスクに叩きつけられ、今なお微かな有害なハミングを放っていた。その隣に、タロウが行方不明の見習いたちの血に染まった真鍮製の身元証明タグの山を置いた。
高級士官は硬直した。その瞳は光り輝く錬金術の核に釘付けになり、傷のある顔から完全に血の気が引いていった。
「神々よ……」椅子が後ろに倒れるほどの勢いで立ち上がりながら、指揮官は息を呑んだ。「これは……醜鬼の核か? それもA級変異の……!?」
「旧錬金下水道は有害な廃液で満たされています」ラッキーは巨大な腕を組み、淡々と報告した。「違法な不法投棄場として利用されていたのです。その廃液が行方不明の市民の遺体を蘇生させ、グールの群れへと変貌させました。その核は、グールを使って地上から新たな肉体を連れ去らせていた、三メートル超の合体生物のものです」
指揮官は完全に狼狽した様子でラッキーを注視した。そして、かすり傷ひとつ負っていない五人の新兵へと視線を注いだ。
「貴様は私にこう言いたいのか?」わずかに声を震わせながら士官は言った。「線なしの新兵五人と、任命されたばかりの分隊長一人が閉鎖空間へ踏み込み、アンデッドの群れと交戦し、A級の錬金術醜鬼を討伐し、誰一人怪我なく帰還したと……!?」
「その通りであります、閣下!」圧倒的な崇拝の念を抑えきれず、タロウが叫んだ。「隊長が前線を一人で支えたのです! 隊長は素手で怪物の胸を撃ち抜かれました!」
指揮官は砕けた結晶から、ラッキーの完全に寛いだ平然たる表情へとゆっくり視線を動かした。目の前に立っている男が単なる優秀な戦士ではなく、「歩く攻城兵器」そのものであることを彼は即座に悟った。
室内は長いあいだ静寂に包まれた。指揮官はゆっくりと椅子を起こして座り直すと、デスクの上の書類を凝視した。行方不明事件――単なるD級任務が、街の地下に潜む大規模な不正と不法投棄の危機を暴き出したのだ。
彼は鍵のかかった引き出しを開け、小さなベルベットの箱を取り出した。
「陰陽閣防衛軍の歴史において」指揮官は静かに語りかけた。「配属初日にA級の脅威を排除した士官など、かつて一人たりとも存在しない」
彼はデスクを回り込んでラッキーの前に立ち止まった。手慣れた手つきで手を伸ばすと、ラッキーの襟元から一本線の銀の階級章を取り外した。
「只今を以て、貴官の分隊を武功により正式に褒賞する!」新たな敬意を響かせながら、指揮官は宣誓した。彼は箱から新しい真鍮製の階級章を取り出すと、元の場所へ正確に留めた。
それは、二本の銀線が刻まれた輝かしい階級章だった。
「昇進おめでとう、ラッキー小隊長」指揮官は一歩下がり、隙のない敬礼を捧げた。「これで貴官には五〇人の小隊を指揮する権限が与えられた。貴官にはその手腕がすぐに必要になる予感がするよ」
背後では、レン、タロウ、そして残りの隊員たちが誇らしげに顔を輝かせ、新しく昇進した小隊長に敬礼を送っていた。
ラッキーはただ深く頷いた。表情こそ落ち着いていたが、その瞳には危険で満足げな笑みが浮かんでいた。軍に入隊してわずか一日、彼は早くも階級を倍に跳ね上げたのだ。
『薬学の都』は、自らの城門の中にいかなる存在を招き入れてしまったのかを、近いうちに否応なく思い知ることになる。




