第三十話 油断
ー前回のあらすじ
凩 摩稀と水無瀬 雫の出会いが明らかになり、凩 摩稀の覚醒により傀儡の魔戒に勝利した。
傀儡の魔戒を討伐した直後。
山の奥、木々が密集し、わずかに開けた場所に冷たい気配が漂っていた。
――あいつやられたか
乾いた足音が、落ち葉を踏みしめながら近づいてくる。
ザッ……ザッ……
落ち着いた声が空気を揺らした。
「やっと一人来たか」
――こいつが……!
魔虎は、これまで感じたことのないような圧迫感に、無意識のうちに息を詰めていた。
視線の先に立つ存在は、ただそこにいるだけで、山そのものを支配しているように見えた。
瞬のいる場所では、空気が一変していた。
瞬の雰囲気が、刃のように研ぎ澄まされていく。
――こいつ……急に雰囲気が……
「輪廻解錠――音響乱波・轟!」
指を鳴らす乾いた音と同時に、さっきよりもさらに高周波の衝撃が山の木々に反射し、四方八方から襲いかかる。
だが――
「輪廻解錠――瞬華」
瞬の姿が、掻き消える。
次の瞬間には別の位置に現れ、また消え、また現れる。
まるで影が分裂したかのように、瞬間移動を繰り返しながら、音波の魔戒の周囲を回っていた。
――どういうことだ……なぜこれを喰らって鼓膜が破れない……
――まさか……!瞬間移動する一瞬、その間はおそらく何も聞こえていない……だから聞こえるのは現れた時のその一瞬だけ……ずっと聞くより、ぶつ切りで聞く方が効果が薄い……だが、それでも無効ではない……!
――そして何より……こいつの瞬間移動には、決定打がない……!
思考がまとまった瞬間。
瞬が、一瞬で距離を詰めていた。
「終了……」
視線を落とした魔戒の目に映ったのは、すでに自分の胸部――核の位置に当てられた拳。
「発勁……」
体の内側に叩き込まれた強烈な衝撃が、肉体を通り越し、核を粉砕する。
音波の魔戒は、抵抗する間もなく霧散した。
消滅していくその姿を見下ろし、瞬は淡々と語る。
「僕の能力は決定打がないからって、油断してたでしょ。ダメだよ、油断したら。能力で倒す必要はない」
「能力が決め手に欠けるなら、"能力以外を鍛えればいい"」
「決定打がない代わりに、"能力以外で魔戒を殺す術"を身につけた」
「それが、そこまで戦闘向きじゃない僕が、援護部隊ではなく……"戦闘部隊・第三頭"である理由」
「……ま、能力頼りの君には分からないだろうけど。 死んでるからそもそも無理か」
斑目 瞬、音波の魔戒――瞬殺。
一方、才牙の方は――才牙の視界が、突如として歪んだ。
「輪廻解錠――転眼」
視界が上下逆転する。
「ッ……!」
だが、才牙は即座に呼吸を整えた。
――上下反転か……だが、視界が反転しても、実際の位置関係が変わるわけじゃない
「輪廻解錠――紅血刃」
血の刃を飛ばすが、あっさりとかわされる。
「チッ……」
「へぇ、やるなぁ」
次の瞬間、右からの蹴り。
才牙は反射的に腕で防ごうとする。
――右……!いや、左……!
判断が、わずかに遅れた。
左頬に衝撃が走る。
「クソ……」
反顛羅はニヤリと笑った。
「頭では分かってても、右から来たら右を守っちゃうよなぁ」
「仕方ないさ。本能なんだから」
才牙は反顛羅を睨みつける。
――強いな……
「輪廻解錠 紅蓮牙陣」
足元から血の刃が円陣を描き、回転を始める。
攻防一体の陣が、才牙を守るように展開された。
「なるほど。俺に攻撃させず、考える時間を稼ぐってわけか」
――視界が反転してる中で赫翼を使うのは危険だ……どうする……
――いつまで待てばいいのかなぁ
反顛羅が、仕掛けた。
「輪廻解錠――双眼遠邇」
遠くが近くに、近くが遠くに。
距離感が、完全に狂わされる。
反顛羅が地面を蹴り、後方へ跳ぶ。
――近っ……!
錯覚に反応し、才牙は能力を解除してしまう。
「あれぇ?どうした?なんで解除したんだ〜?」
――はぁ……なんだ、今の……
「本当に、俺じゃ力不足かぁ?」
――コイツ……
ちなみに第三頭とは、3番手のことです!
つまり戦闘部隊の3番手は、斑目 瞬です




