9ー世紀末チキンー
はーい。お疲れ様です。オオウナギ討伐の件でいろいろバタバタしたけど、結果的には丸く収まった。最終的にはオオウナギという成果が手に入ったのだから収支的にはプラスかな? レオパード部隊の面々も反省してくれたしね。
ただ、湖面も大荒れになってしまったので、釣りは終了。しかし、時間は中途半端。さてどうしよう? となったのだが、その時に何食わぬ顔で帰還して来たアカメ二号の言葉に全員の興味が向いた。
「ご主人。気になる報告がある」
「あ、アカメ二号、お帰り。報告って水の魔晶石以外に何かあったの?」
「はい。水の魔晶石を採取しに向かった先に……。神殿がありました」
「神殿?」
「はい。かなり古い神殿で、人の手は入っておりません。軽く探索した結果、魔物も住み着かず、閑散とした遺跡でした。ですが、あの遺跡、……気になります」
「アカメ二号が言うとなると気になるね。なら、いっそのこと行ってみる?」
「危険じゃないかい? 旦那の動きは素人同然だぞ?」
シズカから手厳しい反対を食らったが、僕とシズカ以外のメンバーで遺跡内部を調査。僕は遺跡があるという孤島までという所で交渉は成立した。皆、もう少し釣りをしていたかったこともあり、不完全燃焼だったらしい。新しい娯楽があればそちらに目移りするのは至極当然だろう。僕もできれば中に入りたいけど……。それは護衛のシズカからの猛反対を受けたので今回は諦めた。
それからもう少ししたらばアカメ一号が交代の時間としてこちらに来ることになっているらしい。全員がこの場から離れてしまうとアカメ一号達が緊急事態と判断しかねないので、僕とシズカはしばらく残りアカメ一号達を待つと言う行動予定となった。
「んお、おお? クロコ一号、いい乗り物じゃねーかよ」
「うむ。見た目はアレだが存外と乗り心地はよいぞ。主殿、家禽の件はこれで解決だ」
「何その世紀末覇者みたいな鶏……」
まさか一発でお目当ての鳥を見つけて来るとは思わなかった。しかし、現実にはかなり好条件な鳥型魔物を得たらしい。
アカメ一号の鑑定結果では“モヒカンチキン”と言う名前の鶏型魔物で、かなりの速度で増殖し喧しいこと以外は地球の鶏よりも良いと言える。このモヒカンチキンは生態系最下位の位置にあり、守ってくれる対象には従う習性があるとのこと。アカメ一号は十羽程連れてきて居るが、1週間もあれば成鳥の数が倍になるような繁殖力をしているらしい。卵も食用としては良質と鑑定済み。まさに100点満点の家畜だ。増やし過ぎには注意がいるかもだけど……。
「モヒカンチキンの寿命はかなり短いようです。そして何より弱い……。繁殖力はかなり高いですが、回転率も非常に高いかと」
「え? 数の調整のために〆る必要がないってこと?」
「はい。モヒカンチキンの寿命は約半年です。また、モヒカンチキンはトサカのある個体しか存在しません。卵も個体差はありますが、日産五十個は固いと鑑定により確かめております」
「なんか……儚いヤツらだな……」
「それだけ世紀末な世界を生きてきたのでしょうな。どれだけ狩られても絶えないと言う生存戦略のようです」
まさに悪役の代名詞のようなヤツらだな……。しかも木っ端の雑魚キャラの。まあ、家畜としては優良な種だから、我が拠点で保護決定。イキッたチンピラみたいな鳴き声は鬱陶しいけど、卵が美味ければなおヨシ。肉は二の次で構わない。定期的に暴れないと気が済まないペロ助が狩りに出るし。
アカメ一号と三号、四号、五号、六号が合流したので、一度非戦闘員を拠点に護送するために僕らも同行する。
湖から拠点まではそこまで危険ではないが、全く自衛できないチキンを連れているので気をつけたい。僕も魔法戦闘ならそれなりだから防衛を主軸にしたロールで行こう。
「主殿は魔法術以外にも興味はおありですかな?」
「そりゃもちろん。使える手札は多いに限るし」
「恐らくなのですが……。主殿の素体を見ておりますと、大概の術法は習得可能なのではないかと考えます」
「そう思った理由を詳しく」
「承った」
アカメ一号は魔法と導術と呼ばれる術形式を使える。その導術の素養があるからこそ彼には何となく判ったらしい。しかし、それでは他の術系統を使える理由にはならないはずだ。……が、アカメ一号が言うには僕は既に魔法…もしくは魔術とついになる“聖法術”を使いこなしていると言う。
その確証は以前のパワーレベリング中の事案が証拠らしい。
魔を司る術法が魔法である。魔法を発動するためには魔力が必要。しかし、魔力の根源の魔素は過剰となれば生命体にとっては有害となる。その作用から肉体を守る保護大系が聖氣による聖法術となるのだ。僕は通常なら体が壊れてもおかしくない魔力を体内で自由に変動させ、肉体を極限まで強化できてしまう。通常の生命体では聖氣の発生量が微々たる物であるため、ダメージの蓄積が過多となるから禁忌とされる行為だ。魔法が超常現象を内から外に顕現させる術法ならば、聖法はその身に超常の力を映し込む術法。この対極の術法を微細に扱える僕なら、取っ掛りさえあれば導術や“妖術”、その他の特殊な術体系を会得できるかもしれないというわけだ。
「我々をこの世界に投げ込んだあの男が主殿に与えた権能にもいくつか原因はあるでしょう」
「その心は?」
「職人技ともなると、微細な調整は付き物。その上で幅広い範囲を網羅した生産職ともなると……。知識の活用や鍛えようによってはその方向性が大きく変わりましょうな」
確かに僕の肉体自体は特に特別なことがあるようには今の所は感じない。しかし、それを極限まで鍛えることが容易になったら? 0に何をかけても0のままだけど、僕と言う存在がある以上、0ではない。そこに倍々ゲームの様にパンプアップがかかるチートが加われば……。ぶっ壊れキャラクターのできあがりだ。アカメ一号が言いたいのはそういうことなのだろう。
現にアカメ一号に導術の基礎を口頭で説明を受けただけで、あっさりと初級導術を習得できてしまった。
そもそも“導術”とは何ぞやって話だったんだけど。簡単に言えば肉体に内包する生体エネルギーを魔力の代わりに使う術法だ。だから、そもそもの地力と魔力操作能力が高ければ、割と簡単に導術は習得できる。ただし導術はかなり燃費の面で悪いな。強力な魔力よりも体に与える負担は小さいけど、その分だけスタミナの消費量が割高な感がある。メリットとしては氣功とかチャクラとかそういう感覚的な物だから、肉体の外の概念に引っ張られない分だけ相手に気取られにくい。さらに発動までが比にならない程速く、煩雑な下準備がいらない分だけ扱いやすいかな。
「旦那あ……。まあたぶっ飛んだことしやがったなあ……」
「それは今更であろう? 我々も含めて世界の境界を渡ったのだからな。シズカ殿」
「それを言われちゃぐうの音も出ねーけどな? 光の神からもらった知識でも複数の術法を扱う術者は希少って言ってんだぜ? 基本的な知識しかないこの特典に入ってんだから、それがスタンダードなんだろ? いろいろヤバいだろ」
その辺のことは言い出したらキリないけどね。
とにもかくにも僕が幅広い術系統を使用できるだろう道筋は立った。それからもアカメ一号にコツを教えてもらい、かなり導術を物にできたと思う。この順応力がヤバいんだろうな。
そうこうしている間に拠点についた。
大門の上にある見張り台からマサムネが顔を出し、僕がいる事を確認すると門扉を開けてくれる。この門扉も魔道具の類いだ。スイッチ一つで開くのは便利だけど、こういう大型魔道具が配置されてる場所ってあるのだろうか? 大国の城に敷設された城門なら有り得なくはないかも……。まあ、気にしても仕方ないことか。
「お早いお帰りですな。して、その頭の悪そうな鳥は?」
「あー、うん。アカメ一号が見つけて来た採卵に適した鳥だよ。モヒカンチキンっていうらしい」
「実に下品な鳥ですが……。本当に大丈夫なのですか?」
「鑑定スキルは嘘をつかないからね。アカメ一号だけじゃなく、僕も鑑定して確認したよ。家畜としては優良種だと思う」
マサムネはその外見に対してずっと微妙な表情だったが、彼も鑑定したのか家畜としては認めたようだ。事前に鶏舎は用意されていたので、マサムネに超ビビっているモヒカンチキン達は新居に落ち着いた。
チキンの件はこれで一旦終わり。後はチキン達の様子を見ながらの飼育になる。どこからか現れたレオパード部隊の居残り組であるスーパーマックスノー隊員が、ザラザラと餌入れに穀物や豆類を入れ、僕に挨拶して洞窟の中に消えて行った。それを見送り、チキンの食事の様子を少し観察してから、マサムネに事の報告を行う。
小山の山頂付近にある湖のこと、オオウナギ事件、アカメ一号が発見した世紀末チキンの事。これらが今回の要点だろう。白身魚や鱗系の素材を手に入れたいなら湖に行けばいい。湖の周辺の生態系は豊かで、大小さまざまな野生動物や魔物が住み着いていて資源的にも豊富な印象だった。
「資源に関してはいいとしても……。湖の孤島に遺跡…ですか」
「やっぱり気になる?」
「ええ。あの湖がどのような湖か確かなことは分かりかねますが……。この小山の付近は魔晶石が数多く埋没しています。そう考えますと、それが理由で作られた何らかの目的で作られた神殿と言う事でしょう」
「だよね~。それでさ。僕達も孤島までは様子を見に行こうと考えてるんだけど、戦力を抽出してもいい?」
「はい。ミギワとナギサをお連れください。こちらはわたくしと太陽のみで問題もありませぬ。いざとなれば生産二班の者も戦えますので」
僕達はマサムネに送り出され、再び沢に沿うように小山の山頂を目指して登って行く。あの湖が水源なのは間違いないし、水に溶け込んでいる魔素の量が非常に多い。つまり、僕らの拠点に湧いている湧水と同様で“水の魔晶石”が関わっていることは明白だ。
ただ、ちょっと気になる点もある。水の魔晶石が水没していると水の魔晶石は空気中から魔素を吸着できず水の発生が鈍くなる。魔晶石はどの魔晶石も同じで、最も魔素を吸着し易い空気中から旺盛に魔素を集める。それ以外からは魔素の吸着が量が減るので、どの魔晶石もいずれは不活化してしまう。洞窟の奥に埋まっていた火の魔晶石も、何かの理由で不活化してしまった成れの果てだった。こういう事だろう。
「それで、アタイらはどうやって孤島に渡るんだい? 自慢じゃないが、アタイは泳げないぞ」
「我々は問題ありませんが、ご主人様はどのようにお渡りになられるおつもりですか?」
「先行部隊はペロ助の背中に乗って行ったもんな。じゃ、僕は早速覚えた導術で行こうかな? 三人共僕の腰にロープを巻いてそれに掴まって」
「主殿よ。我らはどうしたらよい? アカメカブトトカゲ特殊部隊は全員が遊泳はできるが、速度は出ぬぞ」
「シズカかミギワかナギサにへばりついて」
「う、うむ……」
導術は確かに燃費は悪いが、扱い易い術だからこういう場面では便利だ。様々な系統の導術を併用しても魔法のように負担がかかることも無い。やっぱり燃費の面では魔法には及ばないけど、応用力の面では段違いだ。
魔法なら複数の術式を展開しなくてはならず、その維持にも神経を使う。しかし、踵の部分から空気を噴射し、足の裏には空気の層を貼りつけて水面を滑走。先ほどの大ウナギ騒動で魚が警戒しているのか、僕達を襲って来ようと言う剛の者は現れない。安全でいいが嵐の前の静けさとも言うから、かなり不気味だ。この湖は面積に対して生命体の密度が非常に高い。探知魔法でもたくさんの生命体の反応があるのに、それらが全く動こうとしないのもそれに拍車をかける。
「静かだな。さっきまでの賑やかさが嘘みたいだぞ」
「気味が悪いですな」
「私も同意ですわ。これは何かの前触れか、既に何かが起きているのか……」
「これは初っ端から予定変更しなくちゃいけないかもしれない。あ、それから陸に着く直前に皆を陸に慣性のまま投げ飛ばすから。そのタイミングでロープからは手を離してね」
僕の指示からおよそ五分。確かに島が見えて来た。かなり小さな島で、外縁部は砂地で中心に向かうにつれ石材での舗装の痕跡が見受けられる。僕は宣言通りに急加速し、シズカ、ナギサ、ミギワのロープを掴んで若干上方に向くように力を込めた。流石と言うべきか、三体は各々の方法で難無く着地しており、僕も速度を緩めつつ砂地の地面に足をつける。かなり石英の含有量が多い砂だな。かなり白い。
そんなことを考えていると、いきなり大きな爆発音が聞こえた。
音が聞こえた方向は間違いなくボロボロの遺跡の方向。それから少し遅れ、聞き覚えのあるペロ助の戦意高揚の大咆哮が響き渡った。爆発音だけならアカメカブトトカゲ特殊部隊の誰かがルートクリアのために発破工作をしたとも考えられる。だけど、暴れん坊の拳闘士であるペロ助が咆哮を上げたとなれば、何かと戦っていることは間違いない。僕もシズカに視線を向け、地下に向けて下っている階段へ駆けて行く。これは何かあったに違いないのだ。




