8ーそろそろ行動範囲を広げてみようー
はい。こんにちは。異世界転生後、拠点を拡充してから数日。異世界に来てから14日経過した。
目指すは“無難にニューライフ”。という事で、人里にはあまり触れずに“無難にニューライフ”を心がけ、拠点周りで大人しく慎ましく生活している。……一部、はっちゃけている連中もいるけど。
「お疲れ様にございます。主殿。本日もせいが出ますな」
「お疲れ、マサムネ。そっちの調子はどうだい?」
「こちらは大きな変調はございませぬ。あるとすればペロ助の大暴れくらいでしょう」
「相変わらずペロ助はオオトカゲ系の魔物を狙ってるの?」
「そのようですな」
最近は僕も体を動かすようにしている。地球に居た時とは常識からして異なるようで、この体は使えば使うだけ鍛えられ、その分だけ成長してくれた。初期は魔法とスキルの修練に注力していたが、今は行動範囲を拡げるために積極的に肉体労働している。防壁の増設当時と比べればかなり動きもまともになり、前世の時よりも動けているのではないか? と、思える程度にはなった。
ただ、前世のアニメであった某探偵のように、“見た目は幼児、中身は成人男性”なので違和感はぬぐいきれないけど……。
僕の仕事はペット部隊の監督と、僕にしか作れない特殊な製品の類を生産すること。生産二部隊のレオパード部隊とファットテール部隊でも作れる物は、もう僕の手から完全に離れ好きなようにしてもらっている。防壁内に広がっている農園はファットテール部隊が占有しているし、レオパード部隊の錬金術班は細かいパーツが作れるようになった段階から魔道具製作を始めそちらの作業は独占状態。僕が関わるのはあくまで僕にしかできない技術や、僕の莫大な内包魔力に物を言わせた力技に限るのだ。
「確かにあの肉は美味しかったけどね」
「ええ。ワイバーンの焼肉は絶品でしたな。ペロ助の気持ちも分かりますが、……あれらも数は少ないですからな。行動範囲を拡げなくてはなりませぬ」
「そうか……。そろそろ行動範囲を拡げるのはありかもね」
「おや? 最近は拠点内での作業に注力されておりましたが、外出なされるのでしょうか?」
「それもありかもね。体も動くようになってきたし」
防壁を作ってからは害獣の食害はほとんどなくなった。あるとすれば空からの襲撃や地中からの襲撃。多くは雑食性の鳥型魔物で、レオパード部隊が作ったトリモチトラップにより獲物にされている。極稀…というか、一度だけだけど、歩廊の上で外敵の警備をしていたマサムネを狙ってワイバーンが急降下して来た事件くらいだろうか。
美味しかったのはそのワイバーンであるわけだけど……。
そのワイバーンは実に哀れだった。急降下して掻っ攫おうとしたターゲットのマサムネに反撃され、それが死亡事由になったんだからね。マサムネが投擲した魔装の大槍に右翼の付け根を貫かれ盛大に墜落。しかも防壁に突っ込んで頭蓋と頸椎を派手に損傷したのだ。……肉が自ら飛んできてくれたので、僕も含めてレオパード部隊とファットテール部隊とで解体した。
ワイバーンは素材としても上質だったわけだけど、一番際立ったのは肉。ワイバーンの焼肉は絶品。上質な和牛みたいな滑らかで、甘い油がくちの中でとろけるのが実に美味。部位によっては岩塩と新作のワサビを添えて刺身に。希少部位はもちろん、可食の内臓も美味かったな~……。個人的にはワイバーンの舌は至高! 骨周りの綺麗に削ぎ落せなかった肉をひき肉にし、新作の辛くないタマネギなんかの野菜とコネて作ったハンバーグモドキも大人気だったと思う。その内には可食卵が得られる家禽を手に入れたい。そうしたらば完璧なハンバーグが……。
「ですが、主殿が御身自らワイバーン狩りを指揮なされるわけではありますまい?」
「うん。美味しい肉ではあるけど、ああいうのはたまに食べるから良いんだよ。だから、家禽の代わりにできそうな鳥を探すついでに、拠点の水源にもなってる山頂付近にある湖に行こうかなって」
「なるほど。それは名案ですな。鳥は卵を得るだけでなく肉にもなります。わたくしは拠点の警備につきます故、シズカを護衛につけましょう」
そういう相談がなされたこともあり、暇なメンバーを募集して探索と釣りツアーに出かける事にした。某ハンティングゲームにもあった素材ツアー的なノリだね。
僕の護衛にはマサムネの奥さんのシズカが来た。基本はマサムネと交代で防壁周りの警邏を中心に働いてくれているが、こういうタイミングでは身辺警護についてくれる。攻防のバランスがよく、頭もキレるのでとても優秀なのだが……。性格がキツいので小さいペット部隊からは怖がられていたりする。僕は気にしてないけど。
他はレオパード部隊とファットテール部隊から興味を持った数体。アカメカブトトカゲ特殊部隊の全員が護衛や探索要員を兼ねて来た。アカメカブトトカゲ特殊部隊は特殊作戦がない限りは洞窟内の警備員的な立ち位置で、最近は暇を持て余していた。もちろん、訓練や鍛練はしているけど、彼らは特殊部隊と言うだけあり、特殊な場面で輝く。平穏無事な毎日では彼らは何かと手持ち無沙汰なのだ。
「採卵用の鳥は我らが探す。主は釣りを楽しんでくれ」
「一号はいいの?」
「我はよく釣りに出る。たまには働かねば体も訛る」
「ははは……。了解。じゃ、頼んだよ」
「うむ。期待されよ。二号を班長に七号、八号、九号、十号を警備の足しに置いていく。折を見て交代致す。では……」
アカメ一号はたまに大物を持ち帰って来ることもあるくらいには釣りが好きだ。本音としては釣りに参加したいんだろうな……。
アカメカブトトカゲ部隊は一号父さんと二号母さんが最年長。転生と同時に年齢がリセットされたから、大きさとしては同列に見える。…がやはり生きてきた時間と、多少なりとも野生を体感した経験値に違いがある。細かい事だけれど、一号と二号はワイルド個体。野生化で採捕されてショップに並んだ個体で、僕が一目惚れして買った。三号から十号までの子供達は全て一号と二号との間に生まれた子供だ。僕の飼育下で生まれていることもあり、若干警戒心が弱いと感じている。その分を一号と二号が指揮統制して補い、経験を積ませているのだろう。先程から餌捜しのために石をひっくり返している一番若い九号と十号はまだまだ落ち着きがないしね。
「シズカ殿、よろしいか?」
「どうした? クロコ二号」
「私はレオパ部隊のマッドサイエンティストから水の魔晶石を採取してくる依頼を受けています。我が子達をその間預けますので、離れてもよろしいか?」
「おう。構わんよ。アタイが居ればヤバいのが来なければどうとでもなる。安心して任せろ」
「有難い。では、行って参る」
アカメ二号は水面を物凄い勢いで爆走し、湖の中央にある島へと向かって行った。
アカメカブトトカゲ特殊部隊は魔法以外にも、“導術”と呼ばれる少し形態の違う術法が得意だ。特殊部隊と今風な部隊名だけど、彼らは言わば忍者のような能力傾向をしている。最新鋭兵器の運用も可能な忍者というわけだ。
小さなペット部隊達の中では身体能力が突出して高い彼らの動きは実に見事。もう見えなくなった……。
という事で、僕はその辺の石をひっくり返して虫やミミズを採取し、十分な数になるまで釣り餌を採取し始める。釣りには全く興味のないシズカは着かず離れずの距離を取り、周辺をしっかりと警戒。僕も自衛はできるが、一応は主人と認めてくれているのか、僕の警護は怠らないのだ。他の同行者も自衛ができると判断されているのか、レオパード部隊の面々やファットテール部隊の面々は丸っと無視。僕と同じように虫やミミズを中心に釣り餌の採取をしている。
「釣りって楽しいのかい? 旦那」
「どうかな~……。僕は気分転換程度のつもりで来てるから」
「そういう事かい。まあ、そうだよね。旦那の竿にはピクリとも当たりが来ないからな」
そうなんだよね……。残念ながら我が竿には当たりは一度もない。餌にも食いついた様子がないのが気になる。気になるけど、同じ餌を使っているスーパータンジェロ隊員の竿は大盛況の入れ食い状態。試しに僕が採取した餌を使ってもらっても、僕の竿には当たりは無し。対してスーパータンジェロ隊員の竿は大賑わい。このままボウズなのは嫌なんだけどな~。
「……旦那。ちょいと貸してみな」
「うん。はい」
「旦那はさ。気配を殺し過ぎなんだよ。そこだけぽっかりと穴が開いたように気配が消えてるから、相手も警戒して近寄って来ないんだ。…っ! ほらっ」
「適度に気配を消すのって難しいんだよね」
「まあ、いいんじゃね? 旦那は釣れなくても他の連中が釣ってるし。それより、この魚って美味いのか?」
周囲のメンバーの釣果を見る限り、アユやマスのような魚が良く釣れていた。時々コイのような巨大魚も釣れている。種類や大きさ別に分けて内臓を取り出してみたけど、想像通り多くは白身魚だ。たぶん焼き魚にすれば美味しいと思う。ただ、中には食べ方…いや、食べられるかわからない魚も混じっていた。
今シズカが釣り上げたキラキラとラメのような光沢のある鱗をした、アロワナみたいな巨大魚とか特に。
それから異世界だからなのか? 明らかに海水魚なはずの形の回遊魚や、どう見てもサメ様だと思う形状の魚も釣り上げられている。あと、種類が分からない黄金色に輝く魚や、極彩色の派手な見た目でかなり凶悪な歯が並んだ魚とか……。
まあ、実食するかはその時考えるとして、レオパード部隊が製作したマジックバッグに魚を詰め込んでいく。ナマモノを運搬するために数種類作ってもらった内の一つで、これは冷蔵効果と時間経過を遅らせる効果がある。他にも瞬間冷凍効果のある物など、複数種類作ってもらったけど今のところはこれしか使ってない。
「……なあ、アレ、ヤバくないか?」
「どれ? どこ?」
「アレだ。レオパ連中六匹で引き摺られつつあるアレ」
「レオパード部隊って結構な馬力あったよね?」
「ああ、やっぱヤバいだろ!! 馬鹿野郎ッ!! 竿を放せッ!!」
竿と一緒に六体のレオパード部隊のメンバーが宙を舞い、そのまま水面に吸い込まれてしまった。アイツら水中に引きずり込まれても竿を手放さないつもりか? 竿はもう一度作ればいいけど、彼らの命は一つきりだ。僕も焦っていたのだろうが、僕が湖面に近づいても何も解決しない。逆に危険にさらされてしまう可能性の方が高い為か、シズカからの制止を受けて漸く状況を理解した。
口調は荒いし、若干粗野なシズカだがとても冷静な判断ができる。そのシズカが一瞥をくれると、近くで石をひっくり返し、釣り餌を探していたアカメカブトトカゲ特殊部隊が踵を返す。
確かに水辺が好きなトカゲというイメージだったけど、ダガーナイフを咥えて四体のアカメカブトトカゲ特殊部隊が潜水していく。数分した頃に湖面が大きく揺らぎ、近くの水面に巨大な影が見え始めた。僕にはその全様がつかめず、原因となった何かの特定にも至っていない。その間もアカメカブトトカゲ特殊部隊がどんな戦い方をしているのか知らないが、水中に血が流れ始めた。シズカは口を開かずに僕を護る体勢のまま動かず、状況を俯瞰。
「うおおい! 楽し気なことしてんじゃねーかよおぉう!! 俺も混ぜろおぉぉぉい!」
……たぶん、転生後一番のアホ面を晒したと思う。湖の近くの雑木林から爆走するペロ助が大ジャンプし、ルパンダイブの姿勢をとったまま荒れる湖面に飛び込んだ。そのあり得ない登場から五分程で事が片付いた。どうもペロ助は水中でもマイナス補正なく戦えるらしく、ペロ助が加わってからは直ぐに原因の魔物が討伐されるに至ったのだ。
ペロ助は水面から飛び出しながら某格ゲーの打ち上げ、大ぶりにアッパーカットをかましながら陸に帰って来た。その体にアカメカブトトカゲ特殊部隊の面々がしっかりとしがみついており、遊泳力の差を感じさせる。とにかく彼らも無事でよかった。
レオパード部隊六体を引き摺り込んだのは、なんと巨大なウナギ……。その長さは目測からして10mは余裕で超えている。ちなみに、流血はしていたが、厚い外皮と粘液の膜がありアカメカブトトカゲ特殊部隊の攻撃はほとんど効果なし。ペロ助の打撃もあまり効果がなく、仕方なく水中から放り出すために叩き上げたそうだ。そして、トドメを指したのは僕の警護役のシズカ。僕らの方にぶっ飛んできた巨体をものともせずにタバルジンで断絶。実に豪快だった。そして、肝心なレオパード部隊の皆の安否だが……。ペロ助がオオウナギの口を無理やりこじ開けると、意外と元気そうな様子のレオパード部隊の隊員が出てきた。
「そんでええ? この間抜けな連中はどうするんだあ? 説教コースかいよお?」
「おお……。皆無事だったんだね。良かった。でも、……こっちにおいで。そんで正座」
「「「「「「はい……」」」」」」
何とレオパード部隊の面々は引きずり込まれた際、わざと大ウナギの口の中に入り込み、難を逃れていた。土魔法で口内に鋲を打ちこんでそれにしがみつき、腸へ流し込まれないようにしていたのだ。オオウナギが大暴れしていたのは、アカメカブトトカゲ特殊部隊の攻撃が原因ではなく、口内に入り込んだレオパード部隊の面々が上位土魔法“アーススパイク”で内臓をズタズタにしていたかららしい。
レオパード部隊の面々が助かったのはいいのだけど、今回の彼らの行動は少し無謀が過ぎる。その点を少しチクッとやっておいた。前世で一度死んだんだから、幸運で得た二度目の命を粗末にするような行動はして欲しくない。これからは命を大事にしてほしい物だ。とにかく、無事でよかったよ。




