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僕は無難にニューライフがしたい  作者: OGRE
拠点の拡充を始めよう
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72ーユグドラシル・エルフ王国勢力VS魔物の王~諍いの終息~ー

 エルフの中に三派閥が存在しており、その中の一つの派閥とコンタクトが取れた。なので、その派閥の長と会談し、おおよその行動指針を打ち立てることができた。これまでは“エルフ”という大きな範囲を無作為に押し込んでいただけだが、ここからは話が多少変わって来る。

 まず、僕が行ったのは鉱石神の神器“偽核の心臓”からの遠隔操作で、シザーズアントの大軍を動かすこと。まだ開戦したわけではない。殲滅を行うための下準備をしたに過ぎない。反王権派にも非戦闘員は存在し、女性や老人、子供が反王権派であるキーディ派の本拠地に集められていることも情報として得ている。なので微調整をしながらキーディ派に属している連中の心をぽっきり折ることが僕の狙いだ。

 まだ手加減ができなかった頃は8000人近い大軍勢にそのまま嗾けてしまい、血の海を作るなんてミスをやらかしたけど、もうそんなことはない。とりあえずシザーズアントの大軍を行軍させ、キーディ派の行動予想範囲を制圧しつつ、行軍上の自由度を奪う。それと並行し、現体制の女王派の動きも制限するため、ユグドラシルエルフ王国の宮殿内からもシザーズアントを解き放って押さえつけたいと思う。


「……本当にこんなことが起きるのだな。これは恐ろしい事だぞ」

「ええ……。魔物の森の王、恐るべきです」

「がははははは! まあ、そうだわなあ! 旦那はおっそろしい男だぜ? 性格の悪い悪党なんて余程可愛く見えるからな」

「貴殿はユウゼン殿の臣下なのだろう? その言い草はどうなのだ……」

「かまやしねーよ。旦那はこの程度言われたくらいでブチ切れるような器はしちゃいねー。だからこそその器が割れた時が恐ろしいんだがよ」

「許容量の大きな器が割れた時の方が零れる水は多く、濡れる範囲が広い。そう言いたいのか?」

「お、よくわかるじゃねーか。やるじゃねーか、エルフの嬢ちゃん」


 一応もと王女様にお嬢ちゃん呼びはやめといた方がいいと思うよ?

 まあ、ペロ助の言葉は肯定も否定もしないでおく。確かに否定できない面もあるし、否定しておきたい僕の本音もあるからね。僕はそんな物騒な男じゃない…と思いたい。確かにハルドエン帝国の時はやらかしたけど、あれだってやりたくてやったわけじゃない。ケアレスミスと言うには取返しのつかないミスだったとは自覚してるけど、仕方ないじゃないか……。蟻の操作は全体操作か個体操作しかないんだから。

 僕は殲滅開始のタイミングと停止のタイミングをヴィヴィデル姫にお願いし、偽核の心臓でシザーズアントの行軍に集中力を注ぐ。そうしないと戦闘の意志を持たない者まで皆殺しとかは、軍隊を壊滅させた時とは違って後味が悪すぎるから。僕の心情的にも良くないので、今回はそれだけ丁寧な操作を行うのだ。

 キーディ派の勢力はユグドラシル・エルフ王国統治下でのおおよそ6割から7割。かなりの数がキーディ派についているのは、女王の政権時代の不安や不満がそれだけ大きく、ユグドラシルが朽ち枯れたのは女王政権の致命傷になったに違いない。厳密に言えば第一の世界樹ユグドラシルは僕の拠点で生きているのだが、ややこしくなるので今はそれは言うべきじゃない。何事にも順序がある。今それを言うとかなり混乱させてしまうから。


「この地図の魔道具も恐ろしい物だ。これほど精度の高い軍事情報を詳らかにされるだけではなく、どこにどの人員や戦力が駐屯しているかまで丸裸にされている。こんな物が世に出回れば世界各地の戦争の概念が変わるぞ」

「ああ、その心配はしなくていいぞ。旦那の話じゃその地図魔道具だけじゃあどうしようもねーってことだからな」

「それだとしてもこの魔力を流しただけで地図を浮き上がらせる魔道具……。私はこれだけでも欲しいぞ」

「たぶん、旦那と交渉したら普通に売ってくれると思うぜえ? アンタ達に払える対価があればだが」

「……こ、考慮しておく」


 ペロ助……。君は僕の集中力を削ぎたいのかな? 

 ペロ助とヴィヴィデル姫が少し鬱陶しいが、僕はヴィヴィデル姫の側近で、侍従もしているキリニム・フェムルさんが地図を元に出す指示に従ってシザーズアントを配備していく。今はまだ戦闘の準備段階だ。戦は裏表をはっきりとすることで、戦局を大きく揺るがし、その波に乗ることで戦場を支配することができる。表だって行軍しているシザーズアントは見せ球だ。敵として想定している勢力の喉元に食いつき、引きちぎる本命部隊はあくまで隠し球。その隠し球をどこで投げ込むか。これも戦闘シミュレーションの醍醐味でありながら本懐だ。

 そろそろ部隊の大まかな配備が終了するのだが……。まあ、戦場ってのは生き物だからね。何事も思い通りに行ってくれるわけがない。

 今の今まで伏せ耐え忍んでいたのか知らんけど、王都の中に陣地を構えていた女王派がこちらに向けて全軍で突っ込んで来たらしい。しまったな。キーディ派の陣地を優先したからシザーズアントの壁はまだ想定位置に移動させてない。フェムルさんからのその声にニヤリと笑うのは……もちろん我が家の暴れん坊であるペロ助。正直なところ、このまま突っ込ませると間違いなく惨劇が起きる。シザーズアントは殺傷能力を極限まで高め、大軍で大軍をすり減らすための特攻戦力。手加減などという器用なことができる型番のゴーレムではない。だから、この場で動いてもらえるとしたらば、ヴィヴィデル姫の勢力かペロ助以外に居ないわけだけど。


「なあ、旦那。少し揉んできていいか?」

「調子に乗り過ぎて大量虐殺とかしないでよ?」

「でーじょーぶだって! 俺も二段階存在進化個体だぜ? そのくらいの手加減ならしてやれるって。たぶん……」


 その最後の言葉が怖いんだよ。ペロ助は僕の拠点内では群を抜いて戦闘力が高い。そして、戦闘力だけでなく戦闘適性と言う意味でも幅広く、対個人戦か対軍団戦であっても難無くこなす。それから普段は働かさない頭を戦闘の時だけはフル回転させてたのしんでしまう“戦闘狂”タイプだ。こう言ってはなんだが、殺生の概念は抜きに戦闘行為が大好きなので、あまりテンションを上げ過ぎると時折やらかすこともある。そうなれば僕が止めることになるんだろうけど……。まあいいか、エルフさん達に内輪もめをされて怪我人増やすくらいなら、ペロ助のストレス発散にもなるし手加減するって言ってるんだし。

 僕が一つ頷くと、ペロ助は歓喜の叫び声を上げながら高さ20mはある宮殿のテラスから、盛大に飛び上がって消えて行った。

 ヴィヴィデル姫は気が気ではないみたいだが、どっちを心配してるんだろうか? ペロ助を心配しているなら何の問題もない。母親の心配ならその方がいいとは思うけど。ペロ助の体は神器の刃すらはじき返す程度には規格外な硬さをしている。正直な話エルフが神器などを使っても、集団で殴りこんで来ても彼には傷一つ与えられないだろうね。僕だってペロ助相手には割と力を使って戦うくらいなんだから。


「ほ、ほう……、彼は生きた武神のような存在なのだな……」

「武神……いや、そんな御大層な存在じゃないよ。アイツは単なる戦闘狂だから。戦えたらば何でもいいというか……。まあ、あんなやつでもちゃんと理性はあるからね。皆殺しは無いと思うからそれだけは安心して」

「貴殿も忠臣相手に遠慮のない評価をしておるのだな……」

「ウチは風通しがいいからね。相手が本当に嫌がることはしないって常識はあるけど、それなりに言いたいことは皆ずけずけ言うよ」

「そ、そうなのか? 貴殿もそれを容認しているということなのか」

「小さなことを気にしてると、僕の拠点では生活できないしね……」


 実際の所そうだ。毎日一回何かは面白おかしい珍事が発生する。普通なら非日常なことが毎日起きてるし。まずもっておかしいところは、人類種と魔物が共存しているところだろうか?

 ヴィヴィデル姫はお姫様がしちゃいけないようなアホ面を晒してらっしゃるが、そういう反応が実際の所は正しいと僕も思う。僕は魔物の上位存在の魔人であるけど、拠点には様々な種族がやれることを互いに補い合って面白おかしく生活している。別にテイマーがたくさんいるわけではなく、自分の意志で働き、毎日の糧を得ているのだ。そう言えば、彼女らはこの後はどうするつもりなのだろうか。

 僕の拠点での暮らし向きを話していて思い出したので、ヴィヴィデル姫に尋ねてみた。

 ヴィヴィデル姫としてはこの宮殿と王都を中心に再建を望んでいるらしいが、僕からすればそれは現実的ではないと言わざるを得ない。

 この国の守護神であり、ランドマークであった世界樹ユグドラシルは枯れ朽ちてしまっている。原因は虫害で、根を噛み切られ、地中から侵入したカミキリムシ型の魔物の幼虫が内部を食い荒らしてしまった。今はまだ元気が無いように見えるだけで表面上は問題なさそうに見えるかもしれない。だが、その内には巨大な虫型魔物が羽化するだろう。僕が知る限り、その全てが一定の危険種である魔物だ。

 エルフ族の戦士だけで対応したらば、その間にどんな被害になるかわからない。僕らなら苦も無く処理できるけど、エルフの戦士だけでは無理無謀もいいところ。……一体辺りにどの程度の被害が出るかもわからないだろうに、それが複数湧き出るともなればね。


「……貴殿は何故そこまで知っているのだ?」

「ああ、あまりいうと混乱すると思って言っていませんでしたけど、僕は加護持ちなんです」

「つまり世界樹に関する強力な加護を貴殿も持ち合わせていると言うのか?」

「も? ……まあ、そうですね。大地地母神さんの加護を二つ持っています」

「ふ、二つ?! 加護の取得限界が……んっ? んんっ?! どういうことだ?! 貴殿はまさか…稀…人?」

「そういう事になりますね。僕が神託などで聞く限り、僕はこの世界初の人間種以外に生まれた稀人だと言う事です」


 しかも稀人の中でもレアなダブルギフト以上で、神器を5つ所有している馬鹿げた存在ね。既に周りの太守や仲間の一部からは化け物と呆れられているけど……。僕からすれば特に何かしているわけでもなく、運命が僕に突っかかって来る感じ? 本当に僕から呼びかけることがある事はほぼほぼ無い。声をかけたいと思ったことも無くはないけど、僕が声をかけたいと思ってもその方法は現在のこの世界には存在していないらしい。

 僕の愚痴も混ぜ込んでだけど、ヴィヴィデル姫とフェムルさんにいろいろ作業をしながら説明した。

 2人ともポカンとしているが、……準備ができた事を告げる。この状況下でGOサインを出せばキーディ派は非戦闘員と一部の幹部クラスを残して全滅することになるだろう。ヴィヴィデル姫は少し迷ったようなそぶりをしたが、僕にGOサインを出した。シザーズアントは攻撃を受けなければ反撃しない。しかし、攻撃して来た対象は容赦なく噛み切る事だろう。……霊幻樹の森の中が阿鼻叫喚と絶叫の嵐に包まれ、その木霊する声はここにまではっきりと聞こえてくる。地図魔道具をしっかりと見つめていたヴィヴィデル姫からSTOPサインが出されたので、僕はシザーズアントの動きを止めた。

 これで僕が粛清対象としていた者の組織が一つ潰れることとなったわけだ。だがこれだけではまだ終わりではない。僕はペロ助が飛び降りて行った方面を視力強化で見たのだが……。おうおう……。アレは酷い。確かに殺してはいないみたいだけど、ペロ助相手にノーマルのエルフごときで相手になるわけがないんだよ。


「それでは女王派の全員を拘束しますね。シザーズアントではそういうことには向かないので、働き蟻ゴーレムに切り替えます」

「このゴーレムには複数の型式があるのか? 貴殿は本当に規格外なことをするな」

「それは否定できませんね。僕はこちらの世界の常識はあまり知りません。この力は益を齎すこともそうでしょうが、災いを呼び込むと理解しているので……。僕は森の中で隠遁していたいんですよ」

「貴殿のような者ばかりならば、この世界もどれ程平和であろうか」


 いや? 僕みたいなのがたくさんいたら世界はそれこそ混沌極まる世紀末に突入すると思うよ?

 その細かいところは自分でつつくと心にダメージが来るので、今は触れない方向を貫こう。急ぐ必要はないけど、ペロ助と働き蟻型ゴーレムが合流。ペロ助は腰につけている亜空間収納ポーチからロープを取り出して鼻血塗れのエルフを縛り上げている。アレは狩猟時に使うロープだから、かなり荒いロープなんだよな。絶対痛いと思う。僕は合流した働き蟻ゴーレムの内一体と意識を共有し、ペロ助にいろいろ聴いてみた。


『お疲れ? どうだったペロ助』

「根性なしだったな。俺が少し小突いただけで悲鳴を上げて逃げ始めたんでよう……。捕まえるのに苦労したぜえ」

『いや、まあ、逃げ出したくなる気持ちは分からなくもない気はするけど、そこに女王は居るの?』

「あ~、俺にはわっかんねえわ。エルフってのは見た目に変化がちいせえからな」


 僕もそう思う……。細面で美形?であるのは異世界ファンタジーの定番文句に合致しているけど、そういう似たような顔立ちのエルフがこうもたくさん集まると皆そっくりさんに見える。面倒だけど、魔法などの対抗措置を施し、ユグドラシル宮殿に捕虜として全員を運送。それから、キーディ派側に居たが、戦意喪失、戦闘放棄状態のエルフを同じく対抗措置を施した状態で、ヴィヴィデル姫の拠点になっているユグドラシル宮殿に集めた。ここからはヴィヴィデル姫の判断になる。僕はここに居ない仲間達に行動の許可を出した。ユグドラシル・エルフ王国に裏から干渉していた勢力を潰すために。

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