表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は無難にニューライフがしたい  作者: OGRE
拠点の拡充を始めよう
71/215

71ーユグドラシル・エルフ王国勢力VS魔物の王~急転~ー

 何やら強烈な違和感をかんじたので、一旦作戦を停滞。蟻型ゴーレムのシザーズアントを地図をもとに勢力分断のための位置に再配置した。これで時間稼ぎくらいはできるだろうから、一度拠点に保護した身元不明のエルフ女性から情報を得たいと思う。

 ヴィエラさん参加の情報伝達に特化した部下さんから、身元不明のエルフ女性の情報を得た。容態は安定していたらしいので、そのエルフ女性から情報を断片的だけど引き出せた。彼女の名はマルグレット・ヘレヒム。ユグドラシル・エルフ王国の一勢力での有力者であり、その勢力からの救援を求める使者だったのだ。

 その証言が僕の違和感にジャストミートしてしまい、若干焦っている。

 僕は急いで前線に戻り、作戦を大幅に修正。ヒノエとキノトの収集した情報にも間違いはなかった。ただし、一点足りなかったと言える。その一点が非常に大きかったのが問題だったんだよね。


「むう。ご主人、ごめーん」

「うんむ。ごめーん……」

「いやいや、君達でも死にかけてたエルフから情報を抜き取ることはできなかったでしょ? 方法はいくつかあるけど、その場合はあのエルフが助からなかったから、いつもなら隠密に徹してた君達が表立った戦闘をしたんでしょ?」

「さすがご主人! よく分かってる!」

「そうそう。重要人物っぽかったから助命を優先した」


 うん。ヒノエとキノト側ににはエラーは無かったね。強いて言うなら僕が急ぎ過ぎたのがエラーの原因だろう。僕達のすれ違いと言うか、エルフ側の派閥に新しい派閥があることが浮上したことで、僕達の動きも大きく変わる。ドローンによる地図魔道具経由の行軍情報を見るに、現状は三派閥だと思う。情報と照らし合わせると……。

 どこの誰がそうしたのかまでは知らんけど、現王朝に対し反旗を翻した“反王朝派閥”。

 現状の王朝を支えようとした有力者と派閥が動いている“現体制派閥”。

 最後に今回のエルフ女性の関係者で、勢力外縁に存在している無所属派閥に救援を求めた“新道派閥”。

 ヒノエとキノトが救助したマルグレット・ヘレヒム氏が救援を求めたのは、“辺境の大魔導師”と昔はブイブイ言わせていたリィン・カルツァ氏だった。なのでオーバーオールに麦わら帽子、軍手、長靴を装備して、なんなん一号共に畑作業をしていたリィン・カルツァ氏に真偽を尋ね……。“新道派閥”の元締めが誰かによるけれど、“現体制派閥”と“反王朝派閥”は信用ならないと言われた。リィン・カルツァさんとしては昔はどうあれ、今では辺境でひっそりと暮らす一人のエルフでしかない。今更エルフの中央とは関わり合いになりたくないそうだ。


「そういう事なら僕が動くしかないですね。とにかく小康状態で抑えていますが、明確に敵陣を分断しますかね?」

「我々エルフの事ではありますが……。申し訳ございません」

「リィン・カルツァ氏にも何か理由があるんでしょ? まだ知り合ってからの時間は短いですが、貴女がそこまで無慈悲なエルフだとは思ってません。動きたくとも動けない理由があるから動かない。それが本当の理由でしょう? おっと…、しゃべり過ぎましたね。では、僕は前線に戻ります」


 時間が惜しかったので、導術の転移術である“転身”を使用し、前線にとんぼ返り。僕が動かしていた蟻型ゴーレムをさらに機敏に動かし、僕は僕で必要な動きを取る。強力するかしないかは別として、僕の拠点で保護しているエルフ女性の関係者である派閥の中心人物へ、交渉するために接触を図るつもりなんだよ。僕のスタンドプレーはいつも通りだけど、僕の護衛は必要と皆考えているらしく、ペロ助が僕について来た。霊幻樹の森を突っ切り、敵の陣営なども全て無視してユグドラシル・エルフ王国本土に侵入。

 戦闘中でありつつも、僕の操作していた蟻型ゴーレムの影響で全エルフ陣営が全く動けなくなっていた。非常に簡単だったね。まあ、でも身分を隠す必要があったので、僕もペロ助も仮面を被った。

 ユグドラシル・エルフ王国の元は宮殿だったであろう場所は厳戒態勢のガッチガチの警備網。エルフの女性騎士と思われる兵士達が実にピリ着いた空気を放っている。……けど、僕らの機動力ならこの程度の外壁や城壁、巨大建造物だとしても簡単に乗り越えられる。壁面を垂直走行したり、音も無く要所をクリア。そして、見つけた。たぶんこの人物だろう。宮殿上部の見晴らしのいいテラスで、顔面蒼白の中ブツブツ何かを言っている女性エルフを見つける。


「何者だ!!」

「さっすがに頭の周りならいい護衛がいるよなあー! こりゃいい組み手の相手に…」

「ペロ助、ステイ」

「おう……」

「我が家の臣下が失礼したね。それじゃ、まずはこちらから自己紹介させてもらおう。我が名はユウゼン シロイ。……他の土地の者には“魔物の森の王”と言った方がいいかな?」

「なッ?! こんなにも早く報復にッ?!」

「ん? 報復? ああ、あの魔法矢の攻撃は貴女の攻撃だったのか。別にその件に関しては気にしてないよ。どちらかと言うと、直ぐにこの状況を聞かねばならないと考えてるんだよね。どうかな? 互いに手を取り合うでもなく、また害し合うわけでもなく。僕としては住んでいる森に手を出そうとしている愚か者の情報が欲しい。その代わりに貴女方を困らせている害悪を潰す協力はしよう」


 顔面蒼白のまま、彼女は小刻みに震える体を何とか動かし、縦に首を振ってくれた。

 まあ、口約束では信用できないと思ったので、高貴な身分であろうその女性エルフの護衛であろうエルフに魔法契約書を交わすことを提案してみる。魔法契約書は“契約神”の加護を持つ者が作成できる特殊な魔道具のような物だ。魔法契約は非常に堅固な契約術式でを書式化した物で、契約破棄は契約神の神殿で当事者の両人の同意が必要になる。また、ペナルティもある程度自由に選定でき、契約の不履行時は契約神がそのペナルティを代行するので、逃げることや偽ることは不可能に近い。

 僕からの提案と、こういう高位の人物なら持っているだろう書類での、契約の推奨にはかなり驚かれた。だけど、僕は彼女らを不安から押しつぶしたいわけではない。あくまで公正な会談をしたいだけだ。

 相手のエルフ女性は僕が特に敵意を見せていないことも相まって、その魔法契約を行う勧めを呑んでくれた。別に僕も無理難題を突き付けるわけではない。僕が求めるのはこの一つだけ。『魔物の王の勢力下や友好関係にある勢力を害しないこと』だ。逆に相手も『ファッセン・ヴィヴィデル第一王女が庇護する勢力下のエルフ勢力を害しないこと』とした。これで相手を僕が害することもできなければ、ファッセン・ヴィヴィデル姫が僕に害を与えることはできない。暑苦しいので、仮面を外してファッセン・ヴィヴィデル姫と直接の会談を申し込む。


「これで立場が対等になりましたね。ファッセン・ヴィヴィデル姫。では、改めて…僕は魔物の森の中心地に縄張りを持ち、周囲の友好的勢力からは“王の太守”と呼ばれるユウゼン シロイです。以後お見知りおきを」

「う、うむ。丁寧なご挨拶、深く感謝する。私は元ユグドラシル・エルフ王国の第一王女だったファッセン・ヴィヴィデルだ。よろしく頼む」

「うん? 元?」

「……身内の恥をさらすようだが、聞いてもらえるだろうか?」

「聞きましょう」


 ファッセン・ヴィヴィデル姫は元ユグドラシル・エルフ王国の第一王女だった。ユグドラシル・エルフ王国はエルフが女性出生率が多いことも原因となり母権制の国家。そして、王家が世界樹ユグドラシルの加護を受けて国を保護している。…という絶対的な固定概念が存在していた。これが“世界樹の使徒”の支配を強める支配思想である。少し前までは世界樹ユグドラシルが健在であり、魔物からの害もなく“見かけ上は”安定した国家だったそうだ。

 しかし、それは表面上に過ぎず、腐敗の根は確実に広がっていた。

 事の発端はユグドラシルの生気が目に見えて弱まった頃から。王家の勢力を削ぎ、王権の奪取や新政権の樹立を影で目論んでいた一派が急に動き出した。ユグドラシルの力が弱まったのは、王家が大地地母神から見放されたからだと声高に吹聴。国家が不安定になっている間に周辺に存在する有力者を取り込んで王都を包囲。ここまでは反体制派の目論見通り。しかし、ここでさらなる問題が内部分裂をさらに複雑にした。

 それは王家内での考え方の違いが原因だという。

 ファッセン・ヴィヴィデル姫の母親である現女王は、ユグドラシル・エルフ王国での“ハイエルフ亜神説”や“エルフ族至上主義”を掲げる旗頭の一面を持っていた。しかし、ここに居るファッセン・ヴィヴィデル姫は現実主義者で、そんな妄想のような虚言に等しい主義などクソくらえと考えていたという……。この姫さんかなり強い言い口してるよね。


「それで貴女は離反したと」

「そうだ。私は母のやり方には昔から嫌気がさしていたのだよ。だからこそ、この機に乗じて生き字引であり我が師でもあるリィン・カルツァ氏に助力を求めようと考えていたのだが……」

「なるほど。これで繋がったよ。名前は分からないんだけどね? ウチの隠密が重傷のエルフ女性…マルグレット・ヘレヒム氏を僕らの陣地に担ぎ込んだんだ。彼女から貴女達のことを聞いて、急ぎここに来たんだよ」

「……っ?! ヘレヒムはッ?! ヘレヒムは生きているのかッ?!」

「お、おう。とりあえず落ち着こうか。……一命はとりとめたけど、完全回復にはまだまだ時間がかかるだろうね。かなり込み入った暗殺方法を取られていたみたいで、ウチの隠密が担ぎ込んだ時には瀕死だった。まあ、彼女の役割は果たされたことになるんじゃない? リィン・カルツァ氏は協力できないと言ってるけど……。それ以上の力を持つ僕が貴女達に手を貸すと言ったらどうする?」

「そ、それにはどのような対価が必要になるのだろうか?」


 戦々恐々とした雰囲気を漏らしながら、ファッセン・ヴィヴィデル姫は僕に問うてきた。うん、まあね。実力差は明らかだから怖がられるのも慣れてはいるけど、ここまで露骨だとちょっと傷つくよ? 

 僕の一時の感傷はいいとして……。ファッセン・ヴィヴィデル姫の構想を聞いてみる。僕とファッセン・ヴィヴィデル姫は割と近い考え方をしていると話してみて感じた。多少は自種族愛が強い部分はあるけど、その程度ならば目を瞑れる範囲だ。僕としてはこのまま三勢力に分断されたユグドラシル・エルフ王国のエルフが環境的な圧迫で疲弊し自壊するか……。かなり数は減ってしまうだろうけど、一勢力だけでも生き残り、次代への継承を行える下地を残すか……。

 選択肢はおそらくこの二つになるだろう。内乱をこのまま継続し、三派閥の全てがボロボロになるような状況は選択肢には含まれることはない。

 彼女が見限ることになった母親とエルフ至上主義派は、何もせずともこのまま崩れていく。ファッセン・ヴィヴィデル姫派と、クーデターを起こした中心人物のキーディ・ブランタン派に挟まれており、正直何がしたいのか意味不明な陣営だ。ただ単にプライドだけで立ち上がった派閥なら、無為に自殺しに向かっただけだな。

 キーディ・ブランタン派は王国と勢力の主権奪取が最大の目的だと思う。こちらも現実が見えているのか見えていないのか知らないが、この地でもう一度王国を立ち上げようと考えているなら諦めた方がいい。いずれは話さなくてはいけないし、僕はファッセン・ヴィヴィデル姫にも事情を隠すことはしないつもりだ。それがどんなに先行きを暗がりに突き落とす事実だとしても…だ。


「そうか……。ユグドラシルは既に役目を終え、逝ってしまったのだな」

「あれ? そんなに気にしてない感じ?」

「いや、確かに拠り所を失った空虚さはある。だが、ユグドラシルとて万能ではなく、生きているのであればいずれは終わりを迎えるのだ。されど、我らは前を見て生きて行かねばならぬ。我らの命が続いている限りな」

「そうだね。貴女は貴女の所に付き従った同胞を護る義務もある。だから、貴女は前を向き突き進む覚悟を持った。そう言う事ですか」

「うむ。そう言う事になる。貴殿は流石は魔物を統べる王と言えよう。私などとは志が違う」

「そうでもないと思うよ。僕はこの力を持つから強きに行けるだけ。その分、重たい決断をしなくちゃいけない場面もあるけど、だからこそ僕はその責を背負う覚悟をしようと思うだけさ。一番は僕と一緒に歩んでくれる仲間を護るために」


 そこからはファッセン・ヴィヴィデル姫…もういい加減エルフの名前が長いので、省略したくて聞いてみた。なんでもエルフの名前と言うのはニュアンスで響きの良い名前が付けられているそうだ。あまり意味だとか語源だとか、しきたりだとかは関係なく、響きの言い語感が重要らしい。もうめんどくさいからヴィヴィデル姫と呼ばせてもらい、彼女としっかりと今後迎えるであろう展開について話を詰めた。

 まず僕とヴィヴィデル姫とで完全に一致したのは、キーディ派の壊滅。このキーディ派というのが口八丁手八丁でいろいろやらかしており、魔物の森の悪い噂や魔王云々という不穏な噂を流したのもこいつら。僕と言う存在が本当に居るとまでは考えていなかったのかもしれないが、僕は実際に存在しているし、連中の計画としては後々は魔物の森へも版図を拡げる思惑があったことも掴んでいる。まあ、その夢想は朝霧の露のように儚く消えるので、今更考えても仕方ない。問題は女王派だ。それに関しては一度は投降を試みてみようとなった。……ヴィヴィデル姫は期待薄と思っているようだが、できれば無用に殲滅したいとは考えていないからなあ。期待薄でも……ね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ