64ー初めてのレイドバトル マキシマムギガントゴーレム戦(陽光の聖女シンシレット視点)ー
この土地に来て約160日が経過しましたね。最初こそ困惑仕切りでしたが、意外と慣れるものです。私はシンシレット。元は神聖セルベリエ神教の神殿に所属していた聖女でした。今は人跡未踏の危険地帯であるはずの“魔物の森”で医療班に所属しつつ、拠点内にある神殿の管理を行っています。
その私ですが本日は久しぶりの前線部隊に加わり、魔物の森を統べる王であらせられるユウゼン シロイ様からの任を遂行したいと思います。
私の役割は回復魔法での負傷者の回復と、聖女の職業スキルに多い持続回復とステータス上昇効果のある祈祷にあります。聖教の聖女としてハルドエン帝国の開拓軍に参軍していた時も、私の役割は同じでした。今となっては過去の話になりますが少し懐かしくも感じます。
「では、攻防の布陣は覚えたな? 基本的に接近戦はわたくしだけで行う。第一隊列の者は必ずナギサの指示に従うように。お主らは壁だ。その壁が突破されたらば、隊は壊滅する。即座に負傷者を保護しなんとしてでも逃げるのだ。よいか? 逃亡は恥では無い。この世は生きてこそ価値がある。ゆくぞ!」
「「「「「「おう!」」」」」」
初対面の時は私の腰程の身長だったマサムネさんですが、存在進化を重ねて今では隆躯が逞しい巨体のリザードマンです。それは今回の部隊で副隊長となり、私の直属の上役であるナギサさんも同じ。……ナギサさんの方は女性らしいですが、正直なところ怒られると怖いです。
そのマサムネさんとナギサさんが、陣形を指示しながらついに戦いの火蓋を切った。
相手はゴーレム種の中では最大級の躯体を誇る“マキシマムギガントゴーレム”。ギガントゴーレム種の最上級種で、その大きさは下手な小山より大きくもなります。実際に目の前にすると迫力が違いますね。しかし、私達の隊は誰一人臆することなく身構えている。マサムネさんはいつもの穏やかな雰囲気とは一変し、咆哮を上げながら巨大な槍を振り回し、マキシマムギガントゴーレムの代表へ大きな亀裂を入れていく。
しかし、相手はゴーレム種だ。ゴーレム種は体のどこかにあるコアであるミニマムゴーレムを破壊しなければ不活化しない。それ故にゴーレム種は魔物の狩人や冒険者からも嫌がられる魔物のトップ3に入る魔物なのです。ちなみに堂々の1位はアンデッド。2位がスライム種。3位がゴーレム種ですよ。私が帝都にいた頃の話ですが。
「もう少し硬いかと思いましたが、そうでもなさそうですね。では、陣容についておさらいします。基本的にはマサムネ君1人で抑えます。ですが、ここは渓谷で、敵の本拠地……。落石やランダムポップのゴーレムには注意を。また、シンシレットさんと後列の魔砲隊は、体勢が崩れるタイミングを狙い、1点集中を。シンシレットさんに指揮は任せます」
ナギサさんが指揮しているのは魔道具の大盾を構えている元聖騎士の男性陣。あの大盾はアダマンタイト製で、魔力や聖氣により防御範囲を拡大する特別製です。かなり重いので女性の元聖騎士達には扱えず、メインは男性陣となっています。
ナギサさんも彼女の生体武装の大盾を構え、本当にメイスなのか疑いたくなるような大きさの巨大メイスを振り回し、落石を破壊しつつ指示を出してくれます。本来のレイドバトルはこれ程余裕のあるものではないのですが、マサムネさんの引き付けが非常に上手いので、これ程までに後列にも余裕があります。
そして、時が来ました。マサムネさんが雄叫びを上げながら槍を胸に突き込み、マキシマムギガントゴーレムの体勢を崩します。そこから目にも止まらぬ速さで振り抜かれるもう一つの武器。彼の腰に携えられている“刀”と呼ばれる特殊な剣での一閃。私は基本的に接近戦は行わないのでズブの素人ですが、ここまで極まっていればわかりますとも。彼は1人で国軍を薙ぐ力量の持ち主であると。
袈裟斬りにされたマキシマムギガントゴーレムは胸の辺りで槍を引き抜いていたマサムネさんを叩き潰そうと、自身の胸を叩きますが……追いつけていません。その時には既にマサムネさんは別の足場に移動しており、マキシマムギガントゴーレムの腕は空を切ります。
「チャンスです! 皆さん、頭部へ向け集中砲火!」
「「「「「「「ウィ、ファイアッ!!」」」」」」」
私の祈祷系スキルは詠唱や煩雑な下準備が要らないのがメリットですね。ですが、効果時間は短く、燃費も悪いのでホントに一瞬だけ補助をするスキルとして使ってきた。けど、この隊列ではまた異なる。祈祷系スキルにこんな使い方があるとは思わなかったんですよ。対象者の心を1つに、連携を高めて1つの目標に一丸となると、私のスキルの増幅率が高まる。
たったこれだけのことで魔砲による射撃の威力が激増し、マキシマムギガントゴーレムの頭部を焼き払う。
これもマサムネさんに言われていたことで、ミニマムゴーレムのほとんどが頭部にある事が多いらしく、頭部を狙ったけど……。動きは止まらず。ナギサさんのハンドサインが来たので、祈祷スキルを防御力上昇スキルに切り替え、聖騎士隊列に発動。マキシマムギガントゴーレムの拳を受け止め、完全に動きがとまる。攻撃力上昇の祈祷は使えないけど、マキシマムギガントゴーレムの脆くなっていた片腕を、肩から落とす事に成功。
「手数を減らせましたね! 私も前に出ます。脚部を潰しにかかりますので、大盾部隊はここからが本番ですよ!」
「イエス! マム!」
ナギサさんの打ち込むメイスによって、今度は足元から崩されることになったマキシマムギガントゴーレム。ゴーレムにも様々なタイプがありますが、特殊型でなければ基本は人型になります。ゴーレムとは言え人型。重心の取り方は人に似通うことになるつまり、足元を崩されれば押された方向に倒れる。ナギサさんがフルスイングで足首部分のパーツを吹き飛ばした……。彼女って本当にハイプリーストなのかしら? ちょっと力任せが過ぎるのでは?
マキシマムギガントゴーレムもゴーレムなので、周囲の岩塊を素材に部位破損程度なら修復する。しかし、片腕を一本破壊されるような破損となると、長期間をかけての修復が必要になってしまう。しかも集中して修復させないように、マサムネさんとナギサさんが2箇所で同時攻撃を行っている。マキシマムギガントゴーレムは確かに位階の高いゴーレム種ですが、実際の所は中の上程度の存在になります。
大型ゴーレムはロックゴーレム派生で確かに人類種での対応は難しくはありますが……。どちらかと言うとメタルゴーレム派生の上位種ゴーレムの方が危険度は格段に高くなります。そういう意味ではまだ余裕はありますかね?
「ふむ……。回復速度が落ちてきているな。ならば、突き崩してくれよう。近接戦闘系上級職“一騎当千”が槍武技奥義!! “国崩し!!”」
マサムネさんって、英雄級戦力認定を受ける上級職の中でも選ばれた職業が天職だったんですね。まあ、確かにあの王様の右腕ともなれば、それくらいの職業でないと務まりませんよね? しかも、先程彼が選択した技は英雄伝説に記されている“職業マスタリースキル”だ。一騎当千は英雄級戦力認定を受けるから人族文明では管理されてしまう。なので普通は見ることも無い。私も一騎当千の職業マスタリー者なんて初めて見ましたよ。
凄まじい速度で繰り出される槍の乱撃により、マキシマムギガントゴーレムの上半身が瞬く間に削り取られていく。魔砲で吹き飛ばされた頭部や衝撃で崩れ落ちた片腕……。上半身が削られていく中で、下方でも職業スキルの発動が確認された。あれ? ハイプリーストの職業マスタリースキルってなんだったっけ?
「後方支援系上級職“ハイプリースト”マスタリースキル発動! “聖母の癒し”!!」
ああ、良かった。さすがに支援系だった……。あまりにもガンガン攻め込んで行かれるから、メイスを使った武技系かと思ってましたよ。
それにナギサさんのマスタリースキルが発動してから、かなりのステータスアップが行われたのが感じられる。思わず敵前にも関わらずステータスボードを確認してしまった。……その内容に唖然の一言ですよ。私が知る限り、後方支援職の中でもこれ程のステータスアップは一時的だとしてもありえない。見たことがない……。しかも上昇したステータスの範囲も規格外。その分、何かしらの代償はあるのでしょうけど、それにしても大きい。一番高い上昇率では3倍を超えている。
それに回復支援職の広域支援スキルは回復系に特化している物なのだが、ナギサさんが使ったスキルは攻防や機動力、回復力など必要な項目が全て上昇していた。……ただ、気になるのは、大盾とメイスを構えている彼女の雰囲気が非常に怖い。私は咄嗟に自分が使える最高強度の結界スキルを発動。
「ああ……。終わったな。わたくしを巻き込むようなことはしないで欲しいが、考えようによっては好機か? 一騎当千が刀剣武技奥義!“飛燕返し”!」
「盾武技! シールドバッシュ! かーらーのー! 我が癒しの力を喰らい裁きの力と成せ! 破戒の時ソウルバニッシュ!」
私の勘もなかなか働くようになってきましたね……。
我らが王は時折、“勘が囁く”と仰っているのですが、私にも勘を感じ取る力が備わって来たのかも知れません。私達の後方支援部隊はなんとか難を乗り切った。まさかのナギサさんの高威力攻撃がマキシマムギガントゴーレムを直撃。さらにマサムネさんはそれを見越してカウンタースキルで跳ね返し、マキシマムギガントゴーレムを完膚なきまでに叩き潰した……。しかし、崩落したマキシマムギガントゴーレムのボディの瓦礫の中からマサムネさんが出てくると、その指先には何やら可愛らしい物が摘まれていた。
可愛らしくデフォルメされた人型で、二頭身のポテッとした人形のようなボディ。ただ、そのボディは金属質でキュイキュイいいながら暴れているが……。可哀想なくらい無力。マサムネさんもどうして良いか分からないかんじだけど、それって……。
「マサムネ室長、それってミニマムゴーレムでは?」
「うむ。そのようだな。コヤツを倒さねば再構築し、この峡谷で悪さをするだろう。しかしなあ……」
「どうしたんですか?」
「潰そうとしたらば、コヤツ土下座までして命乞いをしてきよった」
「コイツ、賢いみたいですね。それなら形式上檻に入れることにはなりますが、生かしたまま連れ帰ってみては? ユウゼン様でしたら何かしらの指示を下さるかと」
私もそれに賛成した。とにかく摘まれたままだと可哀想だと思ったので、錬金術師の子が即席の檻を作ってその中に入れる。マサムネさんに摘まれて居た時は生きた心地がしなかったみたいだけど、ミニマムゴーレムは進んで小さな檻に入って大人しくなった。三角座りをして黄昏ているけど、ユウゼン様なら害意さえなければそれなりの待遇を保証してくれるはずだ。
私は話が通じるかは分からないが、根気よくミニマムゴーレムに話しかけながら帰途についた。
それからマサムネさんやナギサさんに相談されたのだけど、二人の職業が定職から固有職へ変化していた。しかもマサムネさんに至っては、戦神と守護神からの二重の許可だと言う。つまり、これまでがどうだったかは分からないけれど、彼はダブルギフトになったと言うこと。とても希少だし、これまでは人類種にしか確認されなかった事案だ。
「ほう? わたくしもついに一線を超えたようだな」
「私もですね。これまでは神族の加護はありませんでしたから、大きな変化があったようです。これは一晩寝たらば存在進化の可能性も高いですかね?」
「高望みは良くないぞ? 地道に行こうではないか」
翌日の話ですが、マサムネさんとナギサさんは揃って存在進化していた。どちらもかなり人に近い風貌に変化し、マサムネさんはキリッとした強面だけど美形な…その筋の男性のような風貌に。ナギサさんは童顔で儚げな可愛らしい令嬢のような風合いになっていた。
それからマサムネさんは軍神竜人、ナギサさんは無垢竜人と言う固有種族へ。どちらもステータスを聞く限り、単体で国家を捻り潰せる戦力だと思う……。二人なら、ユウゼン様の関係者に手を出されなければ、そんな無益なことはしないだろうけど。これは周辺国には由々しき事態かも知れない。周辺国が……ユウゼン様の忠告を守っていれば大事無いでしょうが…ね。




