62ーちょっとドジで残念な女神からのSOSー
いきなりだけど、僕の拠点内には神殿がある。この世界に来る上で神様とカテゴライズされる存在と関わっているし、こっちの世界の神族とも割と関わりが深い。まずは僕が強く関わる…けど、異界の神なので別枠で光神ウィスプライトの神像を作った。
次は位階の順番で造り、1番奥の一番高い位置に黒髪の女神、その横に陽神、月神。ここからは一段下げ一本道に沿う形で、竜神、戦神、守護神、魔法神、錬金神、医療神、武神、剣神、大地地母神、薬神、鍛治神、遊戯神、農業神、羽衣神、各族の創造神など……。これらの多種多様な神像を製作して並べてある。全部アランドール氏の蔵書に記されている姿がモデル。これからも神像の数は増やすつもりだ。僕の仲間に加護をくれている神族は祀っていきたい。感謝の心は忘れてはならないからね。
……ただ、そんな神像を作ったことで、問題を投げ込まれることになるとは。
『あー、あー、聞こえておりますか?』
「……この声は大地地母神さん?」
『覚えていてくださったのですね? 嬉しいですわ! ……そんな貴方に申し訳ないのですが、少し面倒なお願いがあるのです』
「……聞きましょう?」
『あ、ありがとうございますっ!!』
大地地母神曰く、神像は神の領域と簡単に繋がり易くなる電話のようなツールらしい。……この部屋にはたくさんの神像があるんだが? まあ、それはいいとして大地地母神の要件と言うのは、まあ確かに面倒だった。
大地地母神は農業神との姉妹神で、この世界ではかなり広範囲で崇められている神族となる。もちろん我が拠点内でも信者の数は堂々の1位。言うてこの世界は多神教なので、複数の神を信奉していてもなんら問題ないからだけど。
その大地地母神さんはこの世界の植物を創造し守護する女神で、今も変遷を続ける世界の環境の中で生態系を支えるために必死に働いているそうだ。
その中で大地地母神さんの象徴的植物が存在する。言わずとも分かるかもだけど、世界樹だ。世界樹は世界の地脈を清浄に保つフィルターのような役割を果たし、今もって世界の循環に必要不可欠な素材らしい。
『わたくしが創造しました世界樹は全部で11本になります。ですが、様々な理由で健在な世界樹は残り3本まで減りました』
「いつだか聞きましたね。僕はその3本を守ればいいのですか?」
『半分正解です。私が産み落とせし子らを護り育んで欲しいのです』
「……まさか、植え替えるとか、挿し木するとか?」
『はい。詳しくお伝えしますと……』
現在でも健在な世界樹は……。
“第一の世界樹ユグドラシル”
“第六の世界樹シュアシラヤ”
“第十の世界樹カムイカバラ”
そして、健在ではないけど、弱く息をしているのが“第三の世界樹ウルズパーダ”となる。ちなみに第一の異界樹ニツイューバは別口の理由があり新しく創造した世界樹の種子で、たまたま僕が発掘し育てた結果、異界の世界樹となったらしい。
そんでその各世界樹からSOS信号があり、僕に救済を願いたいとの事だ。
何を僕に頼みたいかと言えば、各世界樹に害虫がついてしまい、あまり状態がよくなく……。既に逃げの一手と言うことで種を用意し、力のほとんどをそちらに移して休眠状態にある。だから、僕にはその種を回収して欲しいこと。それからその世界樹の種を、僕が管理する縄張り内部に植えて欲しいらしい。
「場所のピックアップをお願いできますか?」
『はい。では……、べ、便利なお道具をお持ちなんですね。ではここと…ここ…ここ…ここです』
「あれ? 最後の1つってかなり近くないですか?」
『そうですわ。ウルズパーダの種は金剛竜の縄張り南方にあるようです。……では、我が子達がご迷惑をお掛けしますが、よろしくお願いいたします』
僕が返事をする前に大地地母神さんとのコネクトは切れた。時間切れと言うよりは言いたいことを言い切ったから切ったという感じだけど……。とにかく、僕は予定していた天王山の大峡谷へ行く予定を延期し、いつものように拠点内の食堂にいたサンドラさんに話をつけた。なんだっけ? 第三の世界樹ウルズパーダの種を回収に行く。
世界樹と言えば妖精族の女王ルルエンシーさんと、それから世界樹の番人であるピグマエウスドラゴニカ族の長であるルバルーである。
2人にも声をかけ、今度はサンドラさんの背ではなく、頭の上に乗って彼女の縄張りへ向かった。
~地の王の大平原南方~
サンドラさんの縄張りは実に広い。広いと言うかなだらかと言うか……。僕の縄張りは起伏が多く、小山があちこちにある。そんでもって森が多いので見通しも悪いから、僕の縄張りも同じくらいの広さはあるはずなのに狭く感じるんだよね? その南方に朽ち果て、見るも無惨な姿の巨木があった。……こう言ってはなんだけど、異界樹のニツイューバの方がデカい気がする。
大地地母神さんの話では、“地母神の農具レプリカ”を使えばどの辺に埋まっているかわかるらしい。だから言われていた通りに神装・地母神の農具レプリカで掘り起こす。割と深い位置にそれは埋まっていて、時間はかかったけどでっかい栗?が出てきた。イガが保護をしたから助かったのか? かなり酷い虫害の痕跡があるのに、栗は無事。微弱ではあるが生命力も感じられる。イガからはまだ出さずに用意していた保護用の容器に移した。
「まさか、まだ種子が生きていたとは……」
「ギュギュー……」
「前にもこんな事があったのう。貴殿の縄張りではあったが」
「今回は事前に話した通りだよ。大地地母神さんからの直接依頼で今は動いてるのさ」
「……聞きはしたが…な? まさか貴殿の縄張りに世界樹を全て移すことになろうとは思わぬて。世界規模で重要なことであるぞ?」
とりあえず、でっかい栗を僕の縄張りに持ち帰る。大地地母神さんのお願いでは、今生きている世界樹を僕の縄張りに持ち帰って植えればいい。世界樹は普通の植物とは文字通り格が違う。植えて放置でもなんら問題ない。僕が放置したとしてもピグマエウスドラゴニカ族が放置はしないだろうけど。
~僕の縄張り~
トンボ帰りとなったけど、サンドラさんの縄張りから帰り着いた。すると、なんかいきなりでっかい栗がカタカタと鳴動し始めた。これは僕も聞いてない動きなのだが、サンドラさんに強力してもらい鳴動が強まる場所へ…場所へ……、僕の拠点へ辿り着いた。そして、拠点内のとある場所で今度は光り輝き始める。ホントにここまでのことになるとは聞いてないんだけど……。でっかい栗こと第三の世界樹ウルズパーダを、僕の拠点の洞窟入口付近に置いた。
「これはどういうことなんだ?」
「貴殿に分からぬようならこの場の誰にもわからぬよ……」
「ですが、新しい世界樹がこの地に根を張り始めました。とても喜ばしいことです」
「ギュッ! ギュ! ガグッギュ!」
ルルエンシーさんとルバルーはとても嬉しそうだが、異界樹が1本、世界樹が1本とはなかなか大変なことになりはじめた。これには僕も少し疲れたけど、まだ回収しなくてはいけない世界樹の種はまだ3つある。それをどう回収するかも考えねば……、考えねば…………。
サンドラさんの横にいつの間にか似非幼女のカナンさんと、秘書のような役割をしてきたユランさん、それからもう一人顔は見た事はあるけど知らない飛竜が居た。
飛竜族は高い空域から標的を探し、急降下して仕留めることから魔力の感受性が高い。だから直ぐに気になったらしく、この場に来たようだ。別に面白いわけではないのだが、第三の世界樹ウルズパーダが根を張った。それを感じとって来てくれたのはありがたい。……あれ? 飛竜の皆にお願いすればいいんじゃないかな?
適切な報酬さえ出せば運んでくれるだろう。できるだけ素早く運びたいし、虫害の状態は刻一刻と悪くなる。それが種に及ぶ前になんとか回収せねばならない。
「ふうむ? わらわに運搬を依頼したいのじゃ?」
「ええ、大地地母神さんからのお願いでね」
「大地地母神さん……。なら、天空神の神像を作ってくれたらば、わらわや飛竜の力を貸してやるのじゃ」
「天空神さんですね。なら、ちょちょいと彫り上げますから」
「ぬ? そんなに早くできるものなのじゃ?」
「僕ならできちゃいますよ。あんまり披露することは無いですけど、僕の天職は“製作者”なんですから」
石材は他の神像と同じ大理石を選んだ。大理石はこの世界だけではなく、地球でも彫像の素材にはよく使われていた。だから、見栄えや雰囲気からいろいろな石材を選んでもいいかと思うのだが、職業スキルからは大理石がベストだと告げられている気がする。
素材が選べたら自前の工具で荒削りの彫刻から、徐々に細かい彫り込みへと工程を移す。最後の方は水魔法と風魔法による合成魔法で、工具や道具にはできない微細な研磨を行って……。最後に洗浄して完成。ここまでに30分もかかってない。皆驚いてくれて嬉しいけど……、あ、シンシレットが来てくれたので彼女や今も神職としての責務から離れていないメンバーに任せた。
カナンさんのお願いを聞いたので、今度はカナンさんがお願いを聞いてくれる番になった。カナンさんはユランさんともう1人の飛竜の女性であるエランさんに指示を出した。これから向かう場所は少し面倒臭い場所だと言うことで、カナンさんもそれなりの準備をして向かうらしい。
~???国・第一の世界樹ユグドラシル~
「ここがユグドラシル・エルフ王国ですか」
「そうなのじゃ。エルフはとても排他的なのじゃ。だから霊幻樹が作り出す大樹海に隠れ住まうように生きておるのじゃ」
「究極の引きこもりですな……」
「ブフォッ! 究極の…引きこもり…ぶわははははははっ!! まあ、そういう事なのじゃ。それではこの辺りでわらわと2人で降りるのじゃ。あまり多数で降りるとバレて面倒臭いのじゃ」
カナンさんの急降下にあわせ、僕も導術で肉体を強化する。気圧に耐えられればいいからそれ程強くなくて良かったよ。
それから地母神の農具レプリカで反応する場所を探す。木の幹を少し傷つけねば取り出せなかったけど、……またもやでっかいブドウの種が出てきた。もう考えても仕方ないので、保護容器に収納してカナンさんと共に空へ。エルフたちにはバレなかったし、とりあえず問題はなかったからな。
さあ、次の目的地へと直ぐに向かわねば。
~???国・第六の世界樹シュアシラヤ~
「ここもエルフの王国なんですか」
「うむ。ここもエルフの王国なのじゃ。ここはシュアシラヤ・エルフ王国なのじゃ」
「前のと同じ感じなんですね」
「そうなのじゃ。馬鹿の一つ覚えなのじゃ」
カナンさんの説明では太古から繋がるエルフの大国が11ヶ国存在したらしい。しかし、エルフ同士の戦争や災害、虫害などで世界樹は11本から3本にまで数を減らした。エルフ国の数も現在はその数だけ。エルフも何か打開策を考えねばそのまま滅びに向かっていく。いや……、もう滅びに向かっているのか。
~カムイカバラ・エルフ王国? 第十の世界樹カムイカバラ~
最後の地点は……なんと離島だった。ちゃんとエルフはいるようだが、少し雰囲気がエキゾチックな感じだな。まあ、それはいいとして、カムイカバラの種を回収し、保護容器に収納した。これで回収までの依頼は完了。この後は僕の縄張り内で考えること、現在地点では何もできることは無い。なので飛竜の編隊はかなりの速度で来た空路を引き返す。
これから世界樹周りがどうなっていくかは分からない……。いや、分かりたくない。
サンドラさんの縄張りで朽ち果ていた、第三の世界樹ウルズパーダのようになってしまうのかもしれない。そこは僕の考えるところでは無いだろう。僕は僕で大地地母神さんからの依頼を完遂させればそれで終わり。これ関連で何かが起きるならば、僕の判断で事を詰めればいいだけだ。
「相変わらず速いのう……」
「そうなのじゃ! わらわはこれでも世界最速の竜、リンドブルムなのじゃ!」
「わたくし共としましては、ユウゼン様の屈強さに驚かされております。さすがは魔物の森の頂点であらせられるお方でさすね」
そんなことは無いと思うのだが……。そこはサンドラさんに否定された。音速を超えた飛行をする竜の背に乗っているのに平然としていられるわけが無いと。言葉にされると確かに納得できるんだけど、事実ピンピンしてるからね。……まあ、考ても仕方ないか。とりあえず、持ち帰った種を植えようかな?




