60ー生産道の施設拡充ー
転生から350日程が経過。最近の僕は拠点の整備に精を出している。基本的に地下階の拡張と、施設のグレードアップ。これまでは下部の生産道から上の魔晶湖の城塞まで向かうのに、通用口の階段を上り下りしていたのだが……。これがとにかく長い。小山を上り下りするのと考えればまだいいかも? と思えるが、それでも生活空間中でこの移動距離と移動時間は明確なロスだ。
ということで、僕が作ったのは昇降機。もちろん、不具合などやメンテナンス時はこれまでの階段を浸かってもらわねばならないので、階段も残してあるぞ。その昇降機もかなり簡単な構造で、僕でなくてもそこそこ簡単にメンテナンスできる。この昇降機の存在に喜んだのはミルフィモームやサテュロス、後期移入組の人類種たちだ。確かに仕事のために毎日あの階段を上り下りするのはかなりきつい。最上階の魔晶湖の城塞から現在最下層の地下第3階層まで含めれば、かなりある。施設がある階層は屋敷エリアで1階層、ダンジョンエリアだけで10階層、生産道と下部の生活設備で3階層、さらに階下の3階層。全部で17階層もあるのだから、移動も楽をしたくなるものだ。
「まあ、魔力に余裕のあるメンバーは蟻型ゴーレムにお願いするんですけどね」
「いくら君達が軽くても働き蟻ゴーレムに乗るのは無理じゃない?」
「ご主人様、いつの話をしていらっしゃるのですか? この拠点に移入した者のほとんどがそれなりに成長しております。今では働き蟻型ゴーレムなら最低でも10体の同時操作くらいならできますよ」
「え? マジで? そんなに皆成長してるの?」
「はい。忠臣の皆さんがレベリングに連れて行ってくださるので、軒並み急成長しておりますよ。やはり戦闘で得られる経験値は大きいようです」
そこまでの効果がこの短期間で出てるの?
確かに戦闘で手に入る経験値は、なんでか他の行動を行った際に得られる経験値に比べてかなり実入りがいい。それが何故かという所はこの世界の法則と言う他ないのだが、まさか僕が思った以上に拠点の皆が成長しているとは思っていなかった。想定をはるかに超えて成長しているのだ。
遠征部隊は主に3か所に向かっている。
一番多いのはカナンさんの縄張りである“天王山”の峡谷の底。そこに蔓延っているゴーレム系の魔物を狩ることで、経験値と資源を同時に得る思惑を僕は考えていた。もちろんそこまで旨い話はないと思っていたので、もっと長い目を見ていたのだが……。このゴーレム系でのパワーレベリングが非常に効率がいいらしい。
ちなみに他の遠征組はザクロさんの縄張りに入り、資源調査しているメンバーだ。これは強い毒に耐性があるメンバーだけなので、あまり効率は良くないが資源調査はピグマエウスドラゴニカの加入で加速度的に進んでいるとマサムネから聞いている。
残りもう一組はファットテール部隊ノーマル班と建築班。彼らがライゴウさんの縄張りに何度も赴いている。実は設計図は既にできあがっていて、あとは着工するための資材運搬とライゴウさんの縄張りと僕の縄張りの隣接地点に借りの拠点を置くだけだそうだ。レベル上げには欠片も関わってない。
「今は誰が出てるんだっけ?」
「はい。今出ておりますのはペロ助隊長と副隊長にミモザさんとモーテさん。それからミギワさんとユニコーン三人衆と建築班からローテーション制で出ているメンバーですね」
「よしよし。資源の方は?」
「資源に関しましては十分な量の岩塩が集まっております。それから鉱石類に関しましては、ロックゴーレムが多いようなので、ファットテール部隊ホワイトアウト部隊の皆さんが製錬作業に大忙しだそうです」
「……錬金術での製錬もしてるんだよね?」
「はい。じゃんじゃんさんが現実逃避に走って床に突っ伏してました」
「もうちょっと効率的な製錬施設か仕組みを考えないとね」
僕ももう少し察せられるようにならなくちゃな。拠点内の物資の動きや人員の動きに対し、ルオンエリアスのシュメリエさんが出て来てると言う事は、少なくともミギワは外に出ていると言う事だ。ペロ助に関しては基本的に誰からの指示も受けず、外出時に誰かに言伝を残すだけだから居場所がわからないことは多いけど……。
シュメリエさんが気にしていたので、生産道の鍛冶工房へ向かった。
鍛冶工房に到着すると、ペストマスクに防護服の三人が忙しそうに動き回っている。この鍛冶工房で使われている溶鉱炉は魔法の炉で、使用者の練度に準ずる部分はあるけど、ある程度金属をより分け純化することができる優れ物だ。これは僕の製作者のスキルで作った特注品で、そう簡単に複製はできない。できないこともないけど、かなりの労力がかかるので非常にめんどくさい事は確かだよ。
僕が来たことに気づいたホワイトアウト班の面々だが、僕に突っ込んで来て盛大に文句を垂れ流し始める。気持ちは分かるからちゃんと受け止めてあげるけど、別に僕は直ぐに製錬しろなんて言ってない。それを急ぎ仕事と勘違いしているのは、あくまでホワイトアウト班の皆や他の部署の班員なのだ。僕の言葉足らずだったかもしれないからちゃんと文句は聞いた上で、その辺りを丁寧に説明した。
「違うんだな! 催促してくるヤツがいるんだな!」
「え? もしかしてノーマル班?」
「そうだぞ! あいつら、アタシらの作業日程とか、炉のキャパとか考えずに発注しやがったんだぜ?! そんでもってくっそ急かして来やがる! あまりにもうぜーから無理を圧してやってるけど、そろそろドワーフ組は休ませないと事故に繋がりかねねーぞ?!」
「そこまでかー……。シュメリエさん。誰かノーマル一号を至急呼び出すように言って」
「承りました」
ちょっとオコである。確かに物作りは楽しいし、早くそれに着手したいから資材を早く準備したいのは分かるよ? だけど、何事にも限界と言う物があるし、その作業を行うのは他の班員だ。その予定や健康状態、生活環を乱してまで無理を強要するのは間違っている。僕の拠点の仲間は機械じゃないし、生きているし、種族が違うんだから種族差がもちろんあるんだよ。その辺をちゃんと考えて欲しい。
そこにマサムネに連行される形でノーマル一号が連れて来られた。首根っこを掴まれてぷらーんとなっており、既にしょぼんぬ状態と言う事は道中にマサムネに相当きつく絞られたようだ。ただ、ここでもいろいろな齟齬が浮き彫りになるんだけどね……。
まず、確かにかなりの量を発注したし、それが他の班の仕事を圧迫したことは事実なので、それはちゃんと謝ってくれた。しかし、ノーマル一号にもちゃんといい分があった。ノーマル一号が用意した発注書の原本には、今の状況を作り出すような納期は記されていなかったのだ。むしろかなり良心的というか、半年くらいかけて資材を揃えれば問題ないくらいの余裕がある発注書だった。……なんかいろいろ絡み合ってるし、何やらズレがあるので僕はマサムネに一瞥し、ノーマル一号の発注書の受注に関する書類周りを調べてもらう。その間に僕らはもう一人の被害者?の様子を見に行く。
「じゃん…じゃん…じゃん…じゃん…。しばらく鉱石は見たくないんじゃん……」
「おーい、じゃんじゃん。大丈夫か?」
「うーん……ご主人も酷いじゃん。僕はじゃんじゃんじゃないじゃん。スーパーマックスノー一号なんじゃん」
「それよりも大丈夫かい?」
「うん? これが大丈夫に見えるじゃん? 正直、しばらく鉱石は見たくないじゃん。あんな納期なんてクリアできるわけないじゃん」
ここでもなんでか納期がおかしくなっている。と言う事で、ファットテール部隊ホワイトアウト班とレオパード部隊スーパーマックスノー班のもっていた発注書の写しを見た。なるほど……。理由が分かったぞ。
そこにマサムネが飛び込んできて、土下座する勢いで謝罪してくる。それからノーマル一号にも謝りたおしていた。謝られているはずのノーマル一号が若干引き気味である。
うん。他部署への情報伝達中に問題が起きたのだ。マサムネの部署もそこそこ忙しい。そのマサムネの部署にもヒューマンエラーと言う物が起きないわけではなく、稀ではあるんだけどミスがあった。基本的にその程度ではここまで大きな事態にはならなかったのだが、今回はきわまれに運が悪かったと言える。ファットテール部隊ノーマル班だけではなく、生産部隊からの発注書関連を受け付けるのはマサムネの管理監督班。その管理監督班で原本から各部署へ送る発注書を作成するのだが……。まさかのここで納期の部分に誤記があった。これが根本的な原因だ。
ただ、今回の問題はどこがどう悪いとかではなくなってきている。結論を言うと、全部の班の確認不足とホウレンソウの欠如。これが理由だ。一つの仕事に没頭するのもいいが、各班の管理者はもう少し考えて行動してほしい……。末端の各班が納期がおかしいと文句を上げれば、そこで解決した事案だったのだから。ここまで大きく面倒な問題になることは無かったんだ。
「も、申し訳ございません」
「ごめんなさいなんだな」
「ごめんなさいじゃん……」
「本当にもうしわけねえ」
「まあ、いい機会ってことにしとこうよ。それからこれもいい機会と考えて、各班の設備を僕が拡充するよ。生産道はいつも稼働しているから設備増強のタイミングが無かったんだよね。しばらく休んでいいから、その間に僕が設備を増やしておくよ。僕もレベルが上がって職業スキルの幅が大きくなってるし」
「そうですね。皆さんは一度解散して、自班の状態を確認し直す良い機会だと思います。……今回は直接的な関係はありませんでしたけど、わたくし達の班も出納の変化から気づくことはできました。相互的に情報共有できるシステムを構築しましょう」
総務班のシュメリエさんの言う通りなのである……。
僕も自分の作業に注力し過ぎて、他の班の動きを全部管理者に丸投げしてしまったのは問題だろう。いくらマサムネが有能でも彼にだって限界がある。本来その仕事は僕がやるべき仕事で、僕が向かないからとマサムネに押し付けている形だ。それならば僕がやらなければならない。
と、このように反省するのも大事だが、行動に起こすことも大事だ。
生産道は本当に毎日稼働していたので、殆ど改造がされていなかった。その通路までなら改造はしていたけど、内部の設備を増強するようなことはできていなかったんだよね。拠点の規模が上がったのだから、それ相応の設備を作る事にする。僕も膨大な内包魔力を持て余し気味なので、久々に大規模ビフォーアフターを行う事にした……。
~三日後~
「じゃーん?! すっげーじゃん! ヤバいじゃん!」
「じゃんじゃん、うるさいぞ」
「お口チャックじゃん……」
まず、錬金工房。これまでは個々人の能力に任せ、普通の家具や棚を設置する程度の簡素な設備だった。そこに5L容量、30L容量、100L容量、3000L容量の錬金釜を用意した。錬金釜はかなり便利な魔道具だ。……というか、なんでそのようになるのか意味不明な釜なのだが、材料と魔力さえあれば何でも処理できる。ただし、釜に入る容量という制約はあるけど。でも、魔力と知識、材料があればなんでもできるんだよね……。ホントにファンタジーミステリーだ。
「凄いんだな!! この炉の数は凄すぎるんだな! 規模もくっそデカいし使い易そうなんだな!!」
今度は鍛冶工房。この鍛冶工房も最低限の設備しかなかったが、かなり容量の大きな製錬用の魔導高炉を設備拡充で設置した。ここに用意したのも全部魔道具の炉だ。これまでの全部手動の炉とは異なり、機械魔道具を盛り込んでスイッチ一つでいろいろできる高性能な炉ばかりだ。鍛冶工房で使う金属素材を作る速度も各段にあがると思う。最初は多少使い方に慣れる必要があるが、これほどデキのいい大型魔道具は僕の中でも傑作だ。
他の生産道に設けた生産施設にも、ライゴウさんの縄張りで手に入れた魔物の素材で作った道具の類いを配った。道具の良し悪しは生産性に直結するからね。その日の生産道ではあちこちで歓喜の声が響き渡っていた。皆が作業しやすくなって、楽しく生産活動できるならば、可能な限りの要望を聞こうと思う。あんまり無茶なお願いをされても実現不可能なこともあるので、事前に相談してほしい。何事もホウレンソウが必要なんだよ。今回の事件は異世界に来てまでホウレンソウの大切さを学ぶいい機会になったと思う。僕もこれを機にもう少し、マサムネに負担をかけないように頑張らないとね。




