49ー神器の変化と地底湖の大改造ー
転生して290日現在。なんでか僕が原因ではないのに、二柱の女神から怒られているような状況だ。二柱の女神は別に僕自身に怒っているわけではなく、ちょっと前までここに居た黒髪の女神に対して怒りを向けているのだが……。間接的に僕も怒られているような気持ちになる。
原因はもちろん黒髪の女神が僕に与えた神器にあった。
神器というのはその神族の力の一部を媒体に納めて間接的に貸し出す道具のような物になる。つまり黒髪の女神の力がガッツリ乗ったアイテムになるわけだ。唯一救いなのは神器と言うのは所有者が一人に限定される物が多く、それ以外の者が悪用することがあり得ない点だ。一部例外もあるけど、そういう神器は大抵能力が低い“レプリカ”とついた補助アイテムのような扱いの神器になる。僕の持ち物で言うなら“地母神の農具レプリカ”だ。僕の権限で貸し出し可能ではある。
まあ、問題の根幹はそこではない。神器とは神の力を貸し出す道具だ。つまり目の前の神器は僕が使用することが前提ではあるが、黒髪の女神の力が詰まったヤバい品なのである。黒髪の女神はこの世界の女神の中でもかなり力が高いというのは、言われずとも察している。ここで問題になるのは地上でその力が振るわれる点にあるのだ。
『お久しぶりです。このような状況でなければ素直に再会を喜べるのですが』
『そうですね。あの方は本当に何をお考えなのでしょうか? ユウゼン様をそうとう気に入られているご様子ですが、まさかあの方が神器を降ろすなんて』
「前から思ってたんですけど、あの女神様の影響力ってそんなにヤバいんですか?」
『そうですね。ユウゼン様はご存じなくて当然のことかと』
『ええ。ついでですね。釘を刺す意味でも情報提供しておかねばなりませんね』
この世界の神話に関わるらしい案件だった。
この世界では元素や空間、場所、色などに神族を象徴する様々な要素があり、派閥や力関係を示す大きな指標となっている。この世界には女神しかおらず、女神達は世界を運営するために様々な手を加え、自身を主張している。それが崇められる事に繋がり、世界の摂理に干渉する力をより得やすくなるのだ。
そんな神族なのだが、実働している女神はそこそこの力を持つ女神ばかりとなる。
前から言っているけど、神族の力が強ければ強いだけ下界に与える影響は大きくなり、場合によっては世界を破壊するに至る場合すらある。以前にハルドエン帝国関連で勃発寸前まで至った神の戦争などその最たる物。あの時は高位神族やその派閥を巻き込んでの大戦争も有り得た。王権神授説が本当に有り得る世界だからね……。初代ハルドエン帝国の皇帝に加護を与えた"陽神"。異界からの転生者に加護を与えていた戦神派閥の中級神。一つの種族を創造した高位神族の竜神。この三派閥での戦はまさにあの周辺の情勢を最悪にした事だろう。
『私供は確かに高位の神族です。ですが、私供は頂点というわけではありません。下界にて名が通った有名どころの女神は我々と同位もしくは下位の神族なのです』
『聡い貴方ならもうお分りでしょうが、あのお方は名を出すだけで世界に影響を出す頂点の一角の存在なのですよ。そして、あのお方は中でも格の高いお方。本来ならば一つの個に加護を与えたり、神器を与えるようなことを気軽にしていい存在ではないのです』
「それはわかるんだけどさ。そんな女神様から神器をもらったわけなんだけど、どうすればいいの?」
『……みだりに解き放たなければ問題ありません。それに貴方とあのお方は余程相性が良いようです。貴方も黒髪ですからね。もしかせずともあの方は貴方に大きな期待を寄せていらっしゃるのでしょう』
『あのお方は“黒”を体現された創造に関わる偉大なるお方。貴方もその力を授かったと自覚し、蛮行を起こさなければ問題はありません』
最後に釘を刺す形の言葉を残し、二柱の女神は虚空に消えていった。また、ウィスプライト神も僕に軽く別れの挨拶をしてから虚空に消えた。消して長くはないのだが、数時間にも感じるような密度をしてたな。神族が居なくなったので、時間が停止していた皆が動き出す。
もう定番の事態なのだが、僕が関わると何かが起こるとわかっていたようなサンドラさんが苦笑いをしながら神器を指した。
ヴィエラさんは黒い靄が周囲を包む黒い大槍から距離をとっており、ライゴウさんも何か感じるのか及び腰。ブルーフィンに至っては湖に飛び込んでビビり散らしている。多分僕しか触れないだろうから、漆黒の大槍を僕は台座から引き抜いた。以前に創黒羅刹の皆を創造した時のような全能感を感じるが、これは暫くは死蔵だな。“扱いきれない”と勘が囁いている。
とにかく、この神器はデカすぎて邪魔になるので、ストレージの中に保管。僕にはなんともないが、重圧を受けていた四名もなんともなくなったのか、近寄って来た。特にビビリまくっているブルーフィンは僕にもう何事も無いかをしきりに尋ねてくる。
「もう大丈夫だよ」
『神器ガ変ワッタ……コレハ何ナノダ?』
「ユウゼン殿の周りはいつもこのような事ばかりだ。慣れておくとよいぞ」
『ゼ、善処シヨウ』
サンドラさんの言い方は気になるが、とにかく神器の事は片付いた。新しい神装を手に入れた事になるけど……。僕自身はそこまで自分から戦闘に首を突っ込むことはない。自衛することはあるけど、僕から争いを引き起こそうとかは考えていないからね。さっきの黒い大槍である“黒鬼王槍”を使う事は余程の事が無い限りはないと思う。
それから先ほど黒鬼王槍を引き抜いた台座や、周囲の遺跡であった名残だった部分の雰囲気が変わっている。
これは良きを吹き返したことになるんだろうか? これからいろいろ調べていく必要ができたけど、それはそれ。とりあえず、不安が抜けきっていないブルーフィンを落ち着かせるために地上階へ帰ることにする。ちょっと予想外の事が起きたけど、寄り親の失われていた神器に新たな寄り親がついて息を吹き返した。その結論が変わることはない。
神装関連の事は機密事項に類する部分が多いので、それなりにぼやかして説明。トライデントであった時のあの神器は力を失っていたが、僕らが関わったことで新たな神族が寄り親になったことだけをブルーフィン含め、その場に居た全員に説明しておく。ある程度の知識のあるサンドラさんは聞きたいことが多そうだが、他のメンバーは詮索できる程の事前知識がないので納得してくれた。
「のう、ユウゼン殿。あの大槍のことだが……」
「触れない方がいいと思いますよ。僕もそう思ってますし」
「そうか……。持ち主の貴殿が言うならばそうなのだな。触らぬ神に祟りなし…ということか」
サンドラさんは分かりが早いので助かる。
これ以上あの神器の事に触れていても仕方がないので、僕はブルーフィン達が居た地底湖を個人的に改造していくことにした。先にブルーフィンにも許可をとり、これまでの鍾乳洞のような風合いを残しつつ、遺跡の風合いが残っている部分を切り抜いて行く。黒髪の女神が神器に干渉してから、この地底湖になってしまっている遺跡の部分がなんとなくわかるようになった。なので他にも落盤から生き残った空間があるのではないかと思い、光神剣スプライトダガーを使って刳り貫いていく。慎重に慎重に……。落盤を誘発するのは怖いので、非常に丁寧な作業を行っていく。
途中からどこからともなく建築臭を嗅ぎつけたのか、ファットテール部隊ノーマル班が臨場して作業に参加していた。また、興味が出たのか知らんけど、チビセイレーンが見学しに来ている。楽しそうに『ぴゃーぴゃー』言って居るが、危ないのであまり近づいて欲しくはないのだけど……。
それから数時間する頃には地底湖部分は初期の数十倍の範囲にまで拡大していた。拡張作業で力のかかり具合の変化での崩落が怖かったので、地底湖部分の神秘的な風合いを残しつつ、遺跡と同じ雰囲気の柱や崩落防止の抑えを設置。それを見ていたチビセイレーン達は非常に楽しそうに泳ぎ回っている。
「おお……。これほど見違える物なのだな」
「サンドラさんも来てたんですね」
「うむ。地底湖の状態でもかなり天井付近に不安定な部分があったからな。貴殿が気づかないようならば、ワシが指摘しようかと思っていたのだ。まあ、杞憂に終わったがな」
「ははは。僕も落盤事故は嫌ですからね」
「貴殿一人ならば広範囲に落盤しても無傷で乗り切りそうだがな。ははは!」
「いや、さすがにこの堅い岩盤が崩れたら無傷は無理だと思いますよ」
「どうかのう? はははは!」
それから神器が刺さっていた台座をチビセイレーン達に水魔法で掃除してもらい、レオパード部隊スーパーマックスノー一号の大傑作である“ダンジョンコア2号”を設置。僕が管轄している魔晶湖の城塞ダンジョンに用いているダンジョンコアだけでは、既に管理能力の限界値を迎えている。僕が調子に乗って大量の魔法陣や地形操作系トラップを設置してしまったから、ダンジョンコアの成長を待たないとこれ以上の自動制御は受け付けてくれないのだ。
それに一つのダンジョンコアで別々の範囲を管理するのは、不都合な点がいくつかあって作れるなら別のダンジョンコアが欲しかったのだ。その為にずっとスーパーマックスノー一号はダンジョンコアの研究に精を出していた。人類種や妖精族の手数が増えたおかげで、こまごまとしたアイテムの製作の手は足りているので、彼もここまでの成果を出すに至っている。ダンジョンコアの複製はそれなりに難しかったが『じゃんじゃん』言いながら、数時間くらいダンジョンコア2号の使用説明をしっかりしてくれたので、僕でももう十分に扱える。
ダンジョンコアも万能ではないので、無から有を作ることはできない。
どこからか資材を得なければ崩落の怖い地底湖部分を補強することはできないが、資材の形で未加工の状態でも物があればなんとかなる。チビセイレーン達が見守る中、僕はダンジョンコア2号を操作。測量と計測を同時並行し、落盤や崩落を回避しながら鍾乳洞の風合いを残しつつ、地底湖の美観を整えた。誰も座らないが…ブルーフィン達が居た場所に玉座も設置。元は一つのコロニーが治めていた場所なのだ。だからそれを表す装飾をしてもいいだろう。こういう遊び心のある場所は必要なんだよね。
「コレハ…美シイ宮ダナ」
「元のセイレーン族の居住地がどうだったかは知らないから、僕のオリジナルデザインだけどね。水源と文明を掛け合わせ、違和感のない程度に鍾乳洞の荒い部分も残した。どうかな? 君達だけじゃなく、陸の仲間もここに来て癒されるように作ってみたけど」
「ウム、コレハ実ニ良イ! アリガトウ、我ラガ君ヨ」
この鍾乳洞のような落盤により分断されていた、古代セイレーンの宮を危なくない範囲で再び繋げた。どうやっても掘り起こせない場所もあるが、それはどうしようもない。しかし、これだけできれば皆楽しんでくれることだろう。
それに凄まじい速度で成長する異界樹の根が既にここにも到達し、太い柱に絡まるように地下の水源である地底湖の中にも根を伸ばしている。根腐れしないものかとも思うが、異界樹は普通の樹木ではない。植物ではあるが、自我でもあるかのような指向性のある成長をしているのだ。植物であるから目に見えて動きだしたりはしていないが、ファンタジー植物であるので、何が起きてもおかしくない。魔法系ファンタジーでは“暴れる柳の木”も存在したし、ラノベ的テンプレートにはトレントという魔物もしくは精霊の類いが多く現れる。それらは動いたり、意志を持っている場合もあるので、完全にあり得ないとは言えない。異界樹は僕を介した異世界とこの世界との繋がりから生まれた存在だからね。
異界樹の根からは甘い香りと、清浄な空気が放たれ、淀みがちな地下空間の空気を常に新鮮な物へと変えてくれる。生きる空気清浄機のような物だと思えば、根で地下空間を多少崩しても特に問題に感じないとも思う。
「それにしてもこれだけ大規模に拡張したにも関わらず何事もないとは。流石だな」
「これは僕ではなく、ノーマル班のおかげですかね。測量と計測を行った上でそれに合わせて問題なく柱や支えを設置してくれるのは彼らですから」
「いや、貴殿の能力が根幹にあるのだからそこは誇った方がいいと思うぞ? そもそもダンジョンコアを魔物…いや、実体のある存在が操るなどというのも前代未聞の珍事だ。しかもダンジョンコアを複製するか」
またいろいろと呆れられているが、とにかく地底湖の環境改善と拡張が終了。地底湖をこれからどう使うかは未定だけど、今は庭園のように使っている。それはそれで問題ないだろうし、新しくキャラメル一号と掘った仮の居住池はちょっと過密気味だった。だからこれはこれでいいのだろう。そう思っておくとする。




