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僕は無難にニューライフがしたい  作者: OGRE
拠点の拡充を始めよう
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48ー地底湖の神器ー

 転生後290日経過した。異界樹の根が崩した岩盤にできた小さな穴。そこから“チビセイレーン”という水棲の魔物が僕達の拠点に用意したエビの養殖池に入り込んで来た。岩盤にできた穴の奥には不自然なできあがり方の地底湖が存在しており、その中に居た住民とコンタクトを取ることができたことでスムーズに話が終わった。

 地底湖側の代表はピグミーセイレーン。彼は現状の集団での最上位種で、決定権は彼にあるらしく、僕の拠点に仮移入することとなった。

 それからは楽しい楽しい拠点の大改造。ピグミーセイレーンには名前がないらしいので綺麗な青い尾鰭から“ブルーフィン”と名付け、彼に協力してもらいながら、セイレーン族用の移動用水路をあちこちに敷設。基本は地下二階にある居住池で寝起きするが、日中は小さいながら数はいるので、皆で小舟を引いて物資の輸送をしてくれる。その管理統括にピグミーのブルーフィンがついた。


「コノ住処ハ異常ダ……。マサカ、我ラ水ノ民ガ陸暮ラシヲ可能ニスル日ガ来ヨウトハ」

「いや、その腕輪の魔道具には時間制限あるから気をつけてね? なんとか間に合ったけど、調子に乗って遊んでたら時間制限忘れてて干物になりかけた子達いたでしょ?」

「アア、ソレモ済マナカッタナ。同胞ノ助命、助カッタゾ」


 ブルーフィンは真面目な個体で、事あるごとにいろいろなことを報告してくれる。これまでは水棲の種族がいなかったこともあり、それなりに問題があったのだ。いろいろな場面でいろいろな珍事を引き起こし、何とか今の所は死者は出ていないけど……。それなりに死にかけるメンバーは出ている。なのに連中は『ぴゃー!』と楽しそうに廊下を駆けまわり、水路を泳ぎ回っていた。

 いろいろなことが新鮮だけど、セイレーン族が落ち着いたのでブルーフィンに彼らが閉じ込められていた地底湖について聞いた。

 ブルーフィンは地底湖に住んでいたコロニーのクイーンセイレーンが亡くなる以前から生きていた個体らしい。その頃はまだ彼もチビセイレーンだったそうだけど、今では立派にピグミーセイレーンだ。そのブルーフィンもクイーンセイレーンの直系ではないので詳しい事は知らないそうだが、ブルーフィンが仕えていたクイーンセイレーンの血筋が崇めていた神族に関係する神器だっそうで。その血筋のクイーンセイレーンが神器の所有者が現れる日まで守り続ける使命を帯びていたのだが……。


「元ハモット広イ宮ダッタノダ。ソレガ私ガプチセイレーンダッタ頃ニ広範囲ガ崩落シタ。ソノ折ニ多クノ同胞ガ死ンダ……。ガ、ソレ故ニ魔素二満チ、今日マデ生キ永ラエタノダカラナ。複雑デハアルガ、今日ニ繋ガッタ事ハ感謝デアル」

「ねえ、その神器って何か変化なかった? ちょっと気になることがあるんだけど」

「ナヌ? イヤ…済マヌ。私ニハソノヨウナ知識ハ無イ。シカシ、アノ神器ハ、ユウゼン殿ニ譲ッタノダ。自由ニ検分シテクレ」

「う、うん。それならそれでいいけど。それじゃ、ブルーフィンも来てくれない? いろいろ教えなくちゃいけないかもしれないから」

「ウム。承ッタ」


 ちょっと気になっていたので、ブルーフィンを連れて地底湖エリアの奥にある台座に刺さっているトライデントの場所まで向かった。神器関連という事で、生きる図書館のような扱いになってるサンドラさんも同行。今回はそれ以外にも今日来ていた他の太守も同行している。ヴィエラさんとライゴウさんだね。ザクロさんは来てはいるけど、レオパード部隊スーパータンジェロ班と薬品の話をしている。タマモさんは同行したそうだったが、妖術の座学がブッキングしたのでそちらに。

 地底湖はかなりの時間が経過しているのか、鍾乳洞のようになってしまっているが、確かに魔晶湖の遺跡と同じような加工が施されていることが見て取れた。

 水が苦手らしいライゴウさんがやかましい……。水が嫌いならなんでこんなとこに来たし? 僕達はここを調査しに来たのだ。セイレーン族の居住空間なので、これより奥には陸棲生物の導線は存在していない。ヴィエラさんは聖氣を放出して脚に冷気を集中し、湖面を跳ねるように中心の孤島のようになっている部分に先行。サンドラさんはライゴウさんをお姫様抱っこして大ジャンプ。凄い脚力だよ……。やっぱりあのドレスみたいな服ではやめて欲しいけど。


「サスガダナ。太守トモナレバ、コレ程ノ力ガアルノカ」

「そうだねー。そんじゃ、僕らも行こうか」

「ウム。貴殿ハドノヨウニ向カウノカ楽シミダ」

「僕はこうやって行くの」


 僕は妖術の水蜘蛛の術を使うんだよ。体も軽いし、子供のような体格だからね。重心も取りやすくて簡単なんだよ。僕がすいーと水面を滑って行くのを驚愕の様相で見守ってくれる。水蜘蛛の術はそんなに難しくないからそこまでではないと思うんだけどね……。

 そこそこ大きな地底湖なのだが、中央に直行するだけならそこまで距離はない。僕より先に来ていたメンバーがじっくりと台座に刺さっている神器を観察しているが、脳筋っぽいライゴウさんは『珍しい物があるな~』という程度……。ヴィエラさんはそこそこ知識があるのか、なんでここにこれがあるのかをサンドラさんに問うている。しかし、問われているサンドラさんも顎の下に指を当てて難しい表情をするのみだ。3人…いや、2人とも重要な部分に気づけてないんだよな……。

 そもそもの話だけど、神装の所有者が僕しかいないのだ。そりゃ僕にしかわからない違和感なのだろうと思う。

 という事で、僕は僕所有の神装の一つである“地母神の農具レプリカ”を皆に見せる。ブルーフィンも僕があげた陸上生活を可能にする変身魔道具をつけているので、上陸して神器を観察し始めた。目の付け所が違うサンドラさんだけが気づいたようだけど、これはどういう事なんだろうか……。そもそもこの事実を他のメンバーに話しても良い物か少し迷うんだよね。神装の所有者は神族に認められた選ばれし者だ。そうでない者にそれを教えることは問題ないのだろうか?


『はーい。ストップ。うん。君はそういう勘が鋭いから助かるよ』

「久しぶり。最近はコンタクトが無かったから忙しいのかと思ってたよ」

『僕からすれば、君の周りで起きること以上に大きな事案は無いから大丈夫。それから、君の感じた懸念は正しいよ。神器の事は神装を持つ者以外は知らない方がいい。神族も神器を作るのにはそれなりの力を使うし、下界との繋がりからしがらみも増える。今回のようなイレギュラーはまた珍しいけどね』

「あ、やっぱり普通の出来事じゃなかったわけね」

『うん。僕もこの世界の神族じゃないから詳しくは言えないけど……。この神器を作り出した神族は既にこの世界には居ない。この神器は役目を終えているんだよ』

「だろうね。見つけた瞬間から思ってたんだよ。確かに神器なんだけど…力が感じられないから」


 神器が力を失うのにも様々な原因があるけど、一番多い理由は神器を作り出した神族の消滅。その消滅にもいろんな原因があるんだろうけど、この神器の場合はあまりにも綺麗なんだよね。力を失っているのは確か。だけど、風化も無ければ何より宝玉がしっかりと形を持ったままなのだ。

 僕もそこまで神器の事に詳しいわけではない。転生特典の知識と光の神や、この世界の神族からの知識の持ち寄りだ。

 その神器を詳しく調べている光の神。僕はそれを黙って見守るしかない。神族のことには僕が触れるにはことが大きすぎるのだよ。地球では神族ってのはかなり希薄な存在だった印象だった。しかし、個の世界では神族はそれなりに力をもっているし、場合によっては地上に大きな影響を出すような神族との関わりは一個人には過分すぎる。光の神とこれだけ親密に友人みたいな付き合いをしといて今更かもしれないが。


『ん゛ん゛ッ?!』

「何? 何かあったの?」

『いや……。ちょっと信じられないことが起きてるんだよね?』

「何故に疑問形?」

『神器ってさ。当該神族が消滅すると、その保護がされなくなって経年劣化して壊れていくはずなんだよ。君が感じた違和感はそれだと思う。僕もそれに関して違和感があったんだけど……、なんか、神器が急速に修復してるんだよ。これ、どゆこと?』

「いや、アンタが分からんもんを下界の一個人の僕が分かるわけなかろうて……」


 光の神が飛び退く程度には強い神力の渦流が渦巻いて行く。たぶん、光の神が感じている僕が感じている圧迫感と嫌な予感は同一の者だと思う。この神力の波長は並みの神族じゃない。つまり、異界とは言えども高位神族に属する光の神が畏怖する存在が、創造主を失った神器に干渉して何かをしようとしていると言う事。それが意味するところと、その対象が何者なのか……。

 光の神曰く、下界に自らの宗教を持ち、その中でも崇められる信者の数が多い神族を主神級神族と呼ぶらしいのだが……。その主神級神族の中でも格段に強い力を持たねば、他の神族が創造した被創造物に干渉することはできない。つまり、あの神族が干渉してきているということだ。

 僕と光の神が数歩後ずさると、そこに深い紫色の和装を纏い、顔を真っ黒な布で覆った華奢な女神が降り立った。間違いない、思わず跪きそうになるようなこの圧迫感と緊張感、それから真上から押し付けるような非常に強い重圧。これはあの女神だ。僕も声こそ聴いたことはあるけど、直接の対面は初めてになる。

 体から黒い靄を噴き出し、深淵かと思うような長い黒髪をしている和装の女神。この世界のどのような立ち位置の女神かは知らない。知らないがとにかくとても強い影響力を持つ女神である事は確かな女神だ。この巨大な存在感は間違いない。


『よし…。成功したな。小うるさいヤツらの干渉を排除しつつ、ワシが顕現するにはある程度の条件を整えねばならなかったのだ。はははっ! 確かにワシの存在は大きすぎる故、力の行使は最低限に抑えねばならぬ。しかしじゃ、ワシもこの世界の神族。この世界を愛し、この世界を良き循環へ導きたい。……という事で、お主には非常に期待しておるのだよ。ユウゼン シロイ、それから地球からの客人である光の高位神族ウィスプライトよ』

『あの、僕も名を隠さねばならない立場なんですが……』

『この世界でならば問題なかろう。ユウゼン シロイもこの世界の住民ぞ? 何の問題もない』

「……それで、ここにわざわざ顕現された要件と言うのは?」

『おっと忘れるところだったな。時間もかけられんしのう。……う゛う゛ん! そこなる者は我が加護を与えし鬼の王。この者に我が権限をもってこれを授ける。これなるは我が神能を刻みし器…“黒鬼王槍”なり』


 やるべきことはやったと言わんばかりに一息ついた和装の女神は、急に虚空の一方向へ顔を向けて舌打ちをした。なんとなく理由は分かったけど、女神様が舌打ちはちょっと…と思うのだけど? 僕に神器を授けてくれたようだが、その女神はたぶん僕へ小さく手を振りながら黒い靄の中に姿を消す。

 そして、先程顔を向けていた場所から見た事のある女神がすっ飛んできた。

 以前であった時は柔らかな服装だった二柱の女神だったけど、今日は完全武装している。陽神と月神の二柱は華麗に着地すると、周囲をグルっと見回し僕と光の神…もうウィスプライトでいいか? ウィスプライト神しかいないことを見て取ると、大きく肩を落とした。

 理由はよくわからんが、陽神と月神がここに来たのは間違いなくあの黒髪の女神が原因だと思う。その黒髪の女神はどこかへいなくなってしまったわけだけど、その爪痕?というか彼女が居た理由はしっかりと残っている。艶の無い漆黒の刃はバスターソードクラスで大ぶりな物。それに対して美しい艶が美しい長柄が特徴的な巨大な武器だ。それを見て沈痛な表情をする陽神と月神の二柱の女神たち。

 あの黒髪の女神が地上に大きな影響を出すことは何らかの問題があるようなのだ。僕からすればそんな物は知ったことじゃない。だって実際に僕は下界に住んでいる一個人である。確かに神族との絡みは多いかもだけど、僕は神族ではない。ちゃんと鬼というカテゴリーの下界に存在する一つの個である。ただ、僕とウィスプライト神をロックオンしている二柱の女神の視線が超怖いので今は様子見。絶対に動かない。蛇に睨まれた蛙の気持ちってこんな感じなんだろうか?


『はあ……。ついにやらかしましたか』

『そうね。遅かれ早かれだとは思いましたが……。それではユウゼン シロイさん。貴方にはいくつか言っておかねばならないので、心してくださいね?』


 うん。逃げることはできなさそうだ。隣で直立不動のウィスプライト神も目で訴えてくるので、そうすることにした。怒った美人はマジで怖い。

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