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破滅の魔女は異世界を救う  作者: 藤川秋
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第6話 説明を聞く


あの赤色には見覚えがある。

形が不均一なところも、発光するところも、私が見つけたものと特徴が同じだ。


強いて言うなら、サイズは向こうの方が小ぶりのようだし、光の強さも少し弱々しいようにも見えるけれど、似ていることに変わりはない。

牙と魔石、と男は言っていたので、必然あれは魔石ということになるだろう。


魔力が詰まった石。魔石。

なんと分かりやすいネーミングだろうか。

これが売れるというのは有難い。


何せ、今の私は無一文だ。

他に売れるものも無いし、これが今すぐ売れるのであれば、少なくとも数日の間は何とかなるかもしれない。

それなりに価値のあるものであれば、問題ない程度に狩りに出かけるのも一つの手だろう。


そう考えると、多少の危険が存在するとは言え、冒険者というのは魅力的な職かもしれない。

女性の冒険者もところどころ見かけるので、条件次第では職に付ける見込みもそれなりにある。

今の私が基準を満たしているかどうかは、調べてみないと分からないのだけれど。



「クレインボアの皮が1枚と牙が2本、それから魔石だな。全部で300ギルだ」



そう言って、男性職員は銀色の貨幣を3枚カウンターの上に置いた。

300ギルで銀貨3枚。

1枚100ギルだ。分かりやすい。


物の価値が分からないので、魔石だけだと幾らなのかは不明だし、それが高いのか安いのかすら判断できないが。

その辺りは後でまた調べるとして、冒険者として働く場合を視野に入れるとなると、ギルドのシステムをより詳しく聞いておきたくなった。



「すみません」


「はい、どうされましたか?」



そういうわけで、受付へと足を運ぶ。

ここは素直に、人に聞いてしまった方が早い。


窓口は幾つかあるが、人々の好みというか、人気の差が顕著に現れるようで、常に混み合っている所とそうでない所の差が明白だった。

気持ちは分からないでもないが、さすがに正直すぎやしないだろうかと心配になる。

周りの評価を気にせず働ける人ならいいが、そうでなければこの光景は地味に傷付くだろう。



一方の私はと言えば、なるべく細かく話を聞きたいがために、敢えて不人気な方を選んだ。

明らかに受付嬢目あてで並んでる人達を前に、長々と話をし続ける勇気は私には無い。



「冒険者に興味があって、ここへ来たのですが……訳あって、世俗には少し疎くて。ご迷惑でなければ、詳しく話をお伺いしたいのですが」


「構いませんよ。常に危険が付き纏う仕事ですから、不明な点はなるべく無くしてから、よく考えた方がいいと思います」



すげなくあしらわれる可能性も視野に入れていたのだが、思いの外丁寧な対応をしてくれた。

物腰も柔らかく、表情は少し硬いが迷惑に感じている様子も無い。

前世の頃に見かけたような、不躾なアルバイトより何倍も増しだ。


どうやら、彼女本人が不人気なのではなくて、周りの人気が高すぎるだけみたいだった。



「何をお聞きになりますか?」


「仕事内容は概ね把握してるんですが、ギルドのシステムがさっぱりでして」


「畏まりました。そうしましたら、ギルドへの登録についてと、冒険者になったばかりの方にご説明している規則内容をお話しますね」



そう言って、説明の書かれた用紙をこちらに向けながら、一つずつ読み上げてくれた。



まず、ギルドから仕事を貰うためには、当然ながら身分登録が必要である。

登録の際には試験を受ける必要があり、受かった場合には試験料をそのまま登録料として徴収するらしい。

また、一年ごとに決まった期間内に登録を更新し、ランクに応じた登録料を支払わなければならないそうだ。



「更新期限を過ぎた場合、延滞料金が発生してしまうので、早めの更新をお勧めいたします。また、更新しないまま三年が過ぎた場合には、登録そのものが抹消されてしまうのでお気を付け下さい。ただし、更新期限に関しましては、状況に応じて延長申請も承っております。許可が下りる具体的な例として、長期遠征依頼の受注などが挙げられます。高ランクの依頼となると、討伐そのものに時間がかかることも珍しくありませんから、予め延長申請をしていただければ延滞料が上乗せされることはありません」


「規則上、処分の対象になり得る行為はありますか?」


「そうですね……一番分かりやすい例としては、ギルドの不利益になるような行為をすることと、他の冒険者に対して害を成すことでしょうか。報告内容の詐称をしたり、依頼遂行の妨害を行うといった場合ですね。状況に応じて一定期間の謹慎を申し付けたり、最悪の場合は登録抹消の上、身分登録の一切をお断りさせていただくこともあります」



懇切丁寧に説明してくれた内容は、至極妥当なルールで構成されていた。

全体的にシステムはしっかりしているらしく、彼女も彼女で、表情こそ乏しいものの、嫌な顔一つせず詳細に説明してくれる。



「冒険者はそれぞれ、実力に応じてランク分けがされています。当人の実力に見合わない仕事は、そのまま命の危険に繋がりますので、それぞれのレベルに合った仕事を受けていただくためのシステムです。初めはFランクからスタートしていただき、依頼の達成率や受注内容などを基に評価してランク上げを行います。詳しい内訳については、こちらからお教えすることは基本的にできませんが、サポートは致しますので何かあれば気軽にご相談下さい」


「分かりました、ありがとうございます。ランク上げは自動的に行われるものなんですか?」


「Dランクまでは自動で上がりますね。その際にはこちらから、ランクが上がる旨を連絡させていただいております。Cランク以降になると昇格試験がございますので、申請していただいた上で試験に合格しなければなりません。基本的に、受けられる依頼のランクは同ランクか一つ上までなんですが、高ランクの方とパーティーを組んだ場合には、ランクの高い方を基準に考えられますので、実力不足のまま上がることがないように処置を取らせていただいています」



実力の底上げや実入りの良し悪しの問題で、ランクの高い相手と組もうとする人は存外多いらしい。

とは言え、あまりに実力のかけ離れた人間と組むことは、お互いにとってリスクの高い話になるので、実際のところは似たレベルの者同士で組むことがほとんどのようだが。


かく言う私も、ゲームと違って死んでしまえばお終いなので、敢えて差のある相手と組む気にはならない。



「あと、依頼の受注に関して気を付けなければいけないのが、失敗すると違約金が発生することです。ものにもよりますが、手配などに費用がかかる場合もございますので、その点に関してはご了承下さい。金額に関しては、依頼書に報酬と合わせて記載されていますので、そちらでご確認いただけます。その他には、終了報告の際に証明できるものをお持ちいただかなければならないのですが、これに関しては依頼の種類ごとに必要なものが異なるので、初めの内はその都度こちらに確認していただくことをお勧めいたします。重要な部分はこれぐらいですが……他に何か、質問はありますか?」


「いえ、大方理解出来たので大丈夫です。ご丁寧にありがとうございます」


「畏まりました。ちなみにですが、登録試験を受けられる場合には、受験料として300ギルのご用意をお願い致します」


「あ……すみません、もう一つだけお伺いしたいのですが」



受験料の話になって、私は聞き忘れがあることに気が付いた。



「右端のカウンターで買取してもらえるのって、ギルドに登録してる人だけですか?」


「買取だけなら必要ありませんよ。どなたでもご利用いただけます」



その答えを聞いて、安心した。

この街はかなり広いので、他の買取場所を探そうと思うと骨が折れる。

さっそく、手元にある魔石を売ろうと考えた私は、受付の女性にお礼を言ってその場を後にした。


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