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双子山の攻略②

遅れて申し訳ないです!

 

「昔からお主らんとことは犬猿じゃったからの。ここまで協力してくれてありがたいわい。」


「あはは。それは過去のことです。今は俺たちが支配している、つまり新勢力ですから。」


 協力は惜しみません、と付け足す。

 しかし、爺さんはうまく釣れたものだ。あそこでキュロスさんについてこられていたら、この計画が一瞬で白紙になるところだった。


 前方にバルバラの居城が見えた。

 近くにいくと、やはりかなりな大きさだ。扉近くの門兵が一斉に槍を構えた。


「しかし、カル坊。どうやって話をつけるんじゃ?」


「ふふん、実はとっておきの情報を入手したんです。」


「ほう、はてそれとは?」


 目だけで視線を送ってくるクロムさん。禿げることのない白髪が風で大きくなびいた。

 ちなみに、そんなとっておきの情報なんてものは存在しない。今はこれで一逃げする。


「それは……会合までのお楽しみです。」


「ほほほ、してそれほど重大なのか。」


「加えて、少人数で行った方が中から崩しやすい。領地合戦はウイルスと一緒ですから。」


 近づいて来た五、六人の門兵に胸元から取り出した青色のネックレスを見せる。

 これは計画成功の合図で、同時にこの城の頂点にいる男への合図でもあった。



 ☆☆☆☆



「よぉーく来てくれたね、カナダス代表クロム殿!」


 周りを大量のならず者に囲まれながら階段を登りきったその先に、ある悪趣味な男が鎮座していた。金色のジャケットを羽織り、金色のパンツを履いた奇妙な男だ。

 それに似合わず、部屋の造りは実に和風でわびさびもクソもない。彼曰く、遊び心のない家は家じゃないらしい。


「ふん、お前のようなクソガキとじっくり話すなんぞできるかい」


「マァマァ、そんな風にプンプンしないデェ?」


 この話し方からもウザい雰囲気が溢れ出ているの男がバルバラ首領、アインシィ=クリスプだ。彼は別の大陸で一財を成した成金らしく、ここらに別荘を作るため、カナダスを追い出そうとしているらしい。

 まあなんてアホな理由なんだと言いたいところだが、それに気づいていないカナダスからすれば急に湧いて出てきた軍隊に攻撃されたわけだからこういう風に戦争だと騒ぐのも仕方ない。


「ふん!まあ良い。今回は談判という形でこちら側から来てやったのだ。」


「フゥ〜ム。それデ、要求は?」


「お前らの山からの撤退と解散。」


「ハッハ!それでは我々にメリットがない!どころか、こんなに良い眺めの土地を……手放したくナァイ!」


 アインシィは手をバッと広げると、顔をコトンと横に向けた。いつのまにか、周りを囲んでいたチンピラがニヤニヤし始め、後退していた。


「そうか、では仕方ないのぅ。カル坊、その情報を」


「ジョウホゥ?」


 俺が一歩前に出る。と同時に、アインシィに目だけで合図した。彼は大きく顔がにやけると、ブツブツと何かを詠唱し始める。それに気がついたのか、クロムさんが剣を抜いた。俺も雷で剣を作り出し、ゆっくり構える。

 ヒルシスさんは既に魔力の大剣を肩に置いている。


「マズイです、クロムさん。あれは強力な結界魔法でしょう……」


「ああ、そのようじゃな。まずは奴を片そう。」


 そう言うと、クロムさんは老体とは思えないほどの速度でアインシィに近ずき、剣を横振りした。

 しかし、転がったのは頭ではなく、剣先だった。


「ざぁぁんねん!既に結界は用意してあったのだァよ?ククククククキキキキキ」


 ここまでは計画通りだったが、流石にアイツの態度に腹を立て無いものはいないと思う。


「くそ、こっちには情報があるんだぞ!出しやがれ!」


 俺はめいっぱい叫ぶ。


「ハア?殺してしまえば一緒だろガキ!」


 俺はハッとした顔を浮かべる。

 普段の俺は絶対こんなミスはしないが、クロムさんにどこか抜けていたことを信用させなければならない。


「じゃ、まずはそのうるさいガキとツレのおっさん獣人から処刑な ナ。」


 結界が俺とヒルシスさんの分だけ隔離される。

 離れると、周りに臭そうなバルバラの奴らが集まり、歩けと促される。

 俺は後ろを振り向き、クロムさんを見つめた。


「絶対、絶対帰ってきます!だから、それまで頑張ってください!」


 クロムさんは目だけをこちらに向けると、くっと口角を上げて力強く頷いた。

 彼のカリスマ性はこういうところなのだろう。



 ☆☆☆☆



「今回はどうも。双子山として頑張っていこうや。」


 バルバラの兵士に金貨を五十枚手渡される。どこから奪ったのか知らないが、こいつらは残念なことに金を持っている。それがカナダスとの圧倒的な違いとなっている。


 俺たちは城の裏門から外に出た。カナダスがいるのは表なので、裏には二人ほどの門兵以外誰もいない。全く都合のいい場所に放ってくれたものだ。

 ヒルシスさんが剣を創り出した。


 もちろん、裸足で逃げ出したかのように見せる作戦である。返り血を浴びたヒルシスさんはなかなかに怖かった。が、そんなことで理性を無くすほど彼は堕ちてはいない。


「なぁ、坊主。こんな回りくどいことせず、忍び込めた時に結界をぶっ壊して全滅させてしまえば良かったんじゃねえのか?」


「ヒルシスさんのいうことは最もなんだけど……」


 別に今回そう面倒臭い事をしたのには理由がある。別にバルバラから少ない資源を貰ったから潰そうとかそんな安易な話でもない。

 彼らカナダスから信頼を得るために必要な事なのだ。



 表であからさまな対立しているカナダスの後ろ側へと回り込み、息を荒げて彼らに接近する。俺も先ほどの門兵から返り血をかなり受けたので、いかにも修羅場を潜り抜けたみたいに見えているはずだ。


「なっ、カル坊!」


 俺たちをみたキュロルさんが一心不乱で駆け寄ってくる。それを薄目で見ると、俺は豪快に倒れた。少し心がチクッとした。


「す、すみませんキュロルさん……敵の罠に……」


「くっそう!おいお前ら、準備しやがれ!我らの族長を取り返すぞ!」


 各々が叫び声をあげ、突進態勢を作っていく。これでは井の中の蛙。五分も持たないだろう。俺は大声をあげた。


「クロムさんは!クロムさんは俺たちを守ってくれたんです。だから、今度は俺たちが守るんです!」


 水の魔力を最高圧力まで高める。ここまで魔力を上げることはそうそうないが、ここは彼らでも感じることのできるくらいにしないと、影響力がない。

 彼を俺が助けるまでが一つのシナリオなのだ。


「カル坊、お前は一体何者なんだ……?」


 水の龍が五つの体をうねらせる。お互いが宙を舞い、彼らに一つの命令を下す。


『波動の氷解』


 城に向かって、龍達が大量の水を含んだ波動を放つ。門兵は一瞬にして蹴散らされ、大きな門も一瞬で破壊された。一瞬城まで壊す勢いだったが、実は的確に、場所を狙って撃ち抜いている。

 そう、クロムさんに被害が及ばない場所だ。


「今です、突撃してください!」


「おお、突撃!」


 俺の声に我に帰ったキュロルさんが突撃の合図を送る。その瞬間、大量の魔法が飛んだ。初級のものが多いが、中には中級のものもある。彼らの戦い方の一つで最初に魔法で攻めながら、突入していくという方法をとる。しかし、門の護衛はほぼ壊滅。すぐさま城への侵入が可能になった。


 俺とヒルシスさんもよっこらとカナダスを追って、城へと侵入した。監禁されている場所は大体把握してあるので、そこに向かって直進する。突然の襲撃に慌てたバルバラの野党が廊下を走り回っていたが、全てヒルシスさんが無力化した。

 そしてついたのは、最上階。バルバラの首領部屋だ。ドアには強力な使い捨ての結界が張ってあったが、ヒルシスさんが蹴り飛ばした。


「このボケッ!……アアン?誰だ!」


 部屋に入るとボコボコの姿になったクロムさんがいた。両手が縄で結ばれ、立ち上がれないよう足に枷を付けられている。それでも彼は目から士気が消えていなかった。

 そして俺達を見ると静かに笑った。


「随分と遅かったのう?」


「あはは……数が多くて。」


「ジジイもなかなか頑丈だな?」


「獣人には負けるわい」


 俺達の姿を視界に入れると、アインシィが震えだした。足をガクッと地面へ下ろした。


「な、なななななんでェ貴様らがァァ?」


「助けに来たんだよ、当たり前だろ?」


 俺の言葉を聞くと、壁に取り付けられた扉を勢いよく開けて長い長剣を取り出した。


「あぁぁああ !あぉぁあ!!!」


 それをめちゃくちゃに振り回し、俺とヒルシスさんを狙う。いや、狙うというのは言い過ぎだ。俺たちを踏み潰すように走ってくる。剣の振りは遅いし、構えも滅茶苦茶。

 そんなのは醜い。


『溶解の焦点』


 俺は鍛治師がよく使用する火属性中級の魔法を行使する。この魔法は自分の狙った地点を極度に高温にする魔法で、魔力の使用量は大きいし、効果の範囲も狭いので、鍛治でしか使われていない魔法だが……。


「うわっつ!………あ、あっ、あああアアア!」


 燃え散った細い剣が地面に転がる。綺麗な赤いカーペットが少し燃えた。アインシィは尻もちをつき、後ずさりをはじめる。そして彼は男の足元に辿り着いた。背中に足の裏の感触が残る。

 アインシィが後ろを振り返るとそこにはクロムさんが立っていた。蹴られた痛みなんて、感じなかった。ただ、彼は死を待つのみだった。


「最後はしっかり決めてくださいね」


「ああ。わかっとる」


「あぁぁあああアアアアアァァァ………」


 城中に響き渡ったのは歯切れの悪い、男の断末魔だった。



 ☆☆☆☆



「いやあ、今回はマジ助かった。カナダスの代表として礼を言う。」


「いえいえ、頭を上げてください!僕も話し合いと言って不用意に近づいてしまったこともあります。これは貸し借りなしということで?」


 クロムさんが頭を下げると、後ろに集まるカナダス一同が続けて頭を下げる。俺はそれを慌てて止める。こちらが騙した形なのに、そんな真摯にされては逆に困ってしまう。

 彼らの信用を得るためにはこうせざるを得なかった。しかし、カナダスの強大さは横にいて、敵にするものではない。


「また遠慮なく遊びに来るんじゃぞ!」


「こら代表!……今回の件は本当に助かった。また何かあれば何でも言ってくれ。」


「はい!ありがたいです!」


 こうして、ララ大陸西部双子山、正式名称クラサス山との同盟協力体制を『日光獣』制するラムサス山と強固に結ぶこととなった。同時に、クラサス山傘下の街クリームとの貿易体制も整うことになった。


 一方、王都周辺では怪しい影がいくつも揺れ動いていた。


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