想い
「水嶋先輩、お久しぶりです」
大学の帰りと水嶋先輩は言った。
わたしは、瑛花と祈の関係に心を痛めていたけれど、
水嶋先輩と話しているうちに、心の痛みが薄くなっていた。
「瑛花のこと..まだ..調べてるの?」
「はい、わたし、中途半端で終わるのは、嫌なタイプなんで」
水嶋先輩は、わたしに合わせてゆっくり歩く。
いつもは早く歩くのに。
「相談..聞いてもらってもいいですか?」
「俺でいいなら」
わたしはすべて打ち明けた。
瑛花の子供は祈との子だったって。
わたしは、いつの間にか目に涙がたまっていた。
「それで..?今は、どうしたいの?」
「え....」
そこまでは、考えていなかった。
「楢澤のことが、今も好きなの?」
ずばり聞かれてしまった。
わたしは、どうしていいのかわからない。
恋とはそういうものなのだろうか?
「俺さ、高校2年生だったころ、委員会で瑛花と一緒だったんだ」
「....それは、前に聞いた事があります」
「3年生の女子に絡まれて、バケツの水をかけられそうになってて」
やっぱり事実だったんだ。
これだけ、聞きたかった。
「あの..これも噂なんですけど...」
「......?」
恐る恐る口にした。
「水嶋先輩は、瑛花のこと..どう思ってたんですか?」
水嶋先輩は、歩いていた足を止めた。
やっぱり少し目障りだったかな?
まずい..気分を壊してしまった。
「俺は、瑛花が..好きだった」
でもあっさり。
そのあっさりの言葉は意外と驚くことだった。
「みんなの前では、大人しくて..頼んだら何でもやってくれる人だと..思ってるんでしょ?」
「...たぶん」
「委員会ではさ、はっきり意見を言ってくれて、気の強い子だと..俺は思った」
気の強い子?
みんなの思っている瑛花とは正反対の言葉。
教室では、目立たない存在。
自分から何もしないし、男子たちはからかうけれど、何も言い返せない。
そんな存在。
わたしも少し遠くから、何もしないで、ただ見てるだけだった。
「わたしは、瑛花を助けれなかった」
「どうして?」
「いじめられてるの..ホントは知ってたんです」
わたしは前から気づいてた。
瑛花がクラスの男子から、先輩からいじめられてることに。
どこかで、自分をわたしは守ってた。
「明日からは、助けることなんて..手遅れ」
また、涙が込みあがってくる。
自分の足にポツポツと涙が落ちる。
水嶋先輩は、わたしを優しく抱きしめてくれた。
肩をゆっくりトントンとたたきながら。
「わたし...こんな気持ちで..もう..祈と会えない..」
水嶋先輩が優しく、
「気が済むまで、泣けばいいよ」
それぞれの想いが、形になっていく。
それぞれの想いが、現実に刻まれてゆく。
わたしたちは、それに
気づけない。