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Fラン大卒の逆転人生  作者: へいたれAI
第一章:社内研修

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第2話 絶望カツ丼と、すれ違う視線

 

 研修が始まって一ヶ月。俺の自信は、もはや地の底を突き抜けて、今やマントルを通過しそうな勢いだった。


 安宅興商——その名に恥じぬ、地獄の鍛錬場。

 日々のグループワーク、英語漬けの課題、無茶ぶりプレゼン。

 どれもが「即戦力育成」とやらの名の下、容赦なく俺たち新入社員を押しつぶしていく。


 特に俺のようなFラン卒の人間にとっては、存在そのものがミスなんじゃないかと錯覚するレベルの過酷さだった。

 そんなある日の昼休み、事件は起きた。


「カツ丼、いいよな……。ああ、この衣のサクサク感が、唯一の癒やしだ……」


 食堂の隅っこ。

 俺と枦谷は、冴えない背中を丸めながら、茶色い脂にまみれた希望(=カツ丼)を口に運んでいた。

 まるで生きるために“燃料”を補給しているだけの、そんな食事風景。


「……あっ」


 枦谷が急に目を見開いた。

 そして、現れたのだ。奴が——長嶋啓二。

 東大法学部卒のエース。

 要領が良くて、顔も整ってて、声が無駄に良くて、なぜか自信だけで10m先の空間まで満たしてしまう。


 あいつが、俺たちのテーブルに……向かってきた、わけではなかった。

 奴の視線の先にいたのは——

 長峰幸と大沢葵。


 長峰は、社内で“氷の才媛”と噂される才色兼備な同期。

 近寄りがたい美しさに、常に冷静な物腰。

 彼女と初めてペアを組んだとき、俺は緊張のあまりUSBを逆に挿し込んで三回失敗した。


 一方、大沢葵は、その真逆。

 いつも明るくて元気で、ちょっと抜けてるけど、気遣いができる女神タイプ。

 朝の挨拶に対して「おはよーん♪」って返してくれるの、彼女しかいない。


 そんな二人のテーブルに、長嶋は颯爽と歩み寄ると、いきなり決め台詞をぶちかました。


「やあ、長峰さん。今日の君も太陽のように美しいね。僕という惑星が、君の周りを回りたくてうずうずしているよ」


「ぶっ」


 思わずカツ丼を口の中で爆発させそうになる。俺と枦谷は、完璧に固まった。

 ——キザ! なんだその銀河規模の口説き文句は!


 ところが長峰は、微動だにしなかった。

 表情一つ変えず、目すら合わせず、ただ黙々とミニトマトをフォークに刺している。


 ……寒い。寒すぎる。見てるこっちが凍えそうだ。


「……あ、あはは。長嶋くん、面白いこと言うね~!」


 隣で慌てて笑ったのは大沢だった。

 なんとか場を繋ごうとする彼女の頑張りが、唯一の温度だった。

 だが、長嶋はめげない。


「いやいや、僕の本心さ。君のような優秀な女性こそ、僕の隣に立つべきなんだ。安宅興商の未来のためにもね!」


「会社の未来まで背負わせる気かよ……」


 俺の小声ツッコミを、枦谷が無言で頷いて受け止めてくれる。

 もはや漫才だ、これ。

 そして——


「葵、ドレッシング取って」


 長峰が口を開いた。

 だがそれは、長嶋への返答ではなかった。


 完全なるスルー。

 完封。

 無視の極み。


 むしろ空気すら読まれていない。

 真っ赤になった長嶋は、なぜか怒りの矛先をこちらに向けた。


 ガンッ!


 俺たちのテーブルにトレーを叩きつけるように置き、ドカッと座ると、ニヤリと笑った。


「おい、青島。次のグループワーク、足を引っ張るなよ」


 うわ、八つ当たりきた。

 でも、否定できない自分が悔しい。

 その時だった。


「やれやれ、盛大な公開処刑だったなあ」


 背後から、皮肉な声が飛んできた。

 振り向くと、天才肌の長谷川浩紀が、例のニヤニヤ顔で立っていた。


「長嶋のあれ、典型的な失敗例だよな。リスペクトできない人間は、商社じゃ伸びない。ま、君たちには関係ない話かな?」


 ハハ、と乾いた笑いを残し、彼は去っていった。


「……住む世界が違う」


 俺が呟くと、枦谷は力なく頷いた。

 俺たちのカツ丼は、いつのまにか石ころみたいな味になっていた。


 —


 だが、その日。

 俺の人生に、小さな奇跡が起きる。

 午後のグループワーク、担当が変更になり、長峰幸と再びペアを組むことになったのだ。


「青島くん、午後もよろしく」


 彼女の声は、意外と柔らかかった。

 氷じゃない、と思った。

 少しだけ心が溶ける気がした。


「……う、うん! よろしく!」


 声が裏返った。

 しまった! 

 初手でやらかした!

 彼女は微笑むでもなく、そっと資料を差し出してきた。


「これ、見ておいて。私、パワポまとめておくから」


 ああ……完全に“補助員扱い”だ。

 でも——それでも嬉しかった。

 午後、必死に食らいついた。

 少しでも役に立ちたかった。

 彼女の隣に“いていい”理由が欲しかった。


 そして発表後。


「……青島くん、ありがとう。さっきの説明、分かりやすかった」


 彼女がそう言って、少しだけ目を合わせてくれた。

 その瞬間——俺の心に、花火が上がった。

 ……やばい、好きかもしれない。


 —


 その夜。

 寮の部屋に戻った俺は、鏡の前でガッツポーズしていた。


「よし……長峰さんと話した! 笑ってもらった……たぶん!」


 ベッドに倒れ込みながら、スマホのメモ帳に一言書き残す。

 “今日、長峰さんと会話。進展あり。”

 恋の戦場も、マントルの底からスタートだ。

 だけど——絶対、這い上がってやる。


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